Stranger in Paradise










おれの首。おまえ、知らないか?








そう、話しかけられた。初めて地に出た宵に。
森の中、ジャック・オ・ランタンよりオレンジ色をした月が満ちる二日前、万聖節祭の30日後に。
問い掛けに、ゆっくりと眼を上げた。



おまえは、死霊か?



話しかけた者から返された言葉に、その黒尽くめの男は投げ遣りにならずに小さく肩を揺らした。
その所作は、わらっているのだと気が付いた。声をださずに。



さあな、が。その答えだった。



そして。そうか、やはりおまえも知らないか、と小さく続け。邪魔をしたな、と背を向けかける。
弓のようにしなるその体躯は地を進むより馬上に在る方が遥かに自然だったろうと思わせた。



待てよ、と呼び止めていた。






おれも探してやるよ。










さわり、と。暗がりの中。朝方に見る麦の穂より黄金色の髪がゆれ、ぼうと光を纏っていた。
光の輪を帯びたまま、"それ"がいったのを聞いていた。
探してやるよ、おれも退屈していたんだ、と。



下から出てきた。良い月夜だ。



言いながら僅かに首を傾けるようにしていた。刃を交わして散る火花の、昔、自分が目にしていた
色がその双眸に宿っているのだと。みつめ、思い出す。ざわりと。記憶の暗い底が揺れた。



「ずっと、探しているのかおまえは。自分の首を」
「"ここ"に引きとめられている。それがおれの妄執なのかもしれない」
他人事のように薄い唇端を引き上げる。
黒尽くめの略装、革の長靴。ミドリかとも見紛う白ちゃけた金の髪。魔物のような鮮やか過ぎる
翠の眼。唯一の明るさは、耳元の3連の黄金。
その男の足下で、踏みしだかれた草が幽かな音をたてた。



「おまえ、傭兵だったろう、」
火花の蒼がそういった。
「この地に、悪魔よりも悪魔らしい気の違った騎士がいると。下まで噂が届いていたぞ、昔。
暗がりでも燐のようにその眼は燃え、その剣は花を手折るよりたやすくヒトの首を断つと」
男がわずかに右手を開く。
「敵にかける情けなど無い」
「なにを彷徨う、剣も持たず。迷わず、昇天してしまえ。地獄など無いのだから」



「おれは、」
"騎士"がいった。
「随分と長い間、この地にいる気がするが。おれの姿をみられるモノはここへは来なかった。
おまえは、何だ?」
「"下"から来た、といっただろう」
月を雲が隠し、辺りは闇色になる。
蜘蛛の紡いだような袖口の飾りだけが淡く浮かび、地を指す男の腕の動きに添って流れた。



「ヒトならぬ身にはさほど広くもない森だろうに。なぜみつけられない?」
小枝が、長靴の踵の下でぱきりと折れる。その音で、騎士が歩き始めたのだと知った。









「記憶が抜ける、」そう言った。
目覚めれば、いつも。ここにいる。
更に森の奥深く、ぽかりと開かれた場所にいた。下草もなく黒土が顔を覗かせまわりを列柱の
ように大樹が囲み、森の生き物でさえ、暗がりに潜みじっと息を殺している無音の中に。
「これが、おれの最後にみた場所だ。多分此処で、死んだような気がする」
すべての方向へその果てまでいったとしても、何も無い。果てまでたどり着けば大抵夜が
明ける。次に目覚めれば、またおれはここにいる。なにかの巫山戯た呪いかもしれないが、
それだけのことをおれはしたのだろう。低く声が流れた。



「気がする……?覚えてはいないのか」
ああ、と静かに頷かれ。それが騎士の返事だった。
その姿に半ば背を向け、つらりと辺りを見回し。大樹の中でも一際年を経てきた一つに近づき
節の目立つ幹に手を添わせ、己の目にしたものを語れと命じた。閉ざされた視界に最初は光の
束が、宵の風の記憶、次いで求めていた残像が流れ込んできた。




ふつりと黙り込んだ相手に騎士が目を遣り、その伏せられた瞼が微かに引き攣るようになった
のを。そして、やがて茫と光を冠ったような姿が長く息をつくのをみていた。







幹に額を預けるようにした。
あれが最後ならば。
忘れてしかるべきものかもしれない、そう思った。むしろ、神がいるとすれば、忘却はこの騎士に
与えられた最後の恩恵だ。個では及ばずとも、ヒトは群れるのだと。この騎士と対持した者たちに
とっては、この男は悪魔よりも憎むべき相手ではあったのだろうが。それにしても。





惨いことをする。





ダカラアレホドツレテカエルトイッタノニ。







自分のなかに突然甦った子供の細い声に、目を見開いた。
なんだ―――?






