*22*

この強情猫が、と。パトリックはもう何度目か、ルーシャンのことを脳内で吐き捨てた。
可愛くなることを知っている、可愛く在れることも知っている、実際には酷く寂しがりやな甘えん坊だということすらも。
それなのにまだこんなにも“現実”を受け入れることに足掻いている。流されることを拒否している。
覚束無い舌使い、気合も感情も極力押し殺された態度、肩を強張らせ、怒りを表す以外には視線をあげようともしない態度に、パトリックは溜息を吐きたくなる。
まだしも泣かせた方がサディスティックな満足感を得られることができるが、いまのままでは酷く退屈で、いずれ萎えてきそうだ。
反発でもすれば、張り倒して屈服させられるだろう。
泣いて詫びを請えば、それなりに考えてやらなくもない。
けれどもこの状態では造りはいいが技術はないダッチワイフの口にでも突っ込んでる気分になってくる。
ルーシャンは愛されて育ってきた。本人は否定しているが、この甘やかされた性格はそのことを如実に現している。
天性の小悪魔めいた魅力に誰もがルーシャンに傅いてきたから、この馬鹿は結局“他人を思いやる”なんてことを学びもせず、ひたすら自分の内側に篭って生きてきたのだろう。
どこまで厚い殻で自分を覆っているのだか、と。拙く舌を絡められ、僅かに吸い上げてくることに溜息を吐いた。

「オマエは地面を這い蹲ったことがないだろう、ルーシャン?」
片手を淡いブロンドの髪に差し入れ、後頭部を引き寄せた。苦しそうな表情で見上げられて、目を細める。
「プライドを踏み躙られて、徹底的に自分というニンゲンの価値を辱められたことがないだろう?」
んぅう、と喉奥で声を詰まらせ、舌が屹立を押し上げてくるのに軽く腰を揺らした。
「そういうのが愛されてるって言うんだよ。最も惨めな自分を晒さなくてよかったってことがな」
ぎゅ、と背後で金糸を纏めて掴んで、ぐ、ぐ、と腰を揺らし喉奥を突く。きゅう、と苦しそうに目が細められるのに、片眉を跳ね上げた。ぅ、う、と苦しげなうめき声が響く。
「オマエはまだプライドを捨て切ったことがない、だからそんなに強情でいられるんだよ」
喉奥が詰まるのか、吸い上げることで息をしようとしたルーシャンの口中、その天蓋を屹立で突き上げた。
じわ、とブルゥアイズに涙が滲んでくるのに、薄く笑った。びくりと腰に添えられたルーシャンの手指が強張っていく。
「マジメな話、オレはオマエにやさしくしてやろうと思ってンだぜ?オマエがあまりに馬鹿だから」
ゆるゆると口腔に屹立を押し入れながら、低く声を落としていく。
「だがオマエはオレの予想の上を行く馬鹿で、片っ端からその好意を蹴り落として潰していくんだ」
苦しさに舌が屹立の進入を抑えようと先端を捉え、けれど唾液に潤んで更に喉奥を突く結果に終わる。ぐぅ、とルーシャンが呻いていた。
「別にオレはオマエに100%従順になれ、って言ってるわけじゃあない。ダッチワイフもいらねえし、抱く相手には事欠かない」
ぐ、ぐ、と奥まで遠慮なく腰を突き入れれば、ルーシャンが眦から涙を零していった。
「オマエは義務でオレに付き合ってンじゃねえんだよ、ルーシャン・カー。オマエはオレがオナニーするためのダッチワイフじゃねえ。オレにサーヴィスで支払いをする商品だ」
震える舌を突き上げて、薄く唸る。
「オマエはセールスの仕事に就いたことがないと思うがな。売り込む努力はしろ、魅力的な商品であるよう心がけろ。自分が高い商品であろうとする意地を見せろ。それ以外のプライドは捨てちまえ、邪魔な上に鼻につく」
無意識に舌が屹立を押し上げてくるのを無視して、さらに深く含ませていく。
「オレに甘えるな。いつまでも弱って自分の殻にだけ篭ってンじゃねえ。諾々と時間を過ごしてりゃ1ヶ月は終わるがな、ぼうっとしてンじゃねえよ。自分の人生をオレから買い戻す甲斐性を見せナ。クソ詰まんねぇまんまでいンな」
刺激に色づき、真っ赤に染まった唇が濡れた音を立て、ルーシャンがびくりと腰を震えさせていた。
「変に意固地になってるだけのプライドがあンなら、ちったァオトコらしく気概を見せろ。だからオマエは甘やかされた甘ったれだってンだよ」
ぼろぼろと苦しさから涙を目の端から次々と落としていくルーシャンの目を覗き込んで笑った。
「オレを恨んで殺すぐらいの気概でも持てよ。いまのてめェはダッチワイフ以下だ」
ぐ、ぐ、と強く押し入れながら、は、と息を吐いた。

