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ぎゃあああっっ。


ゴーイングメリー号が埠頭に着いた日の平和な午後。
誰も聞く者のいない船上で、サンジの悲鳴が響いた。開けられたキッチンのドアの前には

ちんまり。

と、子供が座っていた。

「なんだよコレェェッ!!」


Chap.2レオ?

「うへぇ〜かーぁわーいーぃーなーァ!!んんっ!!サンジに似て美人だっ!良かったなゾロ!!」
「・・・・・・殺されてェか?」
チャ、と刀の鳴る音。
「んーーー?」
大呆けキャプテン。

サンジはさっきのナミの「あんたたちいつのまにっっっ?!」とのセリフに打ちのめされていたため参戦放棄。でも、たしかに、その叫びもしょうがない。

「いやでも生物学的にどうよ?」これはウソップ。

全員の輪の真中には、ミドリがかった淡い金髪、なんていうちょっと妖精じみた髪色の子供。
その瞳は深い湖の底のような青みがかったミドリ。

「テメエら・・・・」
地獄の底から響くような声とはまさにこれ。
「よく見ろ!!このガキャ1才くらいだろーがっっ!」
「・・・・・・・・。」
それでも一同の疑いの眼差し。サンジの目に殺気が宿り。
「・・・・・・オイ。それにいつ俺が!!でけえハラしてたよっっ!!!アアッ?!」
「いってみろっ!いつ俺がレモン喰ってた!!妊婦体操してたよッ?!」

「それともナニか?!俺ァニワトリかっ?!タマゴでも生むってのかよヒトの子のよォォっっっ!!」
怒り+混乱+うわあどーすんだよ+コイツ、ゾロの隠し子?!ですでに人格崩壊直前。
ぎゃあああっと、もう少しで崩壊!のところ、頭を抱えてたゾロが。
「うるせえっつーの」
いきなりガパ、と手でサンジの口を塞ぐ。

「ム――――ッッ―――――ッ!!」
じたばた暴れるサンジを引きずってとりあえず少し離れた陰になるような所に連れて行く。
「さすが。ダンナ」
とはナミの一言。
ぽ?としているちびに向かい、にこり。として。
「大丈夫、何も心配いらないのよ」と続けた。
「私たちが、あなたのママを探してあげるからね」

「てめえが、そんなんでどーする」とゾロ。
「親見つかるまでは面倒みてやんねえといけないんだぜ?」
ふ、とサンジの肩から怒りが抜け。
「わかったかよ?」
念を押す。うなずくから、手を離した。
サンジは
「はあっ」と大きく息をつき。

「テメエのガキじゃねえの?」
「アホか!こんな海域いままで来た事もねえよ」
こん。と金の頭に軽く拳をあて。
「なら、イイ」
ふてくされたように言うサンジにゾロは軽く唇で触れた。
「ほんと馬鹿な。」の一言つきで。
「マジ、びびった」
自分の肩に額を預けてそう言ったサンジが可笑しいやら可愛いやらで、ゾロは自分が完璧に「終わっている」のをうすうす自覚した。


Chap.2レオ?

「ねえ、ウソップ。なんか。平和よね」
「・・・・・・おお。あるイミなんの違和感もねえのが俺は怖ェよ」
うららかな日差し。

二人の視線の先には。

よろよろと近づいてこようとする子供の額をそのひとさし指で押さえ前進のジャマをし、泣きそうになる瞬間に、ぽん、と軽く足で払って宙に投げ上げ。きゃあっと歓声をあげるちびを抱きとめる・・・・・・ゾロ。
目を覆いたくなるような雑な遊びっぷりだが、ちびは大歓声をあげている。そして、甲板に降ろされるとまた前進の再チャレンジ。


「なんか、肉食獣みたいな遊び方だな」
「ええ。」
「お。ハハライオンが来たぜ」

ゴワン!と鈍い音。

「ッテメエこのクソボケ!なにしやがるっ」
後頭部を押さえ怒鳴るゾロ。
優雅なスタンスでしれっと立つサンジの手にはでかいフライパン。
「それぁこっちのセリフだっつーの!アホかてめえ?ンな乱暴な遊ばせ方あるかよコロス気か?!」
サンジの足に子供が抱きついている。
「ほらみろ泣いて・・・・・・ねえな。」
「だろーが」
きゃああーと笑顔満開。
「おおおおーーっ。フーフゲンカかぁーー?!」
キャプテンがマストから逆さまに伸びてくる。
「「クソボケッッ」」見事なリエゾン。