きつく瞳を閉じその声を薄めようとしたとき、不意に肩に触れられ僅かに身体が跳ねた。
「おい、どうした」
深く響く声。
「騎士。おまえは、酷く憎まれていたようだな」
男はその鉱石の色を宿す双眸に目をあわせたまま言った。
わずかにそれが揺らぎ。



「どうやら、おれにふさわしい死に方だったらしいな」
しばらく経って、騎士が薄い唇を引き上げた。
「ああ。思い出すな。忘れている方が僥倖だ」
男が告げ。騎士の肩をかるくその掌で押しやった。
北だ。おまえの亡骸を連中は北の方へ引きずっていったぞ、と告げながら。



「ひとつ、覚えている。多分、首を落とされる直前に考えていたことなんだろうが、」
騎士が、初めて穏やかといっても良いほどのものをその声に乗せる。
「あの子供を殺さなくてよかったと、思っていた」
「―――こども?」
「ああ、」
ぱきりと長靴の下で小枝が折れる。
「敵方の者であれば。敵将の子息であれば。子供といえど刃を振るっていた。悪魔と呼ばれても
仕方あるまい、なるほど報いは受けたか」
そして、騎士がうっすらと笑みを刷いた。









「これが、北の果てか」
騎士の傍らに細い影が立った。
「おまえが先に視たのはこの果てか?」
騎士が自分より僅かに目線が下方にある相手に問い掛ける。
ああ、と答え。さらに何か続けようとした声を、手を上げて制する。
「なにかが、動いている気配がしないか―――?」



自分の言葉に。
すう、と騎士の纏う気配が冴え、暗がりの一角にその意識があわせられるのを感じ取った。
「へえ?生き物か。今宵はどうかしているな」
続けて音も無く、一歩を踏み出した。
このような気配は、いままでかんじたことなど無い。そう言いながら口許を吊り上げた。
果ての、さらにその奥へと。そこには。





地に深々と刺された1対の剣、そして闇にも白く浮き上がる骨。
その回りに蠢く幾つもの子供ほどの小さな影は起こしたばかりの地を踏みならし、笑いさざめいており。今宵は北、明日は西、と歌うように地を蹴り節を付け。踊るようにそのひとつがふいと頭を巡らせ、ひっと喉から押し殺された小さな悲鳴を上げた。闇に閃いた燐光のような双眸に。ころりと倒れ。その様子に他が異変を知り、急ぐでもなく自分たちに向かってくるそれに恐慌に陥る直前、ひとつの影が救われたとでもいう風に叫びを上げる。



「王!」



小さく叫ぶと、わらわらと我先に小鬼が走り寄ろうとし。
口々に自分達の悪戯などではないのだ、違うのだと足元で騒ぎ立てる。
「王!聞いてくれ、この騎士にあんたから言ってくれよ!先王からの言い付けだったんだ。夜毎にこの首を移せと、馬と剣とを一緒にして。この男にみつけさせないように。あんたが自由に"上"に出てこられるようになるまで隠し通せと言われて―――」
「先王だと?」
「そうだよおれたちは別に―――」



既に影のいなくなった辺りから、音もなく地から剣を騎士が引き抜く。
月が、年月を経てもなお光を落とし込む刀身に長くその影を映し、虚空に冴える。
「―――小鬼どもが」
騎士が剣を振りかぶり、きゃっと小さな影は途端に闇に紛れる。どこからか、岩の転がる音がした。
"上"への小さな抜け穴が閉ざされた音。木霊が暗さに飲み込まれてゆき。飛び去る夜の鳥の羽音が湧き起こり、それすらも静まり返った。



「これは。おまえの馬か」
背後から届く声に騎士が振り向いた。流れ落ちる金に顔を半ばまで隠されるほど俯いている。
長い月日に洗われ朽ち果てた動物の骨の名残の傍に膝をつき。その指先が、丁寧に摘み上げる欠片。
「ああ。そうだ、」



「逃げろといったのに。おまえはおれの亡骸をまもったか」
騎士の手が馬の半ば朽ちた頭蓋に慈しむようにやわらかに触れ、もう一振りの眼窩近くに突き刺された剣を引き抜く。切先が骨を離れたのと同時に形を留めていたものさえ塵となり剣を手にした姿を囲み、夜が灰白に霞んだ。膝をついたまま、自分に塵が降りかかるのを払いもせず、それが夜気に馴染んでいくのを"王"はみていた。そして騎士が地面に手をつき、やがて地が自分から口を開いていくのを。






