Life As A Rolling Stone---SAMPLE---
(ルビィ編より一部抜粋)




部屋に戻り、煙草を咥える。
火を点けようとしてマッチをシャンクスに放ったままだったのを思い出した。まぁいいか、と思いなおし。ベッドサイドにあるチェストの一番上の引き出しに入っていると、部屋を借りた時にマスタが説明されていたので、それを取りに向かった。
引き出そうと身体を返した時、ココココココココココン!と連続ノック音が響いた。こんな音を出すのはシャンクス以外にはいないと知っているから、マッチは一先ず諦め、ベックマンはドアを開けに向かった。
「――――物売りか?」
「おう!」
果物が山のように乗った籠を両腕で抱えていたシャンクスを見下ろして言えば、そんな返事が笑顔と共に返された。
奥までどうぞ、と腕だけで示せば、さっさとシャンクスは部屋に入ってきて、籠を木のテーブルに乗せていた。
「下の通りから投げて寄越すんだぜ?最初に籠、次に果物って具合に」
ドアを閉めて鍵を掛け、くる、と振り向いていたシャンクスを見ながら、最初の目標物を取りに戻る。
「豪快だな、」
「それもキレイなネーサンがするんだ」
「ふゥん?」
ただし、チェストの引き出しではなく、そこに入れているだろうと先ほどシルエットでわかったシャンクスのバックポケットに手を伸ばす。
ちゃり、と木のスティックが中で合わさる微かな音が響き、ベックマンは僅かに口端を引き上げた。シャンクスの目が僅かに驚いたのか、見開かれていた。
目線を離し、咥えたままだった煙草に火を点ける。甘い花と果物の香りに、スパイシーな匂いが加わる。

「なあ?さっきから気になってたんだけどよ、」
じいっと見あげてくる翠の双眸を見下ろし、なんだ?と口には出さずに尋ねる。
「あのボトル、何だ?」
すい、とシャンクスが、籠の横に置いておいた酒瓶を指し示した。側に置いてあった本には興味が無いところがいかにも、である。
「―――独りで楽しもうか、あンたと分かち合おうか考えていた」
「じゃ、もう決まったな」
にぃ、と口端を引き上げれば、シャンクスもにぃっと笑った。そのままぐいっとベックマンのシャツの襟を持って引き寄せ、頤を軽く噛む。
身長差がまた開いたな、とベックマンはその仕種で気付く。すぐに両手が離されて、ベックマンはまた煙草を口に戻した。
「あンた、さっきオレの嗅覚のことを言ってたが。オレはあンたのも実は相当なモンだと思うぜ?」
「ん?」
笑いながらグラスを2つ用意する。
「分かち合うのはいいとして、なんだと思う?」
翠の瓶をベッドの上で機嫌よく見上げて来ているシャンクスに指し示す。
「二番までしか店で呑めないってンなら―――」
シャンクスがすい、とグラスを指し示す。
「一番か?」
にぃ、っと。その答えにベックマンは口端を吊り上げる。
「さすがお頭=v
「アタリマエ」
にかっとシャンクスが笑い。ベックマンはサイドポケットの内側に下げていたアーミーナイフを引き抜いてボトルの周りの蝋を落とした。
ぽとり、と赤い蝋の塊が、竹の葉のカヴァの上にどこか鈍い音を立てて落ちた。
コルクを引き抜き、その香りを嗅ぐ。花の匂いが混じったような、深いコクのあるアロマ。原材料は入手先で教えて貰えなかった。ただこの島にしか生らない果物となにかを混ぜたものだとしか。
グラスの中に一口分注いでみる。深い緑の瓶からは解らなかった鮮やかな赤が口から零れ出る。
黒犬が歩けば酒にありつく、そう笑っていたシャンクスにグラスを差し出す。
「味見をドウゾ」
シャンクスがそれを受け取り、軽くグラスに鼻を近づけ、香りを味わってからくいっと飲み干した。
「日差しの下で飲むのによさそうだ、」
感想が告げられ、肩を竦める。
「それほどの味でもない、か?」
「や、美味いぜ?甘くならずに、うまく逃げてる」
「10年間に3本作れればいいんだとよ、コレ」
「これ積もう、って、えええええ」
「結構高かった」
盛大に喚いたシャンクスに、肩を竦める。
「気に入ったのに……!」
そう残念がったシャンクスは、けれど直ぐに気を取り直し。また笑みを浮かべ。
「じゃ味わおう」
そう言った。
シャンクスのグラスになみなみと注ぎ入れ、テーブルに置いたままだったもう一つのグラスも充たす。
「えらい、おまえ」
にこやかに言ったシャンクスに、にやり、とベックマンは笑って返事代わりにする。
「蔵元でも誑し込んだかー?」
「それは企業秘密≠チてヤツだ」

