*13*

細かく震える切れ切れの息をルーシャンが乱れきったリネンに零していた。瞬きさえ忘れたように眼差しはどこか空ろだった。
額をリネンに押し付けるようにして一度息を深く吸い込もうとし、けれどそうすることさえも苦痛であるかのように眼をきつく瞑り、また浅く揺れる息を洩らしていた。
意識を手放すことなど許されずに、高められ続け、翻弄され続けていた。神経が焼き切れそうになる快楽は、苦痛と変わらなかった。それでも、高められ、泣き。
寝室のドアが閉じられた音に、安堵していた。ベッドに腕を着いて起き上がることさえ出来ないような状態で、打ち棄てられたようであっても。
四肢が寝台を溶け出して地面に吸い込まれていきそうに重い、瞬きすることさえ辛かった。
僅かに足先を動かすだけでも、幾度も体奥に注がれたものが腿を伝い落ちそうに感じ、ルーシャンがまた瞼を一層きつく閉ざしていた。
身体を動かすことは、まだとても出来そうになかった。
熱すぎるように思える迸りを初めて奥深くに注ぎ込まれたとき、自分があげたのは紛れもない悲鳴だったろう、と鈍く痛む頭で考えていた。
快楽と薬に緩みきった意識が望むままに唇に上らせていた言葉は、常ならば音に乗せられるはずも無くて、唇にまたソレを乗せるまで気が狂いそうになるまで高められ続けた。
泣き咽ぶように、幾度も懇願し。続けざまに幾度も引き上げられて悲鳴じみた声を上げていた。
のろのろとルーシャンが瞼を引き上げ、頬をリネンに預け直す。その些細な動きさえ信じられないほど努力を要した。
こんなにまで、手酷いファックがある、なんて思わなかった、とどこか他人事めいて思う。これは何のしっぺ返しだろう、と。あるいは、何に対しての。
頬に落ちかかる濡れた髪が鬱陶しい、払い除けてしまいたい、けれど腕を引き上げることなど今は不可能に思えた。体中に埋め込まれた疼きも、まだ収まりきらない鼓動も、全部洗い流してしまいたかったけれど。指も上らないような気がする今は、無理だった。

けれど、閉じられたときと同じようにまた寝室のドアの開く音がし、びくり、とルーシャンの裸の肩が震えた。
「またずいぶんとお草臥れのようですね」
まさか、と辛うじて視線だけを上げ、そこに佇む男の姿を認めてルーシャンがカオを歪めた。
「むこうに、いけ」
音にさえ成りきれないほどにひび割れた声で言えば。
「ご冗談を」
そうさらりと返され、身体を起こそうと足掻き。けれども腰から下が切り取られたように感覚が遠かった。
近付いてきたロイがルーシャンの口許に氷水の入ったグラスを押し当て、嫌がるようにカオが僅かに反らされていた。その冷たい気配が遠のき、ルーシャンがヒトツ息を呑み込んでいた。
一旦寝室からいなくなったロイに、「これから」起こることを予感しルーシャンが唇を噛み締める間に、バスルームから水音が届いてくる。
自由の効かない身体でそれでも抗い、あっさりと寝台から抱え上げられたことに感情が縺れ合いすぎて言葉を失くしかけ。「準備」を施されたときと同じように浴槽に下ろされ、けれど抗う余力も、気概も擦りきれていた。けれど、それもスポンジで身体の表を拭われた時までであり、開かされた脚の間に機械的に手が伸ばされ、それが狭間に挿し入れられかけたときは浴槽の湯が縁から溢れだすほどに身体を捩っていた。
「―――――――――さわ…っ、」
他人にそこまで曝すよりはまだ、貫かれるほうがマシに思える。自分でする、と切れ切れに訴えても、一切取り合わない声が、「ココ、裂けますよ、そんなにしたら」とぱしりと言い切っていた。
内に残されていたものが掻きだされていく感覚に呻き、ルーシャンが目元を拳で抑えるようにし。「オレのことは医者とでも思ってください、」そう言葉が継がれ、新しく浴槽を温めの湯が満たしていく間も、ずっと俯き顔を上げることをしないでいた。濡れた髪から雫が顎にまで伝い。指先から僅かずつ、感覚が鈍く戻り始める。 緊張と弛緩を繰り返し過ぎて、神経が剥き出しに痛む気さえする。

