Someday My Prince will Come



「サンジくんはいいわね」
物思いにふけった風の、ナミの声。
「なんでです?」

振り返りはしないけれど、優しい声が返ってくる。
ラウンジには、溶けた砂糖の甘い匂いが流れており。
何となく、自分がこのキレイな「フェミニスト」に甘えたい気持ちになっているのをナミは感じていたけれど。

「ずっと、忘れてたんだけどね、私。自分でも。昔は思ってたんだなって。 いつか、」
「いつか王子様が
歌うような声が返ってくる。かわいいなぁ、と、続き。
「どうして急に思い出したんですか、」
きゅ、と乾いた音と一緒に水音が止んだ。

振り向くかと思ったのに。

「だって、きょうバレンタインじゃない?」
「そうですね」
「運命ってままならないなぁと思ったりしたわけ、」
小さく肩が揺れており、どうやら振り向かない話し相手は笑っているらしい。
「そんなカワイイこと、私いまさらできないわよ」

 くくっと声が洩れ聞こえ。

「ハイ、ナミさん」
とびきり上等の笑顔で振り向いた相手の手には

「・・・え?」
「ハッピーバレンタイン。親愛なるお姫さま」

真っ白なデザートプレートに、アメの細い糸で作られた淡い金色の鳥の巣。
その中に苺がきれいに盛られて一番上の粒には丁寧に、小さなキャンディクラウンまで乗っていた。

「かわいい、」
思わず口にだす。
「これ、お砂糖で・・・?」
「気にいっていただけました?」

「ありがとう」
ふわ、と微笑まれて。
ナミも笑みで返す。

「じじいが育った地方だと、バレンタインは男がレディに贈り物をすることになってて。一 年で一番赤いバラが売れる日だって言ってましたよ」
「そうなの?」
「ええ」
「私にはその方が似合ってるわね?」
「もちろん」

「たべるの、勿体ないね」
キャンディクラウンの乗った苺を、フォークで刺さずにナミは指先でそっと摘み目の前にもってくる。
「いつでも作ってあげますよ」
「うん。」

「ああでもどうしよう」
「?」
「だって私、」
プレートをきちんとしまったサンジにナミが思いつめたように打ち明ける。
自分の足元の、麻袋一杯のチョコレイトのこと。


サンジはおもむろにラウンジの扉を開け、すう、と軽く息を吸い。
「てめえら!きょうのおやつはナミさんご提供のチョコレイト・フォンデュだっ。心して食いやがれ!!」
コール終了。

レスポンス。
「ふぉんじゅうー?なんだそれぇーっ」

速攻で閉められた扉には大音響と共にへばりついた「くそゴム」。

ナミの明るい笑い声がラウンジを一杯にする。

「ま、一応、 ;王 には成るみたいですしね?」
さすがはナミさん、先行投資ってわけですか、扉のカギをかけ、そう言って一緒にチョコレイトのラッピングを器用にはがしていった。


「ふぉんじゅう」の正体がわかった王子さまを飛び越した進行形王様はナベごと飲み込みそうな勢いで、サンジに蹴りを2、3発入れられ。扉を開けただけで甘い匂いに当てられたのか、ゾロはくるりと踵を返し。ウソップは怪しげなフォンデュの由緒を語り。
ナミはめずらしく紅茶だけを飲みながらにこにことルフィを見つめている。

「おいしい?」
「おお!」
「おまえが作ったんじゃないだろ?」
「うるっさいわねウソップ!!」
「ナミつぎイチゴ!」
「オッケー」
ナミはフォンデュ鍋に串に刺したイチゴを漬ける。
「じゃあナミひとつおれも、」
「あんたは自分でやんなさいよ!」

そんないつもの賑やかさをサンジはしばらくみつめていたけれど。
甘すぎてフォンデュに使えなかったミルクチョコレイトを片手に甲板に出る。

少し涼しい風が吹きはじめた前方デッキに、ナミ曰く「あんなでもサンジくんの王子サマでしょ?」が、手すりにもたれて眠っていた。

何がどう間違ったんだかね、などと一応思ってはみるものの、その姿をみつけるだけで自然と笑みがこぼれてくる。


ぽん、とチョコを口に放り込み。
長く伸ばされた両足の間に膝をつく。


「てめ、なにす―――」
「チョコレイト味のキス!」
「たのむから威張るな、」
がく、と明らかに「このアホが」とゾロの全身が言ってる。

「でもほら」
「ぁ?」

「ハッピーバレンタイン、ゾロ」
「ああ、」

腕を伸ばし、引き寄せる。
金の髪を指で梳き、耳元に口接け
「サンキュ。」
チョコレイトよりも甘い声。


年に一度のあまいキス。


Everyday is Valentine’s Day.






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うっわぁーはずかしぃー。甘すぎだわはずかしいわで死にそうです。
ごめんなさい読んでくださった方はもっと死にそう?胸焼け?サンジくんにとってナミは無条件に、いとおしい存在なんですね。これ、基本。