正当報酬













「船を降りようと思ってる…。」
そうサンジが切り出したのは、ルフィが海賊王として名乗りを挙げる数日前のことだった。


海賊王の凱旋だ。
あれから幾星霜が経ったのか…。

グランドラインの幾多の島に、奇談冒険談を残し、最後の目的地ラフテルをも制覇し、始まりと終わりの島へと、
航海の区切りをつけるべくこの東の海へと戻って来たのだ。

ラフテルに辿り付く前から、麦わらの海賊団の船長こそ海賊王たる者だと、周知の事実として受入れられてはいたが、
この凱旋をもって名実共に海賊王の名乗りを挙げられるというものだ。

グランドラインを一周する度、帰って来た時とグランドライン入りをする時に、ローグタウンへと寄港し皆の島へとも寄港していたGM号だ。

今回は初めてその島を後にした時と同じくらい、否、それ以上の感慨が皆を包んでいた。
ルフィの夢であり、また皆の夢でもあった海賊王の座が、正にルフィのモノとなるのだから。


柔らかく降り注ぐ陽光、穏やかな天候の中、幾度となく辿った航路を進む。

急ぐでもなく海面に白い飛沫を掻き分けながら、大きな帆を幾重にも張った大型船はさしたる揺れも無い。
目的地を目の前にした一行にも、今は晴れやかな雰囲気が溢れている。
GM号は船員が増えた為と度重なる補修の為、途中ガレオン船へと乗り換えをしていた。
だが船首像は、ずっと一緒に前を見据えてきたメリーさん。
なので、今でもこの船はGM号なのだ。

船長にメリーさんじゃなきゃ嫌だと言い張られ、ならばとキッチン、そしてその上のみかん畑もと新しい船にそのまま移築されていた。
この結果に、カヤの船を僅かでも残せてウソップも満足していたし、思い出深いその一室を保てた事に、他の面々も度合は違えど
嬉しく思っていた。

今では残されたキッチンが、現在幹部とも呼べる出発時からの古参クルーの専用ダイニングと化している。
諸々の決定事はここで裁決される。</FONT></P>

それに、他クルーの食事を船長から確保する為にも、ここでサンジが専属で食事の準備をしているようなものでもある。


そんな場所での朝食時のこと…。
一通り朝食を取り終え、食後のお茶で一段落していた時にサンジがルフィに声をかけた。
「皆もいるしちょうど良い。ルフィ話があるんだ。」
食事が終われば直ぐに出て行くゾロも、今日は珍しくまだ座っている。
ルフィは茶菓子を催促してまだまだテーブルから離れる気配はない。
「何だサンジ。食い物の話か?なら大歓迎だぞ。」

見当違いも甚だしいが、それでも聞く姿勢を向けてくれるルフィに苦笑を漏らしながらも、シンクに背を預けて凭れかかった。

深呼吸をするように大きく煙草の煙を吐いた。

「船を降りようと思ってる…。」

船を降りる…?

沈黙が部屋に充満する。
しかし聞いた者にその言葉の響きは、現実味をもって届きはしていない。
だがこういう場に一番にリアクションを起すのは、さすがの船長殿で…。
「思ってるだけなのか?」
場にそぐわぬ陽気さで、問い返してくる。
「否、決定事項だけどな。」
それに合わすように、軽い口調で返すサンジを、まるで知らぬ者のように他クルーは見詰めていた。

だが、その遣り取りで場の空気が流れ出した。
「ちょっ、ちょっとサンジ君!急に何言い出すのよ。」
「そうだぞ、サンジ!何かあったのか?」
「何でだよ、サンジ。」
口々に言い寄るメンバーに、少しだけ眉尻を下げて困った顔を見せる。
「突然、こんな話して悪かったとは思ってる。でも急に思い立った訳では無いんだ。」
ずっと前から考えてた…そうオールブルーを見付けだしてからずっと…。
「ルフィが海賊王になったら。降りるつもりだった。オールブルーを見付けた時から考えてたんだ。」
穏やかに微笑ながら告げられる言葉に、一様に皆黙り込む。
その穏やかさの中に、意思の強さを見出してしまったから。
「オールブルーを見付ける為に、海賊王への道に付き合うって言っただろう?」
「ああ。」

「実際、この船でオールブルーを見付けられた事には感謝してる。だからテメェが海賊王になるまでは、一緒にって思ってた。
俺だってテメェが海賊王になるところは見たかったし…。けど、俺には次の夢があるから…。それはこの船では適わないから…。」

