One day of the hound * チンピラの海賊的日常(1)
『Summery』


買出しの途中、何かが足にぶつかって来た。
見下ろせば。ハデにスッ転んで尻餅を着いたまま、まん丸の目で見上げて来ているガキがいた。
視界の下半分を遮っていた紙袋を脇にずらして、手を差し伸べる。
「あー、立てるか?」
「う、うん」
手は借りずにひょい、と立ち上がったガキを見下ろす。
「怪我は無ェな?」
ぱんぱん、と尻に着いた土ぼこりを払っていたガキが、はた、と思い至ったように自分をチェックしていた。
「その様子なら平気みてェだな」
悪かったな、避けてやれねぇで。
そう言えば、ガキがぷるぷると首を横に振った。

「で、オマエ。そんなに急いでどこに行こうとしてたンだよ?」
訊けばガキが、ひょ、と小さな指を伸ばして一点を指した。
「あっちに何があンだ?」
「今日、夏祭り」
「あー、ナルホド。オマエ、誰かと待ち合わせとかしてたのか?」
こくん、と頷かれ。は、と気付いた風にガキが一瞬焦った。
「遅刻か?」
「ウン」
「そいつぁ悪かったな。誰待たしてンのか知らねェけど。そいつの分もコレでカンベンしてくれ」

ポケットの中からつり銭のコインを2枚取り出し、放ってやった。
ぱちぱち、と目を瞬いて。思わず、といった具合に受け取ったモノを見下ろしたガキが。
ぱ、と目を輝かせて見上げてきた。
その素直さに笑いが漏れる。
「ほら、いっちまいな」
「アリガトウ」
ぺこん、と頭を下げたガキがまた走り出す。
「転ぶなよ」
遠のく背中に声をかけてやれば、一瞬振り返ったガキが、ぶん、と腕を一度だけ大きく振った。

雑踏に消えていなくなったガキが向かった方向に歩き出す。
頼まれた買出しを買うためだけに上陸していたから、コドモに放ってやったコインは共同資金からのものだった。
あとで自費から出せばいいとしても、口煩いナミはきっと目くじらを立てるだろう―――くだらない仁義を通した、と怒りはしないまでも。

けれど、夏らしい何かが欲しい、とさんざんごねていたから。
コイン2枚分くらいにはなる何かを買って帰れば文句も言われない筈だ。
「夏の風物詩と言やぁ、スイカ、風鈴、線香に花火、それに蝉と金魚ってな」
カブトムシ、というオプションもあるが。実際に喜ぶのはルフィくらいなもので。
ナミは間違いなく絶叫するだろう――――海賊狩りと恐れられた自分を遠慮なくシバキ倒すクセに、昆虫類にはほとほと弱いときた。小便でも引っ掛けられた過去でもあるのだろうか?

「スイカは持てねェし、線香はあるし。花火は船でやるわけにゃいかねぇし。っつうと、風鈴と金魚でもありゃあ充分か」
射的と金魚すくいで土産は充分に獲れるナ。コイン4枚以上になるぐらいには。
性悪な猫のようなナミと、甘えベタな猫のようなサンジが、揃って金魚の入った水槽を眺めているのを見るのは楽しいだろうし。
「ここはヒトツ、頑張るしかねェか」

熱気溢れる夏祭り会場に向けて、剣士がゆっくりと歩き出した。
出店荒しとしての伝説を作り上げるまで、あとほんの少し。




(*夏向け小話、ちんぴら編1本。買出しのものが詰まった袋と、お菓子やらオモチャやらなんやらがわんさかと詰まった袋をそれぞれの腕に抱え。口から金魚が7匹入った袋を提げてメリーにお帰りなチンピラです。何をどうしてきたかバレバレなヴぁか狼1匹。果たしてナミさんに叱られてしまうのか?ルフィとウソとチョパには集られるのか?サンちゃんには大笑いをされるのか―――?次回『出目金が宇宙を掬う!鰭でポイを持てたのか?!』オタノシミに!(嘘)<ヲイ)