SNOW WHITE


むかしむかしあるところに、閑に任せては一人でふらっとウマに乗り、あっというまに領地を増やしてしまう困った王様がおりました。眼光するどくかつその鷹揚な様子から「鷹の目」と近隣からは大層恐れられかつ敬われておりました。ところがその鷹の目の王様にはこれまた大層美しいお妃がおり、仲睦ましく広い広いお城の中で暮らしておりました。

近隣に並ぶ者がないとまで謳われたお妃様と外見は大層凛々しい王様です、御二人の間のお子様はきっと珠のように可愛らしいに違いない、と民もお城の誰もがいまかいまかとお世継ぎの誕生を待ち望んでおりました。王様の弟君である赤髪の公爵などは、お城を訪れる度に「可愛い姫だったら嫁にしようか?なぁなぁ姪とは結婚できるんだっけか、おい?」など大層賑やかにお笑いになり、付き従う近衛隊長から小言を受けてしまわれるほどのはしゃぎようでありました。

お妃様も嬉しそうにお笑いになり、「姫ならば"白雪"と名付けたいと思います」と大層可憐に首などを傾け、公爵殿下も「そりァいい!」と満面の笑みでありました。公爵は、王様がふらっと出かけてしまうと代わりにお城にやってきて実は政務の手助けをしてみたりなさっていたのです。

「行って参る」
「閑なの?」
「生憎と」
「フウン?イッテラッシャイ、」
「うむ。」
この会話をご兄弟ですから延々と10年以上も続けていらっしゃったのです。ただ、領地を増やしてきちゃうのは困るなァ、と公爵は思っていたのですが、王様が「御土産=領地」と思っているので「いけません」とはいえないのでありました。
「要らない、とはっきり仰ればいいでしょう」と近衛隊長がいつだったか言ったのですが。「でもさ、かわいそうじゃん」と公爵ににこり、とされてしまえば彼も黙るしかありません。そしていつの間にか「鷹の目の国」は大層強大になっていたのであります。

そんなノンビリと平和な王国に、さらにうれしい知らせが加わりました。お妃様がご懐妊なさったのです。
王国を挙げてのお祝いは、後世に残るほどの盛大な催しでありました。そして月日は過ぎ、御世継ぎの誕生いよいよ間近いという頃、それまでずっと閑をガマンしてお城に滞在していた王様がよりによって出かけると言い出しました。これにはさすがの公爵様も呆れて「なに言ってやがら」と却下し、王様が打たれた犬のような大層悲しそうな顔をしましたが、そこはぐっとガマンで「いけません」と言いました。
ところが、お妃様が華のような微笑を浮かべて「それではいってらっしゃいませ、」と言ったので公爵様は驚かれました。「世継ぎ誕生の際は即刻戻る」と王様は言い残し、颯爽とウマに乗りお城を駆け去っていかれました。
「いいの?」とお妃様に公爵様はおっしゃったのですが、「いいのです、」と微笑まれては「まぁ、……夫婦のことだし?」と珍しく譲歩しました。けれど、後々公爵様はこの妥協を大層悔やまれることになるのです。

好事魔多し、と昔から言われてございます。大層大きな不幸が王国を襲いました。
お妃様がお世継ぎの誕生と時を同じくして亡くなってしまわれたのです。肝心の王様はどこを彷徨っているのか全く捕まりません。柔らかな布に包まれた赤ん坊をお妃様に見せたのは公爵様でした。
「ほら、あなたに似てとても可愛い子ですよ」
ぐ、っと涙を抑えて仰り。
にこりと微笑まれたお妃さまは公爵様と目をあわせ、しらゆき、とだけ呟かれて亡くなってしまわれたのです。
お城は深い深い悲しみに沈みました。けれど、お城の者全員が、お世継ぎをお妃様に代わって慈しみ育てよう、と涙に暮れながらも思ったのでありました。

哀しい日から10日後、公爵様は辺境の森の外れのそのまた奥で王様を見つけました。知らせを聞きすぐに城へは戻らず、王様はじっと一人で悲しみに森の奥で耐えていたらしいのです。
「なにしてやがらこのイカレ方向音痴。」とは公爵様も王様の、そのぶん殴られた大犬のようなしょげ具合を見ては言えません。そこは弟君らしくやさしく声をかけました。
「このウスラボケが」
「―――世継ぎは」
「あァ、五体満足かわいいぜ。見に帰れクソ親父」
「会えぬ」
「なぜ?」
「妃との約束を違えた。会えぬ」
ああこのゴウジョウッパリめ、と公爵様は溜め息です。けれど王様の頑固さを知っているので追求はしません。
そのうちふらっと見に帰るまで譲歩してあげるおつもりです。

「名前はどうする、それ、くらいつけろよてめぇが親だ」
言外に、メンドウはおれが見てやる、と公爵様は仰います。
「妃が先に申していた。アレで良い」
「おれもそれは義姉さんから聞いてる、けどな―――」
「アレで良い。」
言うが早いが王様は疾風怒涛のイキオイでウマを駆って駆け去ってしまいました。あのままでは神の国だって
領地にしかねない勢いです。
「―――あーあ、」
公爵様はウマの進んだ方向、めきめきと倒されていく木々の音を聞きながら首を振りました。
「でも、―――王子なんだけど」
「アナタもそれを先に仰い」
いつの間にか公爵様の後ろに影のように控えていた近衛隊長が呆れ果てて物も言えねェよ、という口調で言い
ました。
「でも義姉さんも"しらゆき"って言ってたしさァ」
少しばかり寂しそうに公爵様の微笑むのを見てしまっては、近衛隊長も「別のになさい」とは言えなくなってしまいました。