「いいぞ。」
やけにキッパリと言い切られた返答に、ハッとして皆が顔を上げる。
「いいぞ。サンジが次の夢に向かうって言うなら、いいぞ。」
「…ルフィ……………ってテメェ手がイイって言ってねぇッ。」
案の定、言葉とは裏腹に伸びた手がぐるぐるとサンジに巻き付き捕獲態勢に入っている。
「けど、サンジ君の次の夢って…。」

「ああ、ナミさん貴女と離れてしまうのは、断腸の思いですが、これも定め…夜毎貴女を思って涙にくれることでしょうvv」

「いえ、それはいいから、夢って何なの?それを聞いても良いでしょう。」
サンジが船を降りるという非常事態にもかかわらず、場の雰囲気はいつもと同じように戻っていく。
それは努めて、皆がそう振舞っている所為かもしれないが…。
「海上移動レストランを作りたいんです。」
「カイジョーイドーレストラン?」
棒読みで返される単語に、ええと無邪気に笑って頷く。
「海上移動レストランです。バラティエのような海上レストランを作るのも良いと思ってたけど、もっと色々な人に俺の料理を
食べて貰いたいと思ったんです。」
ナミ専用に丁寧に言葉を綴る。

「皆と航海をして色々な島を巡り、様々な地域の多種多様な料理が有ることも知ったし、その色々な地域の人に俺の
料理を食べてもらって、俺自身ももっと料理の知識を深めたいと思ったんです。」
「だから移動…。」
「そう、一所に留まるのではなく、レストラン仕様の船で各地を旅して巡ろうかと…。
まあ行った先々では暫く滞在して営業する訳ですけどね。だから、この船では無理なんです。」

嬉しそうに語るその顔は、かつてオールブルーを夢見て語った、あの希望に満ちた少年のような笑顔で…。
誰の反論も許すものでは無かった。

「でもサンジ君、降りるって…いつ…。」
「ローグタウンで降ろして下さい。」
「そんな急に…。」
二の句がつけない風に言葉を切る。
「クルーもたくさん増えて、料理の出来る奴も増えた。俺の遣り様は叩き込んでありますから大丈夫ですよ。
やっとゴム性のネズミからも食料庫を死守することにも慣れてきたようだし…。」
気丈なナミが肩を落とすのを、膝を着いて伺うように恭しく手を取って言い含める。
「この船のコックはサンジだ。」

『どーん』と効果音の入りそうなくらい、仁王立ちで言い切るルフィは、脈絡が繋がっているのかいないのか…。
「この馬鹿キャップ。せっかくのナミさんとの切ない時間を邪魔してんじゃねぇッ。」
ガッと吼えると、ルフィは何でだというように首を長く横に曲げる。
「ずっと俺のこの船のコックはサンジだ。」
繰り返しすルフィにやれやれと肩を竦めることで返事とする。
「じゃあ俺は料理人として、この船での働きっぷりを認めてくれるのか?」
「認めるも何も…。」
一番働いていたのはサンジだ…とウソップやチョッパーは口々に言ってくれる。
「サンジの飯が一番だ。」
満足そうにニシシと笑うルフィに、つられた様ににぃーっと口端を持ち上げる。
そうしてルフィの目の前に座ると、悪戯をしかける前のワクワクした幼い笑みでもって話を続ける。
「俺は良く働いたか?」
「ああ、サンジはスゲェよ。」
「そっか…。」
満足気に頷くと俄に顔を引き締め、慎重に尋ねる。
「なら、退職金代わりに欲しいモンがあるんだけど、貰っちまっても良いか?」
「退職金?」

「そうそう、まあ自分の目的の為にこの船に乗ってたんだから、給料払えとは言わねぇが、テメェのおかげで時間外重労働を
かなりしてたと思う訳で…。その俺様に労いも兼ねてくれねぇか?」
努めて軽くにこやかに話されてはいるが、笑みを模る口元とは裏腹な真摯な眼差し。
「サンジ君、船を作る資金なら…。」
守銭奴と誉れ高き航海士だが、本当に必要な部分での金払いは良い。

「いえいえ、その心配には及びませんよ。何、大したモンじゃありません。船長の許可さえ貰えれば勝手に持ってきますから…。」

「なら何なんだ?」
サンジが欲しがる物など皆思いも付かない。

ナミに次いで持ち物は多い方だが、それでも他の面々に比べればという程度で、愛用している物は多々あれど、
新しく欲しがる物などこの船に有っただろうか?
「サンジ何でも好きなモノ持ってていいぞ。なんなら海賊旗も持ってくか?」
太っ腹なところを表現しているのか、大きく腹を膨らませて見せる。