「あんな意地張ってたらダメですよ、ボスは意地張りキングなんですから」
どこか呆れたような声音が届き、ふ、とルーシャンが肩を揺らした。コドモにでも言い聞かせるようなソレ。扉を隔てていても、室内の様子は伝わっていたのかといまになって知る。
「意地を張れば張るほど酷くされますよ?さっきみたいに」
そう言って、溜息を吐くようにする相手を思わずルーシャンが視線をあげて見詰めた。
懇願する言葉、それを口にすることを拒み続けていた。高められ引き上げられ、高みの天辺で手放したくても、ソレを言葉にして請うまで許されずにいた。
イきたい、と口にだして相手に懇願するまで、熱を塞き止められて涙を零していた。ギリギリに縋っていた自分の矜持。けれど、それも砕かれた。
ィきたい、と泣き咽び、許しを請い。身体を深く貫かれて精を零し、体奥に熱い滾りを浴びせられて達した。
「ボスは酷くなれるヒトですけど、極悪人じゃないんで優しくもなれるんですよ?」
そう、視線を合わせたままで言葉にされた。
だからといって、自分にどうしろというんだ、と。ルーシャンが唇を噛み締めた。
「やさしくされる謂れなんか無い」
 だから、それだけを返し。膝を抱えるようにし、俯く。
アナタが楽にはなれますよ?と声が返してくるのが聞こえた。ぐ、とルーシャンが嗚咽を押さえ込んだ。
そして。
「なぁ、頼むから。出てってくれ」
 それだけを言葉にしていた。



*14*

「ボォス?ちょぉおおっといいですか?」
ドアから、困り果てたロイの顔が覗いて、パトリックは組み立てていたM16から視線を上げた。中東に輸出しようと試みている中古武器の抜き打ち検査を命じた結果のものだ。
「入ってこい、ロイ」
許可をすれば、はあ、とがっくり赤毛頭を項垂れさせて、ロイが部屋に入ってきた。
「どうした」
「やー、えー、ルーシャンさまですけどねえ?」
ぎゅう、と眉根が寄ったロイの様子に、パトリックが片眉を跳ね上げた。
「さま?」
「いやだって、オレのお猫様じゃないですもん」
ぱたぱた、とロイが手を振るついでに首まで横に振っていた。赤い前髪がぱさぱさと揺れて、ふン、とパトリックは鼻で笑った。
「で?お猫サマがどうしやがった」
「お猫様らしく、盛大に吐きましたよ。食事全部」
「草はやってねえぞ?」
「やあまあウィードのほうがよかったかもしれませんけどね?バッドトリップしたかもしれないですけど、ってそうじゃなくて!」
がくん、とロイが項垂れた。
「あまりに食事されないので、無理を言って何口か食べていただいたんですけど、アウトでした」
「アンリの食事を拒否するとはな。アレはウチで抱えているかなりレヴェルの高いコックだぞ?」
首を傾げてロイを見下ろせば、そういうことでもなくって、となにかを横に寄せるジェスチャをロイがした。
「ストレスですよ、ボォス」
はーヤレヤレ、という口調になったロイに軽く蹴りを入れる。
「知ってるに決まってるだろ」
「だったらちょっとヤバイってのもお分かりですよね?」
「判るさ。抱いてりゃアバラが当って痛い」
「それでも抱かれますか」
溜息を吐いたロイに、首を傾げる。
「抱かなけりゃペイされねえだろうが」
「まあ、それもそうなんですけど。一応、お相手にしてるのは仔猫チャンなんですよ?」
「生意気で学習能力の薄いバカな仔猫、な」
抗うわ、噛み付こうとしてくるわ、素直に陥落しないわ、どうしようもねえよ。そう言ったパトリックに、ふるふる、とロイが首を横に振った。

