Rowan the Cat’s Life * ぽにゃサンジの一日(6)
『Scary Teddy Scary Lovely』
久しぶりに、大好きな人から小包が送られてきた。
ホテルの人に部屋まで荷物を届けてもらい、開けてみたところ……。
「なに、これ?」
服がハンガーに吊るされた状態のまま、どさりと入っており。
その足元には大x1、中x2、小x2、極小x2の箱が計7つ。
それから、流麗な手による直筆のカードメッセージが一枚、ぺたりと貼られており。
『My sweet kitty now is he a teddy, why not try these for a disguise. S』
“可愛い仔猫チャン、いまはくまチャン、変装にこんなのは如何?”
そう書いてあるのが読めた。
「……どっから色々バレてるの」
カードを拾い上げてまじまじと見詰め、ゆうに五分は考え込んでしまった。
クエナイオトナと命名されたオレの大好きな人が、きらりとエメラルドグリーンのシャープな目を輝かすところを想像して、つい、ぷ、と噴出してしまったけれども。
箱を開けてみれば、一番大きいのは少し底の厚い、がっちりとした黒い革のブーツで。
二つ目に大きかったのは、紫色のテディベア、けれどなぜかお腹が割れて、その中には小さなピンクダイヤのハートが埋まっていた。
3つ目は、正方形の箱で。その中には軍人が被るような黒い帽子が一つ。何故だか中央には銀で出来た猫がエンブレムよろしくくっ付いていて。
そして4つ目は、開けた瞬間びっくりした。穴を開けなくてもいいリングの銀の小さなイヤリングに、革と銀で出来た首輪みたいな十字架のチョーカー、じゃらじゃらとブレスレットが10個に、指輪が4つ。妙にリアルな銀のフィッシュボーンがぶら下がった革のネックレスと、細い銀のチェーンネックレスが1本ずつ入っていた。
極小の箱には、紫色のマットな割にはびしりと色の濃いネクタイが1本。
もう一つのには、真っ黒の眼帯。
そしてなにより驚いたのは、もう一つの小さな箱に入っていたカチューシャのようなソレ。
黒のビロードで出来た、柔らかいクセにピンと立った猫の耳。至極リアル。
「……猫にテディ……しかも、スプラッタなテディ……何考えてるんだろ、あの人…?」
ハンガーボックスの中に掛かっていたのはクローズバッグが3枚だけで、ちょっとだけほっとした……開けるまでは、のことだったけど。
で、開けてみたら何があったかというと。
黒い革のヒップハングなボトム。これは腿辺りがぴったりとしたブーツカットのもので。この着まわし以外にも使えるシンプルなものでほっとした。
次いで黒いシルクのとろりとした長袖のシャツ。襟の部分と袖の部分が割合かっちりとしていて、けれどこれも極めて普通なデザインで更に安心した。
だけど、オカシイのはジャケット。軍服みたいにかっちりとした仕立てで、なんだか階級証みたいなモノまで胸ポケットのところにくっ付いていた。当然ラペルにも小さな銀猫がくっ付いていて、絶対にオカシイ。
ボタンはクローム、色は黒で、全体的なイメージとしてはなんだか第二次世界大戦中のナチの制服のようなカンジだった。
その上、背後には小さな蝙蝠の、やたらリアルな羽が縫い付けてあった。ワイヤーでも入っているのか、ぴし、と広げた状態でキープされていて。
「……オレに何をさせたいの、あの人は……」
思わず、ぽつりと呟いてしまう。
「というか、オレを何に仕立てあげたいんだろうな……?」
ハロウィーンにはまだ早すぎるんじゃないのかな、という疑問はさておき。それらの品物を前に、たっぷり10分は考える――――着るか、着ないか。
「着て写真を送れ、とか書いてあるわけでもないしなー」
ぺら、と服のラベルを見てみる――――“aToMiK FACTORY.INC.”……ふぅん?
ちらりと時計を見上げる。
ゾロが帰ってくるまで、あと30分ほどある。
うーん……まあオモシロイかもね?