「ってわけなんだよ、てめえの名前の由来ってやつァ!おらシラユキ!!わかりやがったか!!」
「わかりたくもねぇよ!」
「うっわこのナマイキ抜かしやがってこンガキャ!」
「おれオトコだろ?なのになんでヒメなんだよっ」
「語感の問題なんだよ語感の!」
「みとめないぞ!!」
「うるせっての!!」
があっと5歳児のアタマを掴み大人げなくブンブン振り回しているのは公爵様で。ぎゃあぎゃあとやめろこのイカレき○がい!と元気が良いのは王国の後継ぎにして王子、なのになぜか「シラユキ・ヒメ」。両親の愛は知らずとも城のニンゲン全員と叔父から余るほどの愛情を受けてすくすくと育っておりました。
「御二人ともいい加減になさい。それでは下町の親子にも劣る」
「うはは!17の時の子か!」
ぎゃはは、と笑うのは公爵様です。く、と眉を顰めるのは近衛隊長でありましたが聞く耳持たずな2人はわいわいと大層賑やかでございます。
赤と翠で見た目にも派手な上にこのべらんめえさです。公爵様と「ヒメ」は領民からの愛もたんまりと受けておりました。このいたって我が道俺様な公爵は「お世継ぎ」に君主論など説くハズもなく、いたって気ままに育てておりましたので、「ヒメ」が『世界一の剣豪』になる夢を持っているとしると却って焚き付ける始末でございました。「そうかそうか、まあ精々がんばれ」とにこにこと。といって自分が王国を奪取する気などゼロでありました。

それから10年ほどは何事も無く平穏に過ぎていき、「ヒメ」もいつの間にやら大層オットコマエにセイチョウしたのであります。城内では「大層美丈夫になられて」と女官がほう、と溜め息をついていたのが城外にそれが伝わる頃には「王国に、あれほど凛々しく美しいヒメはいない」とのなにやら奇妙な噂となり、王国を出て遠い国々に伝わるころには「あれほどの美しい姫はない」とまったくもって原型を留めずが広まるほどには。「ウン、おれに似てオトコマエだよねェ」とまた公爵様がそれを面白がって訂正しなかったものでますます尾ひれがついて噂ばかりが広まっていっておりました。知らぬはシラユキばかりなり。

そしてある日、平穏な王国に変化が齎されました。一つは、西の果て、そんなところまで領地だったけ?と誰もが首を傾げてしまうような辺境からなにやら動乱の知らせが届いたのです。仕様がねェなあ、と苦笑しつつ、公爵様は仰いました。
「いいかシラユキ。戦ってのは貴族の仕事なンだよ、そのためにおれらがいるンだぜ」
そう言い残すと騎士団を引き連れ西の果てへ向かってしまい。届くのは便りだけとなり1年が過ぎていきました。大層華やかだった片割れがいなくなってしまえばお城はがらんとしてみえます。シラユキは「そうか、じゃあおれも強くならないとな」とますます剣の修行に勤しみました。

そして次の知らせには、流石のシラユキもビックリしました。肖像画と叔父の話でしかしらない王様からイキナリ書状が届いたのです。無駄に達筆な文字で描かれた大層簡潔な文章は見事なまでに驚きでした。
『息災か。新しい義母を城にやる。公爵の言う事をよく聞き、皆で仲良くするように。』
ビックリしつつ、そこは剣の修行で鍛えた平常心(鈍い、とも言うのかもしれません)、ふうん?とすぐに驚きを収めてまた稽古場へと向かいました。ちょうどお城の正門の方からファンファーレが聞こえましたが、要はどうでも
よかったのです。だだっぴろいお城に人が一人増えたといってなんのことはない、その程度に考えておりました。
なにしろヒメの野望は世界一、だったのですから。

ところがその新しい義母は魔女だったのです。

とはいえ。
その燃えるような朱色の髪をした魔女はひょんなことから既に王様というよりは「彷徨う破壊王」だった王様と意気投合したのです。森の外れで毒消しに使う薬を使い魔のトナカイと一緒に大釜で煮ていたところへ王様が現れ。
「済まぬが、茶を一杯所望する」と仰ったのです。呆れてわらった魔女、ナミと言いました、がお茶を王様に金貨
5枚で売りつけたのは言うまでもありません。

さて、その頃も律儀に鷹の眼の王様は行く先々で勝手に増えていく領地を世継ぎと公爵様に与え続けていたのです。そして茶飲み話に王国に残された「姫」と幸薄かったお妃様の話を聞いた『魔女』ではあっても女の心意気なナミは。ぐい、っと涙を拳で拭い。
「王様!そんな可愛らしいばかりの"お姫さま"じゃあ一人でこの動乱の時代は生きぬけないわ!聞けばその
公爵も姫を迎える気はないようだし。任せて!私がうんと上出来な王子と取り持ってさしあげるわ!」
「ふむ、まことか」
王様は、そうは言っても内心どうでもよかったのですが。どのようなものであれ、心意気、がこの王様は好きでしたのでここはひとつ魔女に任せてみることにしました。
「それで成功報酬なんだけど…」
言葉の途中で王様は仰いました。
「その暁には、ならばおまえに妃の位をやろう」
「――――え?」
これには魔女もビックリデス。
「あの、……王様?」
これはナミの使い魔のトナカイです。彼も驚いておりました。
「こ、このひと、魔女ですよ?」
「うむ。良い魔女であるな。茶をありがとう、では失礼する」
「「はぁあああ??」」

