これ、反則じゃねえの?

サンジは非っ常に不機嫌そうな面構えで船から降りてきたゾロを一目みて愕然。
普段はそっけないくらいシンプルなスタイルの奴だけに、こういう風に「計算された」カッコ良さを追求されると。素材がもともと上物なだけに。

むっちゃくちゃ、イイ男じゃん。

動揺を隠し切れないサンジと眼があうと、ゾロはふいと視線を外し。
おまけに呼んでも返事どころかこっちを見ようともしない相手に大概サンジがキレかけたときのナミの一言が、先ほどの「つきあって?」だったのだ.。

「さ、ナミさん。どこへでもお好きな場所へ!」
おつれしますよ、とサンジが優雅な歩幅で音や人の溢れるような大通りをナミの横を歩く。

ほらもう、固まってるわ、あっちもこっちも。この!男共をここまで仕込んだのはそう、この私なのよ!ああ、だれかにこの成果を語りたい!とナミは一人で突っ走っていたので。

普段なら、絶え間なく聞こえてくるサンジの声が途切れがちになっているのに珍しく気が付かなかった。そして視線が泳いでいるのにも。

その目線の先には当然のように、2、3歩先を行くゾロ。勝手に自分の前の人波が割れるのを意にも介さない長いストライドで歩いていた。

「あ、と。ナミさん、ところでどこに・・・」

「あの、失礼ですけどちょっとよろしい?あなた達」
「はい、なんでしょう?」
目の前で名刺を差し出し微笑む美人のお姉さまにサンジは大サービスの笑みで答えた。

ぱしぱしぱしぱしぱしぱし
フラッシュの灯が眩しい。
なんだよ、うぜえ。ゾロは片眉があがり、お子様なら泣くより先にまず引き付け起こしそうな怖さだ、が。
奇声を発しカメラマンは逆に寄ってくるし(もう少しで斬るところだった)、サンジはサンジで派手な女と何か話し込んでるし、ナミも側でにやけてるわで、非常によろしくない状況だ。

「優勝賞金800万ベリー」とか「グランプリ」とかなんとか。
さらさらとナミが女と話しながら、差しだされた紙に何か書き込んでいる。やってられっか。酒でも飲みにいこう。
くるり、と向きをかえゾロはすたすたと歩きだす。
人からただ見られるってのは疲れんだな。あいつはよく平気だ、と、どこの港でも街でも人の視線を集めているサンジを思う。まだ殺気向けられたほうがラク、と。船からほんの数百メートル歩いただけでゾロは本気でげんなりしていた。

「あ。」
翆頭が動きだした。あのクソ、ああそこのお嬢さん、あんなのに見惚れてちゃいけません。そこの野郎までなんだよ間抜け面してヒトのもんみてんじゃねえよ。
「ナミさん、ごめん」
(もうだめ。)
心の声まで言っちゃってその後を追う 。

はいはいいってらっしゃい。
ナミは一人ごちる。 エントリーシートを2名分記入し終えてナミはにっこり言った。
「発表っていつなんですか。このグランプリ」
副賞:王子様な男ナンバーワン、の通知と賞金が後日ナミの手に。

ロは適当に大通りから少しそれた横道に入るがそこも大差はなく。かえって道幅が狭い分、混みあっているくらいだった。
「まーてって」
かし、と肩を捕まえられる。
「お、とと」
人混みにおされたサンジの身体が背中に重なるようになり。
「おいてくなって」
てっきり文句が来ると思っていたら、小さく言う声。

上出来、と返事の代りにぽん、と金の頭に軽く手をあてた。ファーが顔にあたってくすぐったいしいつまでも背負ってるわけにもいかないので、そのまま抱き込むようにして自分の横に引き寄せる。
あるけねぇーとか言ってぎゅうづめの中、上機嫌でサンジはけらけら笑う。通り沿いの店のドアというドアが開き、好き勝手に音楽が流れ出し。

店から溢れた人間はグラス片手に路上や持ち出されたテーブルで笑いさざめき。
通りをゆっくりと人並みは流れ。 3階や4階の窓からは時折おもいだしたように紙吹雪やスパンコールがさああっと舞い落ちる。

いまも。

すげぇな、と自分をみてまたふわんと笑ったサンジの目元に紙吹雪の名残。
心臓が、跳ねた。片方の碧だけでも惹きつけられるのに、だめだ。一対の碧。
目が、離せるわけねぇ。
すいと手を延ばし。目元を指先でたどり、紙切れをゆっくりと払いおとす。
くすぐったそうに目を少し細める顔が子供じみていて、今度はゾロが唇に笑みを浮かばせた。

う、わ・・・こいつ、こんな顔もできたんだ。
サンジは目が離せなくなる。普段は苛烈な印象ばかり強い一対の翠。片方が隠されて、やっとその造作の整った様子や微かに笑った時の秀麗で優し気な印象が表れる。物騒な態度も逆にこの男独特の色っぽさに今は転化されており。
そりゃ、レディも見惚れるわ。でもやらねぇけどな、と付け足し。
めずらしく自分の顔をのぞき込むようにしているゾロに、押された振りをしてサンジはくっついた。
また、ちらっと微笑がゾロの目元をかすめ。
サンジも笑い返す。


「・・・ヨサク」
「お、おお」
「あれ、ゾロの兄貴だよな・・・?」
「・・・確かに」
「で、あっちのは、コックの兄貴・・・?」
「・・・紙一重でな」
酒場の前には硬直した賞金稼ぎユニットの姿。雑踏でちらりと見かけた翆頭とド金髪なんていかれた組み合わせは滅多にあるものでもなく。
何とか後を追ってはきたものの、そこで目にしたのは。

「ラブラブ・・・・?」
ジョニーの問いにがくんがくんがくんっと顔を上下させるヨサク。
「・・・ラブラブ」
それ以外の何であろう。
「ジョニー!!」
「ヨサク!!」
二人の目には大げさな滝涙。手を取りあい。
「「ァア二キィィっ!!どうかお幸せにいっっーーーー!!」」
倒れ打ち伏し拝み倒す二人組。
「「あっしらは、祈っておりやすーーーっっ」」

「にーさんたち何泣いてんだよ!男泣きかい?飲みな飲みな!!乾杯だ」
外のテーブルを囲んでいた客達が、二人の手にグラスを握らせ、がんがんがん、と勝手に自分たちのを打ち付けてくる。
「あんた方も、兄貴の幸せのために祈ってくれるかっ」
「おおいいぞー」
「ありがてぇっ」
紙一重コンビと赤の他人に、自分の幸せを派手に祈られていることなどゾロにとってはきっと知らないほうがいい。

同じ頃、三軒隣のビストロに居た休暇中のパティとカルネに同様に現場を目撃、涙され。
花嫁の兄状態で男泣きの二人から「ロロノア・ゾロッ!サンジを頼むぞぉぉっっ!!」されちゃったことはもっと知らない方がいい。