Fishy




「まだやってんのかよ」
「ほっとけ」
桟橋に片膝立てて座り、背を向けたままで返してくる翆頭の脇には「釣果」が放りだされ。
海藻、タコ壺やサンダルに流木、まではわかるがホンモノの紅珊瑚の枝まで脇に放りだしてある。

釣ったのかこれ。ある意味すげーよなそれも。
サンジは逆に感心する。


そもそもの発端は、凪で暇だったことにある。
「名匠ウソップ」作釣り竿で、先に魚を釣ったヤツから島に上陸しよう、ってゲーム。
島にあるのも、村といった方が良いくらいの規模の集落で別に急いで上陸したからって
何があるわけでもないこともあっての、勝負。

ナミの、じゃあせめて桟橋につけてからにしてよ、あたしそんなのに付きあってる暇ないし。
とのもっともな意見で、場所は船上から桟橋へと変わったけれど。

結局ウソップ、サンジ、ルフィ、の順で次々と大物・小物を面白いくらい釣り上げ。
幸い全部食用だったので、さっそくサンジは上陸どころか魚介ベースの時間はかかるけれど
抜群に美味いストックを作りに船に戻り。じゃあなぁー、あとでなーとの声を残し手を振って
ウソップとルフィは村へと向かった。

ストックが途中まで出来上がったころ一度桟橋に戻ると、まだゾロがいた。
「なに。おまえまだ釣れねーの?」
「そうだよ」
そっけない返事。
「だっせー」
ゾロは軽く無視。

「なんだよ、っておい!オマールかっ?!」
放っぽり出されていた海藻がごそごそっと動いて、けっこう良い具合に育った
オマール海老が這いだしてきた。

「ゾロすげーじゃん!おまえ。上等上等っ」
すかさずでかい海老をつかまえサンジはご機嫌さん。
「魚じゃねーだろそれは」
「・・・・・・海老だな」
とりあえず、海老をもってキッチンへ戻り。氷に漬けておく。
そしてまたストックに取り掛かり。

今に至る。


辺りが薄暗くなりストックが出来上がっても、「魚」は一向に釣れた気配はなく。
たかが「勝負」されど「勝負」なわけで。

よっ、と、サンジも隣に座って煙草に火を点ける。
「もうみんなとっくに宿で飯くってるぜ」
「関係ねえ」
あ、既に自分との戦いモードに入ってやがんな。とはサンジの心中。

「もう、暗いぜ?」
「だから?」
「いや、魚も寝てんだろ」
「じゃあ夜行性のでも釣るさ」
「腹減ってねーの?」
「いらねー」
「あ、そ。じゃ俺ももー行くわ」
「ああ」

バイバイ、と手を振って、サンジは桟橋とは逆の方へ進み、ゾロがこっちを見ていないのを確認すると、
靴とジャケットを脱いで、そっと置き。
桟橋まで慎重に戻ると視界に入らない程度に離れたところから、音をたてずに海に滑り込む。

予想よりも水温は低い。
大きく息を吸い、そのまま潜ってゾロの居るあたりに近付き。

海中でのんきにぷかぷかしてる浮きをみつける。
あーったぜ。
つい、と指先でつまみ、とんとん、と軽く下に引いてみる。
と、引き返される。

はは、と笑ったら海面に空気が上っていった。そして釣り針をシャツの襟元に通す。
また深く潜って、引く力にあわせるように桟橋の方へ泳いでいき。

あ。あれ、多分やつの足だ。水面を通して見えるまで近付いて。
引き上げようとする糸にちょっとばかり抗ってみる。


そして。上昇する糸にあわせて
「ぷあっ、」
海面に顔を出した。

「は、ははは。なんて顔してんだ」
ゾロのマジに驚いた顔なんて俺以外誰かみたことあんのかよ、なんてサンジは思い気分が良く。
すーい、と桟橋まで近づきながら釣り針を外し。手をかけて身体を引き上げようとしたら、
次の瞬間にはゾロに抱き留められていた。

ハナとハナがくっつきそうな距離で。

「てめえ、なにしてんだ」
「ん?さかな。釣れたろ?もどろーぜ」
「魚人か?」
「人魚だよっ!!」
「バカか」

溜め息混じりにそう言いながらも抱きしめられて。高い体温が流れ込んでくる。
ぱたぱたと海水が落ちる。
「だって寒ィし」
言ったとたん、サンジを横抱きに抱えたままゾロが立ち上がり。
「上着と靴は」聞いてきた。

「あー、あっち」桟橋と反対の方をサンジは指さし。
サンジを抱き上げたまま、器用に置かれていたものを拾い上げ、靴は持たせて
上着は濡れたままの身体に被せ、船に向かう。

そうしてサンジの顔を覗き込み、呟く。
「ほんっとにバカだな、おまえは」
「てめえなんかに惚れるくらいだからな。もうサイアク」
「じゃあ、俺も相当だ」
ふふん、とサンジはゾロの腕の中で笑い。

「風呂入ったら、さっきの海老で、美味いもん作ってやるな」
それはひどく幸せそうな声で。


釣り竿は桟橋に置き去られ。
波間に魚がきらり、と最後の夕映えを反射し消えた。






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バカロロ。それに惚れてるこれまたバカサンジ。なんか、ばかばっかり?
なんてかわいいおさかなさーんって、バカはあたしですな。非我有。

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