Cigarettes and Chocolate



枝毛の原因ってなんでしょう?
タバコの吸いすぎ
潮風および陽射し
フセッセイ
ラブ不足
お手入れ不足
運動不足
栄養不足
スイミン不足
チョコレートの食べ過ぎ
イデン

ざっとこんなところがクルー達からの情報。若干勘違い気味のモノも紛れてはいるがそこには
目をつむる。

サンジがちらりと目の前にさらさらと下りてくる金糸の如き己が髪を上目遣いに見ましても。
やはり、2本ほどございます。枝毛とかいうモノ。この範囲で2本ってことは、きっとトータルでいくと
ええっととにかく1ダースはあるよな、と。思い切り不愉快極まりないお顔をなさる。

サンジに言わせて見れば、あのクソ剣士がさわりまくる所為でおれサマのかあいらしー「キューティクル」が剥がれたんだろうとでもいうところ。
通り過ぎざまとか思いつきでイキナリ、さわさわとヒトの髪を玩び。「うぜぇッー」と噛み付いても。
これがオナジヒトデスカ??と固まるほど、ちょっと目を細めるようにしたわらい顔なんてされたら。
不利なのは自分だ。

「ネコじゃねえんだぞコラ」
軽く膝下を蹴るようにしても
「そんなモンよりずっと良い」
とかあっさりと返されて。墓穴を掘るわけだ。ぜってー、その所為だ。

思い出してもハラの立つ。
「ほら喰え」
とん、とルフィの右横からテーブルに皿を置いた時の
「んー?サンジ、髪、分かれてンぞー?」
ルフィのその朝のテーブルでの一言に。
「おれ、いままでそんなの出来たことねェぞ!」
驚愕して声を大にした時も。
この船のレディ達からのけっこう冷たいリアクションに涙したのだ。
ウカツ。

「あら。サンジ君、ずっと海にいるのに出来た事ないの、へえ」
「結構なダメージよね、直射日光と潮風って。私も最近痛んじゃって」
「ああ、ビビは大変よね長いから」
「「なにか良いケアでもあるの??」」
きらきらと2対の瞳が向けられ。
「へ?特になにも」
「「ふうん・・・・」」
女の子は髪の毛のお手入れに気合入れまくりってことを、この自分が忘れていたとは。
クソ。あのクソバカ剣士の所為だ。

しかし。いままで無いもんが急にあるってのも不愉快だしな。
とサンジは似たような条件下にあるクルー達の観察へと向かうことにする。

まずゾロが定位置で眠っているのを見つけ、その横にひょいと屈み込む。
クソミドリ。これはロクに手入れなんかぜってーしてねェのに、適当にコシがあって
けっこう手触りが良い。バカだからか?一本もンなモンはねえな。

「ルフィ、頭貸せ!」
びよん、と引っ張る。はは、すげえ便利。んーと・・・ねェな。やっぱゴムだからか?
いや、でも髪は伸びねえけど。
「ありがとよ」
ぱ、と手を離し。

イキナリ虚空を首が飛ぶのに、絹を裂くような悲鳴。あーこれ、ビビちゃんだ。
「ビビちゃーん、ごめんよー」
「い、いいえちっとも!」
あーかわいい。さて、と。次は、ウソップか。

結論。
この船の連中は参考にならねェ。そもそもウソップはどこが毛先だかわかんねェし。
トナカイは参考になんざハナからならねェし。ふかふかだけどな。
フン。どうしたモンかね。

サンジはつらっともう1度、「原因リスト」に目を落とす。

同じ頃。
「ねえ、ゾロ。サンジ君の今朝からの奇行には私たち迷惑してるの」
にっこり、とナミが「魔女」の笑みを浮かべる。
ゾロの顔の横、船壁にはサンダルのヒールで出来た真新しい孔が穿たれていた。
「あのね、枝毛のお手入れにはビタミンEオイルのパックが良いの。教えてあげて」
「面倒くせェ。なんでおれが―――」
「・・・・・・あんた、大剣豪になる前に死にたいの―――?」

「ねえ、ナミさん。なにもあんな脅しをしなくても、」
ビビが並みの横で微かに眉をひそめる。
「あのねえ、ああでも言わなきゃあの男が手順覚えるわけないでしょ」
「でも―――ほんとうにわかってるかしら?」
「さーぁねぇー?」
けらけらけら、とわらい。
とん、とビビの肩を押し舳先で賑やかな声のあがっている方へと足取りもかるく上機嫌で歩いていく。

「・・・・だから何なんだよ一体、」
背後に残された途方に暮れるゾロの手には、金色のオイルの入ったアンプルが数本。
しばらくは掌のモノを見つめてはいたものの段々とバカらしくなり、しるか、とそのまま胸ポケットに
落とし込み、また目を閉じる。

なのに。

「ラブが足りねェんだ」
「ハぁ?!」
ああまたどうしてどいつもこいつもこの船のヤツはワケわかんねェんだ!!
ゾロは天に向かって叫びだしたくなる衝動をどうにか抑え込み。
目の前に立った「アホ」はさらに言い募る。

