*58*

 車が停止し、先に下りたロイがドアを開けた。
 膝の上に乗せていたルーシャンの頬を突付いた。
「ココをベッドにしたくないんだったら、降りナ、仔猫チャン」
 ゆら、と揺れる視線で見上げてきて、首に腕を回してきたルーシャンに、くくっと笑った。
「カワイイヤツ」
 ロイがじっと見詰めてくるのに片眉を跳ね上げて、ルーシャンを膝に乗せたまま車から足を出した。
「ほら、頭くっつけとけ。ぶつけるぞ」
 うーわあ、とでも言い足そうに目を丸めているロイに目を細めて笑って、酷く小さな声で呼んできたルーシャンに視線を落とした。
 きゅ、と首筋に顔を埋めてきた金色の頭を掌で包み込んで、そのまま車を降りて。立ち上がり、車から一歩離れてからルーシャンの身体を担ぎ上げ直した。
「ロイ、ドアだ」
「イェス、ボス」
 ロイが慌てて玄関にまで走っていき、重い木のドアを開けていた。
 淡いオレンジの明かりが、深夜の闇にしんと静まっていた屋敷の周りを僅かに照らしていた。
 キンと冷えた冬の空気は冷たく。濡れたシャツに身体は冷えるが、ルーシャンを抱え込んだ部分は暖かかった。

 石のステップを上がり、キリキリと冷え込んだ空気から一転、ほわりと暖かな屋内に足を踏み入れる。
「おかえりなさいませ、旦那様、ルーシャン様」
 静かに頭を垂れたウィンストンの笑っているような声にパトリックは視線を投げた。
「ウィンストン、直ぐに風呂にする」
「お仕度を整えておきましょう」
「ロイ」
 ドアを開けていたロイを見遣れば、びし、と背筋を伸ばした腹心の部下に、に、と笑いかけた。
「明日はオマエの判断で頼む」
「……っひゃー、ヤー、ボス」
「なんだよソレは」
「いやいやいやいやいやいやいやいや」
 ぶんぶん、と両手を振って、ロイがついでに首も横に振った。
「任せておいてください、ボスはもう、ええ、なぁんにも心配はいりませんって。っひゃー」
 ルーシャンを抱えたまま、軽くロイに蹴りを入れた。
「ばぁか」
「いやーもう、ええ、バカは放っておいてくださいって」
 きゅ、と困った風に笑ったロイに、くっと笑いを返し。先に歩いていったウィンストンの影がとっくに見えない屋敷内を歩き出す。

 ぎゅう、としがみ付いたままのルーシャンの背中を、さらりと撫で下ろす。
「寒くないか、ルーシャン?」
 きりきりと冷たい布地の感触に、わずかばかり目を細める。
 首筋に顔を埋めたまま小さく首を横に振ったルーシャンに、くくっと笑った。
「無謀なコだよ、オマエは本当に」
 真っ直ぐに自室に向かえば、隣接したバスに湯が張られている音が聞こえてきた。
 ウィンストンが明るく灯された部屋の中で待っていた。
「服はこちらで」
「ああ」
 す、とウィンストンが隣の間に出て行き。パトリックはゆっくりとベッドルームでルーシャンをフロアに下ろした。
「酒猫、その服を剥ぐぞ」
 ゆらりと見上げてきたルーシャンの、ふにゃ、と浮かべられていた泣き笑いが、見慣れぬ部屋にぎくりと固まるのに、パトリックは目を細めて笑った。
「オマエはもう“客人”じゃねえよ、ルーシャン。オマエはオレのモノ、だ」
 さあ、と目を見開いたルーシャンに、違ってはいないだろう?と言い足して返す。
 甘いブラウンのコートを、ぐい、と引いて床に落とし。酒が染み込んだ薄いニットをずるりと脱がしていけば、その合間に酷く小さな声で、ウン、と返事が返された。
 掌を握りこんでいるルーシャンの頬に、トン、とキスを落とす。
「オレのかわいい仔猫チャン」
 ほろ、と涙を落としたルーシャンのボトムに手をかける。
「何を泣く、ルゥルゥ?」
「パトリ…っ、」
「言ってみな、カワイコチャン」
 ボトムを下着ごと落とさせ、履いていたスリップオンごと抑えてルーシャンを軽く浮かせる。
「あいたか…っ、た……!」
 うぅ、と嗚咽を押し殺しながら見上げてくる涙目に、きゅ、とパトリックは目を細めた。
「そうかよ、仔猫チャン」
 抱き上げていた身体を床に下ろし、今度は自分の濡れて重くなったジャケットを脱ぎ落とす。
 頷き、ふわりと目を一瞬閉じたルーシャンの頬を涙が伝っていくのに唇を押し当て。す、と胸元に手を添えてきたルーシャンの頬を包み込んだ。
 ネイヴィブルーのタイをルーシャンの小さく震えている指先が引き抜いていく。

