サンジが。
まるっきりガキみたいに、泣き出しそうだった。
置いてかれる寸前のガキ。
しょーもねーなァ、オマエ。
普段はあんなにベタベタ引っ付くと怒りまくるクセに。
リネンに脚を伸ばし、ゆっくりとサンジの身体に体重をかける。
腕、回して。
重みと熱だけ、渡して。
「ならオマエ。ずっとオレとこーやって生きてく決意、できるンか?」
うぅー、と猫のような唸り声を上げて泣き出しそうなサンジにゆっくりと囁く。
「ずっと、オレの腕の中で、じっとしてられンのか?」
「わかんねえ」
「解らない筈が無ェ。ンなこと、できるワケがねーだろが」
ぽう、っと応えたサンジの肩に口付ける。
くぅ、とサンジの喉が鳴っていた。
「オレはオレで。オマエはオマエで。個々の個体なんだ、ずっとくっ付いていられるワケが無ェだろうが」
どんなに蕩けるようなセックスに溺れても。
「いまくらい、そーしてろ」
「ワガママ」
笑ってサンジの肩を舐める。
「無理でも、そうしてろよぉ」
「泣き顔見せてくれたらな」
ぎゅう、と抱きしめて、まだ頑固に腕で顔半分を覆っているサンジの肩口を唇で触れる。
「ウソだよ。そのままでいていい」
ひくん、と肩から揺れていたサンジに告げる。
「こういうワガママを言うオマエは、かなり好きだし。離さねェよ」
かぷ、と肩に歯を立てる。
「そんな、もん……見んな、」
「なンで?泣いてようが、拗ねてようが、落ち込んでようがオマエなのに?」
声が揺らいでいたサンジにそう告げると。やっと腕をずらし。
泣き濡れた蒼が見上げてきた。
笑って唇を食む。
「泣いてるくらいなんだっての。オレの泣き面だってバッチリ見てるくせに、オマエ」
「おまえに喰われて。どろどろに溶けてんの、―――みろ」
笑ったまま、目を覗きこむ。
キレイな蒼、海の色。空のようでもある瞳。
「イイ顔してるな、」
泣き濡れた痕が残っていても。
きゅう、と眉根が寄っていた。さらに笑う。
「…船に戻ンの、止めちまおうか」
指先で、サンジの唇に触れる。
はたん、とサンジが瞬いていた。
「オレの腕の中、ずっと居るか?」
単純に、意味が解らない、という顔をしているサンジに訊く。
「毎日狂ったみてェにドロドロに溶けるまでセックスして、なぁ?」
「ここ、いる間?」
「違う、明日も、明後日も、それ以降も」
ガキみたいにあどけない表情を浮かべたサンジを抱きしめる。
「オマエを抱え込んで、生きるってこと。できるぜ?」
ただし、そうするためには。
「オマエが目指してるモンも。オレが目指してるモンも。諦めなきゃいけねーけどな、」
「あしたまで。そっから先は、だめだよなぁ、」
ガキの口調で、サンジが溜め息を吐くみたいにして呟いた。
そして、眼に力を入れて、睨んでくる。
ふン?
「おまえは、そんなこと言うな、」
ふ、ン。
「なーサンジ。オレさ、ずっと。オマエより、野望を取る、って言ってあったし。実際ずっとそのツモリだけどな」
ケド。
「けど、究極の選択として、差し出されたら――――オマエを選ぶぜ?」
そして。
それでも、きっと。
「後悔しないぜ、それでも」
きゅうう、と噛み付く寸前の猫のように、サンジが蒼い目を細めていた。
笑う。
「ショウガナイダロ?それくらい、オレがオマエのこと、スキなんだから」
「選ばせねぇよ」
そうっと言ったサンジの唇に口付ける。
「それはオマエの選択で、オマエの優しさ」
決してオレのじゃない。
「こっち選んだら、振るぞ」
「それもオマエの選択。オレは想い続けるだろ」
フられても、なにしても。
どんなに胸が痛くなるくらいに、痛めつけられても。
サンジの眼が怒りを孕み。
「そもそも!ンな選択大人しく従うな!!ぼけ!!」
抑えた声で言ってきた。
「そりゃー、大人しく言う事効く保証はしねーし。寧ろ、ゴネて。拗ねて。いじけて。泣きついて。ありとあらゆる手段を
講じせていただくけどな」
ケド。
「けど、最後の最後は、オマエはオマエのすることを決めて。オレはオレのすることを決めねーとダメだろが」
「じゃあ、」
「んー?」
サンジの首元に顔を埋めて返す。
「おまえの、くそばかげた野望込みで惚れてるおれは、どうすりゃいいんだ」
「…オレが答えちまってもいいのか、その疑問に?」
オレはオマエに、どうして欲しいか、きっちり解ってるぜ?