主従揃ってビックリしていたのは僅か1日ばかり。その間にさすが彷徨ってはいても王様、迎えがいつの間に
やらやってきてあらららら、という間に城に「義母」として迎えられてしまったのであります。
そしてそこで新たに知らされる驚愕の事実。蝶よ華よよ謳われている(ほんとうに噂とな無責任なものなのです)姫が。実は。
「なによあンたオトコじゃない――――!!!!」

いつまで経っても稽古場から挨拶にカオを出さない「姫」に焦れてナミが出向いた先。いたのは。
御年18歳ばかり、太刀を片手にすう、と立つ大層オットコマエな「ヒメ」でありました。
「あぁ、それがどうした、おれも名前で迷惑してるンだよ」
「(ちょっとどうしてくれよう―――!)」
「そういうあンたも随分若いな?」
「あたりまえじゃない、魔女だもの!」
しいいいいん。
稽古場が静まり返り。は!とナミが思いましましたが。

あはははは!と笑い出したヒメにつられて周囲の者も和やかに笑い始めました。このヒメ、なにしろ伸び伸びと育ちましたから性質は悪くないのでありました。「あンた面白いこと言うな、」とわらっております。
あぁ、「しんでれら」みたいに舞踏会でも開いてこの子にいいお嫁さんをみつけてあげよう、と何故か妙な母性がその笑い顔をみたこの瞬間に湧き起こり、ナミは決意したのであります。

ところが、王国と近隣(とはいっても遠いのです、鷹の目の王国が膨大すぎて)への舞踏会の知らせへかかりっきりになっている間に。しっかりしているのにうっかりさんでもあったこの魔女、自分が出立前に『お姫様』用にとかけていた呪を解くのを失念しておりました。題して「毒リンゴの呪い」。
そして忘れられ、かつかけられっぱなしの呪いの効果はだんだんと妙な具合に弱まり縺れ始めていたのです―――。そして舞踏会なんざてんで興味の無いお世継ぎは日々これ修行、で城内のなにやら華やいだ気配にはとんと無関心でありました。


さて一方その頃。
海洋貿易で栄える海の王国ばらてぃえでは王様がアタマを抱えておりました。悩みとは、いつものように第2王子のことです。次男なのに何故か「サンジ」と思いつきで名付けた王子は自分に似たのは金髪だけで容貌は今は亡き妃に瓜二つ、大層見目麗しい王子へとセイチョウはしたものの。口は悪いは女癖は悪いは、の城内の問題児。おまけに海洋王国の常で珍しい食材に囲まれ育ったせいか、大層な美食家でもあり西に美酒アリ南に珍味アリと聞けば脱走の常習犯。けれどその実、大層心根のやさしい王子でもあり、城内でまことに可愛がられておいででありました。「ばかな子ほど可愛いという奴だ、」と王は益々溜め息です。

そして、その亡きお妃が姉妹のように親しくしていた「鷹の目の王国」の妃と生前に取り交わしていた約束、いずれは「姫がうまれた際はぜひとも婚姻を」というもの。それがこの不出来な王子の納まりドコロとしての最後の頼みではあったのでありますが。遠くこの王国まで届く噂に寄ればこの王子と時を同じくして生まれた「姫」は大層麗しく成長し、滅多に人前に現れないほどの淑やかさ。後見人の公爵が西の騒乱に出向いてからは気鬱になりますます城外へ出ることはなくなったと聞き及び。
そのような大国の深窓の姫君がこのバカ王子を迎えるはずもなし、と生前取り交わしの義を断ろう、却って姫にお気の毒だと鷹の目の王様に書状を書こうとしていたその矢先。その国からの舞踏会の招待状が届いたのでゴザイマス。

「王子は何処だ」
「サンジさまですか?」
「ああ」
「また厨房かと存じますが……」
「引っ張ってつれて来い!」
はっ、と走り出す家臣に王様は長い髭を振って溜め息です。
「いっそ姫ならまだ納め先もあるものだが」
サンジ王子のご趣味は美食なだけでなく、それを造ることも含まれておりました。


一方こちらはその王子。レードルを持つ手も様になりなにやらスープの味見中。そこへ、ふらあ、とやってきたのは顔見知りの城内出入りの果物屋です。赤い丸いハナもなにやら愛嬌のある派手な男でございます。
「よう王子!きょうも派手にせいがでやがるな!」
「おーう、なにしろ!三頭湯っての習ったばかりなんだぜー」
にっこにっこと王子はご機嫌でありました。御空より青いに違いない眼はきらきらとしています。
「ついでだ、味見していくか?」
「や、きょうはそれより!」
「おう!」
なにやらとても元気が良く、とてもじゃないですが王宮の厨房とは思えません。
「"世にも稀なるリンゴ"っての知ってるか王子」
「んん??」
「海流の関係で100年に一度しか吹かない風に乗ってだけ行ける島があってな、そこの島の特産品がそのリンゴなんだ」
「ふんふん」
王子、眼がきらっきらです。
「昨日それが市場に入ったんだが―――」
「で!!」
買ってきやがったんだろうなおらこのクソオヤジ!!とますます王子はゴキゲンです。
「や、それはな」
「―――はァん?」
「このおれ様と一足違いでウソみたいにすばしっこいばあさんがまるまる全部、買っていきやがったんだよこなくソが」
「どっち行ったそのばあさん?」
王子、俄然そのリンゴが欲しくなってしまわれました。

