Avalon


もとはといえば、ルフィとクソ翆頭が、停泊した街で良からぬ輩に絡まれてた じーさんを助けたらしい。
ぜひお礼を!とかやってるじーさんを連中が例の如く置いて行こうとしたら。
じゃあせめて夕食にご招待させてください、ってやっちまたんだな、じーさんが。
あのルフィがメシの誘いを断るはずもなく。「おうっ!!」って言ったに違いない。ゾロは多分ルフィに巻き込まれたんだろう。とろくさいからな、やつは。
だからいま、この船にはご丁寧にメッセンジャーが恭しく招待状を3通携え現れている。


「かような次第でございます。あのような素晴らしい若者はみたことがないとおっしゃり、ぜひとも、と」
メッセンジャーはナミさんにベルベットのリボンで巻かれた羊皮紙を3束、奉げて。

「当主の105歳をお祝いする今宵の祝賀会に皆さまをご招待をいたしたく」
一礼。
「ハ?当主?」
ウソップ。
「はい、バウリー・グランと申します」
「ええっ!!あの、グラン財閥の?」
きらきらきらっと瞳に星を宿し、ああなんて美しいんだナミサン!!
「ぜひ伺いますわ!ね、サンジくん!!」
「はいっ!!」

・・・はっ。
長っパナめ、生意気に溜め息なんぞつきやがって。
「それでは、これを。当主からのせめてもの贈り物。ご笑納くださいますよう」
手の一振りでメッセンジャーの後ろに控えてた男が進み出る。 その腕にはおおげさな箱3つ。それに印刷されたロゴを見てナミさんの瞳の星が倍増した。
「こんな高価なもの。いただいてよろしいんですか?」
「はい。それでは、刻限にまたお迎えに参ります」

「おい、なんだこれ、のあっ礼服?!」
ぱこ、と蓋を開けてウソップが言った。中身は、ブラックタイのフォーマル一式。
「ばっかねぇ、あんた!知らないの?これはね、そんじょそこらのフォーマルじゃないの、あの、かの有名な!クチュールの天才ともいわれてる・・・・・・」

俺はちょっとナミさんに向けて笑顔を作ると、キッチンへと戻った。
メシ作んなくて良いんなら、保存しとかないとナ、なんて思ったから。


で。着替えて。ここにいるわけだ。
手配書も海軍もこのじーさんの財力の前にはなんも意味をもたないらしい。ゲストの中ににちらほらと海軍の礼服組もいるけど、見てみぬフリを決め込んでるみたいだ。この、街を眼下一望に見下ろす高台の邸では何でもアリってことだ。
ああ、ナミさんは天使より美しいさ、淡い銀色のサテンに包まれてそりゃあ、キレイだ。 長っパナも馬子にも衣装で、けっこうイケてるし。俺がゴージャスにウツクシイのは この!飛んでくるレディ達の視線が証明してるわけで。はははそこのヤツ。ざまぁみろ。お連れのレディが上の空だからって、てめぇなんぞがガン飛ばしたってムダってもん. 俺ほど黒の似合う男はそういないんだぜ。

一面の夜景がなによりの装飾になっているほかは、この大仰な誕生祝いパーティの会場になってる「舞踏室」に余計な装飾はなかった。大理石の床、一段低くなったメインのフロアには 寄木で奇麗な模様が描かれ、高い天井から下がるべネチアングラスのシャンデリア。
壁一面くらいある続き部屋のドアも開けられていて、あっちにその主役のじーさんがいるんだろう、 さっきから人の流れが絶えない。ルフィは絶対メシのあるところ。ナミさんは女王様然として男共に 囲まれて艶然と微笑んでおり。長っパナも、なんだか学者みたいな連中と話し込んでる。
いないのは、ヤツだけだな。


レディ達と会話し、ダンスの相手をし、女の子の笑い声やあまい囁きに囲まれてはいても。なんか、おもしろくねー。それでも、時間ばかり過ぎていき、眼が、見慣れた姿を探しちまう。ちくしょう、どこいきやがったんだあのバカは。せっかく人が楽しんでるのに台なしにしやがって。ムカツク。


パーティがほとんど終わりかけたころ、それは舞踏室に入ってきた。
見なくてもわかった。こっちに集中していたレディ達の視線が波みたいに流れて、小さな吐息があちこちで聞こえたから。そしてなにより。こいつの気配って俺にはすぐわかる。 どこか、張り詰めた弦のような、引き絞った弓弦のように緊迫した、いっそ潔いほどの静謐。

振り向いたらちょうど、部屋の反対側にいて。踊る人を透かして、大振りな枝物が豪勢に 生けられている横にしれっとフテブテしげに立っているのが見えた。ガタイが良いからフォーマルが妙に似合うな。
どうみてもカタギにゃ見えねえけど。んなつまんなそーに 酒なんか飲んでんなよ。レディ達が怖がってるじゃねーか。

最後の景気づけ、とばかりに絶え間なく流れていた緩やかな音楽がタンゴに変わった。それにつれてすうっとフロアから人が引き、いまごろになってゾロは俺にやっと気づいて 片眉上げた、アイサツがわりに。
ホールを横切り近づいた。
「どこにいたんだよてめえ」
「ああ、奥で寝てた。こーゆーの、苦手だしな」
「俺がいるの知っててバックレかよ。上等だな」
「終わるまでには来たろ」

あーめんどくせえ、って見え見えだぞてめえ。だからどっからその余裕は来んだよ。
いっつも俺ばっかムキになってバカみてえじゃん。俺だって奇麗なレディと一緒の方が 楽しいに決まってる、でもてめえといる方が気分良いんだからしょうがねえだろ!