好奇の視線を一身に浴びながら、サンジそんな船長を見据えて不敵に一笑。


「ならば、大剣豪を…一人。」


二度目の沈黙が部屋を支配した。


今度は実感するのに時間がかかっているのではなく、言葉の意味を把握するのに時間がかかっているようだ。
そしてまた、その沈黙を破るのも船長殿で…。

パチンと音を立てる勢いで、風船のようになっていた腹を元に戻したのを期に、思考がやっと追い着いたようだ。
確かにこの船には現在、剣士は何人かいる。
そこそこ確かな腕前だ。
だが、『大剣豪』と呼べるのは…。
皆の視線が一点へと集中した。

が、先ほどから言葉を発することもなく泰然と座ったままの、この船で『大剣豪』と呼ばれる立場にある人物に、困惑の表情を向ける。

「ゾロはモノじゃないし、俺が良いとか悪いとか言うモンじゃねェ。」</FONT></P>
どうやらルフィにはこの言い方は不服らしい。</FONT></P>

「でも…まあこの船の副船長みたいなモンで、船の一部みたいなモンだし…テメェ達にもお互いの約束ってモンがあるだろう?」

悪びれずサンジが続けると、ルフィはむぅと唸ってからゾロに向き直った。
「ゾロはそれで良いのか?」
「ああ。」
それまで、一言たりとも言葉を発していなかったゾロが、あっさりと肯定した。
初めて発された言葉は、その場に爆弾を投下したようなものだった。

「ああ…ってゾロ。自分が何言ってんのか分かってるのか?」
「ちょっと何、アンタもしかしてサンジ君が降りる事知ってたわけ?」
「ゾロが退職金なのか?」
「いやナミ、知ってたっつうよりも…。」
「知ってたって言うよりも、グルだったの?」
「グル…ってナミ…そんな…。」
「だって、私達今の今まで知らなかったのよ。なのに何で即答なのよ。」
「えっ?えっ?ゾロも降りるのか?」
「て言うか、俺には何で、サンジとゾロが一緒にって方が訳解かん無ぇよ。」
「ゾロはサンジと一緒に行くのか?」


軽い強行状態に陥ったナミとウソップが、唾を飛ばさんばかりに激昂しているその横で、おろおろとチョッパーが尋ねている。

最後の質問はいつの間にかサンジの背後、ルフィの正面に立っていたゾロに向けられた。
「ああ、ルフィの承諾も下りたしな。いいんだろう、ルフィ?」
揺るぎ無い視線を合わせて、再度確認を求める。
力強く頷くのを認めると、チョッパーに向かって、「と、言う事だ。」と破顔一笑。
「ゾロ本当なのね。どうしてアンタまで…。」

サンジの次なる夢の話を聞いて、サンジが下した決断は仕方が無い事だと、今だ現実味を帯びていない今は頭では理解していた。

だが、そんな中にあっても、それにゾロが付随して降りてしまうことが解からない。
「あぁ?」
ゾロは何で解からないのかと、怪訝そうに顔を顰める。
「そうだぞ。何でゾロ連れてくんだ?」

話題の中心であったサンジも、退職金=大剣豪説でパニクった皆から、すっかり蚊帳の外にいたのだが、やっと場に戻されたらしい。

「何でだってさ。」
チラリと後ろに立つゾロに視線をくれてやる。
それを受けてひょいと眉を跳ね上げると、不承不承を装い言葉にする。
「世界一にもなった。ルフィも海賊王だ。こいつが降りるっつうのに、何で俺が付いてか無いんだ?」


「だーかーらーっ。如何してサンジ君が降りるからって、アンタまでが降りるのかって訊いてるんでしょッッ。」
「まあまあナミさん落ち付いて。お茶のおかわりは如何ですか?」
「サンジ君ッ!!」
ヘラリといつもの調子で宥められても火に油を注ぐだけで…。
ヒートアップしたナミの頭からは今にも湯気を吹きそうだ。
そんなナミに構う事無く、だが正しくナミの問いに答えるようにゾロが動いた。

後ろからするりと右腕を回すとサンジの肩を抱いて…。

「これでやっと一人占め出来るってもんだ。」

背を預け座るその旋毛に…口付けを一つ。

シーンと水を打ったような静けさ…。
本日三度目の沈黙である。
今だかつて、これほどの沈黙がGM号に落ちたことがあったであろうか。
しかしこの時の皆の心境は、その静けさとは相反した混乱困惑の嵐が吹き荒れていた事は、推して然るべきである。
「おい、みんな固まってるぞ。」
頭をゾロの背につけたまま顔を上げると、見下ろす瞳と悪戯大成功の笑みを交わす。
周りがまだ固まっているのを良い事に、肩を抱えていた手で顎先を掬うと、その笑みを吐く唇に触れようとゾロが屈んだ。
「も少し大人しくしておけ…。」
困った奴だと首を捻ることでポイントをずらし、それをこめかみに受けて目を細める。
「まあゾロの理由はこんな感じと言う事で…。」
これで話しは付いたと、皆のすっかり覚めてしまった飲みかけのカップを引き上げだす。
一瞬で二人を取り囲んでいた、甘やかな雰囲気が霧散した。
新たに火に掛けられたケトルから、沸き立った湯気が漏れ出す頃に、ようやく他のクルー達が再び現実世界に舞い戻って来たようだ。

