New Moon on Monday





ヒトは死んだら何になるんだろう―――?



何がきっかけでそんな話題になったのか、いまこのラウンジにいる誰も覚えてはいなかった。

この船の常のように、発端はとうにどこかに紛れてしまっている。食後の話題にしてはあまり

穏やかではなかったけれども、誰も気にした風は無かった。



「いや、おれは死なねえし!」

はははーとご機嫌なのはキャプテン。



「・・…ほ、星だ!」

と、若干ホホの辺りを充血させた狙撃手が言った。

ロマンチストだな、オイ。とのサンジの明らかにからかうような声にさらに血行が良くなる。

「いや、おれもそう思うよ、ていうか。だと良いよな」

船医がくるりと丸い目を動かした。



「そういう話があるわね、」と。

ビビは、そんな二人にアラバスタに伝わる古い昔語りを小声で聞かせ始め。



ナミは「灰よ、」と答える。

でも、タマシイは残るのよ、だからヒトは灰に還れるの。

そう言うと、ラウンジを出て行った。

とんとん、と階段を上っていく軽い足音が波音に紛れて微かに届き、ああナミさんは木のところに

行ったのか、とサンジは思う。



「……エサ」

そして、まさか参加しないだろうと思われていた方向から声が。静かな、といっても良いそれが届いた。



「ハ?!」

「ふうん」

「ケモノかてめえはッ!」

ウソップは固まり、ルフィは最後のデザートを飲み込み、サンジは怒鳴り、ビビは瞬きを数度繰り返し、

トニーの目は真円になった。人間の思考の奥深さに瞠目しているようにも見える。



惑わされんなチョッパー、こいつはどっちかてえとケモノに近ェんだ!

と、サンジが怒ったように自分に言うのを、船医はどこか不思議な気持で聞いていた。



かたり、と小さな音をたててイスから立ち上がると、じゃあな、オヤスミ。

一応残っている面子にそう告げ、黒いシャツをはおっただけの姿はドアを抜けていく。

その方角を、サンジが何となく目でずっと追っていたのも、船医は改めて不思議な気持で見ていた。



そして、キャプテンと狙撃手はもう明日の方向を向いて笑い合い始め。

やがてビビは、おやすみなさい、と全員に笑いかけるようにして船室へ戻っていき。

サンジはふと思い出したように、「ああステキな夢を!」とお決まりの満面の笑みで返していた。








薄闇に、黒い半身は完全に溶け込んでいた。船尾で手すりに寄りかかり、案の定、月見にも

なっていない酒盛りを一人でやっていた。



ぼんやりと、その「若竹色」の髪が、宵闇に浮かんでいる。

この間立ち寄った島の市場の花屋にあった「竹」の色。その呼び方は、1度聞いただけであっさり

サンジの記憶にしまわれた。



「おら。クソゾロ、」

「てめえも飲むんなら勝手に飲め」

剣士も自分の前に立った姿に軽く言って返す。



「さっきの、“エサ”ってのはナンだよ?ヒトのイノチ甘く見てンのか、おまえ」

はあ、と洩らされた大げさな吐息に、サンジの目が剣呑な光を浮かべるものの。

その物騒な眼差は、ゾロの思ったより真摯な表情にぶつかった。



「そんな事でおまえは突っかかってくるのか?」

「そんなこと、って何だよ?」

サンジは、自分が感じていた事を上手く言葉には出来ないだろう事がわかっていた。

普段は饒舌すぎるくらいの自分の語彙も、この男がどれほど意識的にせよ無意識にせよ

「生」に無頓着であるのか解からせる事など叶わないだろうと。だから、余計に・・…



「てめえ、マジで腹立つ。」



最後の部分だけ、言葉に乗せる。




その声と、急に歪みかける表情にゾロは途方に暮れかける。不用意な事を言ったとは思わない。

ただ、時折。自分の中から出てくる言葉にこの男が予想外に動揺するのがいたたまれない事がある

自分を、変えられるとは思わない。理解しろとは・……




―――ああ、そうか。




ふ、と。ゾロの表情が微かに、変わったのをサンジは目にする。




「知りてえか?」




そして、耳にする。静かな声が自分に話しかけるのを。

穏やかな声で話されたのは。以前、大陸の中原で目にしたという光景だった。

遊牧民の集落で、葬儀の場に出くわしたのだと。



「狼、知ってるか?」

「あたりまえだ、バカヤロウ。見たことねえけど」

「その連中の神なんだよ、狼ってのは。大昔の、始祖なんだと」

「狼がか?」

「ああ。」




それでな、と続けられる話は。どこか現実離れしていた。

死者は白い布に包まれて、一頭の牛の曳く小さな車に乗せられる。そして牛は中原を、集落を離れ

遠くどこまでも進んでいく。やがて、牛を狙い狼がやってくる。そして、死者は狼の“エサ”になり、

先祖の、神の体の一部となりやがてまた大地に還っていく、と。そして、その環は途切れることなく

続いていくのだと。




「おれはそのとき、終わるならそういう終わり方が良いと思ったんだよ。だからだ」

「おまえ、それ何歳のときの話?」

「あ?15かそこらだ」

「達観したガキーーッ!」

「うるせえよ」



ふい、と思い出したようにゾロが酒の満たされた杯に手を伸ばし。

その手を、サンジが軽く抑え込むようにする。



「ふうん、」

「なんだよ?」

「さすがにおれも肉は喰えねーしえなァ」

「―――ハぁ?」

何かまたよからぬ事を企んでいやがるのか、とゾロの眉間にシワが寄せられる。



「灰はムセそうだしな。うん、ホネくらいなら齧ってやってもいいぜ?」

笑み。



「でな、そのあと飛び込んでやるから。お望み通りサカナのエサだな、おまえ」

けらけらと。明るくわらって言うのは誰よりも「生」にこだわっている筈だと自分が思っていた男。




ゾロの眼が。ゆら、と何かに揺らいだ気が、サンジはした。




「……サカナかよ、」




骨が、軋むかと思った。抱きとめられて。




「おう、おれはなァ、海に還るんだ」

「そうか。」

「そうだぜ?」

手を自由にし、ピアスごと掴むようにして頭を無理矢理に抱きこむ。



「てめえが先の場合はオプション無しだ。ざまあみろ」

ふ、と腕の力が一瞬、緩み。

「違ェねえ」

耳元で小さく呟かれた。











新月の夜








誓約。







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パラレルばかりやっていると、「おいおい俺らはどうしたのよ」とこのヒトたちは勝手にやってきて

自動書記。で、こんなのが出来上がります。い、いかがでしょう・・・・・?

オトコマエ度60%の、「Night Watch」のヒトだち。あくまで当社比ですけどもー――。