「王子はまだか、」
王様はトナリに控える宰相に仰いました。
ええ、それが、と宰相が口篭ります。
「どうした?」
「実は……」
世にも稀なるリンゴ、とやらを探しに行くとつい先ごろお城を出てしまわれました、と告げれば。
「婿入り先とリンゴとどっちが大切なんだあのクソガキが―――ッ」
王様が、王座にがっくりと打ちふしてしまわれました。そして。王、多分リンゴです、とは家臣の誰もがあまりにも王様が気の毒で言えずにおりました。
そうとは知らず、王子は。
「さぁて、リンゴだね」
と意気揚々と、リンゴを持ったばあさんが向かったという「鷹の目の王国」への船にウマを連れて乗り込んでいたのであります。


一方そのころ鷹の目の王国では。
ナミが、ヒメの幼馴染という森番の息子を内密に呼び出しておりました。
「いいこと?そこの森番の息子、」
「なあー、おれ!"森番の息子"じゃなくってルフィって言うんだけどー」
それにおれは国一番の狩人でそのうち世界一の狩人になるんだ!とにししとわらっております。
「いいから、ルフィ!」
「おう!!」
きらきらっとルフィの真っ黒目が煌めきます。
「あんた、ヒメの友だちよね」
「おー、ゾロだな!!」
「―――ゾロ?」
「まぁ、ヒメじゃあんまりだ、っていうんでシャンクスがさー」
「―――公爵のことね・・・?」
「そのかうしゃくが別の名前もつけてやってたんだ!」
「あら…そう、」
「で?なんのようだ??」
「あぁ、だから。舞踏会の日までヒメを森に足止めさせておいてほしいの」
「なんで?」
「(だって舞踏会があるなんてバレタラあの面倒くさがりが稽古場から出てくるはずないもの)あら、サプライズ・
パーティだからよ」
「さぷらい・・・?」
「ビックリさせるの」
ああ、なるほどお、とルフィがぱしいんと手を打ちました。
「わかった、森に置いてくればいいんだな!!」
言うが早いが狩人はもういません。
「え??」
ナミは一瞬耳を疑います。
「置いてくる……?」
けれどまさかね、と思いなおし、また舞踏会の準備に戻っていきました。義母は忙しいのです。

そして次の日の夕方、また狩人を自室に呼びました。
「どう?ヒメを無事に森に連れて行った?」
「んー。奥の方に置いてきたけどな?ハハ??」
ナミは、狩人にいくら「お妃さま」と呼べと言ってもラチがあかないので諦めております。
「ゾロ、帰り道きっとわかんねえぞ?」
「―――なんですって……??」
「この国の森ってなー、迷いの森って言って。奥に行けば行くほど道が無いんだ」
「迎えに行きなさいよ、じゃあ!!!すぐ!!」
舞踏会は5日後なのです。
「やだよ」
「ええええ???あんたヒメのトモダチでしょう?!」
「だって、修行だろ?助けたら修行にならねェじゃねえかー」
「いいから行きなさいよ!」
「だめだ!男の約束だ!!」
「わかんないこと言ってんじゃないわよっ」
誰が修行だって言ったのよ!!このばか!!とのナミの叫びは。あっさり聞き流されてしまいました。
「教訓:狩人に物を頼むべからず。」これは使い魔のトナカイのメモに書き記されたのであります。


さて、そのころ「ヒメ」ことゾロは。
森の奥、得体の知れない遺跡に腰掛けてこれは一体なんの修行になるのだろう、と考えておりました。
狩人に言われてうっかり納得してはみたものの、一日がかりで道無き道を踏み越えて、着いた先はなにやら妙な遺跡群。所々崩れ落ちてはいても一応まで屋根の形状は保っているその下に座っております。

「参ったな、」
くる、と回りを見回せば、遥かか彼方、暗くなりかけた森の奥になにやら明かりらしきものが見えます。
ほかにすることもないのでゾロは進んでみることにしました。明かりはどうやらランプのようでした。そしてなんだか口笛らしきものまで聞こえてきます。
「んン?」
それも妙にどこかで聞いたことのあるような節回し。それがどんどん近づいてきました。ザンネンなことに妖怪ではなくどうやらニンゲンのようです。ゾロは刀から手をどかせました。

「おい」
木の陰からすい、っと出てみれば。
「うァ?!」
ひゃああ、びっくり〜〜っと賑やかに驚く男がいます。
「「あれ??」」
「エース?!」
「ユキちゃん?!」
(どご。)
どご、というのはエースがゾロに殴られた音でありました。殴られたのはエースという名前の狩人の兄でした。

「おまえこんなところでなにしてるの?」
にこにこにことエースが笑います。
「修行、」
ゾロの返事に。ぶは、とまた笑い出すのは兄です。
そういうあんたこそなにしてるんだ?と問われてエースがまた笑みを深くしました。このもうすこし奥に金鉱があって、他の6人の仲間と金の塊を掘り出しているのだそうです。
「ふうん」
「あ、おまえも加わる?一攫千金」
「んー、キョウミねぇ」
「ああ、そういやオマエ、ヒメでも王子様だもんなぁ」
けらけらけらとまたエースが笑います。
「関係ねェよ」
「うは!ま、そうだな」
こんなとこで迷子になってちゃぁなあ、と続けて笑います。
まあどうせ閑なんだろ?ちょっと寄っていけ、と誘われるままにゾロも久しぶりに見る友達のにこにこ笑顔に、
うん、と頷いておりました。