予想に反して現場復帰を一番に果たしたのはウソップで…。
「理由は解かったけどよ…。」
今だ信じ難いとウソップが言う。
「冗談じゃ無いのね…。」
念を押すナミ。
「マジかよ…お前ら喧嘩ばっかしてたじゃねぇかよ…。カモフラージュだったのかよ。」</P>
なら今までの関係はいったい何なのだと、情け無い顔でウソップが頭を抱える。</P>
「まあありゃあ日課みてぇなモンだ。他意は無ぇ…。」</P>
「そうだぜ。コイツはムカツク事ばっか言うは、寝ぐされてばっかだは…。」</P>
「二人とも仲良かったよな。」</P>
うんうんと頷き合う二人に、予想外のところから同意が入る。</P>
満面の笑みのチョッパーである。</P>
「まったく…いったい何時の間に、『仲良く』なったの?」</P>
新しいカップを置くその人に呆れた視線を送れば、変わりない笑みを返される。
「ん?いつからでしょうね。」
「誤魔化さないの。それくらい聞いても良いでしょう。二人して降りてしまうのに…。」
寂し気に上目使いで見られてサンジに逆らえる筈も無く…。
それを知っていてのふりなのか…。
「あ〜〜、いつだっけかな?」
助けを相方に求めて問いを振れば、遠い目をする大剣豪殿がいて…。
「巨人のおっさんの居たあたりか?」
記憶を辿ってのたどたどしい答えにあっさりサンジは否定する。
「チョッパーが来た時くらいじゃね?」
「あぁ?んなこた無ぇだろ?テメェ足切った時、死ぬ程怒ってたじゃねぇか。」
「テメェん中じゃ、片が付いてたのかもしんねぇが、俺ぁ知らなかったよテメェが何考えてるのかなんて。
ドラムで背骨いっちまった時にテメェが怒ってごちゃごちゃ言ってきたんだろうが。」
「そ…だったか?」
「そうだ。」
どちらにしても怒り合って互いの気持ちを、伝えたというのが何ともらしいと言えばらしいのだが…。
「それってグランドラインに初めて入ってすぐじゃないの…。」
それを今まで気付かせずにいた二人に、呆れ返るやら感心するやら…。
秘密にされていた事に怒ってやろうと思っていたのに、あまりのその年月に驚きの方が上回る。
「どうして言ってくれなかったの?」
誰しもの思いをナミが代表する。
「別に無理していた訳じゃなく、今までの状態がすごく楽しかったんですよ。」
言い訳では無いですからね、と付け足して。
「ナミさんに色々して差し上げられて、ゴム船長に肉食わせたり、ウソップの馬鹿話を聞いたり、チョッパーに怪我が
多いって叱られたり、クソ剣士と喧嘩したり…嵐があったり、海賊や海軍と戦ったり、皆で遊んだり…夢を叶えられたり、
皆の夢を見届けたり…。」
「退屈しない船だった。」
最後をゾロが引き取って…。
「だから、後回しになってたってのがホントのところです。」

幸せを模るならば今のこの二人の顔なのかもしれない…。
こんな顔を見せられて、納得しない訳にはいかないだろう。
「わかったわ。ローグタウンを出る前に、サンジ君のバースデーパーティーにお別れパーティーも兼ねて派手にしましょうね。」
そうもともとローグタウンでは海賊王になったルフィの為に、盛大な宴会をする予定だった。
その後着数日でサンジのBDがあるのを知っていて、街で食事をと思っていたのだ。
宴会では働き詰になるであろうサンジを労う為にも…。
「パーティーだぁ〜♪サンジ、美味いモンいっぱい作ってくれ!」
だが、これで当分の間サンジの美味しい食事にありつけないというならば、話は別だ。
いつものルフィの言葉を拳を入れることで、止めることもせず…。
「期待してるわサンジ君。」
「任せて下さいナミさんvv」
抱擁のポーズで迫るサンジを、今日ばかりは受けとめて、その後ろで仏頂面を晒すゾロに笑って見せた。