「ほんっとおまえかぁわいいよなぁーーー」
逆さまにぶら下がった船長をみてちびは、きあ!と喜びの声を上げ。その顔を柔らかな手でぺたぺたさわる。
「なあ、名前は?つけねーの?」
ふい、とサンジが真顔に戻り。
「・・・・・つけねえよ」
「なんで?」
「ルフィ、」ゾロが制するも。
「なんで?」追求は止まず。
「・・・・親ンとこ、返してやりてえじゃねーかよ。ホラ、コイ」
ひょいっと足元からちびを掬いあげ。つれていく。

「だって、あいつ、おまえらのだろ?」
「だから。テメエはマジで死にてェのかよ?」
ゾロの手が柄に。ししし!と笑顔で毒気を抜かれて。からかわれていただけだと悟り、ため息をつく。
「探してやらないとな、」
吐息と一緒に言葉がでてくる。
「ああ。そだな。やっぱホントの親にあわせてやりてえよな」
しばしの沈黙。

「うしっ。いくぞゾロっ!」
「はァ?」
「ナミィー!ウソップ!!」
「わかってるわよ、うるっさいわねぇ」
ナミが階段から降りてくる。
「そんな大きな街じゃないもの、すぐ手がかりくらい見つけられるわよ」
「そうだなっこの俺様の予知力を持ってすれば―――」
「ホラ、いくぞ」
「俺、ここ2−3日でちびの似顔絵相当描いてたんだぜ!」
紙を取り出し。
「あんたにしちゃ上出来じゃない」
遠ざかる声。

このヒトたちに不可能はナイ、はず。


Chap.3 みんなの弱点

ちびの母親探しは思いもかけず難航し。
すっかりサンジになついたちびはどこへいくにも後をついてこようとし。
「べビイ・フードなんて作れねぇー!!」とパニックを起こしたサンジにナミからレシピ本が贈られ。
「ナミさん、俺。あんま、うれしくないかも。」サンジは半べそ。
「ほらほらサンジくん。私も手伝ってあげるから」と何故かすっかりお姉さんなナミ。

「あれだな、ほら。育児ノイローゼ。」
ウソップの一言に、ゾロが派手に水を吹いた。

そうこうするうちに、ちびのお昼寝場所はすっかりゾロの膝に定着して。
たまに様子を見にきたサンジまでうっかりつられて眠くなるのか、ゾロの膝には丸くなってるちびがいて、その肩口にはサンジが額を押し当てるようにして眠っていて。
時折吹き抜ける風に、さらさらと金の髪が流れる。ばたばたばたっと走るルフィの気配が近づきかけると、すうっと目を開けたゾロが、動かせる方の手で、静かにしろ、の仕草。
はははーと声に出さずルフィが笑い、ちびとサンジをのぞきこむようにしながらそろそろと通り過ぎる、そしてゾロがまた目を閉じて。

それはたとえば甲板だったり、ソファだったり、ミカンの木の陰であったり。
そんな、ナミに言わせれば「至福!」な光景がいつしか船に馴染み。

いつもの夕食。

ごちそーさん、と軽く手を合わせ、ゾロが席を立とうとすると。
「そこの!ちび風呂入れろ」
「アァ?!なんで俺が―――」
ががん。と珍しく驚いているゾロ。
「あら。サンジくん。私がちびちゃんお風呂に入れてあげるわよぅ。ね?」
ナミは膝に抱いた「ちびちゃん」に頬ずりしている。この「魔女」ともいわれる女王サマがこんなに蕩けそうな顔をしているのは珍事だ。
「ダメです!一応ちびでもコレはオトコですから、ぜったい。ダメ」
「うーん。残念ねぇ、ちびちゃん」
きゃあ、と笑うちび。

「俺ぇ!面白そうだからやる!」
ばばんとキャプテンが立ち上がり
「却下。」
サンジにぐいいっと押さえられ椅子に戻される。
「ぶーーーー」
「ぶー、じゃねえボケ。赤ん坊はおもちゃじゃねえんだ」
「じゃあ俺がひとつ―――」
「テメエもダメ。」
「なんでェ」
「おもちゃじゃねえっつったろ。浮力の実験とかやんだろどうせ」
「・・・・う」