そのままバカ話をしながら着いた先は、なかなかリッパな大きな家でした。これならヒトが7人住んでも大丈夫そうです。次々とドアからヒトが出てきました。ハナの長いのが一人、海の向こう側にある王国からきたという長い髪の女の子に、ビビと言いました、それと同じ王国出身という男、コーザと言いました、そしてなぜか、城内でみたことのあるカオが2人。
「「ヒメェッ?!なぜここに?!」」
(どがばき。)
「ヒメじゃねェよ」
「「うう…すんませんっす、王子のアニキ…」」
「御知り合い?」
にこにことビビが倒れた二人に鼻血止めに布を手渡し。
「あぁ、城で」
ゾロが答えたのであります。
「ええ?じゃあ、お城の大層キレイなお姫様って……」
「ア?なんの話だよ、ソレ」
「あぁ〜〜、ビビ、ううん、よそ者のおまえにはそれはあとでおれがじっくりせつめい…」
鼻の長い男、ウソップといいました、がしどろもどろに説明をはじめ。兄とコーザはげらげらと笑い始めておりました。そして、4日後には金を捌きに城下まで戻るのでそれまでゾロもここに居候することとなったのです。また、
7番目の仲間、というのもたまに遊びにくるルフィと知り、もっと気楽になりました。


さてそのころもう一人の王子様は。
鷹の目の王国の波止場につくなり、市場に走りこみ、そこは持ち前のルックスと愛嬌と洒落っ気であっという間に店のおばさん方と意気投合、「世にも稀なリンゴをもったばあさん」の情報収集です。そして、どうやらそれらしき人物は森に向かったらしい、というところまで突き止めました。
「よしっ」とにこにこ上機嫌で、ウマに跨りすぱー、と一服。
「ううん、タバコまでオイシイね」
と大層にこやかに仰ると、さああっと森へとウマを走らせるのでありました。

そしてまた、魔女のナミさえ忘れていたのですが。
「魔女の呪い伝言ネットワーク」というものがあるのです。いったんかけられた「毒リンゴの呪い」は、着々と実を結びつつありました。「魔女」が「リンゴ」をもって「森の奥の家」まで「シラユキヒメ」にそれを食べさせに行くのです。当初の計画であったなら、ナミが最後にこれと見初めた王子を現場に送り込みめでたしめでたし、になるのですが。そもそも姫がゾロだったのでナミはすっかり呪いのことも、呪いを解くことも忘れていたのです。

そこで発動はしてしまったもののこれは忘れられた呪いですので、妙な具合に自己発展し、進んでおりました。
そもそも、魔女仲間の一人にネットワークから「兎に角珍しいリンゴを持って鷹の目の王国の森の奥へ行って
誰かに食べさせてくるように」、という非常に曖昧な指令が齎されました。そこでリンゴは毒リンゴではなくて「世にも稀なリンゴ」になり、妙な具合でもそこは呪いですから森の奥の家にはたどり着けないはずのゾロがちゃっかり居候し、おまけに「王子様」は自分からリンゴを追いかけているのです。早くゾロを迎えに行きなさいってば!!とナミが叫んでも、狩人は「だめだ!!」の一点張り。狩人の一本気な強情さは決して呪いではなかったのけれども。そしてその間にも舞踏会に向けて着々とお城は動いているのでありました。


一方その頃。森の奥では結構賑やかなことになっていました。
ビビの作る食事は美味しいし、コーザの剣の腕は確かで練習相手には事欠かないし、金鉱掘りも結構面白い。
いっそこのまま居着いちまうか?とちらりと思うほどには楽しかったのです。まあ、野望は世界一なのですから
そうもいかないのですが。

そして楽しく暮らしはじめて3日目、「リンゴを持ったばあさん」がやっと森の奥までやってきたのです。
その日、ゾロは留守番役で、ビビは丁度井戸で水汲みをしておりました。
魔女は、森の奥の家に一人でいるらしい男を見つけこれ幸いと近づきました。
「おじょうさ・・・もとい。兄さん、リンゴはいらないかい?大層珍しいおいしいリンゴだよ」
「ばあさん、物売りか?」
すうう、とゾロの片眉が跳ね上がります。
「ああ、そうさ、だけどこのリンゴは特別さ。森の奥にいるヒトに届けてやろうと思ってね」
きっと森番がエースにでも寄越したんだろう、とさすがお城育ちで根がのんびりしたところのあるゾロは、あっさり貰うことにしました。
「わたしの前で食べて見せておくれでないかい?大層オイシイそうだから」
流石魔女です、指名は見届けてこそ完結するのです。

がぶり。
オットコマエに一口いきました。そしてあまりの美味しさに、ばあさんが止める間もなくほとんどぜんぶを食べてしまいました。
「兄さん、いくらなんでも食べすぎだよ」
魔女が少しシンパイになって言いました。
にっこりわらって最後の1個を食べ終えたゾロがなにか言おうとしました。お礼だったのかもしれません。けれど、ばったりと倒れてしまいました。そこへちょうどビビが裏庭から戻ってきます。
「王子?!どうなさったんです??」
走り寄りながら、いかにも怪しい恰好をしたばあさんが目に入りました。

