MINORS ONLY ---SAMPLE---
(二日目朝より一部抜粋)




朝、太陽が昇る頃。習慣で目が覚めたベックマンは、変わらず自分の身体に巻かれたままだったしなやかな手足を
感じ取って、溜息を吐いた。
「オレは抱き枕じゃないんだぞ、山猫」
つん、とまだ暗い部屋の中、胸の上に散ったそれでも鮮やかな赤い髪を引っ張ってみたものの、僅かな反応しか得られず。
ベックマンは腕を伸ばして、読みかけの本を取った。身体をゆっくりとずらし、頭をウッドのヘッドボードに凭せ掛け、
片足を立ててそれをブックスタンド代わりにした。

こんな風に抱きつかれて目覚めるのは……さて、どれくらいぶりかな、と。ちらりと寄宿舎で生活していた頃から、
昨日までをざっと思い出し。酔っ払って凭れ掛かったまま寝ていた元同級生の顔数人と、下級生たちと、それから
なんとなく一緒に夜を過ごした女性たちを思い出した。
素面で、シてもいないオトコに抱きつかれて目覚めるのは、もしかしたら生涯初かもしれない、と思い至り、オトコは
またくぅ、と笑みを浮かべた。
そしてそのまま、開かれた字面を追って、腕の中の重みを意識下から追い出した。

何かを強請るように四肢に力を入れたコドモに、ベックマンは ちらりと意識を戻しかけ。年表と表を見比べていたならば、
シャンクスが男に抱きついたまま、くうう、と伸びをしていた。
コドモか、山猫か。悩むところだ、とオトコは口端に笑みを浮かべ、シャンクスが覚醒するのを見守るでもなく待った。

「―――…ハヨウ、」
明らかに目覚めきっていない声が告げてくるのに、ベックマンはくくっと喉奥で笑った。
「おはよう、」
低い声で応えたならば、腕の中のコドモは、きゅうとまた抱きついて来て、脇にまた顔を埋めていた。
イタズラで、枕にされた腕で抱きしめてやろうかと迷い―――止めにした。
なにやらシャンクスにはやたらと安心されているみたいだったが、オトコはまだ何の結論も出していなかったので。
済し崩し的だろうと、湾曲されまくりにだろうと誤解されるのはゴメンだった。

戦争の規模と戦死者の統計、被害総額のスタティスティックスをグラフにしていたものを読んでいたならば、
「―――――――――――――ぁ?」
と、顔を埋めたままで、ばっちりと目の覚めた声が言っていた。ぱら、とページを捲って、コドモが起き出すのを待つ。
「ありゃ?」
「起きたか、」
シャンクスは、ば!と音がしそうな勢いで顔を上げ、その翠の目を見開いて、オトコを見据えた。
「よく眠れたようでなによりだ、」
「わ、」
男はにこりと笑って、ぱたん、と本を閉じた。
枕にされっぱなしだった腕で、ぱしぱしと瞬きを繰り返していたシャンクスの髪をくしゃくしゃと撫でる。
「シャワーでも浴びて来い。その間に朝食を作ってやる」
「―――う?」

本をサイドに置き、答えを待たずに起き出した男を、シャンクスはまだ半分寝ぼけた顔で見詰め。
ベックマンがさっさと着替えてしまうのを、ぼーっとリネンの上で見るとはなしに見ていた。
「二度寝はナシだぞ、シャンクス」
トン、とシャンクスの額を指で突いて、ベックマンはカーテンを開きに行く。
「さっさとしないと日が暮れちまうぞ、」
カタン、と音を立てて窓を開けたならば、爽やかな早朝の風が、すう、と部屋を満たした。
「起きれないなら、シャワーに放り込んでやろうか、」
男が物騒に笑うと、シャンクスは眠そうに首を横に振った。
「ならさっさと起きて支度しろ、」
笑ってベックマンは昨夜使ったタオルを持って部屋を出て行く。シャンクスは、その後ろ姿をぼーっと見送り。
「――――ふく、」
真っ裸のままの自分に気付き、そう呟いた。
壁に寄せられた椅子の上に、シャンクスが畳んだ記憶の無い服が、きれいに揃えて積まれており。
「とってクレ」
そう服を指差したものの、ベックマンは既に部屋に戻ってくる様子は無く。シャンクスはさらに声を大きくして、
「とってくれーーー!!」と叫んだ。

「自分で取れ」
渇いた返事がドアの向こうから響き、シャンクスは
「たたんでくれてアリガトウ。だから取ってクダサイ?」
にか、と笑って言ってみた。
「朝ごはんと服とで選べ」
チン、とトースタがかけられる長閑な音が返事と共に聞こえる。少し遠くでかしゃかしゃかしゃ、と卵がかき混ぜられる音と、
カチャンと牛乳瓶がかち合う音をバックに、シャンクスはするりとベッドから降り、フロアに立った。

そして適当に服を引っ掛けて、キッチンに向かった。正しい朝ごはん、そんなことを呟きながら。
オトコには小さめのキッチンでベックマンは既にきびきびと朝食の支度をしていた。
そして漸く置き出してきたシャンクスに目を留めると、に、と 笑って。
「顔でも洗ってこい、まだ半分寝てるぞ」
指でバスルームを指差した。
「んん、」
ぼけーっと歩いていく後姿に、ベックマンは一抹の不安を覚える。もし、シャンクスの船に乗るならば。
あんな調子で海賊≠ェ務まるのだろうか、と。
「――――――っだ!!」
何かにけ躓いたシャンクスが、叫び声を上げ。ベックマンはすい、と方眉を引き上げた。
それとも、彼はまだコドモなだけに、夜更かしが堪えたのだろうか、と。
朝食を胃に収め、紅茶を傾けながら。向き合ったシャンクスに、その日一日どうするのかを、ベックマンが尋ねた。
「一回船に戻る」
「そうか、」
頷けば、シャンクスはごちそうさまでした、とベックマンに言った。行儀はそんなに悪くないのか、とベックマンは煙草に
火を点けながら思い、にっこりと笑いかけた。
すう、と目線が絡み合う。

「また、来るぞ?」
「どうぞ、」
誘いに、と少し声が嬉しそうでベックマンは低い声で笑った。
「夕方までは留守にしているはずだ、来るなら6時過ぎた頃に来い」
「わかった、」
シャンクスが、すい、と優雅に立ち上がるのを、ベックマンは見守る。
「ベン?」
「なんだ?」
く、と首を傾けたコドモに視線を当てる。
「特典ナシでもかまわないからな?」
にしゃ、と笑って告げたシャンクスが、すい、と歩き出して。
ベックマンが返事をする前に、するりと山猫モドキのしなやかさで玄関を抜けていった。

かちゃん、と玄関が閉まる音を聴きながら、ベックマンは、すう、と目を細め。
「さて、どうしたものかな、」
そう独り呟いてから、ひとまず一日の雑用を終わらせるために立ち上がった。
乗るにしろ、反るにしろ。そろそろこの町に居続けるのは、あまり得策ではないという結論には達していたので。
「するべきことはしとくか、」
咥え煙草のまま、まずは朝食の後片付けに取り掛かる。
その間にもこの男の脳は、近く選ばなければいけない道の総ての可能性を割り出し始めていた。




おや?マジメそう?いえいえいえいえ。馴れ初め編ですから!>こら。