「だーかーら。ゾロ、てめえが入れる」
「―――カンベンしろよ・・・」
にこり。とナミの手からちびを譲り受け、ほれ、とゾロに突き付ける。
「テメエけっこう世話好きそうだからナ」
「ざけんな」
とかいいつつも、ちびを肩に抱き上げてドアを抜ける。

「結局、ゾロのこと信用してんのよね、サンジくん」
うんうん、と残りの二人はうなずいた。

さ。ナミさん。デザートにいたしましょう、と。振り向いたサンジには上機嫌な笑顔。

かちゃかちゃとカップの触れ合う音の響く中、ちら、とサンジが時計に目をやり。
「そろそろだな、」と呟きラウンジを出て行く。

40秒後。

「・・・・・みたい?」とナミ。
ハイハイっと二人、手を上げる。
「静かにね?」
こくこくっとうなずく二人。

行き先は、お風呂場。決まってる。

そして、目撃したのは。

がしがしとタオルで自分の頭ふいてるゾロと。
真っ白のタオルにちびをくるんで、同じ目線で身体を拭いてやっているサンジ。声までは聞こえないけれど
なんだかえらく楽しそうに話しているらしいのは伝わる。
きゃ、とちびが喜んでサンジの頬に手をあて。
サンジの方もちびの額に自分の額をあわせてけらけら笑っている。そんな様子をゾロは上から見おろしていて、何か言い。


「・・・・まさに、シアワセな家族の図よね」
「おお。」
うっとり。がこの場を支配する空気の名前。
みなさん「家族」に人並み以上に憧れがある背景なもので。そうみえないけど。
こういう「ピュア」なシアワセな親子の絵にめっぽう弱いらしい。このさい、両親が同性という点がすっこーんと抜けているあたり、さすがルフィ海賊団。


Chap.4ママ・ミア

「船違いィ?!」
どーん!!とサンジ以外の全員が固まった。
ゴーイングメリー号に若い女が張り紙をみたといって訪ねてきていた。

「トンビが鷹を生んだ」そんなコトワザをナミは思い出す。赤ん坊の劇的な可愛らしさに比べれば、平凡、とさえいえる顔立ちの、優しそうな女の人。

「ごめんなさい!わたし、わたし――――」
救いを求めるように目が泳ぎ。ナミが傍による。
「ああ、あの馬鹿どもは気にしないで。事情を話してくれない?」
「あの、」

「マダム。こちらへどうぞ?」
サンジの接客笑顔。その手はラウンジのドアを開けていた。


事情は、簡単な、勘違いだった。
この赤ん坊の父親もやはり船乗りで。1年振りにこの島へその船が寄港することになり、母親は迎える準備に忙しく。せめて赤ん坊だけでも先にみせてやろうと手伝いのお婆さんに子供を預けて、港にいかせ。婆さんが、北の埠頭と南の埠頭を、間違えたのだ。「船に父親がいるから、残してきて?」との伝言をあくまで忠実に婆さんは守り。南の埠頭の静かな船の中に置いてきてしまった。

その日の午後遅く、まだ夫と子供は帰らないのかと不思議に思い始めたころ、電報が入り、寄港は10日後になるとの知らせ。母親はパニック。さらに追い討ちをかけるように、街の噂が届く。
南の埠頭には、海賊船が停泊中。よって何人も近寄るべからず。


「もっとはやく言ってきてくれればよかったのに」
はあっとナミがため息。
「・・・ごめんなさい、」
消え入りそうな、若い女の声。

「ナミさん、一応これでも海賊船ですから。レディが怖がっても当然ですよ。あなたは勇気がおありになる」
そう言って、サンジがまとわりついていたちびを母親の腕に渡し。
「ありがとう、」
赤ん坊と同じ色の目から、ぽろぽろと涙がこぼれ始めた。

