If


もし、という過程はキライだけれども、
―――――考えてみる、もしマーフィーが妹だったなら。
ダッドの腕に抱かれて来たのが、小さなブルネットの女の子だったなら。

いまと同じように抱き締めて迎え入れただろう。
沢山のキスと優しいハグを惜しみなくあげて。
寂しくなくなるまで抱き締めて眠り、仕事で忙しいマムの代わりにご飯を作って、お風呂に入れて、勉強を見てあげて、一緒に遊んで。
プレップスクールに上がるまで、オトウトと同じように育てただろう。
プレップスクールに上がってからは、ベッドを離して、お風呂も別々に。遊ぶ相手も、望むのならオンナノコを選んで。

そうして大きくなって彼女の世界が広がったならば、少しずつ離れて、世界をひとりで見させて。
やがてやってくる『ボーイフレンド』だとか『恋人』だとか『結婚相手』を想像しながら、いつか彼女がいなくなってしまうことを忘れずに、愛しすぎないで。

それでも、もしマーフィーが妹だったとしても、きっと今と同じように自分は恋をするだろう。
けれど家族以上として愛することはないだろう。
いつか彼女が誰かを伴侶に迎え、子供を神から賜ったとしても―――――たとえそのことに魂を削られるような喪失感を覚えたとしても、自分は微笑んで祝福していただろう。
そしていつまでたっても伴侶を探そうとしない自分を心配して彼女が怒ったとしても、きっと笑って過ごせていただろう、もしマーフィーが妹だったのなら。

チャーミングなアーモンドのアクアマリン・アイズに甘いブルネット。
すらりとスレンダーなのか、驚くほどグラマラスなのか。
きっと彼女の髪は伸ばさせて、自分は彼女の髪を梳くことを趣味にしていただろう。
誕生日にはリボンを括って、パーティーにはティアラを。
結婚式にはレースを下ろさせる前に、額にそっと口付けをして。

旦那とケンカして帰ってくる度に、グチを聞いて、慰めて。
妹だったとしてもアイリッシュの女に間違いはないから、たまには一緒に酒を飲むのもいいかもしれない。
そしてやがて迎えに来た旦那に連れ帰られるのを見送るたびに、結婚式で送り出した日を思い出して、胸の痛さに少し泣いて……。

彼女の子供は間違いなく可愛いだろう。
実の父親より愛せる自信はある。
彼女に似ていたら、きっと溺愛して。彼女にもマムにも旦那にも笑われるんだ。
そして大きくなるのを、微笑みでもって見守って……。

きゅ、と胸が痛んで、コナーは意識を今に戻す。
吸いかけの煙草は長い灰になっていて、慌ててアッシュトレイに崩れそうなソレを落とす。
最後に一口分吸い込んで、押し潰しながら更に考える。

もしマーフィーがオンナノコだったなら名前は……マフェットじゃねェかよ。

その名前にナーサリィ・ライムの一説を思い出し、コナーはぶっと吹き出した。

“Little Miss Muffet, sat on a tuffet, eating her curds and whey.
Along came a spider, who sat down beside her, and frightened Miss Muffet away .”
『小さなミス・マフェットは丘に座って、チーズを食べていました。
その時蜘蛛がやってきて彼女の横に座ったので、ミス・マフェットは驚いて逃げ出してしまいました。』

確か、そんな詩だったよな、と歌に乗せて口ずさみながら、コナーはヤレヤレと頭を振った。
If なんて余計なことを考えると、無駄に考えすぎていけない、と。

ただ、もしマーフィーがリトル・ミス・マフェットだったならば――――――自分は直ぐにその小さな黒い蜘蛛を追い払って、顔中にキスをしながら抱き締めてあげるだろう。
明るいブルネットの間から覗く涙ぐんだアクアマリンアイズは、きっときらきらと驚くほど綺麗で……。
コナーは小さく微笑を浮かべたまま、溜め息を吐いた。
そして――――――どう転んでも自分はあの魂を愛するのだろう、と自分でも呆れるほどの愛情を自覚して、ゴシゴシと顔を掌で擦った。
そしてIfなんて仮定を思い浮かべる馬鹿馬鹿しさを痛感して、やっぱり考えるのは止そうと思うのだった。







Rem Muto