Our House

「ヒトには、知らなくても良いことがある。」
ウソップは、この格言の意味を痛感していた。

あの夜、自分が知る必要はないんだと、無理やり目を閉じたけれども。
ナミほどではないにしても元来、頭の回転の早いのが災いしてパズルが どうやら組みあがってしまった。
北の国で自分達が巻き込まれたちょっとしたアクシデントが 多分、自分の仲間にとって重大な意味を持っていたことに。 当人達はといえばあいかわらず、仲が良いのか悪いのか、罵り合いの取っ組み合い、 かと思えばげらげら笑って酒飲んでたりと、じつに他愛ないんだけど。

“ねえ、ウソップさん。神様ってね、そのヒトが耐えられないほどの不幸せも 幸せも与えることはないんですって。“
カヤ、やっぱり、そうだよな。 遠くの憧れの人を思う。

雪の降リ積もる北の国でサンジが殺されかけ、もしサンジに何かあれば 危うくゾロがキレてえらいことになるところだったのが後に判明し、サンジを 殺そうとした男はその場で主人に射殺され、主人は直後に自殺、自分達は その場をなんとか脱出して、なんとその晩ゾロは凍死しかけ、ルフィは絶世の美女とはいえユーレイを目撃し、そのおかげでそのゾロを助け出した。
なんだこりゃあ、と改めてウソップは頭を抱えた。
これに生まれ変わりの話なんぞ加わったら、もう眼もあてられない。 コイツは俺のホラ話よりひでえ。 それに。 サンジが多分、その国の皇太子と、略奪された傾国の美女の間の子供だってこと。 赤ん坊のサンジを連れて国を出ようとした母親は殺されて、赤ん坊は船倉に捨てられた事。
おまけに。ゾロが多分、夭折したその国の青年貴族の生まれ変わりで。 「剣聖」とまで謳われた、そしてサンジの母親の婚約者だった男。命がけで、 略奪された恋人とそのなかに宿った命を救って、倒れた。

とどめが。

ゾロの傍にいたその絶世の美女のユーレイが、どうやらサンジの母親らしいこと。

次の朝、よせば良いのに自分は旧王立公文図書館に出向いたのだ。
ああ、バカと呼んでくれよ。ウソップは誰にともなく呟く。
山のような文献と、そう古くもない記録書を片っ端から調べ、やっと見つけたのは 古い新聞記事がいくつかと、記録書が数枚。目録にあった他の多くの文書や書簡には 全て「廃棄」の記しがつけられていた。
「剣聖」の死後、彼にまつわる話題が この国でタブー視されていたのはどうやら本当らしかった。 写真がついていたのは彼の婚約を伝える記事だけで。その古びた写真からでも 当時、「夢物語のような」と形容された二人の様子が充分みてとれた。
ああ、このひとだ、ウソップは一目で判別する。
粒子の粗いモノクロの写真でも、流れるような金の髪とその美貌は、あまりにも似ている。 そして青年の方は。 すげえ、いい男だな、こりゃ。どことなくあまい、秀麗な、とでも表現したくなる容貌。
ただ、眼光が尋常ではないところが、ゾロを彷彿させるといえば、させるけど。 こっちは別モン、とウソップは何となくほっとする。 顔まで似てたら恐えぇモンよ、と。
そこまで考えて、はた、と気づいたのだ。 他人がこんなことまで知ってたらいけねえよな、と。

忘れよう、忘れようとすればするほど意識の表層に上ってくる。

「俺がそんな運命しょってたら、とてもじゃねえけど押し潰されるぜ。 やっぱ、あいつら尋常じゃねえなぁ。化け物だなある意味」
ふう、とため息。
「なにしてんのよ」
「おお、ナミ」
上から声が降ってくる。 自分はいつのまにかしゃがみこんでいたらしい。
「邪魔ねあんた。踏むわよ?」
そういえばナミは全てを最初から勘ずいていたようで。
「なあ、おまえはよ、生まれ変わりって―――」
ナミは遮る。
「バッカね、あんた!アイツがそんなこと気にすると思う?そもそもそんな事、 考えた事もないでしょうよ。命さえ捨ててるって言い切るバカよ?後先なんの 考えナシよ?本能と欲求だけの男よ?本物のバカよ?多分、人間じゃないわよ?」
「おい、オマエそいつはあんまり・・・・」
にこ、とナミは笑い。
「きょう、思うように生きられれば幸せな奴なのよ」

「あ。ナミさぁーん!きょうもお美しいいーー!!」
目ざとくナミをみつけたサンジが下部デッキから両手を振る。
「うっせえテメエ!!耳元でわめくなッ」
「ンだとコラ!テメエがそんなとこで寝っこけてやがるから・・・・・」
ぎゃあぎゃあと始まる。 船長の笑い声もそれにいつしか混ざり。
「それに。あれが自分の出生を愁うオトコにみえる?」
ナミは人差し指を額にあててみせる。
「そうだな?」
「そうよ」
また、にこ、と笑みを浮かべ。
「あんたも次に生まれ変わったらそのハナ止める事ことね」
「うるせえよ!!」
一応怒ってみせる。

笑いあい 一緒に 進んでいこう、偉大なる航路を。




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ということで。
Night Watchという連載小説は、このようなお話を、切なシリアスにいたしたわけです。 最後はお二人に幸せになってもらって。この極めて「ひでえ」設定も背負ったままのお二人は、 短編にちょこちょこ顔出してきます、予定。以後、お見知りおきくださいませ。


それではBy Your Side 本編へFly? 
ちょっと連載見たいかも