「おれの!この!勿体無くもクールなキヌイトもような御髪に!ンなもんあっちゃいけねェンだよっ、
既にボウトクなんだよ神へのよっ?!」
「・・・髪ィ?」
「ちがわッ!カミ!G・O・D!ゴッド!!」
「――――はぁ、」
ゾロは片手で額を押さえる。バカだバカだとは思っちゃいたが、ここまでだとは、と。

「で、なンだよ。お前はそのカミとやらに罰でもくらってそんなモンが出来てわめいている、と」
目で念を押す。
「おうよ」
と威張るのは「クソコック」。
「で、お前はその解消とやらに。ラブってのが足りねえと?」
「うん。」
「へえ?」
ゾロの片眉が引き上げられる。

「で、お前はただでさえ少ねえスイミン時間削ってまでラブとやらを増やそうって―――?」
「あたぼ―――」
ふっと眉根を寄せ。
「ちがわ―ッ!」
怒鳴るも、時すでに遅し。
きっちり、と腰を両手で抑えこまれる。
「―――わ、」

「ビヨウとケンコウの為の貴重な時間を潰しちゃあ悪いもんな」
に。とミドリ目の悪魔。
「よいせ、」
「うぁ!よいせってこのクソバカ―――」
あっさりと肩に担ぎ上げられてしまったのはサンジ。

「え?なに?なんでキッチン??ぎゃああーテメッ」
ぱたり、と閉じられたドアが声を消す。

「てめぇークソこのバカヂカラ―――」
まだ性懲りも無くわめいているのをイスに座らせ、頭を上から押さえつける。
「じっとしてろって」
「コレがじっとなんかしてられっかァ!」
あーもう、クソ面倒くせえ。
ココロでナミに文句を垂れつつゾロはシンクに湯をため片手でサンジの頭を押さえつけたまま
適当に側にあった布をその中に浸す。

「・・・・・・は?」
その得体の知れない行動にしばしサンジは時を忘れ。気が付けば
「アッチイー?!ナニすんだよてめえ!」
「しるかよ」
「ハァ?」

てめえがワケわかんねェんだろ、なんだそりゃ!怒鳴るのを手で封じられ、サンジはますます
混迷深まる。
コレはナンデスカ、もしかして蒸しタオルとかいうヤツですか??
乱暴だなオイ、冷静な時の彼ならばこれくらいのことは返せことでしょう。
しかし、頭に何だかわけのわからない内に布を巻きつけられた今のサンジはただ唖然。

「で、これか」
ポケットから金色の液体の入った小さなアンプルを取り出す。
「なんだソレ?」
多少、この状況を面白がる余裕がサンジは出てきたらしい。
「あー、と。ビタミン?オイル?とか何か。これで“ぱっく”しろって言ってたぞ連中」
ようやく布が解かれほっとするものの
「ハァ??なんでおれじゃなくて、てめぇに教えてくれんの?」
「しるかよ」

アンプルかぱきぱきと頭上で音を立て、これはどうやらあるだけ割ったらしい。
「なあーフツウ1個だろ、そういうのは」
たらたらと。オイルが流れてきて襟足だとか首もとだとか額であるとか、非常に快良くはない、が。
さわさわと髪を愛撫するかのようなその剣士の手は気持良い。

「目、入る」
「あ、わりい」
するりと指先が額を撫上げ。思わず小さくわらいだす。
「これ、効くのかねェ?」
「さあな」
そう答えるものの、そのミドリの目は結構真剣なようだった。

ちょうど目の位置にあるシャツの合わせ目に指を引っかけ軽く引き寄せるようにする。
もちろん、これくらいのことでこの男は揺らぎもしないけれど。
「ジャマするなって」
真剣な声が落ちて来る。

「なあ、もう良いって。おれ、首のあたりキモチわりいし」
いきなり、舐め上げられ躯が跳ねかける。耳元にも流れかけていたのを唇で掬い取られ。

「・・・・マジィ、」
小さくつぶやく声に。
「バッカだなてめえは」
サンジはわらい始める。どちらからともなく重なる唇に熱が徐々に上がりかけ。
薄く唇を浮かせる。
「オイ、ここじゃやらねェんだろうが」
「ああ、“ここ”じゃな」
サンジが、に、と唇を引き上げる。
「どうしてくれんだよ、このおれが頭からオイルまみれだぜ」

「―――そうだな、」
かるく唇をあわせ。
「アフターケアもアイジョウのうちだろ」
ゾロがそんなことを言うのに、サンジは数度瞬きをし。そしてわらい始めた。



「ねえ、ナミさん。」
いつもなら、すぐに出てくるはずのアイスティー抜きでデッキチェアに横になるビビが言った。
「ちょっと毛先を切ればすむ話よね、ダメージケアって」
「あら、ダメよそんなの」
ナミの笑み。
「アイが足りないでしょ、それじゃ」


その後、ダメージヘアなど無敵のさらさらさんに某料理人のブロンドが戻ったことは言うまでもなし。




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バカサンジ、バカロロ話、たのしかったーです、書いてて!
いえ、良いリハビリになりましたです、マフィアの。あおサマ、かわいらしリクありがとうございました。
よろしければ、奉げたてまつります。楽しんでいただけたでしょうか、どきどきだー。