「あなたはっ?」
のんびりしてはいてもビビは気丈な娘でした。
「さあこれで"リンゴの呪い"の伝言は終わりだよ!」
言い残すと、魔女は霧のように消えていってしまいました。流石です。
「毒リンゴののろいですって……?」
ビビ……、ばあさんは「毒」とは言っておりませんのに……。
倒れたゾロを抱き起こしビビが呟きましたが、呼吸が止まっている事に気付き、きゃあ!と思わず悲鳴を上げました。背中を叩いても揺すっても息は戻りません。涙を流しながら抱きしめている所へ、ちょうどお昼時で他のみんなが帰ってきました。

毒リンゴの呪いだ、と涙ながらにビビが訴えます。
クソウ、古典的な罠にころっとひっかかりやがって、エースが唇を噛んで涙を殺し。
王子がリンゴ食って死んだらシャレにならねえぞクソゾロ、とコーザもぎりぎりと拳を握り。
城がそれほど陰謀渦巻く場所に変わっていたのかと元家来は号泣し。
ひとりウソップが。
「毒リンゴの解毒剤って王子様じゃねえか?!たしか?!」と叫んだのですが。
その肝心の王子が死んでンだろうが!とドヤサレ捲くったのです。


さて、森の奥深くがそんな混沌にあるなか。
王子様はしたり!と最後にばあさんを見かけた、といわれた奥の森の入り口までやってきておりました。幸いなことに城下で出会ったルフィと言う名の元気な狩人が途中まで一緒だから、と案内をしてくれたので思いがけず早く奥の森まで来られたのです。
そんな珍しいリンゴならおれも食いたいなあ、とヒトの良い笑みを浮かべた狩人と別れ、王子様はどんどん奥へ奥へと進んでいきました。狩人が教えてくれたところによると、必ず右奥右奥へと進めば森の奥に入り込むことができるそうなのです。
王子様はもう、「世にも稀なリンゴ」のことでアタマが一杯です。これだけ政務に励めばどれだけ王国が栄える事か、と王様が涙するのも仕方がないのかもしれません。けれどヒトには向き不向きがあることもまた真実なのでありました。
右に回り右に周りいい加減ウマも王子もぐるぐるになりかけたころ、ぱああ、と視界が開けました。どうやら広い場所に出たようです。そしてなにやら人の気配もしています。王子様は急いでウマを馳せました。

そして、図らずもざああ!と森の中から颯爽と駆け抜けてくるような具合になってしまったのです。
「んン?」
ヒトが輪になっていました。
もしかしてあの真ん中にばあさんがいるのか?!と王子様の胸が高鳴ります。
カツ、とウマのヒズメが小石にあたって小さな音を立てました。

その音に。
ざあ!とヒトの輪から男が一人振り向きました。
「あああ!!あンたはどうみても王子!!」
これはウソップでした。
「はァ?!なぁに言ってんだてめえ?!」
これは王子様。
「だって白馬に乗ってらっしゃるじゃないっ」
これはビビ。 
「ああそういうアナタこそおれのプリンセスーーー!!」
「だからそんなことはどうでもいいからウマから下りろサンジ!」
おや?コーザです。

「なァに言って…ってうあああああ!そういうオマエはウチの行方不明だった第一王子!!」
「―――なァんか説明くさくねェか?いまのセリフ」
これはエース。
「や、明らかに手抜きだろ」
これはウソップ。(おのれ覚えておけ)
「つうかコーザおまえここで何してンだ?!」
「いいからウマからさっさと降りろ!」
「やだよおれいまリンゴ探してて忙しいし…」
「てか、コーザ!!てめぇ王子だったンかよ!」
これはエース。じゃあなんでてめえがキスしねえんだよっとお怒りです。緊急事態だ試せよ!と。
「おれは!!王位継承権放棄してビビと逃亡してきたんだ!」
「あら。ドラマチック。んじゃだめだネ」
―――エース…。

「このバカ王子は状況がわかってねェんでしょうかね?」
これは元家来2人のウチの片割れ。まだ涙は止まっていない模様。
その声に、ふい、とエースが馬上の王子様を見上げました。
「あー、王子?そのリンゴをね、食ってぶっ倒れたのがいるからあんた食わなくてラッキーだったよ」
「なに?リンゴ?!残ってねぇのか?!」
王子様、ひらありとウマからお降りになりました。
「ぜんぶ喰っちまったんだよ、それがおれたちのいない間に。あああそして悲劇が―――ッ」
これはウソップ。
「もしかしたら喰いすぎで死んだンか……?」
これはエース。

「え?」
「ああ、いいからいいから、お前バカだから考えるな、」
これはコーザでした。
「昔からの言い伝えだ、ヒメの危機には王子様が登場、ってな、いいタイミングだな弟!」
「ヒメがリンゴぜんぶ食っちまったって……?!」
があん、と王子様はピントがずれた所で驚愕です。
「ウン、いいから。兎に角ダメ元でキスしてみろ、もしかしたらまだ味するかもしれねぇぞ」
さすが、実の兄です、弟君の性質を充分把握しておられました。ぐい、と王子様を押しやります、ゾロを寝かせた所の方へ。