「ハ。みつけた」
浅い穴の底を覗き、ちいさく言った。






―――ああ。わらった。





覗き込んだまま、騎士の表情が変わったのを目にする。
そして。オオカミがわらったらきっとこんな風だろうか、などと考えてみた。
けれどもその思考は乾いた音に遮られた。



穴の底から。陶器の割れたような音が響き。
騎士が剣を逆手に持ち、地に突き立てていた。
「おまえ―――――っ」
「身体の方は獣にでも喰わせたんだろうが。首だけばらして埋めるなんざ、面倒臭えこと
しやがって」
おれが甦るとでも思ったか?馬鹿馬鹿しい、ヒトにそんな真似が出来るか。
いつの間にか、手にした剣の重みを楽しむかのように掌で鞘をかるく跳ね上げるようにしながらそう続けた。安堵か、緊張が溶けたためかわずかに騎士の口調が乱れかける。答える方もあわせるようにそれとなく崩してみた。



「現に、死霊になってるじゃねえか」
余計な手間をかけるからだ、とどこか憮然とした風に言って返してくる。
彼奴らを恨んでなっている訳じゃあない、戦であれば敵将を誅するのは当然のことだ、と。
そう言いながら慣れた仕種で腰に一対の剣を差す。
「ならば。おまえは、昇天しちまうのか?思い残すことはこれでなくなったんだろう、もう」
近づいてくる騎士向かって問い掛けた。



「"王"、名は何という?」
ひたりと玉石の双眸があわせられる。
「眷族の王の名など決められている―――」
緩やかに首を横に振られる。昔話で聞いたような名など知りたいのではないのだと。
「おれが知りたいのは。"おまえ"の名だよ」
「"サンジ"だよ、"首なし騎士"」



「ああ、それがおれについた名か。ヒトにはおれの首が見えねえのか」
「"闇食いの森に騎士がいる。ヘッドレス・ホースマン。夜には森に近づくな。首なし騎士が盲いた
馬に乗りおまえの首を落としに来る。"この地に古くから伝わる怪異譚らしいな」
「ふうん、」
どうでもいい風に騎士が言う。
「それはおれじゃないな。おれはロロノア・ゾロっていう」
「―――ゾロ、か」
「ああ、そうだ」
迷うことなく眼差しが相手にあわせられる。そして僅かに翠のそれが和らぎ。告げた。



「サンジ。酔狂につき合わせたな。ありがとう」
「おまえ、どうするんだ?」
「ん?ああ、もう夜が明けるのか」
閉ざされた森の奥深くにも、見えない空の端は色を刻一刻と乗せていっているのだろう。
闇色が薄くなってきていた。
「首をみつけさえすれば、どうせすぐに消えちまうんだろうと思ったが」
「消えてねえな」
あっさりと返され、苦笑に似たものがその貌をかすめる。



「さぁ。ここにいるさ。陽が差してしまえば消えて、もう目が覚めないかもしれねえし、
またここにでも戻って来ていたなら、その時はその時だ」
口許を引き伸ばすようにしてわらう。
「おまえの小鬼共がなぜおれの首を隠していたかでも考えるさ」
そうした表情はこの騎士が、まだ成人して間もない年齢だったのではないかと思わせた。



「おまえは、ここを早く去れ」
かけられた言葉に、神経の何処かが反応する。この声と、言葉は聞いたことがあると、ぎりぎりと
自分に爪をたてるように言ってくる。いつ―――



「それならば―――」
いいかけたとき。






「なにをなさっている。先王の言い付け通り追って来てみれば」



地の深くから湧き起こるような声が背後からした。呼びかけられ振り向き。
騎士の前を見据える視線の先には、黒髪の男が闇に紛れるように立っていた。
影が動くように、その黒から形が浮き上がる。
「おまえなにを―――」
問い掛けられたことなど頓着せず、長身の男は自分に向けられる視線へ言葉を投げた。






騎士よ、消えることを望むか?
ならば思い出せ。
おまえがまだヒトだったころ。
子供を覚えていないか?敵地を敗走して逃げる途中に―――






低く長く、続けられる言葉に閉ざされていた深淵が揺れ、水泡の割れるように最初は酷く緩慢に、
そして自分の内に浮かび上がるもの。最初は断片。刃の交わされる音、ヒトの骨を断つ音と、
地を揺るがすようなヒトの叫び。そして、低く頭上を覆うようだった赤に染まった天蓋。朱を吸い
ぬかるんでいた地面。




