It Only Happened/When I Met You





レーザー・ビームだ、そう思った。




---urban nation---
Saturday

「ルウ・チャン、あれ誰だ?」
「うおら。おれは謎のチャイナマンじゃねっての。うーす気味悪ィ呼び方すんな」



肩をすくめるブラザー風にチャビイなガード兼ドアマン。しょっちゅう職務放棄しちまってるけどルウは
このテのアソビ場が知れ渡る前にふらっとやってくる類の面を知っているから。ここはまだ、10日前に
オープンしたばかりだ。で、おまけにアンダーグラウンド・バー。おれはロフトで今宵の美人サンの
物色中だった、だけどな。気になるだろ、やっぱ。潜在的キョウイってのは。



「アー、どれだって?」
チキン・ドラムを咥えたまま振り返る。
「アレ」
指さす。
ちょうど、エントランスから階段を降りてきてバーカウンターへ面倒くさそうに進んでいくヤツ。
夜中を過ぎて、イイ具合にヒトが入り始めた頃合。



でけえネコ科の肉食獣みてえな。弛緩した、いかにもどうでいいって雰囲気で歩いてるくせに
神経だけはフル・アラート、ってやつ。
「ん―――?」
ルウの眼が細められる。
「知らねえ」
「へ?」
「新顔だな。おまえサン目当てじゃねえの、また?」
「フザケロ」
げし。とヒザに蹴り。ルウが大仰なアクション付きでクッションにでけえ身体を埋めてみせる。



下に眼を戻した時。
天井のライトが目の前に落ちてきたのかと思った。酷く距離を置いたクラブの端と端。
視線がぶつかった。ハレーション。






凄え、まミドリの光。
あれ天然か?






ざわりと。
耳に音が戻ってきたとき圧倒的なミドリ目はそこにいなかった。



「ルウ、いまのあれ。ゴーストかね?」
「あン?」
「いねえよ」
妙な感嘆詞。
「ママ・ミア、」とか言いながらルウは太い指で十字を切った、が、すぐにでかい手が
ヒトの後ろ頭をキレ―にヒットしてきやがった。



「てめっ」
「サーンジ、その眼はやっぱただのお飾りなんじゃねえのかァ?」
「―――アァ?」
ナンだと?
「ほれ」
ぐりん、と首を逆の角度に持って回される。壁の方。
「あそこ。ボスと話してるから知り合いなんじゃねえの」
………あ、ホントだ。
シャンクスが何かそいつの肩越しに覗き込んで話してやがる。珍しいこともあるモンだ、へええ、と
見下ろしていたら。上向けられた2対の眼とバチイイィッと「逢った」。



「―――ンだよ?」
何でかおれの顔を見てルウがにんまりする。
「べ〜つに?お、話は終わったみたいだぜ」






ひらひらと手を振っておれたちのいるロフトの方へ上がってくるのはにやけた赤アタマ。
唯一の肉親がコイツってのも、おれは不幸なのか?



「なあ。ナニ話してたんだよ、あんたの知り合い?」
「あー、さっきのか?」
にかにかっとおれに笑って寄越す。
「んー、初めてみるカオだったんだけどな、客寄せに良さそうだろ。だぁからジョー連サンに
なってもらおうと思ってだな、」
……あ。スゲエやな予感。
「おまえのケータイ番号教えてやるからっつたらさぁ」
「おい!ナニ勝手さらすこのクソ中年!!」
ぱしり。と掌でヒトの膝蹴り止めやがって、くそー、
でぇもなァー、とか含み笑い付き。すげえハラ立つぞおい。



「"いらねえ"ってサ!ざぁーんねんだったな、おまえ!振られン坊だぜ!!」
ぎゃはははははーと。わらってんじゃねえよッ。
「何でおれが!しらねえ内にしかもヤローに振られンだよ、あんたアタマ沸いてンじゃねえの!」
「あ。だァってさ。大抵ソレで堕ちるんだぜ?」
「…………おい。いつものテなのかそれが?」
あーもー。真剣に、ハラ痛ェ。



「あら。マジで教えるわきゃねえだろ。かあーわいい甥っ子のテーソーの危機なのに」
「死ね!!つーかオンナノコには本物教えろ」
「いやぁだね」
「―――のヤロウ……」



立ち込めかけた暗雲を、ルウが吹き払った。
「ボース。教えてやれば良かったのに。こいつ、眼があっただけでカオ赤くしてたんだぜェ?
結構オトメじゃん」
ぎゃははははと。――――デブ。ブッ殺すぞてめえ。
「だれがだっ!」
「あら〜。ゴメンなぁ?おれ名前も聞いてねえよ」
「いらねえってのっっ」
げらげらげらと。ばんばんヒトの背中を叩いて"オーナー"はまた"ナンパ"に出かけ。



それでまあ、"グリーン・アイド・モンスター"のことは忘れておれもオンナノコと楽しく過ごし、酒のんで、
バックルームでかるーく美人サンとエクササイズして、上機嫌で家に戻り。執事のジジイが帰りが遅いと
また一悶着起こし。シャワー浴びて。髪が濡れたままでも、もうねみーから。ベッドにダイブした。
とりあえず、有意義な一日?鳥が鳴き出す前に寝よう。



オヤスミナサイ。てな具合で。






--- No Surprises?---
Sunday

窓辺に。
なんか、こう、すたりと。
えらく流麗なモーションでナニかが「降りて」きた。
……………う?どこからだよ。



ブルーグレイの影が拡がる、ハネみてえに。それが、はさりと。
布の柔らかさで床まで届き。
――――――これ、夢か?
ソレがゆっくりと、「立ち上がった」。



自慢じゃないが、おれは寝起きが悪い。サイアクだ。寝ながら朝飯食ってたくらいだ、ガキの頃は。
ああ、それにしても、レーザー・ビームみてえなイロだ…………ってナニがだ?
あーー、と、これ、見たぞおれ。いつだっけ……?
このミドリ眼―――――
ハ?!