ささっと服を脱いで。
先ずはボックスの中からボトムとシャツを取り出し、着込む。
このあたりはまったく普通の服だ。
紫のネクタイを締めても、まだ普通。
ブーツもまだまだ全然オーケイな範囲だ。
そしてアクセサリ類で腕と首と指先を飾って。ネックレスやブレスレットは全部服の下に隠れるから良かったし、指輪はシンプルなデザインのものばかりだったので、これもまたオーケイ。リングのピアスも1個だけ、ゾロのマネをして左側にくっつけてみた。
けれど、ここからがおかしくなる――――まずは猫耳。
妙にリアルな形状をしていて、金の髪の間から、ひょこんと覗くサマはヘンな気分だった。
クリアなプラスティックで出来ているサポート部分は髪の中にきっちりと隠し。
眼帯を付ける前に、ミリタリィ風ジャケットを着込む。
あ、やっぱり軍人みたいになる。猫耳で浮いてるけど。
キャップを被る前に眼帯を左目の上にかけて――――うーん、片目だけって疲れそう……。
光りが見えるから、多分透けて見えてる筈なんだろうな。
視力の悪い自分がちょっと恨めしい……ただでさえ視界は悪いのに、これじゃほんと周りが見えないよなー。コンタクト入れたら少しはマシなのかな…?
最後に箱からキャップを取り出す。
ひょい、と被ると、柔らかな猫耳がプレスダウンされて、ぺたんとした耳になって帽子の淵から覗いてた――――これはちょっと、可愛いかも。この耳……。
クロゼットの内側のミラーで全身を確認すると。
これはちょっとハードで、ゴシック・ファッション風な色使いなんだと知る。
それでもラペルやキャップの銀猫がちょっと笑えるし。
ぴこん、と覗く黒耳が可愛いカンジだ。
「でもなぁ……?」
この服でいったいオレにどうしろというのかが解らない。
猫軍猫少佐?―――――謎すぎる……。
もう一度、大好きな人からのメッセージを読み直す。
My sweet kitty now is he a teddy, why not try these for a disguise.
後半は多分シャレだろう。
こんな格好は変装どころか仮装の域だし。これでゾロと出歩いたら、目立つ所のハナシじゃない。
ということは前半部分か?
「あ……え、ウソ」
猫からクマチャン……そういえば、なぜか最近はテディってスタッフさんにも呼ばれるようになってきたしな、うーん、猫の本分を忘れるなってコトなのか……?つうかオレが人だって思ってる人はいないってことなのか???
これは一度、直訴してみるべきなんだろうか?
最初の時から、彼が何を考えているかオレには読めなかったものだけれど。最近じゃあもっと理解できません、って?
がちゃ、とドアが開く音がして。
クロゼットの扉を閉めて、リヴィングに向かう。
出しっぱなしの箱と紫色のテディベアをしげしげと見詰めていたゾロと視線が合う。あー……。
「おかえり」
ここは一つ敬礼でもしてみるべきだったんだろうか?
つうかゾロ、オマエなんであんまり驚いてないんだ?なんかむしろ、ソトに居る時の顔してるし。真顔で、ちょっとシャープな目線の。
「Hallo, meine Liebenkatze」
ゾロがそう言って、すい、と腕を組んだ。
リーベンカッツェ……???
ドイツ語はちょっとワカラナイんだけどな……?
僅かに首を傾げても、けれどゾロはじーっと見詰めてくるだけだ。
上から下まで、検分するように。
細かく、しげしげと、充分に時間をかけて。
うーん、これは後ろも向いてみるべきなのかな?……というか、あああ、なんか今更恥ずかしいんだけどナ……?
