Telescope Goldfish



「あれ!ゴールドフィッシュ島っていうのよ」
「へえ!キンギョ島かァー。わっけわかんねェなあ!!」
うははは!おっもしろそお、と今日も船長は島影に大ハシャギである。
「水がキレイで淡水魚の養殖が盛んな島だっていわれてるわ」
ハスキィ・ヴォイスが付け足してくる。
「金魚かー、なんかさ?あかいべべきたなんとかかんとか、っていう歌たしかなかった?ロビンちゃん」
語尾に無駄にハートマークがついているのはまあしょうがない。
「あら。古い歌をしっているのね」
柔らかな笑みが浮かんでいる。

「んー、昔ね。店に来てたヒトがなんかそんなこと言ってたような気がする」
「ふうん!なあ、」
足元から船医が見上げていた。
「べべってなんだ?」
「昔の言い方ね、キモノのことよ」
ロビンがさらさらと説明し。

「それにね、あの島は香辛料でも有名よ」
航海士様が付け足した。
「ハ!そりゃあいいな、何が足りないか確認しねェとなー」
ぱしり、とマッチから火を点け料理人が嘯き。
「スパイスかぁ。おれも勉強になるかなァ」
「そうね―――一緒に行く?」
オネエサンである。
ほんとか!!と眼がきらんきらんになるのは勉強熱心な船医だ。
「ええ。いいわよ」
「おおおー」
俄然燃えちゃったらしい。

見張り台から狙撃手が「うおい!!前方2時の方向に怪しい船影発見!!」と叫んでいたのに誰も取り合わず。
相変わらず和気藹々と賑やかである。

が。中で一人。キンギョジマ?なンだよそりゃ、と憮然としていた男はやはり―――剣士だ。

そして厳正なるじゃんけんの結果、居残りは料理人となり。
ちぇーーーーー!ロビンちゃんとナミさんとのデエトがあ!!と一頻り騒いではみても、
「お、ゾロてめェ帰りにタバコ買って来い、」と目をあわせたカオは一応笑顔。
どうやら、時間のかかるストックでも作ることにしたらしい。

「ほい、じゃこれが買い物リスト」
「―――おう、」
ぴらり、とカオの前で揺らされたメモを受け取りながらこれもまた一応笑顔までは浮かべずとも受け取って。
2人して、にぃ、と口端を吊り上げた。
タバコの銘柄とスパイスと、あとは何の御使いが書かれていたことやら。やれやれ。

「キンギョスクイでも一緒に行けなくて残念だねェ」
「するかよ、アホウ」
あははは!と機嫌良さ気な笑い声を背に剣士が一番最後に船を降りたのである。


さて、そんなわけで剣士は物騒な顔をして町の通りを歩いておりました。
船に残った料理人からの「ターメリック」と「クミンシード」とやらの買出しに今は向かっております模様。
そしてどうにかそれらしい香辛料屋の軒先で「これ」とキレイな字で書かれたメモの切れ端を突きつけ。
やれやれ、と渡された小袋を手に安堵したのでありました。御使いはこれにてすべて終了。
ここまではメッタになく上々であった、のであるが。

道を歩き始めたなら、なにやら不穏な気配が漂う、それも自分の真後ろから。
「―――おい。またヘンなもん拾っちまったか……??」
似非霊媒師、オノレの体質を内心でちっとは苦悩したらしい。
足を速めても。相変わらずのたりのたりとその気配がついて来る。通りすがりはただ、剣士の凶悪になりつつ
ある人相が恐いだけで、なにも後ろのモノに対して驚きもしていないようだ。
「勘弁しろ。他のヤツには見えねェなんていうなよ…??」
剣士、ますます憂鬱である。