覚醒したのと同じ、イヤになるくらいのタイミングで。
ミドリ眼ヤロウが「にっこり」と悪魔笑いでおれの顔面に、しゅっと一吹き、ぎゃああああこれ!!
100パーセント、ブラックアウト。






「お目覚めかよ」
不機嫌そうな声がした。
うー、アタマ痛え。なんだ?すっげえ不愉快な夢みたんだよな、そういや。ああチクショウ。



「うっせえなあー。おれはもう少しねる」
「そりゃあ別に構わねえけど。起きた方が良くねえか?」
ん――――?この声、だれだ
って、うわあああああああっ



「やっと起きたか」
果てしなく呆れ果てたような声が。
「てめえだれだってか、なんだこの状況はっ!」
一見、ホテルのスイートルーム。けどな、スイートには柵はねえだろ、鉄の。天井から床まで。
おれその中にちゃっかり入れられてるし?!ぎゃあああこれは拉致監禁??



「喚くな。あのな、別にイノチを取ろうってんじゃない。場所はもうわかってるんだ。
後は、カギだけだ。"オールブルー"のカギ。おまえが大人しくそれを出してくれさえすれば
危害は加えないし、すぐに帰してやるさ」



たしかにウチは資産家だが。家もでけえが。
だからってなぁー、そんなもん聞いたこともねえっての!!
「ってっめえーーーフザケンナァッッッ!!」



後は。脅威のボキャブラリーから繰り出される前代未聞の罵詈雑言をおれは気が済むまでヤツに
立て板に水どころかイグアスかナイアガラかってくらい浴びせ掛け。ヤツはヤツでそれに一々リアクション
返してきやがるから。日が暮れる頃には喉頭ガンでもできたかってくらい、おれたちの声は聞くも無惨な
シロモノに変わり果て。おれはおれの可哀相な美声に涙した。



「てめえ、おれのヴェルヴェットの如き美声を返しやがれ」
「……ざけんなこの―――」
はあ、とクソ誘拐犯は溜め息をついた。おあ?生意気に。ヤツは扉へ進んでいき。
「もういい。てめえの声聞いただけでおれは頭が痛え。速攻で返品してやる」
返品だァ?!くそ上等じゃねえかてめえが勝手にヒトのこと攫ってきやがったんだろーがっ
っておれの至極まともな糾弾は、閉じられた扉だけが聞いたわけだ。
くっそーーー。不条理じゃねえ?






--- Blue Monday, Monday Morning ---
Monday

「おい、てめえ、帰るところが無くなったらしいぜ」
憐れなモンだな、とかなんとかぶつぶつ言ってやがるぞこのミドリは!
「はぁ?ザケンナかえしやがれッ」
「だから昨夜てめえなんざ熨斗つけてもどしにいったさっ」
「オア?!クソ上等じゃね………アァ?」



「てめえのオヤジのとこに戻ったんだよ、こンなもんいらねえから返すってよ!代わりに
カギだけ寄越せって。そしたらあのオヤジは!"ぼけぼけカドワカサレルようなヤツァてめえに
くれてやる"って言いやがったんだッ。嫁いだからには三界に家無しとも伝えろとかフザケテ
やがったぞ、いいか、誘拐されたんだぞおまえ?」



ここで1回ヤツは深呼吸した。思い出してもムカツクらしい。聞いてるおれは怒り心頭だっての。
「あのイカレシャンクスも偶々その場にいたんだ、こいつがまたげらげらげらげらアホみてえに
笑いやがって、"いやあーこれでおまえも家族だな!ヨロシクなー"だぜ?!いったいてめえの
家はどうなってるんだ!!」
「ハァァァッ?クッソーーーあンのジジイッッ!!」
「てめえのオヤジもロクデモねえな、」
ふいと。息継ぎも兼ねてかクソミドリの声がトーンダウンした。
「……オヤジじゃねえよ」



あ。このクソバカが。いまクソ忌々しいこと考えやがったな。
「―――へぇ。」
「おぉらそこのエロミドリ!ロクデモねえこと考えてんじゃねえぞ。ありゃあ執事だ」
ブッとか言って今度はヤツはげらげら笑い出した。くっそーやることなすことハラ立つ野郎だぜ。
「し、執事に家のっとられてんのかよ、どアホウだな」
大口あけやがって。くそばかばかづらが。



あのジジイはな、あのでけえ態度は昔っから変わらねえんだよっ。シャンクスがまだ独立前は
家に召使が二人居るとでも思ってたくらいなんだ。あーくそ。考えただけでハラの立つ。大体なんて
言い草だ!!それでも執事か!普通は身を呈してご主人様、え?おれ?うええええ気色わる、って
あーくそ。いや、いまはジジイにむかついている場合などではなく。
あーもう、クソうるせえ、げらげらげらげら笑いやがってこのドアホウは。ひやははははと。
バカだバカだの連発。馬鹿にバカって言われたってちっともハラタタ……くっそむかつく!



バカ面が、半身を折ってこっちを見た。
目尻に浮かびかけたナミダを指先で払うようにして。シリアル・キラー並みに酷薄な口は似合わねえ
笑いかけの線。
―――――――――――――――――――ううぉおいッ。おれは死ぬのか??
なんで、このクソムカツクヤツに。
ドッキリなんかしてんだっつーの!!フザケロおれの生存本能が!!



