Past Over Midnight




「やんねえの?」
「しねえよ」
「ふーん?」

何度か唇を重たら、ボタンを緩めようとした手を、ゾロにとめられた。

サンジはそのまま手を預け、隣に同じように足を長く伸ばして座り。
海からの風を避けるように高めの体温に身体を寄せる。





一騒ぎ終わり、静まり返った後部デッキで一人考えていた。
他人と関わるのを良しとしなかった自分がいけかったのか、
それとも
自分が成長のジュンバンを間違えたのか、気持ちってのは厄介だ、と。


見慣れてきたら、少しは平気になるモンじゃないのか?

ちょっとした表情だったり、その眼に浮かぶ色や

波をわたる風に、その髪が揺れる様子や

そういった、いろいろに。


俺はちっとも  慣れねえ。
世界中が自分の鼓動を感じたんじゃないかと思うほどに。
いまだに。


抱き合っている時は、そういった全部が自分のモノだとあたりまえのように
思っているから、平気でいられる。ジュンバンが逆だって怒鳴られそうだ。
肩に預けられた柔らかな重さは、もうすっかり自分に馴染んでいるというのに。

キス、というよりは金色の髪に顔を半分埋めるみたいにして、それをくしゃくしゃにし。
なんとなく、吐息混じりにそのまま顔を埋めていた。


「くすぐってえ、」


心臓のそばから、笑い混じりの声が響いてくる。



ああ、ほら。まただ。

ゾロは思い。



ふ、とサンジが顔を上げた。
何かを問いたげな、眼をしていた。



「そうだよ」
とだけゾロは言い。


猫が登ってくるみたいにサンジは身体を伸ばすと、首元に唇を押し当てた。

引き寄せられ、気が付くとゾロの頭が自分の肩に半ば預けられていた。



「お。立場逆じゃねえ?俺をイタワレよ、コラ」
誕生日の人間捕まえて、ナニやってんだ、と。
「早起きしたからな。眠いんだよ」


サンジの口元に笑みがのせられ。


「まぁな、たしかに。そういや出血してたしな、てめえ」
ゾロの方から、かすかな笑みの気配。

「肩くらい貸せ」
「何ならヒザも貸してやろーか?」
「いらねえよ」
「ち。灰皿にでもしよーと思ったのによ」

「させるかよ。フザケロ。」
「おおー。ベタ惚れのくせして?」
「悪かったな」


眼を閉じてしまったゾロは、自分の言葉も相手を充分に揺さぶる瞬間を
今回は、見逃した。




月のきれいな、夜だった。




# # # 

お誕生日、おめでとう。
And special thanks to all of you.



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