Zephyr Song


「なぁ、死ぬまで好きって言え」
いきなりの発言だった。
「―――ハ?」
「や、だから。死ぬまでおれのこと好きだ、って言え。いいから、ほら」
なぜ、とゾロが尋ねた。確信を持てる持てないの話ではない、なぜいまそれを唐突に要求するのか、と。
そうしたなら、背中にいくつか重ねてあったクッションに半分埋まってみせ。ふぃ、と考える振りをしサンジがひとこと言った。
や、何も一緒にいることを“縛る”要素、ゼロだろ?と。
ただ、好きでヤロー同士が一緒にいるンだからそれくらい言うだけでも言っておけよ、と。しれ、とタバコを吸ったりなんぞしている。そして続ける。

「だからさ、おまえって個体に会っちまったが為に“おれ”ってイキモノが21世紀まで運んでた遺伝子はここで途切れちまうわけだぜ。まぁ、どっかにシンセキくらいは残るだろうけどなぁ、でも、だぜー?
太古のイブからの情報がぱつ、ってここで終わっちまう。だからソレぐらいウソでも言えよ、てめぇのDNAだって切れちまうんだぜ、どっかで生ませてなきゃあな」
「―――あぁ、そういう訳か」
「そう、ちらっと考えたんだ」
「―――フン、」

上からゾロがコイビトのカオを見下ろす。
「一緒にいる」ようになるそもそもの切欠は、どちらかといえばサンジが手の内を見せたのが何秒か速かったかもしれない。
『おまえ、生き急ぎそうだもんョ。おれがストッパーになってやろうか、』
そう言って、自慢気に唇を吊り上げてみせたのはサンジだった。
『血だな、』
そう返すゾロに。
『あー、じゃあ益々見張りが必要だっての』
そう言ってきた相手を腕に抱きしめたのはゾロが僅かに先だったが。

見下ろす先には、海の底から見上げるよりも多分蒼い色をした眼。
そして、「すっとぼけたグル眉」。
このファニイフェイスでクソかわいい、と恐ろしくも思えちまうポイントの一つ、これのDNAがなくなっちまうのはたしかに惜しい気がする。
返事を待つ気にでもなっているのか、比較的おとなしく腕の間に収まって自分を見上げてくるコイビトの眉の間に唇で触れ。フン、としばしゾロは考える。

適当な時間になって外に食事に出るまで、長椅子で寝転んでいた体勢のままでこうしている。思いついたようにお互いに触れ、手では足りずに軽く唇で触れ。髪を引っ張りまたそれぞれがしたいことに戻る、ゾロの場合は適当に届いた雑誌を捲ること、サンジは読みかけの本の続き。持ってきたものではなく、この部屋にあるソレ。
ゾロが手から雑誌をフロアへと落とし。紙がたてた音にサンジが眉を引き上げた、が。頬をさらりと滑る指の感触にほんの僅か蒼を細めていた。

「遺伝子、」
「そう、遺伝子」
応えて蒼がまっすぐにミドリを受け止める。

「カリファかポーラにでも生ませるか?あぁ、ヒナでもいいかもしれねェな、アレならきっとすげえブロンドが生まれる」
「ぎゃーーーーーーーーっ!!!」
なんでトップモデルのオネー様方をッ!!とサンジが喚いた。
ゾロがなんでもないことのように口に上らせたオンナトモダチの名前に同業者のサンジが思わずひっくり返ろうとして既に横になっているから諦めていた。おまけに半分コイビトに乗っかられていては不可能だ。
「や……?あいつらノルぜ、おそらく」
マジならな、とゾロがあっさりと恐ろしいことを告げて思案顔をしてみせた。
思い出す、連中が口を揃えて「女性の身体性」について最近自分に滔々と語っていたことを。曰く、子宮を使わないと女は完結しない、とかなんとか。そのときはゾロは言葉半分に聞いていたのだが。
「あー、それに、」
「ウン?!」
アクマかバカ!おまえ!!、とかなんとか騒いでいたサンジがそれでも律儀に返事していた。

「カリファな、どっかのサッカーバカと別れたぜ、この前」
ゾロはサッカーに興味が無い。
「へ?」
サンジがまっすぐな困惑顔になるばかりだ。
「男関係は問題ねェな、だからあいつらも。代理母?双子でもいっそ生ませるか」
ハハハ、とゾロはおそろしくあっけらかんとしている。
「―――はァ?!」
サンジの方が動揺している。
「もちろん連中が育てるはずはねェし、おれも育児何ざできねェし。おまえが引退しておれのヨメになれ」
「―――――ハァアッ?!」

なにかどさくさに紛れてもンのすげぇこと言われちゃってませんか、オレーーーッ?!
サンは内心で大騒ぎだ。
が、出てきた言葉は。またもや「―――はァ?!」だ。

蒼はまん丸に見開かれているわ、火をつける前だったタバコは胸の上に落っこちたままだわ、驚きで心拍数は上がるわ、頬は薄っすら色を乗せてるわ、唇は巧い具合に開いているわ、で。
あまりにオイシソウなカオをしている。
そこで、ゾロがハナサキを齧った。

「まぁ、すぐにとは言わねェさ、そうだな来年の誕生日あたり?おまえの」
「―――ハ……?!」
おまえの遺伝子保護のハナシは横に置いててもいいけどな、別に、などと。言葉を続けながら今度はこめかみあたりに口付けている。
「もう一度プロポーズ?してみるさ、今度は断るなよ」
額をこつりと合わせるようにし、わざと哀しげな表情などを間近で乗せてみている。
「はぁ?!」
けれど乗せていた表情もすぐに素に戻り溶け出していき。

「“死んでからも”好きだぜ、それに家系に逆らって精々速度も落としてるから―――」
サンジが一つ瞬きし、何か言いかけたのを引っ込めている。
驚いてばかりではやっていけない、と軌道修正をしたのかもしれない。
「隣にいろよ、責任取れ」
蒼がまた見開かれる、がすぐにまた笑みに細められた。
「―――きょうが誕生日なのおれだぞ、あほロロノア」
「あぁ、知ってる。ギフトが何かはまだ教えてやらねェよ」
「……お、期待大?」
「裏切ったことあったかよ」
に、と笑みを乗せたゾロが自慢げに嘯くのをサンジも小さく笑って受け止め、掌で相手の肩口を包み込むようにしていた。
「そういや、ねェかもー」
「だろうが」
笑いながら身体を引き上げさせ、両腕に抱き直してみる。そして金色のなかに鼻先を軽く埋めてみる、耳元。

「オメデトウ」
「サンクス」
「ヨメにそのうち来るか?」
「考えといてやる」
「まァ、364日あるからな」
「だな?」







――――Zephyr Song---------