「―――う??(お、男か?!や、リンゴリンゴリンゴ……)」
王子、びくうっとするも意を決したか横たえられた者の方へ近づかれ、まじ、と見下ろします。
「ううう〜〜……、う?(アレ?もしかしなくても結構イイ男系か?じゃなくってうわあ、イイ男はおれひとりでジュウブンダッテのそれよかリンゴだリンゴ!!)」
すい、と唇を近づけ、呼吸がないのにまだほわりと仄かに温かい体温にどきりとなさいました。
けれど、すう、と目を伏せ口付けます。
王子がリンゴリンゴ、と思っていたかは定かではありません。


「―――性別を超えた愛でしょうか」
ビビが瞳を潤ませ。
「や、王子の食い意地が張って……」
これはどうやら王子の兄らしいコーザです。
「性別ってかおいビビそんな速攻、時空まで超えてるじゃねえかよ」
ががん、としているのはウソップで。
「んんんー、感動的なシーンだネ」
暢気な声、これはエースでありました。
たしかに、構図としては中々美しい模様です。草の褥の中央に織物が敷かれその上には、黙っていれば十二分にオットコマエなゾロが黙っているどころが身動きもせずに横たわり、その横に、やんわりと膝を着き、まったくもってこちらも黙っていれば大層見目麗しい王子様が真剣な眼差しで見下ろしているのです。さら、と金が溶け細い細い糸になったかのような御髪が俯いた拍子に白い頬に流れ。たとえ、そのアタマの中が「世にも稀なリンゴ」のことで一杯でらっしゃったとしても麗しいことでありました。そして、す、と唇をあわせたのです。


そして、ぴくり、とゾロの指先が動いたのを捉え、元家来2人組みが声も無く叫びました。
「「〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!」」
「「「「おおおおおおおおおお」」」」
これは残りの4人です。
「すげえな"王子様のキス"って」
「いやぁ、マジで呪いには"王子のキス"なんだな」
「けどな?相手が同じ王子でも効果があったんだな」
「「うははははははあ!!」」
これはエースとコーザでありました。

「愛情の齎す奇跡ですね……」
ほう、と溜め息。
「や、バカ王子が詰まってたリンゴ食ったんじゃないかと……」
「奇跡だわ」
これはビビとウソップです
よかったっす、王子のアニキ〜〜〜!!と男泣きに咽いでいるのは元家来2人組み。

まわりのざわめきに、「王子様」がふと気付き。いつの間にか音さえ聞こえなくなるほど夢中になって『リンゴ』を食べているはずが、あれおれってばどうしたんだっけ……??と目を閉じたままうっかり霞みのかかった頭で考えかけ。く、と柔らかく舌先を引き戻されてしまいました。
「ンん…、」
ハナに抜けるようなあまい音を知らずに漏らせば、ぐうと一層抱きしめられてしまいます。さあと身体が熱くなっていき、王子様は喘がれました。そして耳が低くわらうような声を拾ったのです。
え―――??
すう、と意識が戻りかけます。王子様は目を開かれました。するとそこにはさっきまで息をしていなかったはずの男が大層きれいなエメラルド色の瞳でじいっと自分を見上げております。
「責任とれ、」
低く大層艶っぽい声です。
「…ほえ?」
王子様はお惚けな方でした。
「起こされちまった、起こしたオマエが責任取れ。それに据え膳だろ、喰うぞ」
「はぁ??」
抱き込まれて王子様、ぼお、としておられますし益々訳がわかりません。
ぐい、と王子様の柔らかい金髪を、ヒメ、もといゾロの手がそうっと、がしかし、しっかりと手に収めて引き寄せてしまいました。

「ええと……奴って美味そうならなんでも食うのか?」
ふ、とコーザが思い当たってエースに問いかけます。
「ううん……寝起きだしなァ。元々あんまり気にしてねぇぞ?ほら一応アレでも王子、だし」
エースも、くい、と首を傾けております。
「ああ、据え膳か」
「うん、なぁ?」
「弟ながら…まぁじで据え膳だな見事なまでに」
ひゃははは。とエースがそれを聞いて笑いました。
いっそヨメにでも出すか、ゾロもいいやつだし。などと思い、結構第一王子も大らかな性質のようでありました。

だがしかし、誰1人として。うっかり「据え膳」状態になってしまった「王子様」が。正気に返って最初の方こそ「ぎゃああああああ!!!!助けろーーー!!!」と叫んでいたのを助けようとは思いもよらず。実の兄さえにこやかにビビを連れて「こいつは奇跡だね」と家に向かったのであります。
そしてその声も次第に聞こえなくなり少しばかりお子様の耳をふさいだ方がよいかも知れないほどには艶めいた声が聞こえてきてしまう事態になる前にはすっかりその場を退散し、大きな家の中の暖炉の前で一同は寛いでいたのであります。


さて一方鷹の目の王国のお城では。
渋々、ビジンが泣いてたらいやだしな!という、うっかり魔女が頬を染めるような理由で狩人がゾロを迎えに旅立ってから2日後、いよいよ明日が舞踏会の日取りでありました。その日はなにやら夜明け前から胸騒ぎがナミはしていたのです。そして、お昼になろうかという頃、ひゃあああああああ、と魂が抜けるほどの叫びを使い魔のトナカイが洩らしたのです。
「どうしたの?チョッパー??」
ななななななな、ナミィ、とチョッパーは号泣です。
だからどうしたの!と問いただせば、だあだあと滝のように涙を流しながらチョッパーはナミの鏡台を指差します。
「え…?」

