白い街、降り止むことをしらない雪。 部屋の熱ですぐ曇る窓からも、雪のほかは何もみえやしない。 街灯すら。
ちくしょう、なんで俺はこんなとこに突っ立ってる。
さっさと寝ちまえ。
クソ方向音痴のくせに、大丈夫かよ。 自信たっぷりに路頭に迷うくせしやがって。
どこにあんだ墓は。 ・・・あの人の、息子の。
ほんとうに、いやな話をきいた。 罪深い赤ん坊の話。 救われなかった、最後まで救いようのない恋人達の話。 それぞれの想いの決着。
なんで自分たちが、時間の輪を完結させる瞬間に立ち会わされた? そんなものに面影を重ねられて俺は。 バカみたいだ。 バカすぎて、泣けてくる。
暗い窓に姿が映り、首に包帯なんか巻いてんの。 ああ、泣いてんよ。 マジ、俺って、バカ。 顔立ちの特徴だけを曖昧に映し出す窓に映る姿影は、そうじゃなくても女顔が、ホンモノの女の顔みたいだ。

こんなもんに命をかけるか? バカだよ、あんたは。

見たことのない、卿に話し掛けてみる。 わかってるさ、ほんとは。 俺もそこまでバカじゃねーもん。
きっと、俺も同じことするんだろうよ。 俺に似てたって人には、その価値があったんだろう、 愛される。

その人のすべてが愛せたんだろう、やどった生命さえ。 でも、愛せたか? たとえ、その罪が、その人を殺したのだとしても?

あんたはどんな眼差しを、その子供にむけるんだろう----。 赦すのか?その生を。 それとも-------滅ぼすか?

きょう、斬り付けられた自分をみたあのときの、ゾロの眼。 翆に、灼かれるかと思った。 あんなに苛烈な視線は、自分は、知らない。
止めなければいけない、瞬間そう思った。 あれは、何だったんだろう。

窓を透かし降る雪をみていると、自分の思考が彷徨いだすのがわかる。
なんで、あのバカのことばっか、考える。
あいつに夢の話をしたのも、信じられない。 それでも、あの言葉に救われたんだ。 赤ん坊のころの記憶だろう、って。

赦された、って思えたんだ。

俺は、最初から誰にも望まれない子供だったから。
殺す手間さえ惜しくて、北周航路の船倉に捨てられた赤ん坊。 ただ、悪運ばっか強くて計算外に生き延びてんだ。 そんな、とうの昔に死ぬはずだった子供。 俺が、いまここにいられるのは、なにかの間違い。 そのせいで、消去されてしまった命は、いったいいくつある?

―――そんな想いをずっと抱えてたから。

あの男の話を、否定したい。 けれど、あまりにも夢と重なる符号をどうすればいい?

人の命ばかり、食いつぶす子供。 きょう、俺に向けられたあまりに強い負の感情。 また、「死んだ」。 これ以上、俺は背負えないよ。
もし、俺のハハオヤが港で殺された女だったら、俺がその原因だったら きょう消えてった2つの命も ハハオヤを守ろうと死んだ男も

なんで俺だけが生きていられる?

ゾロ、てめえなんで戻ってこない、 こんな因縁話これ以上、てめぇに何かあったら俺は・・・・・・
俺は?
白と赤と、黒。 今朝みた夢の強烈なイメージが甦る。 どこまでも続く雪原。 血溜まりに倒れていた黒髪の男。瞳を閉じても、剣を握る手はそれでも離さずに。 白と、赤と、黒のコントラスト。

背後の扉がきしんだ音を立てた。

その音で、サンジは自分がどれほど緊張していたかを思い知らされた。 身体が、安堵で弛緩するのを。




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