ざ、と港へ抜ける一本道の手前で足を止めた。のたり、とその後ろの気配も追従する。
「―――てめェ」
振り向き。
気が抜けた。そこには、なんとも珍妙な「じーさん」がひょっこり立っていたのである。
背丈は自分の腰あたり、なにやら薄汚れたクロの「びらびらした」ものを着ている。
「―――アァ?なんだてめえ??」
思わずぱちくり。
「ワシか。わしはな、ありがたくも精霊なるぞ」
「アバヨ」
くるっ。と前へ向き直りすったすったと。
「待たんかこら!」
「バカバカしすぎて斬って捨てる気にもならねェよ」
すたすた。のたのた。すたたた。のたたた。
「ついてくるんじゃねぇ」
「何を抜かす。みれば貴殿はめったにない魚運の相をしておるではないか」
「あァー?誰が魚人の相だって?オラおっさん」
こら。剣士。アナタまるっきりそれじゃあチンピラか三下だぞ。ちゃき、とご丁寧に鍔が鳴っております。

「まぁ、待たれよ。」
「またねぇよ」
すたすた。のたのた。
だんだんイライラと剣士がしてきたようではある。
「貴殿」
「あァ?!」
「このまま行くと隣町へ出るぞ」
「う。」
すまねぇ、と呟き。向きを変えまたすたすたと。
「貴殿」
「だァからなんだよてめぇは!!なんだ、斬って成仏させりゃァいいのか、ア?」
ぷるぷる、とじーさんが手を顔の前で振った。
「だからわしは精霊じゃと言っておろうに」
「しるかよ、」
はあああ、と剣士は盛大なため息。
「じゃあ百歩譲って妖怪変化がおれに何の用だ」
「む。貴殿、魚運の相が出ておるでな。漁村に生まれればさぞや名のある漁師になれたろうて」
「―――なりたかねェよ」
「いまからでも遅くはないぞ?」
「じじい!!てめェなんの勧誘だよッ」
ふぉふぉふぉ、とじーさんが笑い。

「まぁそう怒るでない。これを進ぜよう」
ごそごそ、とくろいびらびらの中から透明な袋を取り出した。
「なんだそりゃ?」
なかにはまっくろのおべべをきた出目金が1匹。ひらひらと。
「――――――。」
剣士、思わず黙り込み。
「――――――――――――オイ」
「む」
「こりゃァなんの冗談だ?」
「冗談ではない、これは霊験あらたかなおでめ様であるぞ」
「――――――あ、そう」
すたすたすた。
「待てというに!!」
「またねェよ!!!」



「で。」
料理人がブランデーグラスを覗き込んで言った。ふうーっと煙を唇から洩らしながら。
「てめェはそのわけわからねェじーさんからコレを貰ったと」
「――――おう」
むう、としているのは剣士である。
「”お出目サマ”?」
「あァ。気ィ狂ってンだろ」
「ただの、クロ出目金にしか見えねェんだけど?」
「しるかよ」
「で、なに。おまえがこれにエサやんのか?」
すう、と料理人、こんどは煙を吸い込んだ。
「まさか」
「死んじゃうぜ?お出目サマ」
にい、と明らかにこれはわらっている。
「魚のスープの足しにでもしろよ、おれァしらねェ」
「なぁんだよ、おまえさー」
「あ?」
す、と剣士の眉根が寄った。

「金魚、飼いたいからって、なにもンなけったいなほら話しなくてもよぉ」
わはは、とこれは料理人である。
「なんだよー、出目金?飼いたかったんか、オマエ!!」
うひゃひゃひゃ、とますます笑っている。
「だれがだよッ」
「照れんな、照れんな。オーケイ、わかった、てめェがそこまで言うならおれが飼ってやろう!!」
「――――――あー、勝手にしろ」
お出目ちゃあん、となにやら勝手にオンナノコ名前に変換された出目金入りグラス片手に妙な具合に
ハイテンションな料理人をとりあえず剣士は放っておくことにした。
「あー、それ。霊験あらたか、らしいぜ?粗末にすンなよ」
キッチンを出ていきざま告げれば。また爆笑が返ってきた、のだが。
「はー。お出目チャン。キミってばおれへの土産??」
ぎゃははは!!とまた料理人が1人で大笑いし。


その後、GM号に多大なる大漁運が舞い込み、「お出目サマ」がクルー一同(ミドリ頭除く)に可愛がられたことは
ここに補足しておく。





FI(NI)SH
Dedicated to dearest F.A