現れた胸元はすでに仄赤く染まっていて、胸にある見慣れたそれはいつか、デザートの上に乗っていた赤い木の実の

それと同じだった。

 ゆっくりと唇を寄せれば、舌をその弾力でもって弾き返した。

 同じくして、耳には耐えた甘い声。

 極上のデザートにしては、酷く自分好みなテイスト。

 上下する胸は薄い汗が浮かんで、舐めとるために差し出した自分の舌を目にしただけで短く息を吸い込む音を耳にした。

 


 今産まれるお前のすべてを味わう。




 そう言った言葉を違えることなく、ゾロの舌はサンジの肌の上を嘗めとっていった。

 内側に沸き上がるその熱までも絡めとろうとでもしているかのように。

 丹念な口撫。

 しつような舌の動きに酸欠が起きそうなくらい息があがっている。

 


 たまんねえ。




 今まで料理されてきた食材たちも、こんな風にうっとりと咀嚼されることはあるまいと。抵抗もできぬままに自分を晒す。

 いつもなら適当にお互いに脱ぎあって、乗ったり乗られたり、即物的なセックスしかしてこなかったのにこの変わり用は

なんだというのだろうか?

自分が喰われる身であって、これほどスペシャルなディナーはないだろうとは思うが、ナイフとフォークも満足に使うことの

ない男の、こんなゆっくりとしたお食事風景に自分の方が身が持たないかも知れないと。

 あんがい俺も余裕だな。




 苦笑した口元に、ゾロのそれが戻って来た。

 「なんだよ」

 噛むように下唇に喰いつかれて、むぐぐ、と笑った。

 「随分丁寧に喰ってくれんだと思ってよ。てめえらしくもねえ」

 「......... あたまから齧られる方がよかったか?」

 「は、冗談。こんな特別コース、滅多にお目にかからねえんだぞ?」

 「まぁそうだろうな」

 なにせ年に一度だけだから。

 「え、」

 「いいから、もう黙ってろ」

 「んぁっ」

 首筋に噛み付いた。滴るのは上等のグレイビーソース。

 「痛って、え......... って、てめえなぁ!」

 「あとで消毒してやるよ」

 べろりと、流れた僅かの血液を、舌全体で味わって。その錆びた苦味でさえ上等なスパイス。

 「ン、や..........め、ゾロ! そこ、は.........あっ」

 シャツの襟に染み込む前に何度も嘗めとって、止まりかけた頃にはその躯がかわりに血潮に染まったように赤くなっていた。

 「そこばっか、舐めんな」

 首筋が感じやすいと知っての行為に満足した客は、今度は胸から脇をそろりと指先で撫で上げ、綺麗に隆起している

筋肉のラインの窪みを辿る。 

 自分の目的と違う意味で備わったコックのそれは、綺麗なラインを描いていて無駄がなく、それが料理という目的の為に

自然に備わったものなのだと知ることができた。

 立派なものだと思う。

 彼の、19年間が凝縮されたその肌を辿ってじりじりと降りていく。薄い腹にある窪みに舌を差し込んでみれば、

ひくりと波打つ肌。力が入っているせいか、腹筋が固く隆起していた。自分ほどではないにしても、それなりの

トレーニング無しでは付かないその部分の肉の熱さを指で押して確かめながら、彼のキック力の所以に至る。

 「くすぐってえ、って」

 抗議を受けて、掌全体で弄っていたウエストのあたりから手を引く。変わりに行き着いたのは、当然その先にあるところで。

 「-------- フッ」

 布の上からその膨らみを確かめた。


自分が、他人の --それもよりによって気のあわなさそうなこのコックの-- ペニスの膨らみを確かめて楽しんでしまう日が

くるなど、思いもよらなかった。

 ましてや、誰かを欲しいと思うことすら。

 やんわりと揉みしだくように蠢かせた手の中で、それは容積を急速に増し始めていた。時折ひくりと躯全体が小さく跳ねて、

そんな仕種を見てはもっと焦らしてやりたくなる。

 荒い息のせいで、湿度を増したようなキッチンのテーブルの上。

 いつもならここに乗せられるのは、このコックが生み出す料理や、ナミの航海日誌、トナカイの分厚い辞書や、それぞれの会話...........

 日常の健全な空気が乗るはずのこの場所に、今はコックがその肌を上気させて赤く染めて載っている。

 俺に、喰われるために........




 そう思うだけで、酷く興奮している自分の中心と、その割には冷静な頭にひとりほくそ笑む。

 きっとこいつもそうなのかもしれない。

 旨そうな、珍しい食材を前にして嬉々としながらも、どう料理してやろうかと頭の中は冷静にものごとを考えて。

 捌いて、剥いて、刻んで。

 どんな風に料理してやろうか。

 どんな風に、喰ってやろうかと。

 獣と一緒だ。

 包丁を使うか、その牙で切り刻むかの違いだけであって。

 「だからてめえは魔獣だっつんだ」と。きっと彼にはそういって罵られるのだろうけれど。

 「そんな生肉でも喰いつきそうなてめえと一緒になんかすんな」と。


 

 なら、自分は彼をどう料理できるだろう?