「うっせえ、てめーこそGAPだかMUJIだかわかんねえカッコしやがって生意気ぬかしてんじゃねえぞ!」
「カッコに何の関係があんだよこのクソアホが!それにこれあGUCCIだっ」
「おァ?てめーが着りゃあGUCCIもグリッシーニも一緒だバカヤロウ!」
「―――――そのグリッシーニ、ってのは何だ?」
「あ?ああ、イタリア料理のな……ってなんでおれがてめえに説明しなきゃなんねぇ?!」
「しるかアホ!」
「アホいうなクソムカツクヤロウだなてめえは!」



ぜっと息を継ぐ。何で、そもそもこんなにぎあぎあ喚かなきゃいけねえんだ?
けほ。と小さく咽た。
おれをヤツが妙なカオして見やがった。



「――――ンだよ?」
睨む。
そうしたら。
おれの頭脳も驚いた。耳が。聞き取った物。5音。
「おい。大丈夫か?」
ってコトバ。
僅かに眉根を寄せるようにしやがって。こいつって凶悪ヅラでもカオの造作は悪くね―――ってオイおれ!
「……お、おう」
「そうか。」
うらぁ!わらうんじゃねえってのーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ???おァ?
おれ…………………………………………………………え?
ドキってした………………………………………………………………………………………
…………………………………………………………………………………………………………
…………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………のか……………………………………………………
…………………………………………………………………………………………………………
………は?????



天国のお母さん。
あなたの愛する息子の遺伝子はおかしくなったのか――――――――――――??



とつぜん、だんまりを決め込んだおれにヤツはイラついたのかオイ、とかおらてめえ、とか言ってくるが。
おれは死んだ母親との対話に忙しく。……………………………………ああああああもううぜえっ。
柵、叩くなっ!!―――――――――――――――――――――――――――――あ。
おれァアホか。こんなヘンタイ監禁男にどっきんするなんてありえねえ。これは、アレだろ、ほら。
ナントカ・シンドローム。極度の緊張状態によるアドレナリンの異常分泌ってヤツ。おれって繊細だし。
はははははは、なあんだ。いやあ悪かったなシカトぶっこいてよ、すまんすまんってちらりと見上げれば。
ミドリ眼はいなくなっていた。






--- Thursday's Child ---
Thursday

「なあ、そこのシケタ誘拐犯」
「うるっせえな、おれは誘拐犯じゃねえっての」
「現に、このラブリーなおれさまを誘拐してんじゃねえかよ」
ぎうっとヤツの眉が引き寄せられた。
「何度言わせりゃ気が済むんだよてめえは?だーかーら。おれが狙ってるモンは一つで。
それのカギをてめえが持ってるんだよ」
「おれ、そんなの聞いたことねえ」
「確かすぎる筋からの情報なんだよ、黙ってろ」



柵ギリギリにイスを寄せて、外側にいるヤツと何でか話をしている。
確かに、これは檻っていうよりシャッターで区切られた個室なんだ、そういえば。
一人でメシ喰うくらいなら死んでやらァときっちり主張してからは、コイツは運んできた物を
おれが片付けるまでオッドマンに座って待っているようになった。
「おまえのとこの料理人。腕良くねえぞ」
「―――あ?」
「不味い、すげえ。これとか、最低だぜ?」
おれは、ご丁寧に銀のトレイに乗せられて運ばれてきた食事の、ドウ考えても神への冒涜としか
思えねえクソ不味いコンソメのジェレを指した。



「ああ、前にいたのはオヤジが連れて行っちまったからな、急場しのぎなんだよ。やっぱり、
てめえにもわかるか?」
「……あのなぁ、おれは伊達に美食家気取ってるんじゃねえんだぜ?」
ヤツが右側の眉を引き上げてみせる。
「おれが作った方が一万倍美味い」
へえ、と言って。
ヤツがマトモに笑みらしき物を浮かべた。
―――おら、心臓。勝手なコトしてんじゃねえぞおれの許可もなしによ。



食後の一服。煙と一緒に言葉も乗せた。
「なあ。てめえが誘拐犯じゃねえんなら、なんだよ。空き巣か?」
「……あのなぁ、」
盛大にミドリアタマが溜め息をついた。
「そんなモンと一緒にするな。ウチのはちょっと違う」
に、と唇端を引き上げた。



「公に訴えられねえモノ専門」
「んんー?あっ!恥ずかしいシャシンとか??」
「クソボケッ」
「じょうだんだよ」
いってえ。アタマ叩くな。
「美術品だろ?泣き寝入りするっていったら盗品か」
「正解。あとは戦時中のどさくさ紛れの略奪品だよな、美術品専門」
「泥棒が泥棒から盗んでまた誰かに売りつけてんのか」
「出来るだけ正当な持ち主へな」
「JMみてえだな、」
おれは昔、よく聞いた「怪盗」の名前をだした。



ぴくりと、ヤツの片眉が動いた。
「―――それは、ウチの先代だ」
「―――先代?」
「おれのクソオヤジだよ」



「なんでてめえは何も現場に残さねえんだ?それじゃ」
花やイニシャル入りのカード、そういったものをJMが現場に残していっていた、という伝説は有名だ。
「いいんだよそんなのは」
「てめえ、ウチのセキュリティにかすりもしなかったじゃねえか。腕はイイらしいのにさ、
そんなのつまらなくねえ?」
「……あのな、モーリス・ルブランの読みすぎたてめえは」
ヤツがトレイを手に立ち上がりかけた。
「いいじゃん、イニシャルとか現場に残してけよ、なあその方が面白えって」
「ぜってえ、やだね」



「なんでだよ?」
「てめえに言う必要はない」
「じゃあせめて可哀相な人質にくらい、てめえの名前教えろ」
「人質にこそ教えねえだろうがフツウは、壮絶なアホだなてめえ」
それにだれが可哀相なんだよ、とかどさくさに紛れてトンでもねえこと抜かしてないかこいつは?