そして別れの日…。
まる一日中続いた、パーティーの後も綺麗に片づけられて、出航の時が近付いている。
「連絡してね。」
「勿論ですよ。何も今生の別れじゃない。店が出来たら是非食べに来て下さいね。」
「貸し切り予約を入れるわ。」
ナミから餞別よと、各地の海図やら電伝虫を手渡される。
「あんま迷子になってサンジを困らせるなよな。」
「そうだぞ、サンジを泣かせるな。」
ゾロはゾロで、ウソップに痛いところを付かれ、チョッパーにテメェ奴が泣いた所を見た事があるのか?と突っ込みたくなるような
ことを言われているが…。
「離れなきゃいいだけのことだ。」
と、至って平静に切り返している。
「俺は今の今まで、お前はもっとストイックな奴だと思ってたぜ。」
もっともな意見である。
「ねぇ、毎年サンジ君の誕生日にはお店に行くことにしたから。」
ナミの言葉にサンジは舞い上がらんばかりに喜んではいるが、ナミの笑みが気になる。
「何企んでやがる。」
「ふふふ…。ゾロ、一生サンジ君と二人切りのバースデーなんて考えない事ね。これくらいの意趣返しはさせてもらうわよ。」
やはり、今まで秘密に…ということを根にもっていたらしいナミの、ささやかな意地悪である。
「テメェがくればアイツは喜ぶだろうよ…。」
ゾロにはそういうのが精一杯のようで…。

だが、出航の時は迫り…。
「ゾロ、サンジ。元気でな!」
船上から伸びた手が二人の肩を掴んだ。
「ゾロが前に言ってたように、強引に連れ去ろうか?」
「馬鹿言ってんじゃねぇよ。」
出航の号令を合図に岸を離れて行くGM号…。

「「ルフィ。テメェに何かあったなら…何時でも何処へでも俺達は駆け付けるから。」」

しかし、掴まれた手はそのままで…。
「「だからテメェは手が、言ってることと違うだろうがッ!!」」
叫ぶと同時に、笑い声と共に手がヒュンと船に戻って行った。

GM号が小さくなるまでその場に佇んでいた二人だが、その姿も水平線へと消えると、少し淋しさが滲む眼を合わせると
互いの頭を引き寄せた。
角度を変えては何度も触れ合わせ合うその唇の隙間に、笑いの吐息が混じった。
「何笑ってんだ?」
「ん?これが初めてのキスだって言ったら、アイツら信じると思うか?」
「……信じねぇだろうな。」
「じゃあ二度目なら?」
「テメェだって信じやしねぇだろ?」
「だな。」
「じゃあ、船を降りるってあの時までテメェにも言って無かったってのも、信じ無ぇかな?」
「それも信じねぇだろ。」
「…つうか信じるも何もホントの事なのに、テメェこそもっと驚けよ。ったく、眉一つ皺一つ動かさ無ぇしさ…。」
「充分驚いてたけどな。」<BR>「もう…こうちょっと何かリアクションあっても良かったんじゃねぇの?」
「俺はテメェがそういつかそう言い出すだろうと思ってたから、そん時はテメェがどうこう言おうと付いて行く気だったからな。」
「…………やっぱテメェ馬鹿だよな。」
呆れの中に嬉しさとも照れともつかない、微妙な笑みに口元を歪ませながらポツリとそれだけを、やっとの思いでサンジは口にした。

はにかむサンジの頭をくしゃりと大きな掌で金糸を掻き混ぜると、ゾロは街へとその歩を促した。

「……おい、俺の誕生日は二人だけなんだろうな。」
自分で促しておきながら、歩き始めた背にボソリと呟かれたゾロのセリフは、ナミのセリフを気にしていた事を如実に現していて、
思わずサンジは吹出してしまう。
「今からずっと二人だろうに…。」
笑いを堪えて震える肩に、数歩歩幅を広げると二人並んで進み出した。




20020302/003



おめでとうサンジ君♪おめでとう皆様♪おめでとうワタシ♪
貴方がいなければ、私はここにはいなかった。
そして、読んで下さった皆様も…(多分)
のにすっ飛ばされてしまっているBD部分…ははは…。
「ならば、大剣豪を…一人。」このセリフを言わせたかっただけなのさ。
その人にとっての一年の区切りを、新たな旅立ちの区切りとして
仲間から恋人の区切りとして…なんてね♪

どうです。この抑えたカッコよさは!
そう来たか、お誕生日!なさっぱりとした気持ち良さが。
喉越しのすっきりとした白ワインのようです。
003さん、ゴチソウサマでした!

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