おまけ


「なあーウソップあのさぁ、さっきの美人な、」
「だーっ!ルフィ!その話すんなって言ってんのに!」
ウソップはベッドから跳ね起きた。
やっと、何とか自分をごまかして眠ろうとしていたというのに!
「俺ァそういう怪談話とか苦手なんだよホントはよ!」
隣のベッドに向かって叫ぶが、そこは空。
とっくに眠ってたはずだよな・・・?
薄暗がりの、それでも外の雪明かりが部屋をぼんやりと照らしていて。

「・・・ルフィ?」
声の主は出窓の枠に座っていた。
「ひるまの、おばちゃん、」
「・・・ああ、」
のんびりとしているけれど、真剣に言葉を紡ぐキャプテンの方をウソップはみていた。
「優しい手、してたんだぜ」
たぶん、笑っている。
ウソップも思い出す。あの夫人は確かに、愛しそうにルフィの頭を撫でていたのだ。
もうどこにもいないなんて、まだ信じられそうもない。
「おまえのかーちゃんも、優しかったんだろ?」
「・・・当たり前だ。親なんてみんなそうだ」
ししし、と笑い声がする。
「あの美人な、おまえらが見そびれた、」
だぁかぁら!と言いかけるが、ウソップは言葉を飲み込む。こいつ、からかってるわけじゃなさそうだ、と。
「あれさあ、」
めずらしく、ルフィはどこかうっとりとした風な口調で。
「サンジのかーちゃんじゃなかったかと、思うんだよな」
ルフィもウソップも、サンジの生立ちなど知らない。 だけど、どこかサンジにつきまとう影はいつしか感じとっており。
「・・・って、ひるまの・・・・・・?」
「あのおばちゃん、ゾロのこと息子だと思ってたみてーだし」
「・・・おい、そりゃあ」

ぐるぐると今になって昼間の、わけのわからなかった事実の断片が形を造りかけ、それをウソップは慌てて放棄した。 俺は「今」だけしってりゃいいんだ。俺は、な!
「だけどさぁ、やっぱりおまえ絶対ソンしたよ。溶けそうに優しい顔で、ゾロのこと抱きしめてわらってたんだぜ?あんな美女、俺、みたことねぇ」
「そっか」
「うん」
まだ、どこかに残っていた恐怖の名残は消えていき、かわりに温かさが 胸の奥から沸き上がってきた。
「そりゃ、残念だった。俺としたことが」
またルフィの方から笑いの気配。 ばふん!とベッドに着地し。
「よし!寝る!!」
宣言したと思うともう寝息が聞こえてきた。

「いつか、カヤに話してやりてぇな。こんな、雪国のおとぎ話」
悲しくても、やがて最後はめでたしめでたし、って話。 ウソップも毛布を引き上げる。
「おやすみ」


窓の外に雪は降り。 悲しみを癒し、傷を覆い。また、生まれ変わる。



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ほんとにおわり。ここまでおつきあいいただいて、ありがとうございました。