「いいじゃん、教えろ。まずおれが先に名乗ってやるから。おれはな、サンジ様っての」
はあっと、扉で肩が非常に大きく上下した。
「ゾロ、だよ」
――――へ?マジで名前教えてんのか??



吃驚しているうちに、"ゾロ"がいなくなっていた。
ええっと。はぁ、名前聞いちまったよ。
――――――――ん??



次の瞬間、おれは死ぬかと思った。
笑いの発作で。
いやあ、あいつのオヤジはジョークのセンスが大アリだな。さっすがJM。
そんな稼業で、息子にこの名前つけるか??
いやあ、ベタだ。すげえ。
まさに、「Z」マークなんか死んでも残せねえな、いや、いっそ死んだ方がマシか?!
憐れな怪盗だ、はははははは、ひやあ、ハラ痛え。なまじ腕が良いだけに!



うっせえ!と怒鳴り声といっしょに出て行ったはずのヤツが秒速で戻ってきてもおれは
ひたすらわらってた。






--- Friday Afternoon, We Say ---
Friday

「てめえさ。家に戻りたくねえのか?」
「戻りてえに決まってるだろ。なんで籠のトリしてなきゃいけねえんだよチクショウ」



「だから。オールブルーさえ手に入りゃあ、てめえは用なしなんだ。さっさとカギの在処、吐いちまえ」
「いやだね」
「てめえ自分の立場わかってモノ言ってんのかよ?」
「しょがねえだろうがおれにどうしろってんだっ!!」
「なんでそこでキレルかてめえわ!」
「やかましいーーーっ!!!」
「やかましいのはてめえだっ!!」
ぎゃああああぎゃあああ檻の柵越しになんでおれらは朝っぱらから叫びあってるか。
あほくせええ。



「そんなモン、しらねえよ」
けほ、とまた小さく咽た。クソ。煙草の量減らすぞおれは。こんどこそ。
「―――ア?」
極悪面だなこいつ。お子様は泣き出すゾ。
「し・ら・ね・え・よ」
もう一度言った。



「しらねえ?マジで?」
「うん」
てめえに嘘いっておれに何の得があるよ。
「"オールブルー"のことは、」
ヤツの声のトーンが、また低くなった。普段からこういう風にフツウに話しゃあいいんだコイツも。
そうしたらおれの美声も枯れずにすむってのに、クソ。首を横に振った。



「長え話になるぞ?」
ヤツの前置き。うん、と頷いた。監禁オトコはイスを指さしかけ、僅かに首を傾けた。
見ていたら。息を一つつくと、おれが愕然!とすることに、ヤツはちゃら、とカギを取り出すと。
き、という天使の音色と共に。銀色の小さな扉が開けられた。



要約をすると。いやあ、実に長え話だった。そんなことはどうでもよくて。
JMの先代の先代の先代のそのまた先代の、とにかく大昔から。
こいつらは、「秘宝」とか言われてるモノ(聖杯だったりでかい宝石だったりイコンだったり時代時代で
変わるらしいが)を手に入れて初めて一人前ならしい。「国家試験みたいなモンだな」と言ったら
思い切りバカにした面しやがったが。まあとにかく。こいつのジェネレーションではそれがどうやら
ウチに伝わる「宝石」らしい。



JM曰く。「カギを探し出し試練を乗り越え"オールブルー"を手に入れてみよ。さすればお前に
尽きぬ幸が訪れるであろう」
いや、幸なんかは別にいらねえんだけどな、とうざったそうなカオでヤツは付け足したが。
いつまでたっても半人前扱いが気にくわねえんだ、と。どうやらそれが真相らしい。



「いや、別にウチにあるんならやってもいいけどさ、見たことねえぞ?」
「そりゃあ無いだろう。てめえの家じゃねえよ隠し場所は」
「なんだよ。そこまでわかってんの?」
「……だから。ヒトの話聞かねえヤツだなてめえも。カギだけがわからねえんだって一体おれが
何回言ったよ?」
「じゃあさ。もっかいジジイに聞きに行けば?」
「――――は?」



「おれはそんなモン知らねえし。あのジジイならおれの親の頃からウチにいるから、
ぜってえ知ってるぜ?」
うーとかぐーとか、なんだかちょっとばかり人間離れした唸り声が。じゃあてめえ攫ってきた
意味ねえじゃん、とかなんとか。あはははは、今更な事実に気が付きやがって―――って
おれもわらってる場合じゃねえ。



ヤツはまだ、てめえのとこの執事は苦手だとかなんとか言ってる。
「それァてめえがまず挨拶をきちんとしねえからだな」
「あ?」
「ジジイに会ったら。まず礼儀正しく"おはようございます"、だ」
「はぁ?」
「それから商談開始。んじゃ、検討を祈る」
ぽんぽん、と肩を叩いてやったら。
ミドリ眼が、ぽかんと。まん丸に近づくくらい見開かれた。
「――――あのな、」
「ん?」
いや、いい。おれはアタマが痛え、とか何とかヤツは言い。そのまま、扉からよろりと
いなくなったが。扉のカギは掛けてたみたいだが。檻に戻れとは言われなかった。