「いいか、今からオマエの口ン中に精液を全部吐き出すからナ。零さずに飲み干せ」
ひ、ぅ、と嗚咽を洩らしたルーシャンの髪をぎゅっと掴み上げた。
「間違っても吐き出したりはすンなよ」
揺れる息に吸い上げられることに征服欲に従事した性欲を満たされて、パトリックは薄く口端を引き上げて、ルーシャンの喉奥を突き上げた。そのまま発光する光を抑え込み、溜め込んでいた体液を喉奥に放出する。
びくびく、と跳ね上がった身体に揺れる頭を押さえつけて、窒息しないように少しずつ屹立を引き出してスペースを確保してやる。
ぎゅ、と無意識に腰を手に掴まれて、ぐ、ぅ、と嗚咽交じりに声を漏らしたルーシャンの口腔からまだ萎えることを知らない屹立を引き出しきった。
そのまま、ぐぃ、と金色の髪を引いて、吐き出せないように喉を上げさせる。
「ん、ぅ…ッぅ」
てらりと濡れた赤い唇の端から、とろ、と零れかかったものを親指で拭い、ぐい、と唇の中に押し戻した。苦しそうに喘いだルーシャンの喉仏が何度も上下したことを確かめてから、髪を離してやった。
「ほら、口開けナ」
ひ、と喉を鳴らしかけていたルーシャンの頤を手で掴む。
「飲み干せたか見せてみろ」
喘いで唇を開いたルーシャンの口中に、真っ赤に濡れた舌が震えているのを見つけて、薄く笑った。
「吐くなよ、意地でもナ」

ごほ、と咽て咳き込んだルーシャンの頤から手を離し。涙目で俯いたルーシャンを四つんばいにリネンに押し倒した。胸がリネンに着き、指が縋るように布地を握ったのに、くくっと笑った。
「泣いてンのかよ、仔猫チャン?」
嗚咽を噛み殺しているのが聞こえて、ハハ、とパトリックは軽く笑った。
「いいぜ、ガンガン泣きナ、ルーシャン」
そろ、と苦しさから色づいた背中を掌で撫で下ろす。ぐ、ぅ、と声を押し殺し、背中を奮わせたルーシャンの腰に、かじ、と歯を立てる。
「ン、ァあっ」
「泣いたら次のステップに突入だからナ。なんのためにココにいるのか、言ってみな」
思わぬ刺激に濡れた声を上げたルーシャンのヒップラインをさらりと撫で下ろす。
「ルーシャン、ほら。言え」
膝裏もヒップも強張らせたルーシャンの臀部をぴしゃりと軽く叩いた。びくん、と背中を反らせたルーシャンの尾てい骨の下を、く、と指で押し撫でる。
「とっとと言わねェと言うまでケツ叩くぞ」
ぅ、と呻いたルーシャンに低く脅すように告げる。
「―――――抱かれ、」
掠れた声が語尾を消し去り、嗚咽に紛れて途切れたことに、ぴしゃりとケツを叩く。
「なんだって?」
ぎゅう、とリネンをきつく握り締める手指に、聞こえない、はっきり言え、と声を強める。
必死にルーシャンが嗚咽を噛み殺すのに、低く笑った。プライドが傷つけられて悔しいのと、そのことが辛いのに震えが止まらないようだ。
「あァ、それとも。オマエはスパンキングされるのが好きな性質か?」
ぴしゃりと遠慮なく臀部を叩いて、さらに身体を震えさせる。
「実はマゾヒストだって言うのなら、可愛がり方を変えてやるぜ?」
「―――――――ぁ、っく、」
呻いたルーシャンの臀部を叩いて、遠慮なく掌で音を立てさせる。逃げかけた細い身体を、ぐ、と腰で引き戻した。
「どうなんだよ、ルーシャン?」
ほとほとと涙を零したルーシャンを、ぴしゃりと叩いた。
「たった一言を言うのはそんなに辛いことか?あァ?」
「ぅあ…ッ」