「いいよ」
「オレを信じろ」
不安なときも。
信じられない時も。
聞くとはかぎらねぇし、と表情で続けていたのが、すぅ、と消えていった。
「オレを信じろ、サンジ」
愛してるってことも。
スキだってことも。
そうしたら、それだけで。
寂しかろうが、辛かろうが。乗り越えられる。
「いま、すぐにそうできないのは知ってるから、オレも急がねェけど」
オマエの抱え込んでるチビが、相当根深いの、わかっているから。
「―――ぞ、ロ…?」
「んー?」
顔を上げて、ブルーを覗き込む。
「なぁ?」
「なに?」
「なぁ、ゾロ?」
酷くイッショウケンメイなサンジの声が続けていた。
なに、と音にせずに、もう一度訊きなおす。
「すきなんだ、」
信じてる?と眼が訊いてきて、笑って頷く。
「知ってる」
自信過剰でもなんでもなく。
「信じてるよ、すげぇ深いところで」
「あいしてんのかもしれねぇけど、」
「…けど?」
「なんか、もっと、」
くう、とサンジの目が細められていた。
邪魔をしないように、顎の丸みを帯びた部分にそうっと口付けを落とす。
「…もっと?」
「どろどろしてる。いろんなモンが絡み合いすぎてわかんねえ、なんて呼んでいいのか」
「そうか」
知ってるけどな。
でもオマエの口から聞くのは、別の意味がある。
「ゾロ、」
消えちまいそうな声で、サンジがオレを呼ぶ。
「なに、サンジ?」
同じ位に声を落とす。
「まだ、―――してぇ」
「…本当は、もう限界に近いと思うけどな、オマエ。けど、いいぜ」
目がゆらゆらと揺れていた。
感情、愛情、欲情。
ああ、そんな目を、表情をされて。
信じられないわけが、ないだろうに。
「おまえに、とけちまいてぇ、おまえが―――」
溺れてくれればいいのに、おれに。そう告げた声が、掠れていた。
ゾロ、と吐息だけで呼ばれ、ゆっくりと抱きしめていた腕の力を緩める。
「他人にここまで溺れたのは、オマエがハジメテだよ、サンジ」
一心に見詰めてくる瞳に告げる。
「オレの快楽より、オマエがキモチガイイ方がいいなんて思って、抱くことなんざ。有りえねェと思ってた」
さらり、と髪を掻き上げる。
「さ―――っきから、」
「オマエは、本当は。オレが我を失うくらい、オマエと繋がることに夢中になって欲しいと思ってンのかも、しんねーけど」
泣き出しそうな声に、笑いかけて。頬に口付ける。
「けど、オマエが大切で。オマエを愛してるから、そうはなれねェんだ」
オマエも同じ気持ちだろう?
吐息で訊いてみる。
すう、とサンジが一瞬目を閉じ。そしてまた、ゆら、と蒼が覗いた。
「オレがオマエをイかせてばっかでいられンのは、オレの方がちびっとばかし、内側に余裕があるから。それだけの
ことだ」
すい、と右手を取ったサンジに笑いかけて告げる。
目の前で、サンジが掌を掲げ。ゆっくりとそれに口付けてきた。
「そンで、オマエがオレを受け入れてくれる決意が、オマエん中にあるから」
サンジの喉元に手を導かれる。
「おまえにだけ、ぜんぶ、やっちまってたンだ、おれ」
サンジがそうそっと言った。
「なにされても、おれがいいんだって思ってたの、おまえには」
「つけこんで、結構いろいろやってただろ、オレ」
すう、と笑みを浮べたサンジに、笑みを返す。
「なぁ、溶かしてよ…?」
とん、と口付けを落とす。
「おれンなか、おまえの舌で濡らしてよ?鳴かして」
ぺろり、と唇を舐める。
笑いかける。
「…やだ、って。言うワケ、ねーだろが」
心持ち仰向いたサンジの唇の間に、舌を差し込んで。
ゆっくりと掻き混ぜる。
内側の熱。
熾き火のように消えることのなかった熱が、ゆっくりと力を取り戻していく。
首に腕を回された。
リネンに腕を着いて、口付けのアングルを変え、より深く貪る。
サンジがくう、と下肢を押し付けてきていた。
片腕を伸ばし、脚を引き上げる。
そのまま、掌で容を辿り、目を閉じる。
すう、とそのまま沿う身体に、仕種に、勝手に笑みが上る。
サンジがこくっと嚥下していた。
またアングルを変えて、貪る。
ゆっくりと、そのまま下肢を擦り合わせた。
ほてり、と熱を帯びたものに、ゆっくりと押し付けて揺らす。
「―――っ、ぅ、」
唇の間から、息が漏れていく。
くう、と舌先を吸い上げて、そうっと歯を立てる。
ああ、これで、愛し合ってないなんて。
そんなこと、思うわけがないだろうが。
サンジの背中が緩やかに浮き、身体がぴったりと重なった。
そこの腕を差し入れ、掻き抱く。
穏やかな愛情と、激しい欲情。
溺れきれないまでも、溺れてるって。
オレがオマエのくれるなにもかもに溺れてるって。
ハヤク、気づけよ、サンジ。
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