グラスから立ち上るアロマは、赤い花をそのまま溶かしたような鮮やかな赤い色のアルコールには似合わないほどに強い自己主張をしてこない。
けれどシャンクスの髪に飾られた花にも、テーブルの上の籠に積まれたフルーツにも、ベックマンが立ち上らせているクセのある煙草にも負けないところをみると、相当底力が強いのだろう。
「機嫌いいね、」
けらけらと笑うシャンクスから目を離して、一口含んでみる。
「貯蔵庫ごと貢がせろ、」
そう言ったシャンクスの声より深く、味に意識が向く。
きつい煙草の味と匂いを溶かすような丸みのあるフレーヴァ。
明かされなかった原材料がよほどのものなのか、爽やかな甘みはあっても、際立つような酸味も渋みも舌は感知しない。
飲み干せば、それはするりと喉を滑り。爽やかなアロマだけがふわりと戻ってくる。
「―――確かに、美味い」
「良い島だ、ここ」
ベックマンが目線を上げれば、黄色い果物の皮を剥がしたシャンクスが、果実を齧ったところだった。深いねとつくような果物の甘い匂いが立ち上る。けれどそれも酒のアロマがふわりと鼻腔を通り過ぎる度に爽やかに甘いものに変えていく。

「―――この島では、強い戦士であればあるほど、花を髪に飾るらしい」
大人しいムスメに聞いた話を思い出す。カリュクーリャの店の。
機嫌良さそうに目を細めたシャンクスが、音にはせずに、ふぅん?と言って返してきた。
「鳥の羽に、鮮やかな薄布。髪いっぱいに色鮮やかな花―――面白いが、着飾らせられたくはないな」
苦笑する。
「大昔にあった島の話みたいだな?ほら、あの―――黄金境の、」
ううん、と思い出そうとして、けれどシャンクスは止めたようだった。それからすい、と立ち上がったシャンクスが、立ったままだった男の唇に残りの果物を押し込んだ。
「あうよ?」
その言葉に、ベックマンは軽く咀嚼してから酒を口に含んだ。濃い甘ったるい果物のフレーヴァが一瞬でふわりと丸まり、爽やかなテイストが口に残る。
「この酒だけでも美味いが、何と合わせてもイイみたいだな?」
指に挟んだままだった煙草から紫煙を含んでみれば、やはりそれは気のせいではなく、酒にブレンドされていく。
「ん、ああ、そうだ」
シャンクスも同じように探究心に火がついたのか。ぺろりと指先を舐め果汁を落としてから、籠に飾りとして挿してあった花から花弁を数枚引き抜き。
「食える花だ、って言ってたしな、」
独り言のように呟いてから白い花弁を鮮やかな赤に浮かべ。それから 鬱陶しかったのか、髪に挿されていた花を籠の中に放った。またふわりと深く甘い匂いが空気に広がる。
シャンクスは花弁ごと赤いアルコールを呑んでから。
「―――んン?」
そう言ってまた毟ったものを追加した。
「味はどうなんだ?」
ベッドに座りながらベックマンが訊けば。
「―――微妙、」
シャンクスがそんな返事をして。その調子がまた似合わず酷く真面目だったので、ベックマンはくっくと笑って紫煙をまた含んだ。
「何種類か花もあるようだから、いろいろやってみろよ」
「んー、」
夢中になって花弁を毟っているシャンクスの背中を見遣ってから、ベックマンは窓の外に広がる暗闇に目を遣った。
時間が過ぎるのがゆったりすぎると感じてはいたが、それはどうやら独りでいるときだけのことらしい。
それはシャンクスが酷く忙しないせいなのか、それとも―――?
思いつきにベックマンは笑ってから、また赤い酒に意識を戻していった。

