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「―――わあッ」
夜中のキッチンで悪ぃが飛び上がった。つか、そりゃビックリもするだろ実際、誰もいねぇと思ってたんだからよ、とサンジはばくばくいうオノレの心臓に理由をやってみる。
モノゴトには何分集中しやすい性質ではあるので、特に山!と積まれた皿洗いだの、ここぞとばかりに繰り出されたシルヴァウェアだのを目にしてしまえば。翌日に持ち越す、なんてことはアリエナイ。在ってはナラナイ。課題が多ければ多いほど俄然やる気も集中力も盛り上がる、ってモノだ。何分、何事にも果敢に挑むのは男の性ってヤツで―――などと。

だから、大層熱心かつ集中して仕事をこなしていたならば。
こいつはいつだってマジでシノビかヒトゴロシになれるって具合の在り得ないオンミツ行動で、「バカ」に背中を獲られていた。
ドア、そもそも開いたっけか?と首を傾げたくなるほどだ。
「いでてててて」
ぎゅうぎゅうと腕に締められて思わず大げさな声になる。
オドロキを誤魔化す時間稼ぎに出たか。
あれだけ真っ正直に「わあっ」と言ったからには効果はナゾだが。
驚きはしたが、手にした銀器をがしゃがしゃと落さなかったのは根性というものだろう。

「ナニしてんだよ、」
うら、と後アタマで相手の額あたりをヒットしようとするが上手くいかない。
あぁ外は寒かったのか、と思わせるほどには冷たかった身体の一枚上を覆っていた空気が自分の温度と溶けていくだけだ。
喉奥で何か唸るような音がする。―――返事?
「おーら、言葉忘れたか」
もう一度、リトライするがやはり上手くヒットは出来ずに、むしろ髪を相手のデコあたりに擦りつけてまるっきりあやしてるンだか甘えてるンだか、な具合なことはこの当人の意図した動きでは無いのだ。

そして、聴こえた言葉に、「ひゃあ」とサンジの口が音もなく驚きを現す。
「おまえこそ何してンだ」
これって―――拗ねてるのか??うわお。ゾロがか。ひゃあー、とサンジが声に出さずにまた驚く。
「宴会の後始末に決まってンじゃねぇの」
ぐう、と自分に回されたままの腕に、口元が勝手に綻ぶ。
わかってる、ジブンはこういう風にフツーに素直ぉに何か言われるのが非常にヨワイ。特にこのアホからは。

「あと5分もすれば終わってたぜ?」
「その5分が長ェ」
む、とした風にそれでも間髪入れずに告げてくる相手に、ますますカオが緩む。やあ、背中越しで助かったぜ、と安堵するほどには。
「お楽しみの後にはキチンとお片付けもあンだよ」
よいせ、と辛うじて自由になる肘から下を動かして最後のシルヴァウェア、スプーンだった、それを磨いてみる。

ぐ、とまた。
デカイ犬の仔だか何だかじみて、項辺りに顔を突っ込まれて。笑い声があがる。
「く、すぐってぇっての!うわ、は、っはは」
そんな笑い声交じりの抗議にはちっともシンシャクの無い輩はますます首筋に尖ったハナサキを埋め。
さら、と何かが軽く肌を掠めていく感触にサンジは、「ありゃ、こいつ目ェ瞑ったか」と思い当たる。
器用だな、しかし。立ったままでヒトのことぎゅうぎゅう締め上げて、そのくせ首に顔埋めて寝やがる気か。すげぇな、おい。そんなことをぐるぐると思い、声を掛けてみる事にする。

「よー、なぁ、」
「―――んー…、」
ヤバイじゃねえの、マジでこいつ寝かけてるぜ。体温上がってねぇか?赤ん坊かよ、うわあ。
「なーってばよ」
「―――おぅ、」
すげえなあ、このまましゃべってても寝るかもな、と妙にうきうきとする。
「じゃあよ、」
「―――あぁ、」
く、と。薄いヒフに熱が直にあたる。首筋。偶然、唇が掠めた。

「おれの誕生日には皿洗い機買ってくれ」
「―――いつかな、」
こんどは、意思を持って唇が軽く肌を啄ばみ。ひゃ、とサンジの肩が揺れた。
「おーう、ヤクソクだぞ。いつかな」
「あァ。―――終わったか」
「とっくに終わってら」
ぺと、と磨き終えたスプーンの背でゾロの腕を軽く叩く。
普段ならこめかみ辺りのクリーンヒットを狙うところだが、年に一度くらいは甘やかしてやろう、とサンジがまた内心でわらう。

「どこでしよっか、」
「どこ、よりゃ誰、の方がモンダイだな」
眠気の覚めたらしい声が耳元でする。
「この状況で誰、はそもそもモンダイにならねェだろ。誕生日オトコ」
そして、付け足した。
「むしろ、"いつ"も結構イミあるか、昨日の今日だ」
時刻はもう夜半をとうに過ぎている。

す、とゾロの視線が天井に向かうのを、背中越しに動きで感じる。
「うえ?」
サンジも指で上を指す。方位的には見張り台がある辺り。
「―――か?」
「狭ェなァー、……ま、いっか」
半ば無理やりに腕を回して、にひゃ、とサンジが笑う。
「で、うっかりくっついて寝ちまおう」
「―――だな」
く、と抱きしめ返してくる腕を、サンジは解かせ向き直り。

「や、でも実際よ?イツもドコも関係ねェんだよな」
そう何分か前までは誕生日オトコだったゾロに告げ。ハナサキにキスを落してみた。
案の定、大層見たかったモノが返される。―――少しばかり眼を細めて、口端で笑う顔。

ダレがするよりおまえのするのがイイね、と。
なんだかなぁ、とジブンに呆れながらサンジが言葉には何もせずに首を引っつかむみたいにして抱き寄せた。









Happy Birth Day .