「情でもかけてさしあげたらどうです?」
「なんのために?」
「手懐けるために、ですよ。アメとムチ、クッキーと号令、なんかそういうペアで躾けるもんでしょうが」
ロイが告げたことに、首を傾げる。
「だから、なんのために?」
「……へ?」
「オレは金の代わりに身体を差し出してもらってるだけだ。情だの躾けだのは関係無ェだろうが」
淡々と告げたことに、まぁそうですけど、とロイが唇を尖らせた。
「それでも、嘘も方便って言うじゃないですか」
「懐かれてどうすンだよ。1ヶ月って期間が切れてるから、オレは拾うことにしたんだぜ?」
それが終わったら無事に社会に返すさ、そう告げたパトリックに、ロイが首を傾げた。
「でも、身体を壊されたら抱くこともできませんよ?」
「死んだら放り出すだけのことだ」
「まぁたまた。ボス、いままであんな抱き方した相手、いないじゃないですか」
ひょい、と片眉を跳ね上げたパトリックに、ロイがまっすぐに視線を合わせてきた。
「ミス・アンダーソンも、ミス・エヴァハートも、ミス・レントンも、ミス・グリューネヴァルドも、マダム・スイも、マダム・エレオノーラも。あんな風に執着されたことがなかったじゃないですか」
いままでお戯れにお抱きになった男性は、そもそも終わったら直ぐにベッドから放り出してましたし。そういい募ったロイに、む、とパトリックは眉根を寄せた。
「そうだったか?」
「そうですよ。マダム・バタフライみたいな展開になってたじゃないですか」
カンキチオミヤ、と奇妙なアクセントで言ったロイに、はあ、と溜息を吐いた。
「オマエのジョークのセンスはわからん」

「そですか?ってそんなことより!お猫サマですってば」
もうお食べにならずに水も飲まずに3日目ですよ。そう言い募ってくるロイに、肩を竦めた。
「分別のつかないガキじゃねえんだ、腹が減ったら……」
「だから!ストレス性なんですってば!」
水分を摂取されても、吐かれますよ?と告げたロイに、溜息を返した。
「薬でも飲ませるか?」
「飲んでも吐きますって」
「じゃあ点滴だな。栄養剤と生理食塩水、それに精神安定剤でもブチ混んでおけ」
「大人しく点滴受けられると思います?」
「手足括っとけ。文句があるならメシを食えるようになってからにしろ、といえばいいだろ」
「ボォス、乱暴なんだからもー」
BOOO、と言いたそうなロイの声のトーンに、パトリックは軽く肩を竦めた。
「乱暴でも一番効率的だろうがよ」
「まあそうですけどねえ?……わかりました、点滴ですね」
「ドクタ・アンソニーに一度見せろ」
そのついでに点滴も用意させろ、そう言ったパトリックにロイが頷いた。
「検診もしていただいておきます」
「ものはついでだからな、そうすればいい」
血液検査もしておけ、そう言ったパトリックに、小さくロイが頷いた。
「判りました。今度から腕や手首などを使いますので、拘束する場合はあまり強くなされませんよう」
「解かっている」
「ほんとですかぁ?あ、首も絞めたらダメですよ?クセになったら大変ですからね」
ちっちっち、とでもジェスチャーしたそうなロイがきゅっと眉根を寄せたのに、くう、とパトリックは口端を吊り上げた。
「締まってイイのは、ゲルダの時に経験済みだがな」
ふ、と。いつの間にか暗殺者に成っていた元愛人のカオを思い出した。
柔らかなブロンド、ぎらぎらと煌いていたヘイゼル・アイズ、たっぷりとした乳房と、柔らかく蕩けた熱い蜜壷。
枕元に仕込んであったベレッタで跨ったままだったゲルダの頭を打ち抜けば、飛び散った脳漿と共に、それまで感じたほどがないほど強くウチに引き絞られたことを覚えている。
「アレは嫌ですね。掃除が大変です」
ぺぺ、と手を振ったロイの返答に、くう、とパトリックが笑った。
「ばぁか」