その先には「ネットワーク」からの「毒リンゴの呪い指令達成」との文字が浮かび上がり。
まさに絹を裂くような悲鳴があがったのであります。
「わ、忘れてたわ私としたことが!!」
「な、ナミィィィ〜〜〜」
ひし、と主従が抱き合います。二人揃って……なんのフォローもしていなかったのです……。

「し、シラユキ、死んじゃったのかあああああ???」
チョッパー、うおううおうと泣いております。何度か遊んでもらってとても気持ちの良い王子だと思っておりましたので、その悲しみはひとしおです。
「だ、ダイジョウブよ、まだルフィが森にいるし、きっと―――」
2人はぎゅう、と抱き合い。そのまま長い一日が過ぎていきました。


さて、翌朝。舞踏会の当日です。
夕刻からの盛大な催しに備え城内は真に華やいでおりますが、ナミと使い魔はそれどころではありません。
ただただ待ち望むのは狩人からの無事の知らせなのです。
そこへ。
「だったいまあああああ!!ハハァ!!あんなぁ〜〜、ゾロいなかったぞおおおお!!!!」
長い回廊を超えても響く朗らかな声に、ぴしい、と固まるのはナミでありました。
でもなあ!!と続ける狩人の声は届かなかったのです。
「ち、チョッパー…」
「な、ナミィ…」
ぶあああ、と2人の目にまた更に涙が盛りあがったそのとき。

またさらに城の正門から盛大なファンファーレが鳴り響いたのでした。
「「え??」」
大層驚いたので2人の涙がぴたり、と止まりました。

そして歓喜に溢れた声が響き渡りました。
『公爵様、お戻り〜〜!』
こく、とナミの喉が上下しました。
『国王様、お戻り〜〜〜〜!!!』
「ええええ??」
『ヒメさ……』
しん、と静まり返り。ばたばたとヒトの入れ替わる音。そして。
『王子様、お戻り〜〜!!』
きゃあっと喚声が2人から上がります。
「「生きてたッ!!」」
『バラティエ国、国王および王子、王女様、ご一同御なり〜〜〜!』

声にいてもたってもいられずナミと使い魔は大広間へと走り出て、ひどいイキオイで狩人とぶつかりました。
回廊の真ん中で。そこへ、うわははははは!!と豪快笑いつきで登場したのは公爵様です。
「うお!!かーしゃくう!!」
「はァん?ルフィなんだそりゃおまえ…ってまあいいや、よーぉ、タダイマ」
公爵様は大層上機嫌です。
「あぁ、お嬢さん。カオが疑問符だらけになってるねぇ?」
にいい、とそして魔女を見つめてお笑いになりました。すう、と手を差し出し床に座ったままのナミをやさしく引き
起こされました大広間からは音楽と笑い声が切れ切れに流れて参ります。
あっちへ行く前に頭をすっきりさせてあげよう、と公爵様は仰り、ナミもそれに賛成したのです。

「西の果ての騒乱ってのは半年とちょっとですぐに収まったんだけどね。」
にこり、と公爵が頬笑まれました。
その言葉に、す、と僅かに傍らに控える近衛隊長が苦笑を零しておられました。
「あのイカレオヤジを見つけ出すのにえらく時間がかかったんだよねぇ、」
すういと指さす先には王様と、その横に従う切りそろえた黒髪の女が見えました。
「"生涯を添いたいと思うものに出会った"とかなんとか言っちゃってな、出て来ないんだわこれがまた」
要は、ナミに妃の位を与えたので自分が別の女性を連れて王国に戻るわけにはいかない、ということらしかった。
「だけどあのバカオヤジ、自分の世継ぎが息子って知らなかったんだよねェ、だからそもそもあンたとの約束は
ハナっから無効なんだよ、よかったな、お嬢さん」
にっこり、と公爵様。
なぜか狩人もにこにこである。
「なあなあなあなあ??」
公爵様の肩の横からカオを出しております。
「おーう、なんだァ?」
「じゃあ、おれがすきって言ってもいいのか!!」
あぁ、そういうこと、よかったなルフィ!!と公爵様は狩人の頭をぐるんぐるんに撫で回していらっしゃいました。
「―――え?」
「ウン、お嬢さん、こいつな?あンたのこと好きなんだってさ」
あっはっは、いやぁ目出度いねぇ、と大層ゴキゲン麗しい。
「ええええ??」
にぱあと狩人はとても嬉しそうに満面の笑みでありました。
おうそれでな、さらに目出度ェことにな、と公爵様は引き続き笑みを最大限に浮かべております。まったくもって
オットコマエでございます。

「でもって、あのシラユキ!!えらい美人の王子をヨメにしやがったぞ!!」
バラティエ国のサンジ王子っていえば、かぁわいいので有名だったからねェ、おれもかあわいい甥っ子が増えて嬉しいぜ!!
公爵様はそう高らかに宣言なさると大広間へと颯爽と戻っていかれました。
残されたナミが、「すきだぞ!!」と宣言されてしまったのは言うまでもないことでありましょう。

さて、その後大広間でいったいどんな騒ぎがおこったかは、また、べつの御話。
鷹の目の王国はその後も繁栄を続け、ヒメ、もといゾロ王子もうっかりお城の厨房が気に入ってしまった王子様も末永く幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし。

え?ヒメの野望は叶ったのか、ですか?
この御話、シラユキヒメですよ……?アタリマエじゃあありませんか。
世は常に事もなし。さて、終わりよければすべてよし、めでたしめでたし。