あー、そういや。
おれ、なんで連れてけって言わなかったんだ?いまなら帰れんじゃん。と。
今更になってこの重大な事実に気がついた。



あーあ。後の祭り。
ま、いいか?そのうち帰れんだろ。






--- Something In The Air ---
Sunday

本日の重大発表。
出生の秘密、どころか。
赤ん坊に選択肢は無い、ってことだ。



明け方近く、妙にふらつく足取りのヤツが、「わあかったぜ!」と一大宣言で安眠
妨害しやがった。まず礼儀正しく挨拶から入り、なぜか商談の場は酒宴の席に変わりあの!
ジジイと飲んだくれたらしい。――――いったい何してやがるんだあのクソジジイは。
で、あっさりと、教えてくれちゃったらしい。ただ気になるのは、とヤツが付け足したのが。
酔いつぶれかけたジジイが、JMと約束がどうとか言った、ってことらしく。



「で!ジジイの御託はどーでもいいんだよてめえそれ取って来れたのか?」
ああ、と。ミドリ眼がにやりと笑った。
「てめえだよ」
「―――ハァ?!」
「カギってのはてめえの眼、つーか虹彩だな。考えやがったないい加減、なあ?」
「おれに言うな。文句があるならジジイに言いやがれ!おれだって好きで虹彩勝手に
使われたんじゃねえぞ!」



「てめえがカギか、それにしてもなんつう"お約束"だよ?!」
うわあ吃驚、とかわざとらしく言いやがる。まだコイツにも酒残ってんのか?
「うるっせえよそんなのはおれが一番屈辱だっつーの!赤ん坊になんの選択権がある!」
またヤツが笑い出した。
おい、笑い上戸じゃねえのか実は?



「それにしても、ここまでベタだといっそ清々しいよな!ベタついでに恋に落ちたりとかな!?」
ぷっとカオを見合わせて、おれたちは一瞬息が詰まった。
「「あっ、ありえねえ〜〜〜ッ!!」」
ぎゃははははと。もういっそミゴトなほどの壊れっぷり寸前の爆笑の坩堝だ。
「ひっ、くるし、たすけてくれ―――」
倒れこみかける。
ヤツはヤツで、カオ痛え!とかまだ笑いの発作に苦しんでいる。



ヤツのわらいかけのカオが、こっちを見てた。
ちょっとばかりミドリ眼が細められて。
なんつか、上機嫌のネコみてえな。ああ、こいつ、おれが昔飼ってたのに似てるんだ、
はあ。そうか。あれはいいネコだった。襟巻きになるくらい人懐こくて、でかくて、グレイで。
思わず昔を懐かしみ、一瞬意識が旅に出た。あいつ、かぁーわいかったよなぁ、って。



遠い眼?してたのかしらねえけど。
はた、と気付けば、えらく真近にミドリ眼。
「なんだよ、」
に。と笑みを浮かべて更に一歩近づいてきたヤツから後ずさった。
広げた手が、顔の前に突きつけられて、思わずぎゅっと眼をつむった。
空気が、じっと動かない。
ゆっくりと眼を開けたら。満面の笑みとぶつかった。
「アホ。取る訳ないだろうが」
思いがけず、穏やかな風に聞こえてくるのは。このクソアホの声か?



「そんなスプラッタな趣味ねえよ。生きてるニンゲンから眼なんか取れるか」
「いいや、てめえ喰いそうだぞ」
念のため、一歩下がった。
「どうしてもヒトのことを人外にしてえのか、てめえは」
ああこのクソガキが手におえねえ!とか何とか言いやがる。
アア?誰がガキだって?
「てめ、」
思わず柵まで顔を寄せたらイキナリ。間から手が伸びてきて後ろ頭を思いきり捉まれた??
「ぎゃあああこの野郎てめえやっぱり・・・・・・」
額が鉄枠にぶち当たり。いってええええーっての!!



ヤツの。変に指のキレイな手が。まさに目の前に迫る。おれさまピーンチ??
これがおれの見る最後の景色??ぎゃああよしてくれよせめてオネエサンの豊満なってあほかオレわ!
ひた、と。指先が。見開いてるオレの眼の。睫の際を、ひどくゆっくりと、たどった。
「きれいな色してるな、」



――――ハ??
ちょっとまて、おい。てめえ
は?



正気に帰る頃には。
俺だけが檻の中。くっそおおおおおーーー。
意味もなく心臓がばたつく。
何なんだよ、どいつもこいつも。






相変わらずクソ不味い昼食はいままで見たことも無いこれはまあ愛想がない事この上無い体温の
低そうな婆さんが運んできた。うわ。これがもしかして例の「急場しのぎ」?思わずまじまじと婆さんを
観察しちまった。あんまり一所懸命見てたもんだから、つい食事はし忘れた。どうせ不味いし。



夕方は、ヤツがすげえ不機嫌なツラでやってきた。考え事でもしてるみてえな。
その地獄のようにありがたくもない仏頂面でも、あの婆さんよりはマシだなとか。ぼんやり
そんなことを考えていたら。もう、ぜんぜんまったくいつも通りのクソ生意気な口振で。
ハンストなんかいきなり始めなくても明日には利子つけて帰してやる、と。言っておれが口を開くより
早く扉を抜けて行っちまった。――――なに、怒ってんだ?