あの、と声をかけようとした瞬間。
うん、とゾロが頷いて。それから数歩離れていた距離を歩いてきて、ひょい、と帽子を取られた。
それはそのまま、すい、とカウチに放り投げられる。
それからジャケットのボタンをすいすいと外され。それもひょい、と引っ張られて脱がされる。それもそのまま、カウチの背凭れに放り投げられて。
ぴ、と耳も引っ張られ、黒耳もカウチの上に収まり。
しゅる、とネクタイも両手で解され、やっぱりカウチの上に落ち着いた。
で、笑ってる声が響いた。
「何してンだよ一体オマエ、」
すい、すい、とシャツのボタンまで外されていく……うん?総着替え…???
「何して、っていうか。送ってくれたんだけど、あの人がいったいオレに何をさせたいのか解らなくて。ひとまず着てみたんだけど……やっぱりこれって、猫の本分を忘れるな、ってことかなあ…?」
じ、とゾロを見詰めていれば。返された応えは――――に、と笑顔がヒトツ。
ううううん……?
する、と脱がしていったシャツを、ゾロがくしゃくしゃにしていた。
少しだけ、笑っているような目。
鼻歌でも歌いそうに、機嫌がいい――――うん???
それからゾロが徐にシャツに歯を立てて。
びっ、と音がした後、びりり、と裂かれていく音がする。
しかも一箇所だけじゃなくて何ヶ所か、裾にも、袖にも、裂傷が残され。
再度くしゃくしゃにされてから、ひょい、と見上げられる。
そのまま、つい、と差し出されて――――あ、これは着なおすんだ?
デストロイド加工されてしまったシャツを着て。ボタンは上3つほど、しないでおいて、代わりにアクセサリ類を前面に押し出す。
その間にゾロはベッドルームのほうに消えていって――――がた、とか音がしているから、きっと着替えているんだろう。
紫色のテディを拾い上げる――――ピンクのハートが零れ出た、スプラッタなテディベア。
テディベアだからリアリティがなくて、だからホラー・スプラッタ系が苦手なオレでも平気で触れるし、見ていられるけど。でもちょっとコレは可哀想だよなあ…。
これでもちゃんとした商品みたいだから、そもそものデザインがこうなんだろうけど。
「……オマエ、その胸縫ってあげようか…?」
モノを言わないテディベアの鼻先を撫でて、少しだけ乱れた毛を直してやる。
す、とゾロが戻ってきた。
黒いシャツに、腿から膝丈下まで花鳥の刺繍が入った白いデニムを合わせて。
開け放たれた胸元には、ずるっと長いネックレスが垂れ下がっていた。
そして、すい、と光沢のあるベージュというよりはむしろマットな金色のジャケットを羽織っていた――――とっても“ロックスタァ”なゾロの服装。
くしゃくしゃ、と髪を撫でられた、というか、解された。
それでもって、すい、と耳元に落とされた口付け―――――あ、どうしよう。ものすごくウレシイ。
「よし、行くぞ」
「うん?」
シャツ、ずたずたなんだけどナ……いいのか?
すい、と手を引っ張られて、部屋を後にする。
視界が悪い分、いつも以上にゾロの背中を目で追いかける。
というか、オレ。携帯も財布も持ってないんだけど。ま、いいか。
地下パーキングへと降りるエレヴェータが来る前に、ぎゅ、と肩ごと捕まえられ、抱き締められた。手放す暇がなかった紫色のテディベアごと。
ふにゃ、と自分が笑ったのを知る――――シンプル設計な人生でオッケイ。ゾロに愛されて幸せになる人生。猫だろうがテディだろうが、別に構うもんか。
で。車に乗り込んで向かった先は、ニューヨーク市内の高層ビル。
地下パーキングにゾロが車を乗り入れ。
エンジンがストップされる。
シートベルトを外したゾロが、外そうとしていたオレのも外してくれて。
そのまま、すい、と頭を引き寄せられて、柔らかく口付けられる。
「ん、」
甘く唇を開いて誘い、とろりと深いキスを交わす。
すい、と離れると同時に、眼帯も外されて。
く、と小さく笑う……うん、眼帯もちょっと、ねえ?
