プロローグ。



10月も半ばに差し掛かった頃…ナミさんが唐突に言い出した。
「来月、ゾロの誕生日じゃない。何をあげようかしらね?」

船は順調に航海中。
プレゼントを取り寄せるなら、そろそろオーダしなければいけない頃だ。
ゾロは甲板の前のほうで、一人で素振り中。
歌うようなナミさんの声は、届かない。

「どうしようかなぁ」
サンジは首をかしげる。
倣ったように、ルフィとウソップも同じ方向に頭を傾けると、
「ちょっと!ソレやめなさいよ!人形劇じゃないんだから!」
クスクスと笑いながら、ナミさんが言った。
最近のナミさんは、なにかを吹っ切ったように元気だ。肩の荷が落ちたようで、一安心。
(…オレじゃなくて、アイツが頼りにされたのは癪だけど…)
ゾロをちろりと一睨み。
…けど、元気なら、ま、いいか。
サンジはクスッと笑みを零してから、再度頭を切り替える。

 

ゾロが欲しいものといえば一つ。
「世界最強の剣士」の座。
でも、それはあげられるものではなくて、自分で勝ち取るもの。
良い刀は腰にぶら下がっているし、それなりにいい研ぎ石を持っているから。
何をあげたらいいのか、わからない。

ナミさんが、通販のカタログを覗いている。
服か何かをあげるつもりなんだろうか。

「あ!オレ、決めた!」
ルフィがニィィと笑って立ち上がった。
ウソップが訝しそうに船長を見る。
「…ヘンなモン、考えてるんじゃねーよな???」
「うん!オレはね…」
ゴニョゴニョゴニョとウソップの耳にナイショ話。
「えええッ!?」
途端にウソップが大声を上げた。
「うわ!大声出すなよ〜!そんなにビックリすることないだろ?」
不服そうに頬を膨らませる。
「や、だって、そんなワケわか…あ、そ、そんなに睨むなよぅ、わかった。黙ってりゃいいんだな。うし」
ウソップが両手で口を押さえる。
「え?なにに決めたの?ルフィ、教えなさいよ」
「あんな…」
ナミさんの耳にも、同じようにゴニョゴニョゴニョとなにかを嬉しそうに囁いている。
聴いているナミさんも、なんだかすごく嬉しそうで、楽しそうで。
フワフワとじゃれる小動物を見ているような気分になる。
「へぇー…そんなもん、持ってたの。あげる前に、確認させてよ。ダブったらいやだし」
「うん。いいアイデアだろ???」
得意満面の笑み。ルフィは、いつだって自分の感情に正直だ。

「それなら、ワタシ、アレにしようっと。フフフ、この際だから、一緒に楽しんじゃってもいいわよねぇ?」
(ん?今ナミさんに黒い尻尾が生えた気が…???)
「そうと決まったら、オーダを出さなきゃ。こういうのは、早めに手配するに限るものね」
ウキウキとした雰囲気が、こちらにまで伝わってきて、もうどうだっていいような気がしてしまう。
「そうですよね。こういう時には、一緒になって楽しむに限りますよね」
にこにことナミさんい笑いかける。
「ねぇ。あ、そうだ。是非サンジくんにも協力してもらいたいんだけど…いいかしら?」
同じようににこにこと笑いかけられて。ついウン、と頷いてしまう。
「ナミさんのためなら、なんだってしますよ!なんていったって、ボクはアナタの虜ですから♪」
「あっははー!じゃあ、絶対よ!当日になったら、教えてあげるから。確実にそれをやってね。期待しているわよ?」
「はい!もちろんです!」

にこにこにこにこ。
にこにこにこにこ。

(…んん???な、なんか、ヤバい…?)
不意に沸いてきた、妙な胸騒ぎ。けれど、今更コトバを引っ込めるわけにもいかなくて…。
ナミさんは歌を歌いながら、山のように積まれたカタログを一冊づつ引き出し。
ものすごいスピードでページを捲っていく。
(な、なんか…ワナに嵌った…かも???)

「う〜ん…オレ様はナニにするかなぁ。アイツが欲しがるモンなんて、なぁ…」
ウソップがチロリ、とオレの方を見た。
「?ナンだよ?」
「あ、う…いや、なんでもねェ」
ブンブンと首を振る。
(…ヘンなヤツ…)
「はー…やっぱ、無難に酒かなぁ。肴なら、サンジのほうが詳しいしなぁ」
困ったように、呟かれる。
「あ、でも、オレだって悩んでるし?」
「そーだよなぁ…うーん」
ウソップはうんうん唸りながら、首を傾ける。

そもそも、ゾロみたいな筋肉バカには、あげるものが見つかりにくいのだ。
筋トレグッズはその辺にあるもので足りているし。
洋服の趣味は…サンジにはワカラナイ、チンピラちっくな服装が好みらしいから、とてもサンジには買えないし。
ピアス?ピアス…ピアスでもいいかなぁ?

「あ!オレ、ピアスにしよ!」
ウソップがポンと手を打って、叫んだ。
「よしよし。それなら楽だ!はっはー、決めたもんね♪」
妙な節回しで歌うように告げる。
「え?オマエ、そうなの?」
「おう!楽だし、凝れるし、作れるし♪我ながら、いいアイデアだぜ!オレ様、天才かも」

(あっちゃー…そこまで言われたらなぁ…)
はぁ、とサンジは大きな溜め息。
「…オレは何にしようかなぁ」
(酒、徳利、湯呑み、箸…和食?和食…和食、かぁ…)
ふとナミさんが手にしていたカタログが目に入り。
きっと使わないだろうけどなぁ、でも、これを使ったらゾロ、カッコよくなるだろうなぁ、なんてアイデアがぽわわんと頭を過ぎって。
「よし!オレも決めたぜ!」
思わず立ち上がって叫ぶ。
よし!コレで決まりだぁ!!  
  





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