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Rapunzel

お茶の後片付けを終えて、テーブルに座っていたのまでは、覚えている。
最初は、夢をみているのだと思った。温かな手が、自分の髪にそっと触れている。ふれているところから想いが伝わってきそうな、優しさで。
随分と昔、そうして触れられた記憶があって。だから、半分目が覚めかけた時、自分の前髪をすうっと何度もすきあげているのがヤツの手だ、とわかったとき、どうしたら良いのかわからなくなった。目が覚めた素振りでもみせれば、すぐに手が止まっていつもの無愛想面で「酒」とか言うに決まってる。
でも、キモチ良いよなー・・・・。
手の持ち主がわかってしまえば、もう一つの小さなノゾミは。 ヤツが、どんな顔してんだろう、ということ。多分、ほんの僅か唇のハシを引き上げた笑い顔を浮かべて いるんだろうけれど。あれ、俺すきなんだよな、と、そう思う。 いつ、目の覚めたフリをしようか。何か、てめえの顔、俺いますげえ見たいよ。

指の間を音をたてて流れ落ちる、金糸の束。
以前、どこかの町で見た、鮮やかな黄金色に染め上げられて陽に干されていた絹糸の束をふと思い出す。日差しをそのまま映しこんだように光っていたな、と。もう一度。腕を伸ばし、触れる。絹糸より滑らかな。さらさらと指をすり抜ける。陽に透ける金の糸。
よく、女がネコを膝に抱いて撫でているけれど。 なんとなく、その気持を理解しかけ、少しだけ声に出さずにわらった。触感をイトオシムため、なんだな。
いつも、よくうっとーしくナイもんだ、と呆れていたけれど。いまならわかる。
確かに、ジャマにならないんだろう、これだけ細くて柔らかいと。それはいまさらながらの、発見で。
純粋に、髪にだけ触れることなどないから。抱き合う時は、互いの熱に浮かされがちなのはシャクにさわるけれど事実。まぶたに唇で触れたらいくらなんでも目、覚ますだろうな、と考え。それでもそのホライズン・ブルーが、ふわ、とひらき自分だけをうつすのを見たくなる。どうしようか、と考えながら。
それでも手はそっと髪を撫で。

ラウンジに、窓から日が差し込んで。テーブルに影をおとす。


「あんたたち」
キッチンの扉の前でナミがウソップとルフィの襟首を掴んで摘み上げる。
「ウチのお姫サマお昼ね中だから。夕食の時間まで立ち入り禁止よ」
「んー?なんでビビがキッチンで・・・・」
ウソップはもっともなギモンをこぼし。
「そっかあ!サンジ寝てんのかあ!!」
ルフィは大納得!の笑顔。
「なんでそーなんだよ!!」
ががん。とウソップ。
「「だってそうじゃない /そうだろー」」
二音声で返され。
「うう、まあな」
「ほら。勝手にどっかいってなさい」
ぱ、とナミが手を離し。とんとん、と階段を下りていく。

今日は良い天気だし、外でお茶にしない?とのナミの提案で、一同はデッキにテーブルを 持ち出し日差しの下でお茶の時間となっていた。当然のようにレディ最優先で、「ナミさん」と 「ビビちゃん」のカップに紅茶が注がれる。
ビビは、横に立つヒトを見るともなく、みていたのだけれど。うつむくと、さらさらと金の髪が陽を透かし光を溶かし込んだような彩りにかわり、それが口許まで流れ落ちてきて半顔を隠してしまう。その流れる音まで聞こえてきそうで。
髪までキレイなんだ、このひと。 そうして、危なかったなぁ、と自分を振り返ってみる。 最初、この船のクルーへの自分の「好き」の種類に判断がつかなくて。
女の自分はキレイなものが好きだから、その姿を目で追っていると必ず翡翠色の眼差しにぶつかって、困惑していた事を思い出す。
まあね、シンパイで出来る事なら隠しておきたくなるのもわからないではないけれど。
ええと。どこかで聞いた話。昔、寝物語に乳母が話して聞かせてきれたのはたしか、 あまりに美しいから魔女に塔に閉じ込められてしまったお姫様の話だった。 なんだったっけ・・・?

「はい、どうぞ」
にこり、とカップを手渡され。
「あ。ラプンツェル、」
つい、言葉に出てしまった。
「・・・・ビビちゃん?」
サンジが不思議そうに自分を覗き込んでおり。
「サンジくん、おかわりちょうだい?」
とのナミの声に、はーい、と笑顔満開で自分から視線が逸らされ、ほっとする。 ナミは、ビビにウィンクをしてみせた。

「どうしたの、さっき?」
前方デッキで、カルーまでが一緒になってルフィやウソップと騒ぐのをにこにこと眺めていたビビに、ナミが横に立ち聞いてきた。
「つい、思い出したら口から出ちゃって」
「ラプンツェルってあの、ラプンツェル?お伽噺のお姫様?」
「そう。あの金髪みてたらつい、」
ナミはにこりと笑い。
「まぁねぇ、たしかにサンジくん見た目は綺麗なヒトだけど」
中身、全然違うじゃない、ぜったい、こんな風になっちゃうってば。と、ビビに耳打ちし。

ビビの顔がみるみる笑いを堪えるそれに変わり、やがて耐えかねたように笑い出し。その声に船長が振り返り 「なんだあーー??なにかおもしれーのかあ?」 と言って寄越す。
「ナイショ!」とのナミからの返事に。
そっかそおか、おまえら仲良しでいーよなあ、うん!!とわけのわからないコメント付きで。
「おもしれえのが一番だよなあ!」と太陽も負けそうな笑みで返す。
「良い船ね、」とビビが言い。
「この私が運命あずかってるんだもの、当然でしょ」とナミも笑い。

それぞれに、有意義ないつもとちょっと違う午後。



さて。 ナミさんの想像ですが
wanna know?