*59*

 手指を縋るように背中に埋め喉元を曝し、揺らぐ声が短く押し出されていき。吸い込む空気さえも酷く熱せられているかと思い、洩らす吐息が震えかけ。息を呑み込もうとしても、身体が重なっているその事実だけで目眩がするかと思う。
 一瞬の間目を閉ざしても、何もかもに対して鋭敏になっている感覚が「この場所」が何処であるのかをもう幾度も告げてき、その度に身体の深くからとろりと熱い何かが洩れ出てくるかと思い。呆れるほど必死に腕を回して、ぐらりと目眩がする。
リネンに顔を落とすようにすれば身体を受け止める僅かな差異にもこの寝台が誰のものであるのか、いま抱き締められている場所が居心地の良い「檻」などではなく、パトリックの「寝室」であることにまた気付かされ、ルーシャンが高められたままに甘く呻き。
 刹那、口付けたい、と渇望し。けれど背中に爪を立てることしか出来ず。ひく、と勝手に嗚咽めいて喉が音を零していく。
 数時間前と、現在と。数日前と。現在が途方も無く満たされている筈であるのに、涙が出そうに焦がれている事実は変わらなかった。
 ダールウィッチ、あのバーの扉の開いた先に、パトリックの周辺にだけ別の色が空気に乗せられているように目にまっすぐに飛び込んできた数時間前に、感じていた絶望に塗れてそれでも一瞬で幸福になったときと、幸福すぎて自分の貪婪さに呆れ果ててそれでも溶け落ちそうに幸福であることと。
 縺れて、混乱して、それでも唯一つのことは間違うことなく刻み付けられたと思っていた。
 自分はパトリックの「モノ」で、けれど―――愛されているのだ、と。紛うことなく。
 あのバーで金の蛇の輪を無理やりに引き抜き投げつけたとき、射抜くようにあの青に見詰められて、わかってしまった。それでも、否定されるのかと思って今度こそイノチを投げ捨ててしまおうと。
 けれど、引き寄せられ。腕に抱きこまれ鼓動を直に身体に溶け込ませたとき、これ以上の幸福はもう二度とないだろうと思った。
 だけど、知らなかった。幸福は、ヒトツの種類だけのモノではないと。
 『オレの世界にようこそ、』と告げられ。その言葉が意味を成したとき、死んでしまってもいいかもしれない、とさえ思った。もし、そうすることが許されるのであれば。

「パァ、っと…」
 浅く、内を押し撫でられ、きくりと下肢が強張る。
 手が、彷徨うように肩から離れ、くすんで見える金に指先を潜り込ませ。
「ンー?」
 キスがしたいんだ、と願いを唇に上らせようとする間に、優しい声が耳に届き。きゅう、とルーシャンが一瞬目を閉じ。熱を零してもまだ昂ぶるままの中心を含まれ、跳ねるように腰が揺らぎ。ゆるゆると内を蠢く指を一層捕えて、震え。
「ゃ、っあぁあ、はやく……っ」
 焦れて涙を零し、濡れて響く音にリネンを引き結ぶようにすれば。
「だぁめ、もっと欲しがれ」
 僅かに笑みを含んだパトリックの声が告げてくる。
「だ…ぁって、ほしぃよ……っ」
 ほろ、と新しい涙が色づいた頬を滑り落ちていき。
 無理、と言い切られて、首を左右に振りむずがるようにルーシャンが甘く喉奥で声を詰まらせていた。
「だ、って…っト、」
 ひぅ、と涙声混じりになりながらも訴えれば。笑い声がし。
「だっても無ェよ」
 そうパトリックが続けて、含んだ熱をきつく吸い上げ、悲鳴めいて上った甘い声に内を弄る動きを強め。
「ッンあ…っぁ、あ」
 奥を擦り上げられ、ルーシャンがびくりと腰を跳ね上げ耐え切れずにまた熱を含まれたままで零し。
「パ、っと…ぁッ、あ…」
 ぐら、と沸騰したかと思える体温に息を詰め、ただ細かに砕けた熱の欠片が身体中を巡るように感じるのに、パトリックが喉を鳴らす音が妙にくっきりと耳に届く。
「っぅ、んんぅ…ッ」
 熱い舌先が過敏になった先端を割っていくのに背骨から震え、身もだえるようなのを押さえ込まれて奥からも吸い上げられ抑えた呻きが短い嬌声に変わっていく。
「ぁ、ああっ、」