紫煙が赤い酒の風味も、香も損なうことはなかった。けれど、いくら香の強い花弁を足しても、これだけはなぜか味が、ぼんやりとした。
果実とあわせても、その甘味は際だってさわやかに喉を滑り落ち抜けていっていただけに、シャンクスは俄然「あう」組み合わせを見つけ出すのに躍起になっていた。
そして、籠に残された最後の花が2つになり。ベックマンは静かに杯を傾けているのを視界に半ば収めながら、グラスのなかの赤に白の花弁を何枚も落とし。そのとき、グラスの中から突然、すっきりとした香が立ち上ったのにシャンクスが、に、と唇を引き上げた。
「これが正解みたいだぜ?」
大自慢でグラスをベックマンのハナサキ近くまで持っていく。けれど、相手のあまり興味の無さそうな様子に肩を竦め、「じゃあおまえには味見させねぇぞ、」まるっきり子供の宣言を仕出かし、グラスの縁に口を付けていた。僅かに眉根が寄せられ、ゆっくりと嚥下していく。
「―――――まじ、美味い」
ベックマンは小さな呟きを気にした風もなく、先の本を捲りながら杯を傾けており。
「なぁ?炭酸が入ってるみたいな感じになってる、」
また一口飲み干して追加報告をしていた。
「ふゥん、良かったな」
頁を捲っていた腕が伸ばされ、赤をくしゃりと撫でていく。
飄々とした風情と口調ではあるが、その言葉が真意からのものであると知りえるほどには時間を過ごしてはいたので、シャンクスも「うん、」と  答え、そのまま花弁ごとグラスを空にしていた。

「ゴチソウサマ、美味かったよ」
卓にグラスを置き、思い出したように籠に残っていた小さな包みを指先で摘み上げていた。それを、ぽん、と本を読むベックマンの膝上に落ちるように放り。
「それ、おまえに」
酒の礼?とちいさく笑っていた。
「へえ?」
すい、と片眉を引き上げるベックマンに、「そう、」とひどくシンプルな答えを寄越し見下ろしていた。
紙が解かれていくかすかな音がし、現れたインセンスにくしゃりと笑う姿をまた見つめ。
「サンクス、どうせなら今使ってみるか」
「うーん、」
シャンクスが首を傾けてみせた。
「それさあ、ベン」
「はン?」
「おまえ、いま頭痛ぇ?」
とんとん、と指でこめかみを軽く何度かシャンクスが叩き。
「いや、どちらかというと調子がいいぞ、」
「じゃ、止しとけ?それ、頭痛用」
肩を竦めて笑う男にシャンクスもひらひらとそのまま手を泳がせた。
「オタノシミ用は買わなかった」
「じゃあその内にな」
「頭痛は持病?お気の毒に」
に、と唇に笑みを乗せたままシャンクスが見詰めるさき、ベックマンは笑いながら丁寧にかつ実用的にインセンスを元のように包み終えていた。
「種が近くにあるからな」
そう喉奥で笑みを殺しながら。
「ありがてぇだろ、首が繋がってるからアタマも痛むってもん」
す、と何時の間にか近付いていたシャンクスが黒髪の上に手を休ませた。
「そうだな。下手すりゃ飛ばすときは一緒になるか?」
ますます機嫌の良さそうな笑い声が隠されることなく洩れ。
「海賊だからなぁ、」
シャンクスも唄うように唇に乗せていた。
「安心して捕まれ、助けてやる」
「そんなヘマはしないさ」
「お?ただの好意の表れじゃねえの」
包みをサイドテーブルに置くと。ちぇー、つまんねー、と明るく文句を言い立てかけていたシャンクスの頤を引寄せ、そのまま唇を塞いでいた。
そして、言葉が続く。
「ただの一度でもあンたの手を煩わす存在にはならんよ、」
そしてまた深く重ねられた唇からふわりと齎されたものは、確かに煙草の香ではあったのだが。赤い酒と混ぜ合わされた所為もあるのか、どこか爽やかに甘く。
その唇をシャンクスが舌先でゆっくりとなぞっていった。美味い、と  音にせずに唇と舌先の動きで伝え。また、じわりと唇をあまく食んでいく。
く、と低くベックマンも笑い同じように南国の花のような味を残す舌先を絡め取り。頤を捕まえたままの手は、その指先で頬をたどり。空いた手はシャンクスのおざなりに止められているだけのシャツのボタンを弾いていった。
シャンクスが片腕を上げた所為で、首から下げられていた認識票がまたしゃらりと涼やかな音を立てて肌の上を滑った。
指先がダークグリーンのシャツの布地を肩口で引いてく。そして、そのまま指先が背の中心へと流れ。首元、襟足近くで一つに結ばれていた髪、それに潜り込ませて解いた。
出会った当初はまだ酷く短かったソレ、指から擦りぬけていくそれを絡め取っていたのはもう随分以前のような気もするし、ほんの何ヶ月前かのようでもあり。
くしゃり、と肩口まで落ちるような黒に手を差し入れてきつく手指で握るようにした。花とも、酒とも違う、なにか石鹸めいた香が近付けば漂い。
深く口付けながら、あぁ、やっぱりこいつもどこかで捕まった口だな、と内心で笑った。
 あまく舌に歯を立て、深くなるばかりの口付けを半ば解き唇を浮かせ、灰の色を間近で見上げた。
「―――なぁ…?」
 自分の声が酷く甘い色味を刷いていることに、おそらく当人は気づいていないのだろう。
「ん?」
 返してくるのは、微かに笑うような声であり。
「おまえ……デザァトな」
 かり、と首筋に言葉が消えいかないうちに歯を立て。
「目覚めの珈琲かと思ったよ、」
 くく、と笑みと共に返されていた。
「いま、おまえでも充分甘くなってるぞ?」
「ふン?」
 く、と手指を差し入れていた髪を軽く引き。寛がせた襟元にハナサキを埋めると、鎖骨の上に舌を押し当てた。
「ウン」
 するりとシャツが肩を滑り落ちていくのを感じ、半ば脱げ落ちたそれにまたシャンクスが小さく笑った。
「声出しほーだい?」
 けらけらと実に屈託ない。
「下が倉庫のような部屋だったからな、自然そういうことになる」
 項に寄せられていた手は背中を滑り落ちていき、シャツを脱ぎ落とさせた片手でボトムスを寛げながら、言葉にしていたベックマンがくぅ、っと笑みを唇に刻んだ。
「――――なん?」
「窓は開いてるけどな、」
「ふぅん?憶えてる間は善処しようか」
「聴こえても誰も気にしないかもな、」
「ふん?」
 階下の酒場で、マスタと交わした会話を思い出していたベックマンが言葉にするのを、翠が見詰めてき。すい、と肩を竦めるとそのまま、とさりと寝台に背中を預けていた。首に掛けた腕でベックマンを引き摺ることも忘れてはいない。
「なあ?」
「ん?」
 落ちかかるような黒を掌で抑えながらシャンクスが言葉を綴った。
「舞、って言ってただろ?」
「あぁ」
 片手は肌の表面を柔らかに撫で、唇で目元に触れていきながらベックマンが答え。
「おれの剣は、舞に似てるって言ったヤツがいるけど―――」
 ふ、と触れられる肌が熱を帯びていき。
「誰にも、捧げてなんかいねぇよな、まして神?在り得ない」
 翠の表面を、金の色が拡がっていく。
 きゅ、と耳元を啄ばみ、低い声が落とし込まれる。
「ここの神は喜びの統べてなんだと、」
 書物からの引用をゆっくりと音にしていく。曰く、喜ばしいことは統べて神が在ってのこと、悲しいことは統べて魔が在ってのこと。どちらが  欠けても成り立たず、従ってどちらも敬い、宥め、喜ばすのがこの土地に根付く信仰の教義なのだ、と。