そして



10月の終わり、闇が降りてきかける時刻に森と平原の境界に立たずんでいた、整った身なりの子供。追手の騎馬の音はまだ自分に追いついてはいなかったが、いずれ問われればこの子供は自分の進んだ先を告げる。いずれにしろこの地方の名のある家の子弟だろうと見当がついた。
普段ならば、剣の一振りでその命を取り上げていただろう、けれども。深手を負った馬の背から降りその横を歩いていた自分に向けられた子供の眼差しが自分に躊躇させた。




目をあわせたまま僅かに歩を緩めれば、血塗れた自分を怖れた様子さえなく静かに近づいてきた。姿を現し始めた死が自分におこさせた気紛れの産物。剣に添えた右手を下ろし、動きにあわせたかのように。肘までの長手袋を捨てて露になった手の甲にまで朱が流れ落ちた。




ゆっくりと鼓動をひとつ打つ間の空白。



絹の感触に眼を落とせば、細い指が白布で手の甲まで流れた朱を拭っていた。
「痛くは、ないのか?」
自分を見上げた子供の目が細められる。
「―――ああ、」
不意に、笑い出したい衝動にかられた。ヒトの痛みなど知ってこの子供はどうしようというのだと。
「ありがとう、」
馬の耳が微かに動き、浮かびかけていた笑みを引き戻した。風音ではない、近づいてくる。
「大丈夫だ。おまえはすぐに家に戻れ。それが無理ならばここを早く離れることだ」
騎乗する。嬉しげに馬が嘶き。馬首を巡らせ暗がりに沈み込む森へと視線を投げる。




「おまえは、死ぬのか」
自分を振り向かせるほどの、酷く大人びた静かな声だった。
刹那、両眼を閉じ。夜気を深く吸い込んだ。
「ああ。」
答えてから、それが真実なのだろうと静かに受け止めた。
「道連れは、精々作るがな」
そして、森に駆け入った。死の直前の記憶。
あの子供もそういえば―――







声に思考が断ち切られた。
「騎士。おまえの妄執はその子供ではないのか?死の間際に深く思ったのであればなおのこと」




ひくりとその眉が引き上げられる。
不遜なようでいて、深く思いに沈んでいるようでもあり。何も返答はしなかった。




「あの戦乱の世だ。無事に生を全うしたか、思い煩っているのではないか」



蒼の瞳は、騎士の姿が確かにせつな透けたのを捉えた。手足の先が、薄くゆらぎ透けたのを。
黒髪の男が口を開くより先に、騎士は静かに頷いた。
「―――ああ、そうかもしれない」
また、揺らぐ。









「騎士、ならば安堵しろ。おまえの目の前にいるぞ」









二対の眼差しが黒髪の男ただ一人に向けられる。
おれは地に出たことなど無いと呟くように言う姿に、あなたが忘れているだけだ、と男が返す。
あなたはよくこの地に抜け出していた。戦乱の血の匂いが気に入っていたらしいな、と告げながら
その肩をかるく抑え、騎士に向きなおさせる。
「王よ、あなたの封印を解いてやろう」
その耳元に唇を寄せるようにし、囁く。







「おまえが―――?」








あの後、と。途切れることなく続いていた声が耳に戻ってくる。
我らが"境"まで迎えにきてみれば。あろうことかヒトの血の染込んだ布を握り締めて涙されて
いる。"これ"を連れて来いと。一緒に連れて行くのだと言って聞かない。




「ヒトを連れて行きたくともそれはせんなきこと、諦めろと言い含めても。あまりに泣くので記憶を
封じた」
「―――よくも勝手にっ」
振り向き睨み付けるが、長身のほうは目許だけでわらう。
「先王の気性はあなたが誰より承知だろう。"泣く子はうるせえ"」



腹立ち紛れに相手に向き直り何か口にしようとした途端、いきなり肩を掴まれ向きなおさせられ。騎士のそれと、腕の半分の距離をおいて視線が衝突した。




「おまえだったのか、」
肩を掴む手の力と相反して、安堵したような声が聞こえる。
そして、わらった。総てから解き放たれたように。






「魔物だったか。―――斬っちまえばよかったな」








その笑みが淡く霞み。揺らぎ、背後の薄闇が透ける。
消失した。透けたと思った刹那、なにもかもが。
笑い声だけが残り。




「行くなッ」
叫んでいた。



「こんどこそ、連れて行くんだ。行くなッ。戻れ!」



ざわりと森が揺れ。返されるものはなにも無かった。
薄闇。












「また、泣く」
呆れたものだ、この王は。とからかうように続けられる。
「―――うるせえっ、悔し泣きだ」
「欲しいものが手に入らぬとなれば、わあわあと。変わらない。だから先王に記憶を封じられる
ことになどなる。館に泣く子供など要らねえんだよと、そういうことになるんだ」
涙を流したまま睨み付けるなどという器用な真似を見せられ、男は両の手を僅かに上向ける。