 絡みつくように狭まり、取り込むように締め付けていた内側が、引き出されていく指の感覚をつぶさに意識させられてルーシャンがひくりと喉を鳴らし。
空気の揺らぐのに、眉根を引き寄せる。離された身体が嫌で、それの齎す空間が嫌で。
 ベッドサイドのドロワーに手を伸ばしたパトリックの視線が面白そうに自分に当てられたままなのを自覚しながら、それでも餓えた顔を曝すようなままであることを止めることができず、ルーシャンがまっすぐに目を細めたパトリックを見詰め。片手を添えて、一層右足をゆっくりと引き上げていた。
 双眸が煌き、くう、と笑みを浮かべていくのを見詰めながら、パトリックの他は貫いたことのない奥を僅かに曝し、こく、とルーシャンが喉を上下させた。
「たしかめて…くれるんだよね―――?はやく、」
 掠れて、甘い声が強請るように囁いてくるのにパトリックが、くっと笑い。ばぁか、と言葉に乗せていた。
「もう知ってる、カワイコちゃんめが」
 取り出したオイルが長く緩やかな線を引いて垂らされパトリックの指を濡らしていく。
その様をルーシャンも見詰め。ぺろ、と唇を潤していた。
「もっとカワイイこと、言ってみな?」
「はやく、はやく、はやく」
 感情を隠さずに、音に紛れ込ませルーシャンが囁くように告げれば。手指に落としたオイルを、くちゅりと音をさせながらパトリックが屹立に塗り込め。焦れて、それでも熱い息をルーシャンが洩らし。開いた脚の奥に、オイルに濡れた手指が伸ばされるのに、こくりと喉を鳴らしていた。
 とろり、と体温と同化した滑りが奥に撫で付けられ、息を短く零し。
「パァット、」
 上りかけた吐息が名前を途切らせる。
 両手で奥を開かされるのを感じ、本能的にルーシャンが息を詰め。
「ルーシャン、息は詰めるなよ、」
 同時に声が落とされるのに、ふにゃりと泣き笑いめいた表情を浮かべてパトリックを一心に見上げ。ぐう、とその背中に腕を回そうとすれば。滾るような昂ぶりに一気に奥深くまで貫かれ、悲鳴めいた声がルーシャンの唇から洩れ出していた。
 音を立てて内側から割り開かれていく錯覚に組み敷かれた身体が震え。奥深くまで一気に貫かれたまま、より深く、強く、貫き通すように律動が刻まれ始め、ひゅ、と音に成りきれずに喉が空気を取り込み。
「っぁ、ア、ぅ」
 肩を押し上げられ、リネンに沈みかけるままにルーシャンが呻く。けれども、熱い片手に竦んだ中心を絞り上げるようにされ、吐息が色を乗せ始め。
「ァ、ット、」
 揺すられながら、ルーシャンが切れ切れに口付けを強請る。

 荒い息を間近で零し、烈しく追い上げながらパトリックが口端を吊り上げ。薄っすらと強請るように開かれた唇の間に舌を差し込み潤んで熱い咥内を存分に掻き混ぜ。熱い壁の内も擦り上げていく。
 懸命に四肢で縋り、引き上げられる波に震えながらルーシャンが口付けに応え。限界の近いことをパトリックの背中を、引き寧るようにして知らせ。自身の熱を存分に絞り上げ、更に高みに引き上げようとするパトリックに縋りながら訴え。
 奥を突き上げられ、背中が浮き上がり。強く舌を吸い上げられ、背骨の奥から首裏まで熱い痺れが駆け抜けるかと思い眦から涙が零れる。
 もっと、と強請りたいのに昂ぶりは弾ける寸前にまで高まり。んんく、とルーシャンの声が喉奥で押し潰され掠れ。びくり、とパトリックの手指を迸りが熱く濡らし。
 吐精に震え、強張ったルーシャンの身体は弛緩する間もなく、体奥に滾るような熱を受け、震える舌を一層絡みとられながら声に出来なかったルーシャンの嬌声を、パトリックの舌が味わっていく。抱き締められ、昂ぶりを深くまで埋められ、ルーシャンが四肢をパトリックにきつく回し、きゅう、と目を瞑っていた。
 烈しい鼓動が身体中を駆け巡り、けれど。とろ、と柔らかに口付けを解かれ、ルーシャンが瞬きした。
 そのまま、体重が落とされ、肌が重ねあわせられるのにありえないほど一層餓えていく。幸福で、満たされて、けれどそれと同じだけ乾いていく。
「まだ満足じゃねぇだろ?」
 間近で囁かれて、ルーシャンがゆっくりともう一度瞬きした。
 頬に額で触れるように顔を寄せれば、知らず、張り付くようだった前髪をパトリックの指が退かしていく。
 目を細め、きゅ、と笑みを浮かべたパトリックを見詰めながら、ふわりと口付けに濡れて染まった口許をルーシャンが綻ばせた。
「―――――パット、だっておれ、あんたのだよ……?」




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