「あぁ、似たような話、おれも聞いたよ今日」
 く、と競り上がる息を呑みシャンクスが声にしていた。
「赤、はさ?吉凶両方なんだ、って、さ……?」
 確実に快楽を引き出す手がいまは胸元にあり、やんわりと飾りを指先に留め。続きを促がすようにくちゅ、とかすかな音と一緒に耳朶を吸い上げていた。
「だから、ス―――なんとか、ここの神サマとやらが。両方一緒におれに くれるかもしれないから、気をつけて、って言われ……」
 く、と指先で押し潰すように撫でられ、言葉が切れる。
「そんなものに呑まれるあンたじゃないだろう、」
 低い声が酷く間近で笑い。ふ、と笑みが競りあがってくるのをシャンクスは隠さずに。
「あ、たりま、っての。おれを、だれだと思ってンだよ」
「"シャンクス、"」
 耳元、そのまま背骨の中心を滑り落ち、同時に頭蓋をそのまま抜けていくかと錯覚する音が名を模り。
「わかって…ンじゃねぇの、」
 声と一緒にぎり、と首元に爪を立てていた。
 足を下衣が滑り、その動きにつられてまだ羽織られたままのシャツの生地が肌を滑り。小さくシャンクスが身じろいだ。
 揺らいだ下肢をそのままに、腰骨の中心辺りを軽く唇でベックマンが触れ。短い音が唇から洩れていくのを聞いた。
 舌先で肌を押し撫でては吸い上げられ、先に小鳥の囀りを聞きながら ふざけて肌に甘い香のする香料を塗り込めあってわらっていたのは今日のことかと酷く遠くに思っていた。