呻いたルーシャンを叩く間隔をどんどんと短くしていく。ぶるぶる、とルーシャンが身体を震えさせた。そして酷く覇気のない声で漸く、
「だかれに、」
そう辛うじて声にしていた。
「誰が誰に抱かれるためにここにいるんだ?」
更に声を細めて、ルーシャンに囁く。
「言ってみな、仔猫チャン?」
ぅ、とルーシャンが嗚咽をまた喉で押し殺していた。はあ、と大きく溜息を吐く。
「泣くのもいいが、泣いても許してはやンねえし。オレの忍耐も長くは続かねえよ」
よろ、と手がリネンに伸びていった。
「あんたに、」
揺れるルーシャンの声に、質問の答えはそれが全部じゃねぇだろ、と告げる。よろ、と反対側の腕がまた伸ばされる。
「ルーシャン、質問に答えろ。誰が誰に抱かれに、ここに居るんだ?」
深く喘いで、ルーシャンが首を横に振っていた。どうやらそろそろ焚いた香の効果が出てきていたようだった。
半ばその細い身体に乗り上げるようにして、ルーシャンの耳元に唇を近づける。
「答えろ、ルーシャン」
ぅ、う、と。嗚咽ではなく沸き起こる快楽に、ルーシャンが喘いだ。重なった身体から伝わる体温に驚いて、身体を揺らし。けれどそれでも揺れる声で、ぼそ、と呟いた。
「――――――に、だかれに……、」
「ほら、もう一回だ、仔猫チャン。きちんと喋れと小学校でも教わっただろう?」
さら、と腹部に手を回す。
「腹筋に力を入れて、もう一回頭から全部答えナ。誰が誰に抱かれるためにここにいるんですか?」
逃げようと身体を震わせ、膝を滑らせたルーシャンの肩を抑え込んでリネンに押し付ける。
「それとも手酷くされてェのかよ、あァ?」
手が伸ばされ、ぐ、と腕を肩越しに押し遣ろうとするルーシャンのヒップをまた遠慮ない力で叩いた。
「答えろ」
「ぃあ、っ、」
「きちんと声に出せ、ルーシャン」
ほと、と涙をリネンに零して腰を跳ね上げたルーシャンの赤く色づき始めたヒップを軽く掌で撫で上げる。
「だかれる、」
揺れる声がぽつりと告げる。
「誰が、誰に?」
短いフレーズで、ルーシャンに訊く。
ひくりとルーシャンの背中が強張った。
「Say it, Lucien. Who by whom?」
ふる、とルーシャンが頭を横に振った。
「なんだよ、それすらもオマエは言えないのかよ?」
声を囁きのレヴェルにまで落として、耳元で訊く。
「あんたに、」
さらに揺れる声に、誰がオレに抱かれるんだ?と甘く囁く。
酷く消え入りそうにか細い、低い掠れ声が哀れに、そうっと告げた。
「This thing,(これ)」
漸くそう告げたルーシャンが、ふるふると肩を震わせていた。