ふにゃ、と笑ったまま、間近でゾロを見詰めていれば。
す、と耳元に唇を寄せられた。
低い声が甘く囁く。
「Hi, my love cat」
あ、ソレ。さっきのドイツ語?リーベンカッツェってラブキャットって意味だったんだ…?
かぷん、と耳朶に歯を立てられ、びくりと肩が跳ねた。
「んン、」
思わず洩らした声に、ゾロが低く笑った。
そして、運転席から降りていく。
オレもドアを開けてパーキングのコンクリートに立ち。
腕の中にまだあったテディベアを見下ろす――――あ、そうだオマエをどうしようか?
車を半周してきたゾロが、すい、と腕の中からテディベアを取っていった。
「置いとけ」
そう言ってソレをナヴィシートに座らせる。
ぱたん、とドアを閉じられ。そのまま、ひょい、とゾロが目を覗き込んできた。
「連れてくンな、一匹で上等」
にか、と笑顔を浮かべたゾロの言葉を反芻する――――あれ?
ぴ、と電子音と共にドアがロックされ。ゾロに手を引かれてラウンジに向かう。
前にも何度か来た場所だ、ベッドくらいに大きなソファが置かれている会員制のラウンジ・バー。
エントランスを潜り。
すっかりカオを覚えられてる店員に席に案内され、すい、とソファに腰を下ろし。
ちらりとメニューカードを見下ろし。さらりと二人分のオーダを店員に告げたゾロの耳元に口を近づける。
「Hey Zoro, am I your teddy love cat?」
“な、ゾロ。オレってばオマエのテディ・ラブキャット?”
ひょい、とゾロが顔を覗きこんできた。
返事。
「Naa」
そして、とても自慢げに、にか、と笑って言った。
「Just the only “Love”, Sanji」
“違ェよ。ただの、たった一つの“愛”ってヤツだよ。サンジは”
あ、ヤバい。
心臓、跳ねた。
怖いものナシの“王様”みたいな無邪気でハンサムな笑顔、オレが一等好きなカオをゾロがしたから。
すい、とゾロに頤を指先で引き上げられ。
程よい暗がりの中、左側の目許、とん、と唇が押し当てられた。
くそぅ、ここがラウンジじゃなかったら、間違いなく押し倒してキスしてるのに……!
腕を伸ばし、ゾロのジャケットの下、シャツを軽く握り締める。
目を伏せ、このままゾロに抱きつきたいのを我慢して、身体を離す。
離れ際、ゾロの目を真っ直ぐに見上げ、声を落として囁く。
「Then love me tonight, darlin’. Or else I’ll cry all night like a hell cat for you」
“だったら今夜オレのことを愛してナ。じゃなきゃヘルキャットよろしく、アナタのことを欲しがって一晩中鳴いてやる”
(*帰り際、駐車場の車の中でぽにゃってば濃厚なキスを仕掛けておりました。相変わらずな最強ハニィちゃん。ジラフに戻ったら押し倒すんだろうなー…ベッドまで待てるのかしら?<ヲイ。でもって、テディ伝説と共にどうやら知れ渡っているらしいですな、刃物男にはいろいろと>笑。ギフト魔な刃物男はきっとシャレで贈ったんだろうな、スプラッタ・テディ。アタシが思わずハンズで見かけて、小話が書きたくなったアイテムです。記憶違いで紫のコは腹が割れていなかったのですが、そこはイタコ異世界ってことでご容赦ぷりーず。で、コイツ。欲しいか欲しくないかと訊かれれば……ミニサイズですが、買ってしまいました>笑。ちなみにaToMiK FACTORY.INC.はトキちゃんところのプレタポルテ・ラインToMiKのチームのコがコンセプト・デザインで勝負している限定生産系クローズショップのブランドです……とか説明してみたり>笑)
(**はい、また遠隔操作で小話に参加したぞろのあです!………あいかわらずのおれさまガキキング。でも、ぽにゃといると機嫌いいんですよう、これでもねv>フフフ。二矢でした)
|