「味、すンだ…ろ?」
 言葉が奇妙なところで途切れたのはしかたないのだろう。
「あンたの?」
「―――や、花…の、」
 解っていて問われたことにマトモに返しはしたものの。薄く浮いた骨に軽く歯を立て、「キレイな花と戯れてたのか、」ベックマンはそう喉奥で 笑っており。
 笑い声の立てる震えが直に伝わっていき、またシャンクスが僅かに声を洩らしていた。
「ぁ、あ。そ―――」
 返答が微妙なことになりはしていたが。
 手は愛しむように体温のあがった肌の上を流離い、はさり、と仰向いた所為で髪がリネンに当たる小さな音が届いていた。
 そして伸ばされた手が、また黒を乱していき。短い息をシャンクスが吐いていた。
 く、と中心部を舐め上げられ、膝が僅かに跳ね上がり。唇と舌とで追い上げられ、息が零れ落ち。やがて僅かに背を撓らせて蜜を零せば、熱い中に含まれたまま嚥下され。その音が微かに窓から上ってくる賑わいのなかにも酷くはっきりと響き。
 零れた蜜と唾液に塗れたものをするりと指で辿り、「気のせいかいつもよりさらっと甘い気がする、」そう赤い舌先で唇を舐めながら、男が笑みの形に吊り上げ。
「花と、遊んできたからな」
 こく、と喉を上下させながらシャンクスがグリーンを合わせていた。  その目元に朱を刷きながら。


+ + + + + + + +


 賑やかに歌いたてる鳥の声で目覚めた。
 外れとはいえ色街なだけあり、ここの住民の目覚めは揃って遅いようだ。開け放したままだった、薄布がはためく窓の向こう。空はとうに明け方を迎え、眩いばかりの青空が広がっていた。

 腕の中の熱が僅かに身じろぐ―――あンたも、揺れがないことに不自然を感じているのか?
 目を瞑ってまだ少し眠ろうと考え。けれど何かがいつもと異なっていた―――感覚。
 ブラッドレッドに口付けようとし、いつもの場所にないことに気付く。腕にかかる眠っている存在の体重が、酷く軽いように思える。
 抱えた身体が―――薄い?背丈………んん?
 眠りにどこか沈んでいた意識が一瞬で冴え渡る―――危険は感じないが、なにかがオカシイと訴えてくる。
 匂いも手触りも変わらないのに―――シャンクス?額が押し当てられた、けれどそれはいつものように胸には来ず……腹?
 瞼を開いて、深い息を吐いた腕の中のモノを見下ろす―――通常より下にある存在。腕が回され、その細さに驚く―――ガキ?
 つむじ、見慣れた色と形、けれど随分と―――小さい?
「な…だよ、起きんの―――、」
 寝惚けた声は随分と細くて高い―――記憶に残っている、出逢った当初の頃よりももっと。
「―――目が覚めた、」
 一先ず呟いてみる。
「―――ふん、」
 ソレはまた眠りに戻ろうとしている―――"いつものように"足を掛け直して。
「シャンクス?」
 声をかけてみる。
「んんー、」
 仔猫が唸るような返事……返事、だよなぁ?
 もっと額が押し当てられ、改めて抱き締めてみる―――小さい。小さい、軽い、細い、薄い……なんだ?何があった?
 昨日抱いた時は、いつものシャンクスだった。明け方が訪れる直前まで、確かに随分としなやかに伸びた身体に熱を注いでいたのに。―――なんなんだ?
 一先ず横抱きにしていた身体をリネンに押し止めてみる。やはりいつものサイズではない、それどころか―――。
「んぅー、」
 見下ろした先で、シャンクスらしいソレは目をきつく瞑っていた。まだ頬のラインがふっくらとしている。
 パーツが見慣れたそれより随分と大きくて……唇はふっくらとしていやがる。
「まだできねー、」
 ―――シャンクスの成長がどのようなものであったのかが解らないから断定は出来ないが。口の悪さに変化は無さそうだ。
 ということは、外見だけ……?

「――――XXXX」
 ベックマンが口の中で思わず漏らせば、ぱか、と大きな目が開いていた。眩しそうな様子ではあるが、翠は相変わらずな色合いで。けれどその大きさから、余計に仔猫じみた印象を受ける。
 男は目を細め、低い声で訊く。
「あンた、何をやらかした?」





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こんな感じで一大事〜?明るいえろてぃっくなお話を目指しました。サンプルは、赤い人が主なのでルビィ編、
黒い人主体のものもありまして、それはブラックダイヤモンド編。おなじく1冊に収まってます。