 文句もいわれずに上等な手段でもって旨い具合に料理して、それを自分で喰い尽くして............. その骨の随までも。

 ぺろりと、無意識のままに唇を舐めていた。

 そんな顔を、サンジが見とがめる。


 

 まんま、腹空かした獣だな。

 自分を見下ろして、どこから喰ってやろうかと算段している獣の目。

 そんな眼差しに瀕死の小鹿は小さく震えて身を捩るだけって相場は決まっているのだ。

 だからこそ、一思いに............楽にしてくれ。

 高ぶる熱の塊を、緩慢な動作で握り込む男の手に、自分の股間を押し付けるように腰を揺すった。

 早く触って、弄って扱いて。

 淫らに捩がらせて欲しいと。今夜だけは許すから。どんなことも許すから。

 早く、......................... 「焦らすな」

 思わず口にした言葉に、自分がびっくりした。

 そして落ちて来た凶悪な目線。

 「まぁそう焦るなよ」

 普段ならば、自分のセリフであろう言葉をいわれて、股間を剣士の膝が割る。

 そのまま乱暴な仕種でもって -- それはまるで「今からてめえを犯してやるから」と示しているような動作だ -- 

ベルトのバックルを外され、ジッパーを降ろされ、半ばまで勃ちあがっていたそれを引きずりだされた。

 そのまま続くであろうと思っていた手は何故か離され、思いもよらない感触に包まれた。

 「な、ゾロ!! や、...........あっ! や、、止めやがれ!!」

 「なんでだよ、気持ちいいだろ、この方が」

 ちゅるん、と音を立てたのはゾロの口唇から滑り出したサンジのペニスで。

 「ばっか、そういう、理由じゃ、ね、っぁ、........ あ!」

 切れ切れの言葉の中、紡いだそれは意味もないままに空中に霧散し、ゾロはといえばはなから聞く耳も持たずで。

 そういや、こいつにしてやるの初めてだな。

 そんな風に感慨深く思いに耽りながら、口の中にそれを導いた。

 べろべろと、犬が大好きな骨でもしゃぶっているかのように、いつもより濃いめのねっとりとした唾液が溢れてきている

気がした。それが陰茎に纏わり付きながら、抜き差しする唇に絡み付き、恥じらいもない音を立てている。 

 柔らかな表皮を押して顔を出した亀頭のくびれを舌先で弄れば、可愛げを見せてそれはぴくりと上に跳ねた。

ピンク色の割目には、唾液じゃない透明な液が盛り上がっている。味見とでもいうようにそれを舐めてみれば、甘味を感じて。

旨いと思うわけじゃねえが、嫌でもねえな。サンジの蜜を、そう評価した。

 浮き出ている血管がぴくぴくと脈打っているのを見つめながら、もう一度その茎全体を口の中に入れて。奥まで銜えて

唾液を絡め、じゅる、と吸い上げてやれば顔の脇にある腿が、スーツの下で激しく痙攣したのがわかった。

 どうやらかなり気持ちいいらしい。

 そりゃなによりだ。

 しばらくそうして舐め回してやってから、口の回りを自分とサンジの液体で濡らしながら顔をあげる。あげて、目が

釘付けになる。自分の指を噛みしめて、感に耐えているサンジの顔から首が、その肌がさらに赤くなって。

「あ、............ はっ、......... ぁ」

 短く漏れるその声は、自分の股間をダイレクトに刺激してくる。

 黒のスーツと白いシャツに、赤く染まった肌のコントラストは、視覚的にも大変美味で。

 「たまんねえのはこっちだぜ」

 溜め息でもってスラックスに手をかけた。

 果物の皮をむくよりも容易くそれをずり降ろすと、その膝を持ってテーブルの上に踵をのせる。

 「ちょ...........ゾ、ロ」

 弾んだ息の合間にも、潤んだ眼差しを一緒にして見上げてくるサンジの顔に、舌打ちをした。

 今日、産まれたサンジの細胞全てを食らうと決めた自分。けれど、なら初めてみるこんなに色っぽい顔は、どう

消化すればいいだろうかと。己の所業の結果であることを失念しながら立てた膝のその間に自らの肩を沈めた。 


「-------------- !!!!」

 特別な日だと思っての行為だとしたら、やり過ぎだろうと。

 快感に混濁しそうな意識の中でそんなことを思う。

 舌が。

 ゾロの舌が。

 ゾロの、あの分厚くて、ディープキスするときでもうっとりと絡めとられてそれだけで感じてしまうその舌が。

 よりによって自分の後孔に差し込まれ、あまつさえぐにぐにと蠢きほぐしている。

 痛くもない。よっぽど指でされるよりも気持ちいい。

 けれどその羞恥心は倍で。

 「ンンンン---------!!!」

 じたばたと、見悶えるしかなかった。

 そんなサンジに文句をいうにも唇はしっとりと濡れそぼったサンジのアナル全体をすっぽりと覆って、その柔らかい

部分全体をちゅぱちゅぱと吸っている。

 薄い皮膚であるその襞を唇に感じながら、差し込む舌に容赦を見せずに入る分だけのそれを差し込んで