「10日、っていうと。明日ね?このこのお父さんの船が帰ってくるの」
「はい、」
「早く戻って、準備なさいよ?」
ナミも初めて若い女に笑いかけた。


Chap.5 ビー・マイ・ベイビイ

甲板で。
きゅ。とサンジの足に抱きついてちびが離れない。

ゾロはそんな様子を少し離れてみつめており。不機嫌だと凶悪になる自分のルックスを良く知っていて若い母親を怖がらせないように、とのゾロなりの配慮らしいが。少し離れて立ってるとよけいに威圧感があるってことは、この際誰も忠告する心理的余裕はなかった。

サンジは、ハ、と一つ吐息をつく。そして。
「おぅいコラ」とちびを覗き込む。
「おまえのおかーさん、来てくれたろ?いけ。」
ちびの手に。きっ、と力が込められる。
「わかるか?俺はね、ちびの面倒なんてみきれねーんだよ」
ちびの顔が初めて声の方に向けられる。そして、小さくても

「―――サン?」

初めて、空気に言葉をのせた。

「うん。わかったから。もう行け、」
そう言って微笑み。ふわふわとあたまに手をおき。ちびの手の緩んだ隙にすい、といなくなる。

「サ・・・・・」

ちびの声は、急に高くなった視界に止まった。ゾロがひょいっと自分の目の高さまでちびを抱き上げ。
「おまえも、オトコだろ、」
と言い。ちびの唇がきゅ、と結ばれる。
「よし。」
ぽす、とその頭に手を置き。目でナミを呼び、赤ん坊を手渡す。

母親はその胸に赤ん坊を抱き、ぽろぽろと涙をこぼし。
「マぁ?」
ちびがその手を目元にもっていこうとする。そんな子供をきゅうっと抱きしめ、母親は何度も礼を繰り返し。
「いいっていいって!!」
とルフィが大声+大笑い。
「俺たちもたのしかったし!もらってッちまおーかと思った!!」
ボカ。とナミの拳が炸裂し。

涙と笑いで一段落した後。
「・・・・・・いっちまったなぁー」
キャプテンがぽつんと言った。


街を出港したその夜。
後部デッキによりかかって闇に白くたつ波をみている姿があった。
ここ何日も、そういえば昇っていなかった紫煙が風に流れ。

「てめえが。ガキの面倒見るなんて意外だったな、」
とん。とゾロがサンジの肩にあごをのせて話し掛けた。
「うっせえよ」
波音。
風に乗って波間に消えた吸殻。
「でもさあ」
「ああ」
「・・・・・かーわいかったよなぁ、」
「そうだな」
サンジの背中が自分の方に預けられるのをかんじる。それを抱きとめるようにし。

「ま、何が起きるかわかんねえのがグランドラインだ」
「ああ、そ・・・・・・・・ん?」
無理やり首をかたむけて後ろをみると、無表情のつもりでも微かに耳元の紅くなってる正直者。
「バッカじゃねえの?」
ふわ、とサンジはわらい。
「ジョウダンじゃねえよ」
ゾロに向き直る。
「こっちこそ、二度とゴメンだぜ」
そういいつつもゾロの長い指は金の髪をもてあそび。
「ハ!てめ・・・・・・・ん、」
言葉の続きは封じこめられる。


同じ頃、ナミの船室では秘密会議が開かれていた。

「ねえ、このグランドラインのどこかに、胎果のなる木が生えてる島があるらしいのよ」
「退化ァ?!」
ガキャ、と骨の鳴る音。
「おうっ」とウソップがアゴを押さえる。
「バッカね!タイカよ胎果!!赤ちゃんの実のなる木よ!!」
「うひゃあーーーースッゲエーーーー」
わかっているのかいないのか、キャプテンしきりと感心。

「木の実から赤ん坊が生まれるのかっ!」
「でも伝説だろお?」とウソップ。
「いやっ、ある!!」
キパッと言い切る男前キャプテン。
「いまはね、ムリだけど。そのうちさがしてあげよっか?」

3人とも、微妙にうっとりとしたカオなのは・・・・・・何故だ。



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kamomeサマ、こんなんなりました。自分は、生態系、無視できなかったっす。センパイ、スンマセンッ!と体育会系おあやまりを入れつつ。でも、あまいですよね?ね?ね?すみませんです、こんなのでよろしければ、ご笑納くださいませ。実子編は、胎果がみつかれば、・・・・え?しっつれいしましたー。



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