Dolce

 ふわりと柔らかに齎された命令形に、ウォレンがくっく、と喉奥で笑った。
 常ならば、この手のことは言われただけで「切れる」ことを選択してきていた同じ単語が、ソレを綴ってくる相手が違うとこれほどまでに自分のなかで意味を変えてくることに驚き、それが笑いになっていた。不愉快になるどころか、骨が柔らかくなっちまいそうな風に思えてなんだか照れくさくもある。
「あんたのことはもうとっくに好きだよ」
 ぐ、と肩に額を押しあてながらウォレンが言った。
 視線をあわせなくても、柔らかに相手の笑った気配が伝わってきた。
「不思議なことに、オレもすっごく好きだよ」
「ふぅん?」
 きゅ、と唇を吊り上げて笑みを作る。
「オマエのウタも。顔や表情、変わるの見てるのもな」
 さらさら、とまだ濡れた髪を撫でられて、その柔らかなストロークに笑みがますます深くなっていく。そして、肩口に唇で触れられ。ひくり、と予想していなかった動きにウォレンの肩が僅かに揺れた。
「身体も好きだし」
「ん、」
 声が、喉で少しばかり詰まったようになる。
 さら、とトッドの腿に掌を添わせてみる。
 そして、はた、と何かに気付いた風に落とされた言葉に、ウォレンが視線をトッドにあわせた。
「……なんか、全部好きっぽい?」
 トッドから齎された言葉の疑問符に、自分が知っている答えをウォレンが出した。
「みたいだよ」
 自信を持って、さらりと綴る。だってなんだか妙にくっきりリアルじゃないか、と思いながら。
 見詰めていれば、ぱち、とトッドが一回瞬きし、それからまた視線をあわせてくるのに、ゆっくりとウォレンは腕を伸ばした。
「んーん、どうしようか」
「なにが」
 そう応えながら自分と同じように濡れたブロンドを指先で梳けば。温かな掌が、ウォレンの頬を包み込むようにし、それからさらりと首筋まで撫で下ろしていった。
「夢中になりそうな気がする」
 ぽつり、と齎された言葉に、心臓の裏側からまたくすぐられでもしたように、身体の奥から漣めいてちいさな笑いになって幸福感めいたものが拡がっていくのにウォレンが、ひゃ、と短くわらった。
 そして。
「ウェルカム、」
 そう短く言う。
「なれよ、ウン」
 強気でも無謀なわけでもなく、ただ淡々と事実に思えることだけを口にし、ウォレンが内心でまた小さく驚いていた。かけひきも打算もゼロだ、すげえな、と。ただ一緒に居たい、なぜならとても好ましいから。
 それだけの単純な理由で自分が動けることにも、驚く。

「つかさ、トーッド、ならないはずねぇと思うよ?」
 とろりと蜜でも塗して溶けおちでもしたかのように声が甘いのを自覚する。トッドのブルゥアイズが瞬きに一瞬隠れ、そしてふにゃりとわらった。
「なんだろうね?心臓がきゅうって言いやがった」
 わずかばかり掠れて、するりと鼓膜を撫でていくようなトッドの声が甘い。
 髪に添えていた手を項まで滑り落し、それから首裏を柔らかく捕まえると自分に向かってウォレンが引き寄せていた。
「へえ?きのうよりあんたビジン。ハーロウ?」
 ふにゃりと同じだけ笑う。
「オマエも、ツマラナイって顔してない」
 くす、と小さく笑い。そして、あむ、と啄ばまれるようなキスをされてウォレンが眼を一瞬とじていた。
「たのしいよ、すげえ」
 視界に相手をもう一度捕え直し、囁くように言う。
「よかった。オレもだ、」
 言葉に、わらったままで。
 キツク抱き締められて、ますます笑みが深くなっていくのを自覚しながらウォレンが言った。
「なぁ、なーぁ?トーッドォ、」
「なぁんだよーぅ、ゥオーレ、」
 あのさ、とウォレンが笑いに混ぜて告げる。
「おれンことさ、もーう、メロメロにしちまってくれ、あとで」
「んん。イタダキマス」
「わぉ、期待してる」
 笑みの形に引き上げられたままの唇が、トン、とキスをしてくるのにウォレンが眼を細めた。
「ウォレン、すっごいキモチイイってカオするから。いくらでもヤレそう」
「あんたがさせるンじゃん」
 ちろりと唇の狭間を舌先で濡らして、そうっと告げる。
「すげえ、キモチいいもん」
「あ。なぁなぁ、ウォーレン」
「んん、」
 と甘えて返事し。なんだよー、ロックスタァ、と。とろ、と微笑んだ。




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