--- Are You Ready? ---
Monday

真夜中。
"オールブルー"を早速いただきに行く、とヤツが言った。
「これでやあっと、てめえのカオみねえで済むかと思うと泣けてくるね」
に。と唇端を引き上げてクソミドリが生意気抜かしやがった。
「それあこっちのセリフだウスラハゲ」



せいぜいおれの仕事振り感心しやがれ、というだけ言うと。
ブルークレイのロングコートの裾が翻り。
「ちょっとまったああああっ!!」
振り返った。あーあ、怖い顔するなってのに。



「なんで置いてくんだてめえ」
「―――は?」
「だあから!!なんでおれがこんなトコに残されんだっての!」
「いらねえから」
「ハァッ?バッカじゃねえのてめえ!」
いやぁ、おれはマジで驚くぞ!



「だからてめえは大人しくここにいりゃいいんだよ!邪魔だっ」
「フッザケンナなんでおれがてめえごとき待ってなきゃなんねえんだっての!!」
「うるっせえなとにかく!こっちはてめえが真っ赤なラジオ・フライヤーにクマ乗っけて芝生を
ころころ転がしてた頃からナァ!」
「アァ?!おれァそんな事したことねぇぞ、てめえいい加減なこと抜かすんじゃねえよ!」
「一々どうでもいい事に突っかかってくるなよてめえは!だから!こっちはてめえがガキの頃から
プロなんだよ足手まといだ、ついてくるなってことだろうが!」



「おまえさ、」
はあっとおれは溜め息。やっぱアホだし、こいつ。
「"カギ"無しで何しようってんだよ」
「ア?画像データで充分だってあのジジイが言ってたぜ?」
「てめえはあのクソジジイを知らねえ。20年前にフツウのお家にデジカメあったかよ?ンな訳あるか」
「――――ち、……不覚」
「際限のねえアホ泥棒だな、おまえ。ンン?ゾロ」
にっこりと、おれはご自慢の笑いカオを晒してやった。
ははは、気分良いー。






--- Brilliant Adventure ---

アタマのなかはイ○ディのテーマが流れるくらいの、大笑いスペクタクルだ。
「伝説の秘宝」とやらはこの奥にあると言われてみれば。入り口は普通の、ただの古びた洋館が
後ろの山にくっついて建ってる程度のイカレ具合だったんだ。それが一旦なかに入ってみれば、
方向感覚やら平衡感覚が狂いまくりのエッシャーの騙し絵のような。



それでも大スペクタクルで崩れ落ちてくる壁は笑って通り抜けたし、岩が何段も重ねられただけの
不安定このうえ無しな飛び石を渡るようになっている回廊も唯のコドモ騙し。まあ、ちょこっと足を
滑らせかけて、ムカツクヤロウをおれはちらっと焦らせたらしい。底に骨が見えたって言ったら。
すげえ不機嫌なカオになっちまった。まあ後は、うっかり色石を踏んだら崩れるようになっている
らしい廊下もあった。何もない虚空を部屋から部屋へ繋ぐ石の廊下。さすがにこれは遊び半分で
仕掛けを試すわけにはいかなかった。帰り道が失くなっちまうし。



ただ、先を進みかけた時、何かの拍子でその廊下の端の石が崩れて遥かな下に落ちていっても、
勝手に石だけが、しばらくしたらフィルムの逆回しにみたいに浮かび上がってきて元の場所に収まる
のには驚いた。



「…すげ、」
ヤツを見上げた。一瞬、眼が逢ったままになった。―――ん?てめえなに固まってる。
はあ、とようやく溜め息をついてみせても、おれを止める気はないらしい。だから適当な石を拾って、
「らしい」色石目掛けて投げてみたら、期待通りの情景。ミゴトに崩れ落ちた石橋が、自動的に再生された。
「なんだぁ?いまの。―――特撮?」
「しらねえよ」
そんな返事アリかよ。



「でもさ、どこかで見たことあるようなのばっかだな」
石橋を渡った先、どこまでも続くようなだらだらした廊下を歩いていく。ところどころに付けられたヒトの
腕を模られた蜀代に松明がかかってはいても薄暗い。
「ヒトの想像力にも限度があるんだろうよ」
「かもな」
そして。



「これか?」
やっと、それらしい扉が出てきた。
「らしいな、」
両端の見えないくらいの鉄製のそれに古代文字で浮き彫りが施されている。
「なんて書いてあるんだ?」
「笑うなよ?」
ヤツの声が、半ば笑いを含んでいる。
「"求めよ、されば与えられん"」
「―――おい。聞いたことあるぞそれ」
笑った。なんでバイブル??
「……おれはすげえ嫌な予感がするよ」
ゾロが、思い切りカオを顰めて見せた。



つらりと扉をみれば。調度、眼のあたりの高さに覗き孔。
「これ?」
「ああ。らしいな」
「……おれがのぞくんだろ?」
「その為におまえ来たんじゃねえの?」
あ。クソ生意気に片眉だけ引き上げてやがる。



「―――チッ」
わあってるよ、のぞくよ覗きマス、覗けばいいんだろうがよこの孔をさ。
オラ、退け、って―――――え?
肩を押し退けようとした手をいきなり掴まれた。
「なにしやが――――――!!」



むぐ。
が、一番的確な擬音だろう。
口を塞がれた。口で。って、なんでだ??
てめ、なに考えてやが――――――――――――――――――
――――――――――――――――ん、
んん



――――――――やべ。こいつ、キス上手い。
質感イイ、こいつの舌。引き込んで、確めてみる。――――――うぁ?
首の後ろ、手、回って。よけいにカオが近づいた。
脳が、溶け出すんじゃねえかっておもう。
耳からの音と熱に煽られて。どっちがどっちかわからなくなるくらいのキスを



