PLEASE
言葉なんかおぼえるんじゃなかった
Sky
空虚な言葉をつぎつぎと吐きつづけていれば、俺はいつかカラになれるんだろうか
キョウモアナタハ / きょうもあなたは花のように美しい
オラ、サッサト / オラ、さっさとメシ喰っちまえ。俺は忙しいんだからよ
キョウモイイ / きょうも良い天気だな、風が吹いている
テメエトナカイ / てめえトナカイ。なにぼおーっとしてんだ。海なんかみて泣くんじゃねえよ
オアジハ / お味は如何ですか?
たったひとつだけ
喉がツブレルまで叫びつづけたあの「コトバ」だけが 俺のほんとうに
大事だったもの 生かしたかったもの カラになった。 空ろ。
そこだけが、
そこに。
夢よりも もしかしたらイトシカッタモノが、あったんだ 俺ンなかに。 たしかに。
いまは、からっぽだ
夢も まだ 忘れたわけじゃあないけど
まだだ。まだ、俺はカラになれない。
余計なモノが多すぎる。汲み上げても汲み上げても、まだでてくる。
俺の話すコトバは、おれの知っていた世界。
もう言葉にのせても ただ消えてくだけのモノしか 俺ほしくねェよ
おれ、ほんとうに何にもいらなかったんだよ
――――おまえの他は
空は堕ちてこない 俺にとってゼンブが終わっちまっても 風は吹き抜けて
キョウモ ウミハ キレイダ。
Sister Moon
「あれは、事故なの。誰のせいでもないの。そのことは、忘れなさい」
「でも、ナミ。俺がいなければ、ひとりだったらぜったい、」
「トニイ、そんなことをいっても。だれも喜ばない。だれも、あんたのせいだなんて思ってないわ」
それでも丸い瞳が訴える。
「だけどサンジが、」
「サンジくん・・・・?」
「壊れてる、俺でも治せない。どんどん、中が壊れていってるのに、俺」
ぽろぽろと涙が球になり転がり落ち。
「俺、アイツと約束したのに・・・・ッ。」
Air
「うぜえ。トナカイ。泣くな」
すう、とサンジの声が凍った。
「てめえが泣いて何ンか得があるか?」
そう続けられたときは、もういつもの小馬鹿にしたような口振りで。
俺はたぶん、この人間から「おまえのせいじゃないよ」とでも言って欲しかったんだろうか。
ルフィは、身体の底から唸るように叫んで。ぼろぼろと涙を流していた。
ウソップも、ナミも。
この人間だけがただ、傍らに静かに膝を付き。
「大丈夫だよ、大丈夫だから」
そう優しく言葉にだしながら。冷たくなりはじめた手を抱きこむように握り締め。
ときおり痙攣するように跳ねる肩を、そっと押さえながら、
微笑もうとしていた。
なにか告げようと唇が動いたのか、それともそれが最後の心肺機能だったのか
唇から血の塊がこぼれた。
秀でた額と、キツク、いつも前を凝視し続けていたような双眸を閉ざすために
その男の皙く長い指がたどり
内から壊れたのを
ただ側にいて何もできなかった。
誰もが泣きつかれて打ちひしがれて静まりかえった船内で
たった一人で、嗜みだった強い酒の中身を海へすべて流すのに自分だけが「付き添った」。
「あのさあ、トナカイ」
声の方を見上げる。自分の方を見ていないのはわかっている。
遠くなる、波の行方だけを追っているのが。
「あいつ、溺れ死んだのか―――?」
「・・・・・・え?」
「最後、息、出来てなかったんじゃねー?血が、気管塞いじまってたんだろ、」
ああ自分は「医者」だから、いまここにいるのを許されたんだ、そう確信した。
「いや、意識はもうなかったと思う。出血が多すぎたから」
「そっか、」
その唇に、かすかに笑みが刷かれた。
「知ってるか?あいつ、すっげー優しいヤツだったんだぜ?そんなヤツが、陸で溺れ死ぬなんて酷いこと、
ならなくてよかったよ」
ふうっと息をついて。
「それだけ、知りたかったんだ、」と。
水葬をした宵のこと。
Crescent
「サンジくんが壊れてるっていうの?」
ナミはベルベットの毛並みをその指で、てのひらで愛しむ。
「わがままでも、エゴでも。私たちはね、あの人までなくしたくないの。それで、あの人が