「あれは、昇天したわけではない。もう泣かれるな」
仮にも王だろう、と。
涙を溜めたままの蒼がひたと自分にあわせられるのに、ため息を交えさせる。
「……昇華してないんだな?」
「夜が明けただけのこと。あなたに嘘などついてどうする」




それに、と長い指を相手の顔の前で振るようにする。
「度を過ぎて泣くと、成長が滞る」
「―――な、」
「だから記憶など封じておいたが。やはり多少は影響してしまったな」
「いい加減なこと言ってるんじゃねえぞ、おまえ」
すっかり双眸は乾き、火花の蒼色に戻る。
「現に王はその姿のまま、もう成長していないだろうが」
個体差だろう?と言ってくるのに、馬鹿な、と返し。可笑しそうに男の片眉が引き上げられる。
「仮にも眷族の王だ、そのような姿であろうはずが無い。あなたの風貌ではせいぜい王子がいいところ」
ぐ、と眉根が寄せられるが気にもせず男が続ける。




「まあ、良いだろう。あなたの近習があの騎士ならば。相殺もされようさ」
に、と口許を引き上げる。
「あたりまえだ、」
地に浅く口を開いたままの墓穴にその眼差しをあわせたまま、どこか陶然とした風に言葉を紡ぐ。
「こんどこそ、連れて行く」



「ならば早く戻られることだ。間もなく陽がのぼる」
「―――わかっている」
くっきりとした笑みが王の口許に浮かび。
「ならば、早く―――」




「―――先王、」
立ち尽くしたまま動かず、笑みを一層深くした王からの言葉に男の目が僅かに見開かれた。



「チッ。―――ばれてたか」
ゆっくりと霧が取り囲むようにその輪郭が曖昧になり、再び形をとった時には血色の髪が現れた。
「あんたの近習は、あれほど饒舌じゃあない」
言われて悪びれた風もなく肩をかるく竦める。
「いずれにしろ、戻るぞ。もうこの森のほかは明るい」
「―――うん」
「夜などすぐ来る。しのごの言わせず連れて来い」
薄い肩が小さく揺れるのを認め先王も笑みを口許に刻む。




「先王、あれは何をしたんだ」
「さあなあ。本人が言っていただろうが。よほど業が深いんだろうさ」
「ならば。迎えるに値するな―――?」
「駄目だといっても聞くタマか、おまえが。ほら、間もなく夜が明ける。もどるぞ。陽など
みたくもねえ」
ざわ、と木々が鬩ぎあう。消えていった先に飽きることなく合わせられていた蒼の眼差しが、
ゆっくりと伏せられた。




「なにをしている」
歩み寄るかと思われたのが、浅く穿たれた地の傍らに膝をついてしまった姿に振り向き
ざま先王が告げる。
「しれたこと、」
地中から掌にすくい上げた欠片に唇を寄せる。
「口接けている」
滑り落ちてきた金糸がその表情を覆い隠し。それでも、笑みを刻んでいるらしいのは
見て取れた。




「明日になれば。いくらでも施してやれるものを」
先王の声が笑みの影を含み。
「待ち遠しいな」
すうと立ち上がり。その前に指先で地に触れ開いていた口を閉ざさせる。
「たかだか数刻。陽が地に触れたならすぐにでも迎えに来れば良い。彼奴は道をしらねえぞ。
なにしろ小鬼共に誑かされて、この森を何百年も彷徨うような奴だ」
おっそろしく変な所が抜けてるな、とからかうように付け足す。




「ああ、そうする。下には明ける夜など無いからな」
「神も呪いもありはしない。教えてやれ、奴に」



地の深く、扉の開く音がした。森の中、一抹の静寂。
そして、一条の陽光が差してきた。いまは何もいない森の中へ。
















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何だか。恐ろしく勘違いなことになってしまったのではないかと危惧しておりますが!!少しでもいただいたお題に
かすっていればと―――。これは、冗長なるプロローグなのかしら?!と心臓いったいです……。ハロウィンの生き物、に
少しでも近づけておりましたでしょうか。かしこみかしこみ捧げ奉りますー。



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