なんでおれたちはしてるんだ――――?
でも、うああ、ダメだ。気持良すぎ。



「ちくしょう、何してるんだおれは」
唇の浮いたはずみに、ヤツの囁くような声が。
おれだって同感なんだよだから黙りやがれ。



こんどはおれが黙らせた。



「気の迷いだな」
ヒトのアタマ抱き込んでおきながらそう言うかフツウ?
「ああ。気の迷いだ、気にするな」
もう一度、迷いついでにどうにかなりそうなキスをしてみた。






--- Pulk/Pull Revolving Doors ---

ご立派にオドロオドロシイ音と一緒に、上限がみえないほどのばかげたスケールの扉が開いていく。
霧が内側からゆらりと、外界に向かって静かに溢れ出していき。
思わず背後にサンジを庇いそうにしたら、ひでえ勢いで危うく蹴り倒されるところだ。
あっぶねえな、オイ!背後に一番の敵在りかよ。けれど



「余計なこと、するな」と。
何故だか泣きそうに真剣なツラで言われてしまえば、反論できなかった。
思わず、その髪に手を差し入れ。撫上げるようにしていた。



霧がそうしているうちにも薄くなってくる。この奥に、秘宝があるわけか。
すい、と息を吸い込んで、黒石で光るような床に足を踏み入れたとき、イキナリ
サンジがヒトの襟首を引っ張りやがった。



「―――てめ、なにしやが」
「まえ、」
「アァ?」



霧の切れ目から、小さな姿が近づいてくるのが見えた。
大きさから相手を判断するのは愚の骨頂。その段々とはっきりしてくるモノから眼を外さなかった。
「―――あ!」
これは、コドモの声か?



「待ってたんだ、やっときてくれた」
ほてほてと気の抜けるようなのんびりムードで近づいてくるのは。
「半獣?」
後ろから、サンジの声が上がった。
二本足でとてとてと、小動物が歩いてくる。人懐こい笑顔付き。



「ようこそ!待ってたんだぁ、ミホーク殿は、すぐだ、とか言ってたけど。遅いよー来るのが二人とも!」
「――――悪い、」
って何でおれは謝ってるんだ?
「もうおれ、番してるの飽きてたんだよ。早く戻って勉強しなくちゃいけないのに」
「あ?うん、ごめんな、」
これはサンジ。
だから何でおれたちがこの、えーと、この――――



「おれ、チョッパーってんだ」
にかりと。わらう。



―――このチョッパーに謝らなきゃならねえんだよ。



「奥にあるから。持っていってくれよ。そしたらおれも家に帰れるから」
「―――いいのか?」
なんで?というカオをチョッパーはする。
「だって、あれはもともとアナタの家に伝わるものだってミホーク殿は言ってたよ?」
――――――――は?!



「おい、待てよおいチョッパー!」
「もうおれ帰るから。じゃあね」
ほてほてと。性懲りも無く気の抜ける効果音付きで小さな姿が横を抜けていく。
「あー、ええと。じゃあ、気をつけてな」
サンジがそんなことを言い。



「うん。でも、ヒマ潰しの罠は全部仕掛け外してくれたでしょ?」
「ああ、一応」
「よかった。おれ怪我したくないもん。じゃあね」
「う、うん。じゃあな」
サンジが手を振り。
とてとてとてとて…………と。廊下を歩いてくらしい足音。
数秒の空白。



「―――ゾロ、」
「あ?」
「おれ、半獣と話しちまった」
「―――ああ」
「すっげー……」



おれはそれよりチョッパーの言ってたことの方が遥かに気になるけどな、どっちかっていうと。
あのクソオヤジがこれほどまでに係わっているとは。おまけにウチに伝わっているモノだと?
"オールブルー"がか?なんだと?



「手に入れてみよ。さすれば私もおまえを家督を継ぐに足る者と認めてやろう」
そう言い残して、先代はいなくなったんだ。わけのわかんねえベタ貼り画像データ付きのメールは
やたらめったら寄越しやがるが取り合えず、おれの目の前からは消えていた。



ん?そういえば………
なんで先代がわざわざおれに。カギはコイツを攫ってくれば見つかる、とご丁寧にシャンクスの
店の地図までくっつけてメール寄越してしてきたんだ?あのキチガイオヤジのご家訓は、「己が
手で掴んでみよ」じゃなかったか、おいおれ?仮にも国家試験だろって、ああこれは違うか、
いやしかし。あのジジイが「JMとの約束」とか「あのクソガキをよろしくたのむ」とかなんで??
そういや、「お誕生日プレゼントなるぞ」とかえらい薄気味悪ィメッセージ付きだったよな―――
あのメール。クラッカーを破裂させている自分のシャシン付きで。



―――これは、帰るか……??アヤシイ。壮絶に、怪しすぎる。
アタマの中でアラートサインが鳴りまくった。警報機はレッドサインだ、一大サーチライトだ。



「おい、寝てんじゃねえぞ?」
とん、とサンジが肩を押してきた。
奥、行ってみようぜ?と不敵なわらい顔付きで。






--- OPTIMISTIC: S's View ---

何もない、窓も何も無い円形の部屋の中心が。茫と淡く光るようだった。
ライトアップされたプールサイドのみたいに、天井や壁が蒼の光で揺れていた。
一段と低くなった円形にくり貫かれた床の真ん中に、細い、ヒトの背丈の半分ほどの高さの柱があって
その頂点に、中心から蒼の光を上らせる透明な石の塊。



確かにキレイではあるが。
そんなに大した物なのか?あれが……?