「罰だ」
「あァ?何のだよ」
「いまここで俺と踊るか、1週間酒抜き。さ、どーする?ゾロ」
「てめえは、バカか?」
「本気だぜ」
にっ、としてやった。

しょうがねえな、と小さな呟き。
ふふ、勝っ・・・・・・えぇっ?
ついとヤツは俺の手を取って、片手は腰に回された。
「な・・・」
「つきあってやる」
で、美事!なリードで人影まばらなフロアの中央へ。おいおいおいウソだろ?!と驚愕してる間にリードされっぱなしで1曲終わってた。すぐに次が始まり。
「おまえ、できんの?!」
「だから。相手してやってんだろーが」
俺はレディを愛する男の礼儀として、一通り並み以上には良い具合にどんなダンスも こなせるけど。特にタンゴは一時期入れあげてたレディに愛情たっぷりに教えて もらったからそれこそ上手いんだよ。

けど、こいつ、意外すぎ。上手い、マジで。

「賞金稼ぎやってた頃、たまたま助けた女が娼館の女将でな。随分と世話になった、」
眼をやっても、真近にある横顔しか見ることは出来ずに。それでも、俺に向けているだろう 微かな笑みは感じ取れる。くそ。なんかムカツク。ヤツの脚を膝で割るようにする。
「ただ登楼してるのにもさすがに飽きた時に、女たちが教えてくれたんだ」
「タンゴをか、」
「ああ」

背中にまわされていた腕にかすかに力が込められ、あわせるように背を反らす、と床に髪が擦るかと思うくらい落とされ、次の瞬間には胸を合わせるような距離で 向き合うっていうより、抱きあうようで・・・・・・こいつ、リード上手すぎ。 とにかく余裕綽々ってのが気にくわねえ。
こいつにタンゴなんか教えた女も、腹立つ。

その間にも音楽は続き、もともとタンゴなんてそう上手いカップルもいるはずもなく。
おまけに俺らはブラックタイのフォーマル同士。悪目立ちしてんのは、わかってるさ。 ターンするたびに、ちらっと視界を霞めるナミさんは、えらく嬉しそうにしてるし。
2曲目も終わって、もう3曲目が始まって、あああ。墓穴だ。俺。この状況は。

「もとは、場末の酒場や妖しげな場所で踊られてたんだ、こんなのは。他のお上品な 踊りなんかはできねえさ」
「へえ、」
片腕をゾロの首に回し頭を抱き込むようにして額が触れるほど顔を寄せて
「でも、俺のが上手いだろ?」
わざと、唇を舐めて言ってみる。てめえも少しは熱上げやがれっての。

腰に回されていた手が背骨をなで上げ。
ぐ、と身体が隙間なく重ねられる。
「、っ」
「ああ。抱き心地はてめえの方がいいな」
「ば、かなこといって、」
音が消えかけてふ、と気が抜けたとき、かすかに浮いていた汗を、ぺろ、と赤い舌先が首筋にそって撫でた。不意のことに身体が過剰反応する。

に、と。
それこそ、タキシード着た悪魔みたいに笑いやがって。

「おい。まだ、ばてるには早いぜ?4曲目もか?」
「く、そやろー」
息があがる。
くくっと小さく笑う声が耳元でして。
ちくしょ。膝がわらう。なんで負けてんだよ。チカラ入んねえ。

「こい、」
そのまま舞踏室を連れだされた。俺のこと抱き込むみたいにしてそのまま邸の外へと向かう。
「あ、てめ」
「おまえのこと、あれ以上ヒトにみせられるか。もったいねー」
そう言ったゾロの顔には、ほんっとうーに微かに照れらしきものが浮かんでて。
ふふん、なんて笑っちまった。
俺の勝ちか?


「おお麦わらの少年!ありがとう」
「ン?なんだじーさん」
「私は寿命が15年は延びた!」
「そっか?うんよかったな!」
隣でにゃははと笑うブラックタイが誕生日のお子ちゃまにみえてしまう船長。
「良いものをみせてもらったわい」
「そりゃあよかった!誕生日だもんナー」
主賓席のじーさんの目線はダンスフロアに釘付けで。ルフィの前にはそれこそ絶え間なく豪華な料理が運ばれてきており。ある意味、恍惚を共有する二人であった。





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やっちゃったぁ。うわぁごめんなさーい。いたたたた、ですね。あたま、涌いちゃったんですね。
だってタキシード似合いそうだし。石ぶつけないでー反省して出直しますです。


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