41.
「外、まだ雪降ってたのか……?」
「あぁ、まだ降ってる」
さら、と肩に乗った雪の欠片を指先で払ったサンジにそう答え、ふわりとゾロが目元で微笑んだ。
「アタタカイ歓迎アリガトウ」
「ばーか」
「メシ食おう、」
朝飯はオマエに任せてみるかな、とゾロがアタリマエのことを言う口調で続けたのに、サンジがきゅう、と唇を引き上げていた。


夕方過ぎに起き出し、暖められた部屋で何度かじゃれ合うように唇を啄ばんで、レイゾウコを開ければものの見事に空っぽであるのに2人して笑い。『オマエのとこで夜食ってたんだからアタリマエだ』と返すゾロにまたサンジがその背中を軽く抱くようにして、『バーカ』とわらった。
レイゾウコの扉を閉め、適当に何か買ってくる、何か嫌いなものとかあるか、と訊かれ。
『---うん?おれも行くよ』
そうサンジが応えれば、ふい、とゾロは首を僅かに傾けるようにし、蒼を覗き込んだ。
『---ダメだな』
『……なンでだよ』
髪を梳かれサンジが目を細める。
『んー?少し辛そうだから』
さらりと返された言葉に、さああと頬に血色を乗せていく相手をじぃ、とゾロは間近で見詰め、それから目元で微笑む。
『食えないものは?』
柔らかな声だ。
『……ない』
『オーケイ、適当に買ってくる』
一瞬、腕に抱きとめられ。
『じゃ、イイコで待ってナ』
『……バッ、』
鼓動が跳ね上がる間にゾロはもうジャケットを取りに歩いていっていた。


そして『適当』に買ってきた材料で意外なほど手早く『フツウに』作ってしまった白ワインの風味の効いたリングィネであるとか、サンジも気に入りのデリから買ってきたオリエンタルグリーンのサラダであるとか、『焼いただけ』のチキンブレストであるとか。そういったものが2階のテーブルに並び。
「………早や、美味」
酷く簡潔に素直にサンジが褒めれば。
「ヘルプが良かったンだろ」
何の気負いもなくゾロが応え、最後の一口で夕食を片付けていった。
「これで後片付け、ってのが無ければ、結構嫌いじゃないけどな」
ゴチソウ様でした、と椅子から立ち上がりながらゾロが言い。
「手がもう2本あれば早いって」
手伝うよ、とサンジも立ち上がった。
「―――ン?平気かヨ」
ひょい、と少し上からの視線がからかうように蒼を見下ろし。
「---だから、そういう……っ!!」
またひどく照れだしたサンジの眉に、ちゅ、とわざと音を立ててゾロが唇を落とし。
「や?手伝ってくれンならアリガタイ」
そう言って、また髪に隠れた方にも唇で触れていた。


「なァ、」
「ウン?」
サンジが窓外へやっていた視線を戻し、ふにゃ、と笑みを作る。後片付けは実に手早く終了していた。
そういえば、とゾロがタバコを灰皿に軽く押し当て、細く煙が昇りそれが薄く消えていく。
「ハッキリ口にはしてなかったような気がするから」
タバコを無くした手が、そのまま顎下で支える。
その様を見詰めながら、向かいに座っていたサンジが目で言葉の続きを促し、翠が和らぐのを見詰めた。そして自分のなかに擽ったくなるほど自然に、相手に向かって際限なく開いていく想いが充たしていくのを感じ、唇に小さく笑みを上らせた。

「―--オマエがスキだよ、」
「ウン、ずっと言われてた気がする、最初にキスしたときからさ?」
「---なンだよ、モロバレか」
く、とゾロが唇を引き上げ。
空いた腕をサンジへと伸ばし、軽く指先が眉間を押しやるように触れていった。
「“目は口ほどにものを言う”」
サンジが返し。笑みが蒼のなかに過ぎっていく。
「なァ?」
サンジが語りかけ。
「ウン?」
同じように言葉を遣り取りする、わざと。

「これからも、よろしくな」
不意に腕が両方、サンジの頭を引き寄せ。く、と抱き込まれる。
「オマエの在ることに感謝する」
静かな、それでも真摯な声が落ちてき、サンジが目を閉じた。
「おれは、」
応えの代わりに一層腕に力が込められるのを感じ取る。

「おまえが、すげえ好きだよ」
「あァ……。なァサンジ?」
「うん……?」
「たまに煙臭かったらゴメンナ?」
軽く戻された口調に、サンジが小さく息を一つ零した。
「ばぁーか、そンなときこそぎゅーーって遠慮なく抱け」
「---オーケイ」
くぅ、と一層両腕に背中を抱きしめられ、言葉をサンジが継ぐ。
「……戻ってきた、ってことだろソレ。カンケイねェよ」
首もとに顔を埋めるようにし、唇を押し当てながらサンジが言う。抱きしめ、抱きしめられる身体の温かさにまた瞼の裏が不意に熱を持ってくる。
「なァ……」
「あァ」
「好きだよ、スキだよ、す……」
「言うな、アホ」
耳元に声が落とされる。それだけで、またふわりと体温が上がったかとサンジが思い。

「また、喰っちまいたくなるだろ」
言葉に、鼓動がまた跳ね上がる。
腰を引き寄せられ、くう、と喉奥で息がくぐもるかと思い。
「まだ、時間、たくさんある……」
唇を食み、腕に力を込めていた。




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