怖いもの見たさの間。

真昼の闘技場の白砂におちた、トロ（牡牛）の血痕は

　　　ちょうど陽光のすべてを吸い込んで乾きかけ　その何処までも冥い色は

　　　　宙のように口をひらいた。

おれはな、見たんだよ。トロの影のなか、あの黒牛の残した血溜りから

　　　　　　　　　　ドゥエンデが。みていたのを。　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　だからおれは、おまえを信じるよ。

諦めてはいないのか、哀れな男だ

　いつまでもいつまでも、

　　　おまえの後ろに。影のなかに。おまえに魅入られたものが潜んでいるのが

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　わからないおまえじゃあないだろうに。

ああ、だめだね。私にもその呪いなどは。ましてやその悪魔など、解けるものかね。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おまえがそれを、　　　　　　　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　望んでなどいないのに―――　ギタリスタ。

おまえの声が、おれを呼んだ。銀の糸のような　三日月が出た夜半に。

　　　　　　地に沁みていくあの娘の流した血より、唇から零れ落ちた呪詛の言葉より

おまえの声に魅入られた。

　　　あいしているとも、おまえを

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おまえの、あの金の髪をしたバイラオールも。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　なあ、おまえ。今宵も歌え

影のなかから、姿を現した

　　　　　　ドゥエンデ（魔）は、流されたばかりのトロの血のような髪をしている。

おれにみえるのは、そいつだ。

　　灼きつくような陽光のした、影も落とさずにただ立ち尽くのは、魔だ。　　　

　　　　　　　　　そしていつも、語りかけてくる。唇端に笑みを刻んで、おれに

　　　　　　　　　　　　　　　　　　歌え、と。　シギリージャを。

主要人物紹介
ギタリスタ・・・　　ゾロ
バイラオール…　サンジ
バイラオーラ…　ビビ
長老…　　　　　　くれは
プロフェット…　　ナミ
マタドール…　　コーザ
ホベン…　　　　ルフィ
ドゥエンデ…　　シャンクス

題
[romance]

おれはおまえの眼の中に、　自分の姿を写し見た。

おまえの、決して口にしないだろう　歌のことを思いながら。

なあ、おまえ。唇をむさぼり　おれを引きずって行ってくれ

　　　　　　　　　　あの灰色の夜気、暗がりのなかへ。
　　　　　　　

　　　　　　　　　　ギタリスタ。おまえが決して口にしないだろうその歌を、おれは夢にみる。

あの男はね、私に言ったの。占い女、おれが死んだらあの砂の下、オレンジの木の側に

　　　ギターと一緒に埋めてくれ、と。あの、小さな黄金の花の咲く下に。黄金の花の散るあの木の下に。

オリーブの畑を越えて、あそこへはおまえたちの歌が風にのるだろう、そう言って。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そうよ、あの男は呪われていた。魔物にまで魅入られて。
　　
　　そしてあの男は、私たちのタカラモノまで奪っていった。攫っていったわ。

　　　　　　　　　　　　でもね、私たちは、もう。あの男を憎まない。あのひとは、そりゃあうれしそうに。

　　　　　　　　　　　　　　　　　私たちの、あのひとは血塗られた手をとった。

――――なにをみているの？だめよ、その露台（バルコン）からあの丘をみたって。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そこに。魔物はいないもの。

おれの腕のなかで　　　身をよじるおまえ。

　火に放たれた茴香の小枝のように　　弾ける　　　　　狂った魚のような皙い腿

月が刃となりおれの首を刈ろうとしても　

　　　　　　　　　　　　　おれは　おまえを愛する、”モレーノ”。金の髪のバイラオール。

おまえにしても、おれにしても、おれたちは

こうやって出逢う

心構えはできていない

おまえは……もうおまえには判っていることゆえに。

おれはあんなに彼女を愛してきた　　　　おまえはその小道をたどって行け。

両手に、

おれには釘で空けられた

穴がある。

どんなにおれが血を流しているか　　おまえにはみえないのか。

二度と後ろを見ようとするな、ゆっくりと行け、

そしておれのように　聖カジェターノに祈れ

だって、おまえにしても、おれにしても、おれたちは

こうやって出逢う

心構えはできていない。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（ガルシーア･ロルカ「出会い」）