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ちくしょう。

前も見えないほどの横殴りの雪にゾロは立ち尽くす。

俺は、俺以外の何者でもねぇ。 自分の意思で剣を取り、世界一を目指すと決めた。 誰の意志でもない。 俺の夢は。

「オールブルーっつんだよ、バカ」
奇跡の海の名前を、大事そうにつぶやいたのは、何日目の見張台だったか。 どうでもいい話に一々つっかかってきた。雪を見上げていた横顔。 普通に笑ってりゃあキレイなくせして、それを帳消しにするクソ生意気な目付きと態度。
「あ。いま見たか?」
夜空を見上げたまま、言ったのはいつだったか。
「なんだ?」
「いや、すげー、流れ星!」
ひゅ、と煙草の赤い火で弧を描き。
「何歳だよてめぇ、」
はぁぁ、と溜め息がでてくるけど。
「で?」
とりあえず、聞いといてやるか。後がうるせーし。
「願い事は」
「ナミさんの幸せ」
当たり前のように言いきって笑った奴の頭上をまた、星が流れた。

ああ、でも。 笑ってる顔みるのは、嫌いじゃなかった。

縋るようだったあの海の碧。悲しそうだった笑い顔。
なんだって、俺はあのとき
泣いたって、関係なかったろう?

だけど、そんなことには、絶対させたくなかった。

なぜだ?

「嫌なんだよ、もう泣いた顔なんてみたくないんだ。僕の、我侭か?」
あんなやつ、関係ねぇだろ?
「君を守るために、そのために」
ただの、
「ミドリなんて、イーストブルーにあってはならない色」

黙れッ! 風に、ゾロの声は飲み込まれ。 黙れよっ 雪に膝を付く。
噛みしめた唇から、朱の滴が、ぱた、と染みを作った。 瞬く間に白がそれを覆う。 いまのゾロはそれすらも気づかない。 もう消えた朱を目はいつまでも追い。

やつの首筋につけられた傷で。 ざわり、とココロが揺れた。

「俺は、ヒトだ、断じて魔物なんかじゃねえ。人斬りなんか好きなわけねぇだろ」
「それ聞いて安心したぜ」
目元で笑って、奴は夜空に煙を細く高く昇らせた。

流れた血、あのとき、何かが、出てきかけた。 どこまでも暝い衝動。

殺す。邪魔だてするな。屠る。
総て。
おまえがいないのなら、殺す以外の、何の剣だ?

柔らかいものが、頬に触れ、髪に触れた。 なん、だ 温かな、ひかり? 抱き寄せられる、柔らかな、腕は 金の糸がさらさらと頬に音をたてて流れ落ちて なに・・・?なんて言って・・・
ゾロは意識を手放した。


「おお。ゾロ!目ェさめたか?」
焼け付くような咽の痛みで覚醒した。 気管に入るには度数の高すぎる酒にむせる。
宿の、床の上。転がされた自分をのぞき込んでくる笑い顔と、心配顔。
「いくらおまえでも、死ぬぞ?寝るんなら、中で寝ろ!」
ばばん!とルフィが窓の外を指さす。
「あんな美人がそばにいなかったら、こっから見た俺でも気づかなかったぞ」
「・・・ああ?」
「で、あの美人、どこいったんだ?俺たちがおまえ迎えに出たら笑ってたけど。 家、帰ったのか?」
「ルフィ、お前なんのことだ?おいウソップてめえ黙ってねぇで説明しろ!」
「なあ、ウソップ。こいつまだどっか変なのかな?」
「いや、俺もおまえ、ルフィ何言ってんだ?」
「はぁ?だからあのサンジに似た女のことだよぉ。おまえらほんとに大丈夫か?」

かたかたと小刻みにウソップが震えてだしたのは、決して寒さのせいではなかった。




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