testament



「あァ、おれだったら−−−」
マーフィーが少しばかり視線を上向けた。
何か考え事をするときの些細なクセのようなものだ。
「小さなカケラを食っちまう」
そう言って、タバコを咥える気軽さでわらった。
「……ぅわ」
ロッコが口を引き結び、それから困ったように小さく笑おうとした。
「マジでおまえ、それ。しそうナ」
「ウン。するね」
きっぱりと言い切り、じっとマーフィーが灰色ネコの眠る姿を見ている。
「だけど、」
指をその姿に向かって伸ばしかけ、引き止める。
「やっぱ、コナーには食われたくねェ」
「ブ、」とコナーが弟の隣でビールを一人で噴いていた。
それ拭きやがれ、とロッコが噴き零しを気にせず、手をゆらりとした。妙にさまになるような、サーカス団の団長のようなしぐさだった。そして続ける。
さっきも言ったように、と誰かに言い聞かせる口調だ。

「コナーだったら、小さなパウチに灰を入れて、首からきっと十字架と一緒に掛けてるって」
そうかな、とマーフィーがいぶかしんだ。
そうさ、とコナーが横から言った。そして続ける。
「オレは、そんなモノはいらないけどな」
なぜなら、タマシイは神との個人的な契約を基にした繋がりで、カミサマの元に召されてもオマエの一部はオレの中にあるんだから−−−
「別にいいぜ」
そんなことをコナーはゆっくりと言う。結論だけを。
「いいぜって何が」
訊きながら、マーフィーの指先が灰色の毛皮を撫でた。
「オマエの骨を食うよりは、灰をぶら下げてた方が」
イひひ、とマーフィーがわらい、指先は猫の首もとまで上がっていっていた。
「コナー、やっぱりさみしがりー」
「そうかな」
「そうだよ」

マーフィーのわらった顔はやっぱり周りにいつもより少しだけ幸福感を思い出させる。
「オレはコナーの骨を食っちまって、自分のからだのなかでちゃんと確かめるんだ」
何を、とロッコが口を挟んだ。
ききたいか、と目を上げて問い返されて、別にいいやと翻す。
「ん。コナーには分かってンだよー」
そう言ってまたわらうと、マーフィーはネコをひざに抱き上げようとし。「イテ、」と
呟いていた。
細い小さなツメが手の甲を滑っていったのだ。
と、と軽い音を立ててテーブルから猫は下りていく。
「「猫め」」
一瞬の間をおいて、兄弟の声が重なって。
はは、とロッコが前髪を揺らしてわらった。







− end −
Niya, October 2009