「それじゃあ、お猫サマには点滴と精神安定剤、ですね。それだと多分明日は、」
言葉を切ったロイに、パトリックは肩を竦めた。
「明日は多分使い物にならねえってンだろ。まあしょうがない」
あっちも休ませてやらねぇと生成が追いつかない、と笑ったパトリックに、くすん、とロイが苦笑した。
「ボスは絶倫ですからねえ。ほんと見習いたいですって」
阿呆抜かせ、と笑ったパトリックに、ロイがにかりと笑った。
「んじゃ、ドクタ・アンソニーに手配しておきますので。ボスは心置きなく仕事をしてください」
す、と部屋を後にしていったロイがドアを閉めていくのを軽く見遣って、パトリックは小さく息を吐いた。
「ハンスト、ねえ…」
身体だけが拒否しているのなら、意思が拒否しているよりかはまだ改善しやすいか、とパトリックは薄く笑った。
しょうもねえガキだな、と思いつつ、けれど少しは休ませてやらないとダメなのは、本能的に解っていた。
飲まず食わずで睡眠も取れていないルーシャンは、見た目にもずいぶんと“酷く”なっていた。それだけの“負荷”を自分が与えているのはわかっていたけれども、それでも最後の最後まで折れようとはしないあのガキの意思の強さは、いっそ天晴れだとも思う。
ふにゃ、と。酔っ払って笑いかけてきたルーシャンの笑顔を思い出す。あのカオは甘えることを熟知していると同時に、どこかとても悲しそうだった。
一人であそこまで泥酔した人間が、内側に平素では晒しきれない傷を隠し持っていることなど、フツウのことではあったけれども。
「バカなガキ」
一言で切って捨てて、ルーシャンがどういう人間なのか推し量ろうとすることを止める―――――そんなことはパトリックにとってはどうでもいいことなのだから。

『ィ、きた…ぃ、っ』
泣き声を抑え込んだかのように途切れた声が耳に甦る。
昨夜、というよりは今朝未明のこと。少々生意気に意地を張ったルーシャンの内側を優しく緩く突き上げながら、根元を戒めたままでいた時のこと。
きつく攻め上げては緩めて、断続的に押し入れてはゆるゆると時間を置いて内側を攻め。薬もなく、意識を快楽に失わせることもせず。ずっとコントロールしてルーシャンの身体を高め続けていた。
イきたい、と。身体を震わせて涙を零し、ぎゅう、とリネンにしがみ付きながらルーシャンが何度も繰り返した。
プリーズ、とは言わずに。イかせて、とも言えずに。
ぐ、と天辺から伝いこぼれた蜜でぬちぬちと湿ったオトを立てて滑る屹立を絞り上げたまま、袋を指先で揉み上げ、ぐちゅ、ぬちゅ、と体内を貫き、内臓を掻き混ぜるたびに、ひ、と甲高く喘いでた。は、は、と荒い息が苦しそうで――――――けれど。
『だから?』
そう耳元でパトリックは笑って返した。
『イキタイから、なんだ?』
ルーシャンを貫いている間、達していなかったのはパトリックも一緒だった。だから同じほどに吐息は熱く、意識はチカチカと限界を訴えるほどに官能は高まっていたけれども。
それでもこれは“プレイ”ではなく“躾”で。だからこそ、ルーシャンがきっちりと根を上げてしまうまではどうしても許してはやれないのだった。
その意思の強い生意気な精神がぽきりと折れるオトを聞くまでは、どうされたって許してやるわけにはいかなく。
ぐう、と嗚咽を噛み締め、くう、と内側で突き入れた屹立を締め上げて、ルーシャンが身体を震わせていた。
『ゥ、アぁあ…っ』
濡れた声が酷く耳に甘かった。バックから貫いているのでなければ、耳元で酷く心地よかっただろう甘い悲鳴。びくりと揺れた腰の中心をキツク狭めたまま、ぐ、ぐ、とキツく内側を突き上げた。
『ルーシャン?』
『ひ、ァ、…っ、』