生きていられるんだったら、そうさせてあげてほしいの」
「―――ナミ、」
「だめよ。治らないわよ」
そういって、ナミの瞳からぽろっと一粒こぼれるもの。
「ねえ、ほんっとに間抜けよね、あのオトコは。」
Promise
「見張ってるなよ。死なねェから。ボケ」
カウンターに寄りかかり、言った。
つぶらな瞳の医者はいつもいつもいつも。
「オレハ、トチュウデシヌナンテ イジデモシネェカラヨ。」
じっとみつめてくる漆黒の瞳に。
「本当だな?」
「ああ」
はじめて、この人間がまっすぐに自分を見て物を言った。あれから、初めて。
「じゃあ、サンジ。あんたを信じて、これ、やる」
差し出された、さきには。細巻きの、シガーが一つ。
「―――なんだ?」
まだ笑みの影が、透き通る海みたいな双眸にゆらいでいて。
こんなにも変わっていないのに―――。
「ヒ素と、純度の高い神経系の劇薬と、最上級の葉」
ふ、と笑みが消えた。
「すごく気持ちよく死ねるよ。やる」
いつでも死ねるんだってわかれば、生きていける すくなくとも
常に死を夢想はしなくなる 手の中の現実だから。
「テメエ、考えやがったな」
受け取り、豪華にわらう男は、こんなにも生にあふれているというのに。
「約束したんだ。“ゾロ”と。」
「安心しろって、俺、約束したから」
サンジはゆっくりと瞬きをして、そして、ドアを指さした。
それでも
「サンキュ、チョッパー」と。
ドアを閉めかけたとき、声が追いかけてきてくれた。
これは、みんなに内緒だ。仲間だけど。
俺が、この人間に謝れないなら、このくらいでしか俺は示せないから。
約束も、守れないから。
Horizon
オーロラが波間に映しこまれたような光。オパールを溶かし込んだような。
「きれいねえ、」
いつまでも甲板から海面を見つめ続ける姿に、ナミが声をかける。
「この色だけでも、もう奇跡ね。ここは」
「ええ」
そう答えて、ナミのグラスに手の中のグラスをあわせる。もう何十回目になるかわからない乾杯。
「ナミさん、」
「なあに?」
「やっぱりあなたは最高の航海士だ」
ナミはだまってみつめかえし。
「ほんとうの、気持ですよ。これはね」
「うん、わかってる」
ああ、ほんとうのことをひとつ出せば、すこし、近づいた。
「まだ、あっちにはもどらないの?」
ナミが後部デッキをゆびさし。
シガレットケースから取り出したシガーにゆっくりと火を近づけ深く肺に紫煙を招き入れ
細く、高く、宙へと還す。
「これ、吸い終わったらもどりますから」
「うん、みんな、待ってるからね。サンジくんのこと」
「ナミさん、」
かるく頬に唇で触れてわずかな笑みをうかべる。
「ごめんね、」
強気にわらってみせて、ナミは後部デッキへと向かうのに必死になって背をむける。
あまい、シガーの香りが追ってくる。
Bird Alone
はは、言葉が 全部、なくなった
キレイ サッパリ 空。
やっと全部がカラになって テメエのことだけ考えてられる
おまえのためだけに 言葉をつかえる
―――みつけたよ 誉めろよな だから
もう、 いいだろ―――?
ゾロ。
やがて、届いてくるのは みずおと
それとも はばたき
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冒頭の、「帰途」の詩の一行でどうしても書きたくなったお話です。
いつものモノと内容的にちょっと違うし、「死にネタ」キライな方もいらっしゃるでしょうから(私も実はあまり好きではないです。
シアワセな方が断然すき、)公開場所をNovelには、あえてしませんでした。更新からの直飛びにもしてません。うっかりお読みになられて、不快感を与えてしまっては大変申し訳ないですので。こんな弱っちいヒトじゃありませんし、サンジ氏。
まったくの、単独。いずれともつながっていない別物としてお読みくださいませ。まさに、思いつくまま暴走処理です、ハイ。
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