流し込むかのように唾液を塗り込める。

 びくんびくんと、片時もじっとしていられなくなった腰を押さえ付けて続ける行為に息があがる。

 腕にかける力のせいだけじゃなく、この行為そのものに自分が興奮しているせいだった。

 ----------- 入れてぇ

 柔らかく舌を包み込みだした粘膜の動きに、股間が素直な反応を示す。

 自分をそこに入れてくれ! と。

 もう少し我慢してろ。

 まだ自分の舌で触れていない場所がなかったかと、そんなことを考えながら、いつしか耳に届き始めた「アン、アァッ」と

いう心地よい声に満足して、これが最後とばかりに顔を押し付けるようにして舌をねじ入れた。鼻先で、その上にある袋を

押し上げるようにして突っ込んだ舌を、きゅうっと締め付けるその筋肉に、自分のそれも締め上げられることを思ってさらに

疼きが増した。自分のそれを挿入したときの瞬間に思考が飛んで、頭が溶けはじめる。

 あぁそうだ。

 顔を離して、立ち上がる。

 テーブルの上には湯で上がったロブスターのようなサンジ。

 その殻を剥くように、シャツに手をかけ、スーツともども脱がしさってやる。そしてくるりと躯を反転させ。

 汗で濡れた背中を現わす。挨拶なしでは悪いかと、唇をよせて。そして.......

「うあぁああっ!!」

 ぐずり、と後ろから穿った。

 すでに中で勃起していた自分のものを引きずり出すのは雑作もなく、ましてや蕩けたサンジの後ろに入れるなんてことは

それ以上に容易いことで。固く張り詰めた自分の根幹が違え様もなくそこに呑み込まれていく瞬間、くうっと外側の筋肉に

締め上げられてそれだけで臨界点ぎりぎりまで引き上げられた。ひくひくと痙攣する背中に笑みを送って、テーブルの端を

掴もうと伸ばしている腕を、その肘の部分を掴むようにして、思いきりよく抱き起こした。

 「あぁっ!」

 「っく、」

 もの凄い締め上げに、腹筋に力が入る。

 掴んだ腕を引き上げ、背中を仰け反らせながら上体を前倒しにした格好で引き上げられ。苦しげなその体勢に喘ぐ声も

切れ切れだったが、銜え込んでいる部分はひくひくと蠢いてずいぶんとよさそうだった。

 己のそれもまた、サンジの上半身の荷重を受けて奥まで潜り込み、襞に包まれて堪らない快感の中にあった。

 「く、っそ、てめえ............何しやが、る」

 ぜえ、と息を吐きながら苦しげに告げられる声を無視し、ゆさ、と後ろを揺する。それだけで、苦情は艶然とした音となり、

淫媚な音がねちゃねちゃと上がり出す。

 起き上がらされたせいで、股間の息子はテーブルの端に時々擦れてぴくぴくと反応している。

 ここ、あの阿呆の席じゃねえかよ.......。

 ナミさんの場所じゃなくてよかったなどと思えるあたり、まだ余裕なのかもしれない。けれど、手が掴まれた上に

引っ張られているという不安定な体勢ではされるがままに揺さぶられるばかりで。息をつくのもままならない程に喘がされる。

 イきてえ..........

 力がどこにも入れられなくて、与えられる快感だけしか受け取れない。

 ぐり、と亀頭がゾロの揺れにあわせてテーブルの角に擦られる。

 広げた足の間から、ぱたり、と音を立てて雫が滴り落ちる。

 このままくず折れて、腰をふってもっと奥までがつがつと犯されてしまいたい。

 もっと打ち付けられて、疼くような快感よりもダイレクトな刺激が欲しい。

 「------- ゾ、ロぉ、........... もぉ,,,,」

 涙声になっているなどとは、自分は気付かなかった。




 涙目の、それも潤んだ眼差しで肩ごしに訴えてくるサンジのその姿に、ゾロが耐えられるわけもなく。

 「んのクソコックが」

 掴んでいた両手を離し、テーブルに被さるように抑え込んだ。

 「ひあっ!」

 そのまま股間に手を指し伸ばし、すでに暴発寸前のサンジのそれを鷲し噛むと、容赦なく腰を打ち付け出した。

 あぁっ、と歓喜の声を上げて背中が仰け反る。手の中では、待切れないそれが流れ始めて。

 「っ、...........っ、駄目だっ」

 ぎり、と呟いたのはゾロのほうで。

 肩を再び掴まれ、同じ側の足も掴み上げられ。

 「ちょ、無理、だっ!!」

 強引な力技で、サンジを反転させる。

 「て、てて、てめえは! なんつう、って、あっ!」

 「もう、黙ってろ」

 目指したのは、同じ場所にある高みで。

 汗で滑る互いの肌に力一杯抱きついて。爪を立てて。




 飛び下りたのは、二人同時だった。

 行き着いた場所も、きっと一緒のところで。

 








 「................. 喰った感想くらい言えよ」

 ぐったりと弛緩しきったサンジの、それが唯一言葉にできた一言だった。











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