ぼろぼろと熱い涙が頬を連続的に伝い落ちていき。噛み締めても直ぐに解ける真っ赤な唇は小刻みに震えていた。
逃げるように腕がリネンに伸び、ぐしゃりと縋るように生地を握りつぶしていきながら、ひくう、と喉を嗚咽に濡らして言った。
『ィ、かせ……っ、て、』
ぼろぼろと涙が次々と零れていく。イカセテ、と繰り返されて、パトリックは薄く笑った。
『オーケイ、子猫チャン。やれば出来るじゃねえか』
ふわ、と戒めを緩めながら、ぐちゅ、ぐち、と感じる場所を遠慮なく擦り上げれば、言葉に身体を強張らせていたルーシャンがびくりと肩を揺らした。
『―――――――――ッ、ん、ア、っ』
そう声を切れ切れにあげながら、ぶる、とルーシャンの身体が仰け反りながら震えた。
手からはぽたぽたと押さえきれないほどの蜜がリネンに滴り落ちていき、内側にはきつく搾り取られていく。
『く…っ、』
パトリックも呻いて、身体が望むままに熱い迸りを奥で注ぎ込んだ。
『―――――ィ、ァ、アぁっ、』
そう声を上げて、ルーシャンがリネンをきつく引き絞った。荒く喘ぎながら、それでも快楽を得ているルーシャンがまた涙を零していくのを見詰めて、ぎりぎりと絞り上げてくるのを享受した。
リリースを終えて直ぐに、また濡れた内のスポットを擦り上げ始める。濡れそぼった先端は親指で割り、きつく嬲って濡れた蜜を尿道の入り口から広げていく。
『っヤ、ぁ…ッ』
びくりと背中を反らせたルーシャンの屹立を柔らかく揉みながら、一点だけを狙って攻め上げる。
『やだ、ゃ、あ、ゆるし……っ、』
咽ぶように泣きながら、頭を振ってブロンドを乱すルーシャンの内側をきつく抉る。
『イイんだろ、ルーシャン。これはオマエ、快楽じゃねえかよ』
悲鳴に似た声をからかうように、何度も何度も突き上げる。快楽をずっと塞き止められていたルーシャンは、すぐに高まっていき。
『ふ、っぁ、あ―――っァアぁ、っ』
びく、と跳ね上がった膝に身体が揺れて、また角度が違うところを突き上げる。
どくん、と屹立が脈打って、熱い飛沫が今度は掌ではなく直接リネンに放たれていった。ぎゅ、ときつく内側を締め付けられる。
ひ、と喉を鳴らしたルーシャンの身体を引き寄せて、びくんびくんと跳ねる身体を抑え込んだ。バック越しに抱き寄せて、耳元に口付け。手の中に屹立を取り戻して、また最後まで搾り出す。

『う、ぁ、ヤ、やァ…っ、』
震える身体に笑って、ちゅく、と項を吸い上げた。
『キモチよくて堪らないクセにな、ルーシャン?』
濡れた胸元を優しく撫で上げ、てろりと首筋を舐め下ろした。
『んぅ、』
とろりと甘い呻き声を、ルーシャンが零していた。
『もっと欲しいか?』
ちゅく、と耳朶の下を吸い上げて、質問する。ぐう、と背中が撓んだルーシャンが、ふる、と首を横に振っていた。
『なんだよ、もういらねえのかよ?』
開きっぱなしになった唇の間から、とろ、と唾液が伝っていった。
『ちっとも足りねぇんじゃねえのかよ、ルーシャン?』
ずく、と奥深くに突き上げるようにすれば、
『ん、んあ、』
甘い悲鳴じみた嬌声が、押し出されるように零れていった。
濡れて震えているようなトーンに、くく、とパトリックは笑った。
『ほら、な。もっと欲しいんじゃねえかよ、ルーシャン。そんだけ濡れた声出して、こんだけココを張らせておいて、欲しくないわけがねぇだろうが』
ぎゅちゅ、と濡れた屹立を絞り上げて、耳元に息を吹き込む。
『ほら、欲しい、って言ってみな?』
は、は、と荒い息を零して、ぼろぼろとルーシャンがまた涙を零していった。ゆる、と首を横に振られ、ち、と舌打ちをする。