ぐしゃりとその金色の髪を掌で撫でて、はぁ、と深い溜息を吐く。
「Good, that is the perfect answer」
いいだろう、その答えで十分だ、そう低く告げて、さらりと背中を撫で下ろす。
「じゃあその自覚をそろそろ持て。オレがオマエを抱きにここに居るんじゃねえよ。オマエがオレに抱かれるためにココにいるんだ。解るな?」
身体を硬くしたルーシャンの背中に、そうっと唇を押し当てる。
「経験不足のオマエが最初からそこいらの発展しまくりのハイスクールのガキみたいに旨くできるとは思ってねぇから安心しな。そんな技巧があるって期待もしてねェしよ」
さらりとわき腹に掌を移して、強張った肩に唇を滑らせた。
「だからな、“This thing”にまで自分を貶めなくてもいいけどよ。オマエがきちんとオレのディックが欲しいって言えるまでは、オマエを離してやらねェからナ?ちゃんとその辺りのことは解っとけよ、ルーシャン」
痛々しいまでに哀し気な呻き声を零したルーシャンの背骨に沿って、ぺろりと舌を滑らせた。
「パーフェクトに言えたご褒美に無理強いしてファックはしねえよ。ちゃあんとオマエが欲しいって言える時まで待っててやる」
全身を強張らせたルーシャンの腹に、そろりと手を滑らせた。
「けど今度は促したりはしてやンねえからな。ちゃんと自分から言えよ、仔猫チャン」



*23*

リネンから背中を浮き上がらせ、拳を握り締め。短い、途切れ途切れの嗚咽をルーシャンが零していた。視線は彷徨い、涙を零しすぎた所為で焦点が曖昧になり。緊張と弛緩を繰り返し過ぎた身体は時折コントロールを離れて、ひくりと弾けていくようだった。
引き攣れた喉が音を発し。意味など成していなかった。背後から引き寄せられ、体中を爪弾かれ、弄られて抑えきれずに声を洩らしていた。
高まり、熱を持った中心には触れることも、触れられることも許されずにただ身体中を唇と手指が辿っていき。薬で剥き出しにされた神経が焼ききれかけた。喉を競りあがる声を押し殺そうと歯を、唇を噛み締めていた。
開かされた脚の間に、膝を割り入れられ、身体が落ちるかと思うほどにぐ、と押し開けられてびくりと喉を反らせた刹那、噛み締めていた唇を指が割り開いていった。
火照り、熱くなった内を撫で上げながら、噛むなよ、とルーシャンの耳元に声が落とされていた。
言葉が届いても届かなくても、気にもしない風情のソレ。
本能的に舌がソレを押しだそうとし、けれど。耳朶に歯を立てられ、悲鳴じみた声を上げていた。
背中越しに、幾度も追い上げられ。リネンに中心から蜜が零れ落ち、そのことにさえ羞恥が混じり込み。震えるほどリネンを握りしめていた手が耐え切れずに下肢に伸ばせば、手首ごと戒められリネンに縫いとめられるだけだった。
ルーシャンが喉奥から悲鳴めいた声を短く絞り上げ、身体を震わせていた。
『欲しくなったら言えって言ってンだろうがよ。勝手にイこうとしてンじゃねえよ、ルーシャン。はしたねェな』
声に、意識の呑まれきっていないルーシャンが一層肩を強張らせていた。喘ぐように息を吸い込み、背中に口付けを落とされてリネンに縋るように額を押し付けていた。
じわり、と意識の中心を食い荒らすような低い声に呻き。下肢が引き連れる。
高まりきった中心だけでなく、腰奥から重い痺れが背骨に添って広がっていくことに唇を噛んでいた。
「―――――――っぅ、」
無意識に噛み締め、けれどそこに顎を掴み上げるようにしながら添えられていた指のあったことに、一瞬くらりと意識を揺らした。
舌先に、じわりと鉄さびめいた香りが広がり。
「ってぇよ、ルーシャン」
低く唸ったルーシャンが、パトリックの指が一層押し込まれてくるのにぼろりと涙を零していた。
舌を押し撫でるようにされ、身体を強張らせば。触れられていなかった奥にいつのまにか別の手指が添えられることに震え。狭間を押し入ったソレが内壁を強く辿るのに悲鳴を押し殺し。引き出されていくソレを追いかけるように内が引き絞られていく感覚に一層、涙を零していた。
「次噛んだら縛るぞ、」
告げられる言葉に、低く呻き。嗚咽が、喉奥から息を吸い込む音と混ざり合い、ルーシャンが首を横に力無く振っていた。
「嫌なら噛むな、唇もだ。いいな?」
目をきつく閉じ、溜め込まれていくばかりの本能に反するためにせめて身体を引き剥がそうとすれば。唇から指が引きだされ、唾液が伝う。
鼓動を烈しく打つばかりの上に、その指先が線を引いていき。びくり、と下肢が跳ねる。逃げようとする腰をきつく掴まれ。
「とはいえ、オマエがそこまで自制心のあるコだとは思って無ェからな。次に噛んだら猿轡咬ますぞ」
低く声を洩らす間にも、身体を表に返されて背中をリネンに押し付けられていた。そして、言葉を告げる怜悧な顔を見上げ。表情を引き歪め。たらたらと蜜を零し続ける熱が自身の腹部を雫で濡らすことに、嗚咽を隠しきれずにいた。

