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どこまでも続く雪原。
遠くから聞こえる犬の吠え声。 女の手を引き、進む男。二人とも、まだずいぶんと若い。
これは・・・?なんだ?
ゾロの意識は遠くで、二人を見ている。
これは、俺は、夢、みてんのか?
「いたぞっ」
暗転。
じりじりと囲みが狭くなり、男が文字通り斬り開いた逃げ道もあとまもなくで埋まるかに思え。
振りかぶり、閃光。
こいつ、腕わるかねぇぞ、ゾロの意識は夢でも同じ剣士の力量を見抜き。
おしいな、せめてもう少し足場がよけりゃ、多分。
多分・・・?
「きみは、逃げろっ」
「いやあっ」
必死の叫び。
「たのむからっ」
耳に慣れた、
肉を断つ音。続けざまに。
雪は、既に朱に溶けて。
「あきらめなっ。きさまは殺す!女は連れてかえってや・・・」
ぼっと首から鮮血を散らし、男の背後から刀を振りかぶっていた大柄な男が倒れる。
びし、と男の秀麗な貌に赤が散り。
燃え立つような翆の瞳に残酷なまでに映える。
静寂。
「いやよ、いやっ。一緒に、」
男に背後に押しやられながら女が声の限りに繰り返す。
「きみは、生きろ」
押し殺した声。
「いや、わたしはあなたと、逝く。離れるのは、もういや」
「こっちだぁっ」
限りなく次々と近づく声。馬のいななき。
「XXX、」
男の声はひどく小さい。
「だめだ、頼むよ。きみはその子と、生きてくれ」
力の限り、女を抱きしめ言葉を口にする。 口づけ、笑う。
「さあ、いってくれ。生きる、と約束しただろう・・・?きみを、守らせてくれ」
金の髪が流れ、涙と返り血に濡れ、それでも悲痛なまでに美しい女の美貌は、 似て・・・・・・
「サンッ・・・?!」
跳ね起きた。ゾロの額から、冷たい汗がすうと筋を作り、流れた。
「なんなんだよ、いったい・・・・・・」
波音ばかりのこだまする船室でゾロは闇を睨みつけていた。
その日から夢は、決まっておとずれ。
繰り返し、繰り返し執拗に壊れたフィルムのように同じシーンをゾロに見せた。
次の港に着くまで。
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