ぢゅく、と内側から屹立を引き抜き。ルーシャンの背中をリネンに落とさせてから、高く両足を上げさせて、また開ききった内側に屹立を押し込み直した。
『あぁあっ』
そう悲鳴めいた嬌声を上げて、焦点の合わないブルゥアイズが見開かれていった。ぐう、と浮いた背中に腕を差し込んで、ゆるゆると屹立でリズムを刻み始める。
『じゃあもう一度、最初からやってみるか、ルーシャン?』
とろ、と濡れた屹立を掌で撫で上げる。
『オネガイが出来るようになるまで、ガマンしてみるか?』
『ゃ、…ゆるし、』
ほろほろ、とこぼれる涙を舌で掬い上げて、さらりと頬を撫でる。
ふ、と零された吐息が揺れたのに、すい、と片眉を跳ね上げ。混乱しているブルゥアイズを覗き込んで、ぺろりとその唇を舐め上げた。
『ルーシャン、泣くなって。イイだけだろ?ン?』
ゆらりと更にブルゥアイズが揺れ。その両手を片方ずつ引き上げさせて、背中に回させる。
『ルーシャン、仔猫チャン。怖がってンじゃねえよ』
く、と強張った腕に笑いながら、ちゅく、と目じりに口付けて、ゆる、と腰を揺らした。
『意識が飛ぶまで感じて、ダメんなっちまいな』
涙に歪み、混乱の極みにあるルーシャンの濡れた髪を鼻先で額から退かした。
『仔猫チャン、素直に可愛がられちまいな』
さら、と背中を撫で下ろしながら、ゆる、と腰を優しく突き入れる。更に身体が強張ったのに、くくっと笑った。
『今度はガマンしなくていい。好きなだけ気持ちよくなっちまえ。いいな?』
ちゅ、と甘く唇を吸い上げてから、ぐん、ときつく突き上げるリズムを開始した。
『やだ、やぁ、やめ…っ』
また、酷く蕩けた嬌声を零しながら、ぼろぼろと泣き出したルーシャンの身体をいっそうキツく突き上げながら、パトリックは笑った。
『あァ、こんなに硬くしといて、ヤダもヤメロもねえよ。気持ちいいんだろ、仔猫チャン?オレもオマエの中ですげえイイよ』
ぬちゅ、と濡れそぼった音を立てて、濡れた屹立を柔らかく手で絞り上げた。
『こんな音立てて、イヤはねえよ。だから素直にイイって言っとけ』
ぎゅう、と誘い込むように内に絡み取られて、パトリックは笑った。
『ルーシャン、仔猫チャン。オレはすげえ“イイ”ぜ?』
きゅう、と背中に爪を立てられ、コツン、と額を合わせる。
『だから、ほら。オマエも言いな。“イイ”って』

