Sweet Surrender



手を洗った。ふと、気付いた。
捲り上げたシャツの内肘の近く、ノコサレタアトガアル。

指で、唇で、歯で、ツメで。
オマエがおれの上に残していくもの。

自分の冷えた指先を押しあてる、その上に。自分の指の先より、その輪郭が大きい。
うわ言めいて自分のもらしたコトバに返されたものなのだろう。
「ツカマエテイテクレ、」
鳴声に紛れて晒した。
舌先にオマエの味を残したままで、舌が灼けるかと思う熱さを思い返して。
あがった息の合間に、洩らした。


オレはオマエがスキだ、バカみたいに。


オマエがオレの上に残していくアトさえイトオシイと思うほどに。
ドウカシテイル。

眼差しで、声で、仕種で、コトバで。
オマエがオレの内に残していくアト。
それさえも、好きなんだ。

ぴたん、と水音がする。
テキトウに入った連れ込みにしては、広い方じゃないか。ちらり、と意識を掠める。


オレの指がオマエはスキだと言う。
ツメの先まで含まれて、歯を立てられて。
喉骨もスキだと言う。
舌先で押しつぶされて声がくぐもる。

目、頬、唇、額、耳、耳朶、瞼、頤、喉、手、首、肩、項、腰、足、腿、膝、
膝裏、足指、背骨、生殖器官、禁忌の領域、踝、かかと、カラダの内、ナイゾウ。
オマエの手が、指が、唇が、舌が触れていない箇所はオレの中からなくなって。

渡すもんかと思っていた、ココロの、その一番奥にある酷くヤワラカイなにかまで
白く揃った歯で、噛み破りやがって。
そのときでもオレは、オマエの口唇と舌で高められて嬌声めいた声をあげていた。
オマエが、噛み破ったソレを嚥下したとき。
オレはオマエのために杯を満たしてやっていた。色の無い酒。


オレはオマエがスキなんだ、どうしようもなく。


オマエと抱き合うときだけ、オレがオマエの腕にツメを立てて縋るのがスキだとオマエは言う。
笑みさえ浮かべて。

あァ、オマエは残酷なオトコだ、ゾロ。

オマエを求めて緩むオレのカオが好きだとオマエは言う。
オマエの前で、オレのギリギリのプライドもただのスパイスだ。


オレがわらっているカオがすきだとオマエは言う。


オマエにつけられたアトが消えない。
オレの中に残り続けて、また際限なくオマエに飢えていく。

オレがオマエの
腕に、背に。項に、肩に。
ツメを立てるのは、降伏したシルシだ。
オマエはきっと知らない。

それは甘美な、コウフクだ。



だからオレは復讐する。オマエを愛する、ゾロ。






FINITO