クリスタルの中心に世界中の「青」の概念がそのまま閉じ込められたような炎が揺らめいていた。
ゾロの手のなか。
「それが、オールブルーか?」
そのクリスタルを手にしたまま、下を向いているヤツから。



「………違うらしいぜ」
冥府の底から響くとはまさにこの声なり、ってくらいの重低音。こ、こええぞ、おい。
どした?
おーい、ゾロ……?






--- OPTIMISTIC: Z's View ---

サンジの声を背後に聞きながら。
その、クリスタルの下に置いてあったメモを。おれは恐る恐る拾い上げた。この、崩し字は紛れもなく。
おまけにご丁寧に何でシャンクスの店のフライヤー!それも裏紙かよ?!
覚悟を決めて、焦点を合わせる。



"祝着。よくぞ幾多の試練を共に乗り越えた。唯一の秘宝「オールブルー」は手に入れたか?
我が息子にその秘宝託すとの盟友との生前の約束なるぞ、努々その秘宝疎かにするでない。"



我が眼を疑ったがった。もう一度疑った。読み間違いを願い
――――クソキ○ガイめが!!



"追記:婚姻届はネーデルランドで出すが良い。愛するわが息子へ、父より。"
死ねっ頼むから死んでくれ先代!!!!!



くぁあああ、とにかくこの状況を説明しねえと。
後ろで妙に黙り込んでるサンジがさっきからおれの危機察知能力を刺激しまくってる。



「サンジ。オールブルーってのは、」
「―――ああ?」
小首なんぞ傾げるな。普段みてえにクソ生意気なツラさらしててくれ、頼むから。
そんなのを見ると。うっかり、また。正体不明の感情に流されそうになるんだよ、だから
そんなに、眼、キラキラさせんな、おい!



「どうやら。てめえのことだったらしい」
「ハッ!ハハハハハハハ、なんだそりゃ!!」
「はははははは、だろうっ?!」
「ひ〜、おっかし・………って、はああああぁぁぁっ???」
―――遅セェよ反応が。



「だから、」
わかんねえみてえだから、その眼玉を指さす。
「てめえ」
「………おれ?」
「ああ」
「―――オーマイゴッド」
ミゴトな棒読みアリガトなサンジ。
――――て、おれいつからこいつのこと名前で呼んでた?



「どうする?おまえ大人しくおれにもらわれるか?うっかりここまでついてきちまってるし」
「ザアーケンナ、クソアホが!」
そうくると思ったぜ。
「なんでてめえなんぞに――――」



……ん?ナニ赤くなってんだ、こいつ?
へえ。耳の方までちょっと赤くなって妙に色っぽ―――て、なに考えてんだおれは!



「てめ……クソ、んなプロポーズありかよ、」



―――は?!
ちょっ、まてサンジ!!



「どうせならもっと他に言い方あるだろうがよ。いっしょにくるか?とか、離れんな、とか。
えーーっとあとはァ、」
「ちょ…待てオイ、」
「しょーがねえなぁ、てめえ実は攫ってくるくらいおれに一目惚れしちゃってたって?」
素直じゃねえなぁ、とかバカ言って笑いながら。



おれの苦手なヤツの蒼目があわせられた。さらさらと。流れる長い金糸の間から。
まっさおな。ヘブンリー・ブルーっていう、色がある。
乾いた空気を突き抜けるような、青味の強い空の色。
メキシコ。カン・クン。そういった、南の方の。



―――――――おれはこのカオに弱い。
そらあもう、いっそ天晴れなほどクソ弱い。
先代がいたならうっかりおれに褒美を寄越しちまうくらい、………弱ェんだ、
わかってる。



「……くるか?」
「うん。しゃあねえ」
ぽさん、と。胸にあたったヤツの身体。反射的に抱きしめる。
――――細ェ、けど。何でだか悪くねえって思う辺りどうしたもんかな。



「もらった、」
くぐもった笑い声が、肩の向こうから聞こえた。顎をおれの肩にくっつけたままだからだろう。
なんで離さねぇんだ?
「おう。ありがたーく受け取りやがれ」
「―――ありがたいのか?」
「ったりめえだっての!」



「なにしろてめえが?絶対手に入れるって豪語してやがったし」
「……知ってりゃそんなこと言わねぇよ」
そうは言ってもしっかり抱いたまま、っていうのは説得力ゼロだな、我ながら。
「愚か者めが。 "どろぼうでも何でも覚えますから"っておれが言うとでも思ったかこのボケ」
「うるせえよ。てめえにはなァんもキタイしてねえ、はじめっから」
「アァ?!ンだとてめえ!」



うーん、やっぱ耳元で喚かれると。
「だから、」
声のトーンを落としてみる。
「大人しく美味いモンでも作っといてくれよ」
ああ、やっと静かになったか。真近でカオを覗き込んでみる。



ふわりと。
微笑の波がかすめていく、何処までも何処までも青い天界の青を。
確かに。オールブルー、だ。
「手始めにグリッシーニとかどうだ?」
「オーケイ。でもその前にまずおまえの味見しねえとな」
「クソ美味えに決まってんだろ、アホが。逸品だぜ?」
「世界に一つか」
「そ、てめえは運が良い」
「てめえもな」





笑いあった。
なるほど、こういう宝もありか。




………うっかり年寄りに誑かされたような気もしたが。
騙されてやるか、今回くらいは。
けどな。次はねえぞ、ジジイ共。









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ミゴトなまでにバカ話??まっちん様、私は楽しかったです。ぎゃあぎゃあ喚いてばかりですが。
少しでも楽しんでいただければこれ以上のヨロコビはござんせん。このバカコンビ、奉げてしまっていいですか?
アンドロイドと正反対なお話で♪どきどき。