ぐぅ、と歯を食い縛ったルーシャンに、くく、と笑い。濡れた屹立の先端に爪を立てた。押し上げられて仰け反った体を、ぐ、ぐ、ぐ、と早いリズムで突き上げ始める。
泣き声交じりの嬌声を零したルーシャンのカオを覗き込んで、きつく突き上げながらパトリックは言った。
『イイ、って言えないなら、イけるまでこうしてっから。自分で弄くるなり、オレにオネガイするなり好きにしな?』
ゆら、ゆら、と揺れる脚に両手をずらして、突き上げながらパトリックが告げれば。ぺし、ぺし、と。力のない手で腕を唸って叩かれ、くくっと笑った。
『そっか。一回じゃあ足りないってか。そりゃ済まなかったナ』
ぺろりと唇を舐め上げて、ぐん、とルーシャンをキツく突き上げた。
『問題ない、何度でも零すモノが無くなるまでヤってやるから、安心してナ。ルーシャン、仔猫チャン』
がり、と。腕を引っ掻きながら、ルーシャンが身体を仰け反らせ、そのまま蜜をパトリックの腹に飛び散らせていった。声もなく、切れ切れな様子に、ハハ、と笑って。トン、とルーシャンの開いたままの唇に口付けた。
『想像でイくとはね。なかなかにすげえ淫乱っぷりだな、ルーシャン』
びくん、びくん、と小刻みに身体を跳ねさせながら、それでもぼんやりと泣き顔を晒しているルーシャンの額に口付けた。
『じゃあ少し休憩したら、今度はまた内側に注いでやろうな。オマエの意識が飛ぶまで保つかやってみるか』
ぽた、と。また新たな涙を目から溢れさせたルーシャンの髪をさらりと撫でた。ほたほた、とますます涙を零すルーシャンの目尻に口付け、その涙を甘く吸い上げた。ひくん、と息を詰まらせたルーシャンの脚を、さらりと掌で撫で上げる。
『仔猫チャン、壊れちまっても面倒みてやっから。心配しないで全部晒せ』
もう止めて、と訴えている目の上に手をかざして、掌で目を閉ざさせた。
きゅう、とカオを歪めたルーシャンの身体に体重を重ねて、パトリックはゆっくりと律動を再開させた。悲鳴のように細い泣き声が間近で零されたのに、喉奥で笑う。
『オマエがオマエであることを偽ったりすンじゃねえよ、ルーシャン』
心臓の上に手を滑らせてから、尖りきった小さな胸の飾りを指先で軽く押し潰した。
『キモチイイことを隠したりすンな』
『っァ、』
喉を反らせたルーシャンの首元に唇を押し当てた。
『もっとワケが解らなくなるまでファックでキモチよくなっちまえ』
『No, please…,』
弱弱しい声で甘く鳴いたルーシャンの首元に、かつん、と歯を立てながら、パトリックは言って返した。
『Too late now, kitty(ちっと遅かったな仔猫チャン)』
びくん、と身体を跳ねさせたルーシャンの胸の尖りを指先で摘みながら、ぎち、と狭い内側を屹立で開かせた。
びくん、と屹立がわずかに跳ね。ア、と甘い声が上がったことに満足して、パトリックはリズムを刻み直す。
『Try it out a little early next time(次の時はもうちっと早めにナ)』
はぁ、と。絶望と官能に溜息を吐いたルーシャンのカオを覗き込んで、パトリックは笑った。
『オマエさえ可愛ければ、オレだって鬼畜にゃならねえよ。それだけ覚えておけ』

とろん、と眠るように目を閉じたルーシャンが意識を飛ばしていったのは、明け方間近の時刻だったことを不意に思い出して、パトリックは自嘲に顔を歪めた。
「あんだけファックしても眠れねえって。あのガキ、相当捩れてやがる」
情けでもかけてさしあげたらどうです?と言ってきていたロイの、哀れんでいた眼差しに、ふン、と笑って。パトリックはテーブルの上のタバコの箱から一本を取り出し、口に銜えて火を点けた。
「寝てる間にカオでも見に行ってやるべきなンかねぇ?」
クスリだろうとなんだろうと、眠っている間に頭でも撫でてやれば、少しは扱いやすくなるか?とそう自問自答する自分に低く笑って、受話器を引き上げた。
「ヘイ、ニコール。メシ食わねぇ仔猫にゃどうすりゃイイ?」
通話が繋がり次第に話を切り出したパトリックにニコールが笑って応えていた。
『アナタが仔猫を飼ってるの、ミスタ・パトリック?ゴハンを食べないのはリラックスできてない証拠よ。だからきちんと安心させてあげなさいな』
その仔猫チャンが何であろうとね、と笑って言ったニコールに、パトリックは笑った。
「明日仔猫には休みを与えることに決めた。ニコール、付き合え」
側に居てあげなくていいの、と。笑いながら言ってきたニコールに、ふン、と鼻で笑って返した。
「オマエとロイくらいだ、オレにそういう口を利くのは」
『仔猫チャンも、案外アナタが怖くないことを早く解ればいいのにね』
「別にアレがどう思おうとどうでも」
『ミスタ。アタシに訊いてくるくらいなんだから、そんなことはないでしょ?ちゃんと正しく可愛がってあげなさい。溺愛はストレスにしかならないってことを覚えなさいね』
「愛してなんかねーよ」
『そ?じゃあ仔猫チャンに添い寝してあげられたら、明日のデートは了承してあげるわ』
ロイにちゃんと訊くからズルしちゃだめよ、と言って通話を切ったニコールの、端正な横顔を思い出してパトリックは溜息を吐いた。
「……オレの部下って、なんでこんな連中ばっかりなんだ?」




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