「―――――――ぅア…ッ、」
ひく、と蠢いた奥を一層曝すように高く片足を引き上げられ鳴き。ひくり、と掌の添わされた腿裏さえ人肌に応えるように跳ねていた。
本能ばかりが滾りはじめる、顔などあわせたくはなかった。
「ぃ、や…だぁ、」
ぼろぼろと涙が新たに零れ落ちる。ひぅ、とルーシャンが喉を鳴らしていた。
「なぁにが、」
男が歌うように返すのに、一層ルーシャンが表情を歪ませていた。伸ばされた舌先で、てろりと胸元を舐め上げられ、その微かな刺激にさえルーシャンが身体を捻っていた。
下肢に手を伸ばそうとし。その手首をきつく戒められ引き上げられる。
「どうしたいんだ?なにが欲しい?」
幾度となく繰りかえされた問いに、ルーシャンが一層泣き出しそうに顔を歪める。
明け渡してしまえ、と本能の中心で叫ぶ声と。砕け散った矜持を掻き集めて、嫌だと叫ぶ声と。もうどうでもいい、と泣き伏せるように喘ぐ声とが。どろどろに溶け合い、滴るかと思う。
どうしたいか、などワカラナイ。
イきたい、ラクになりたい、手放したい。
いなくなりたい。
ここから、いなくなりたい。

ぼろ、とまた新しい涙が盛り上がっていく。
「なンだよ、仔猫チャン。まぁた泣くのかよ?」
体中が痛む、軋みを上げてばらばらになりそうだ、なんだってこの声は自分をこうまで叩きのめす?
散り落ちた涙を、舌先で掬い取られ。屈辱に似た何かにルーシャンが唇を噛み締めた。
「ああ、ほら。噛むンじゃねえよ。無理やり開けたままにされときてぇか?」
望みを口に上らせたからと言って、それが叶う訳ではないことは、手酷く教え込まれた。望むような言葉で齎されない限り、この男の。
固く噛み締めた唇を舌で濡らされ、ルーシャンが細かく身体を奮わせた。手を伸ばし、肩口に爪を突き立てる。
肉食の獣めいて獰猛にパトリックが一瞬牙を剥き。ルーシャンの顎を片手に掴み上げ唇を無理やり開かせると、深く噛み合せていた。
舌を絡みつかせ、吸い上げ。びくりとルーシャンの踵が乱れきったリネンを引き上げるほどに咥内を貪るようにされる。
逃れようと無理に足掻いたルーシャンの身体を押さえつけ、互いの中心を擦りあわせる。体奥を貫くのと同じ鼓動を刻まれ、ルーシャンが噛みあわされたままで低く、切れ切れに呻く。
ぎち、と音がしそうに肩口に手指を押し込み、首を反らそうとし。顎を掴まれたまま、自由にはなれずにいた。
やがて、嗚咽めいた息が途切れて聞こえ、離れていく唇から混ざり合った唾液が線を薄く引くほどの口付けが解かれ。ルーシャンが切れ切れに深く息を吐いていた。
「オレはオマエがちっとも嫌いじゃねぇよ、仔猫チャン、ムカつくことは多いけどナ?」
にぃ、とパトリックが笑みを浮かべ、言葉にしていた。
ウソだ、とルーシャンが朦朧としたままで呟いていた。
そんなはず、ない、と。
「ウソならこんな手間隙かけてオマエと付き合ってなんかいるかよ」
からりと明るく笑う相手の声は、届いているのか曖昧な口調のままで、ルーシャンが言葉を続けていた。
「―――――――だいてください、コレはあんたのだ、」




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