「ルーシャン、仔猫チャン」
 嗚咽に開いたままの唇にトン、と口付ける。
 ひくんと指が跳ね、じっと見詰めてくるブルゥアイズを見下ろしながら、くう、とパトリックが笑った。
「オレもオマエに会いたかったよ」
「パトリ…ック、」
 ふにふにと仔猫らしく泣き出し、ぎゅう、と首に腕を回して抱きついてきたルーシャンの耳元に口付けながら、腕時計を外してポケットに落とし。それからシャツのボタンを外しにかかる。
「仔猫チャン、逃げ出させてなんかやらねェからナ?」
 ざ、とシャツを無理矢理落として、靴紐を無視して靴を脱ぎ落とす。
「飽きたら、息の根止めてほしぃ、」
 涙声で訴えてきたルーシャンの耳元を甘く齧る。
「飽きることがあったらナ、仔猫チャン」
「――――は、ァ…っ」
 きくん、と揺れたルーシャンの首元に唇をずらして食みながら、下着ごとボトムを落として足を抜いた。
「オレ以外のモノを見ることを許してやれそうに無ェからなァ、どうなることやら」
 すい、と抱き上げ、そのままバスルームに足を向ける。

 ドアをぱたりと閉じて、真っ直ぐに湯が半分以上溜まっていた湯船に足を踏み入れ。ぎゅう、と抱きついてきていたルーシャンの足を湯船の中に下ろした。
 びく、と冷え切った足先が急激に熱い湯の中に浸けられたことに身体を強張らせたルーシャンの腰を抱き寄せた。
「―――――ぅ、」
「かわいいから、そのまま抱いちまおうと思ったンだけどナ。さすがに悪酔いしそうだしな」
「はやく、」
 タップの下を捻り、湯をシャワーから落ちるようにさせる。
 甘く呻いたルーシャンの身体に、ざ、と熱い湯をかけ。
「オマエが酒を頭っから被ったりすっから。少しいいコでガマンしてナ」
 さら、とルーシャンの背中から項までを撫で上げ、それから沈んだブロンドをシャワーで浸す。
 ふる、と首を横に振りながら顎にかぷんと歯を立ててきたルーシャンの髪をぎゅう、と揉んで、パトリックが笑った。
「あと少しだろう、んん?」
 ふわ、と一瞬香っていたウィスキーのアロマがだんだんと消えていくことに笑い。
「ゃ、ガマン、できね―――――」
 甘い声でそう訴えてくるルーシャンの中心部に、きゅ、と中心部を擦り合わせた。
「―――――んァ、っ…」
 引き下がった腕に、ぎゅう、と指先が胸元に縋り付いてくる。

「ずっといいコでいたのか、ルゥ?」
 するりと背中を滑り落とさせた手で、ルーシャンの尻までを撫で下ろし。割れた間につるりと指を滑らせる。
「ココは自分で弄ったりはしなかったのか?」
「ッァ、」
 きくん、とルーシャンの背中が揺れ。それに構わずに片方の手で自分にシャワーの湯をかけていく。
「んん、ルーシャン?寂しくて自分でしたりはしなかったのか?」
 はたん、とルーシャンが瞬きをした。
 に、と笑ってみせれば、
「確かめろよ、はやく」
 そう焦れて泣き出しそうに揺れている声でルーシャンが言って返してきた。
「オレに命令するのはオマエくらいなモンだ、怖いもの知らずは相変らずだな」
「Patrick, Please,」
「ふン、そうそう許されると思ってるなよ、ルゥルゥ?」
 あむ、とルーシャンの唇を甘く食みながら、つるりと滑らせた指で奥に触れる。
「明るい場所で調べてやろうか、」
「ん、っぅ」
 甘い声を上げたルーシャンの後ろにそうっとシャワーを当てる。
「――――ぁ。ア、」
 驚いたようなルーシャンの声に、くっくと笑いながらシャワーの湯を止めた。ルーシャンの足が暴れかけ、ばしゃんと湯が跳ねたのに、きゅう、と尻肉を掴んだ。
「んぁ、っ」
「嘘だよ、仔猫チャン。じっくり喰うのにここで弄るわけないだろ」
「パット、」
 甘く啼いたルーシャンの首筋に、かぷん、と歯を立て。バスタオルを腕を伸ばして取り、ルーシャンの背中に回してそのまま抱き上げた。
 喘ぎ混じりに甘い声で呼んできたルーシャンを抱え上げたまま、ベッドルームに戻る。

 濡れた髪にルーシャンの指が差し入れられる。
 少しばかり緊張している体に気づかないフリをし、ウィンストンが首尾よく酒臭い服を持って消えたベッドルームに足を進めて、ルーシャンの身体をキングサイズのベッドに下ろした。そのまま身体を乗り上げて、きゅ、と中心部を合わせる。
「ふ、ぁ…っ」
 酷く焦ったルーシャンの身体が、小さくふるりと震えたのを感じ取り。そのまま顔を覗き込んだまま、下半身を擦り合わせる。
「あ、ぁあっ」
 首を必死に横に振っているルーシャンの唇に、噛み付くようにキスをする。
「イきたいんだろ?イっとけって」
 泣き出しそうに潤んでいるブルゥアイズを覗き込んだまま、中心部を揺らす。
 ひく、ひくん、と組み敷いた細い体が強張るのに、さらりと胸元に手を滑らせ。ぶるぶると身体を震わせたルーシャンの腰が跳ね上がり、熱い飛沫が腹から胸元に散らされていったのに、目を細めて笑った。合わさったままの唇が戦慄くのに、ぺろりと舌で舐め上げる。
 ぎゅ、と背中に爪が立てられるのに、とろりと舌を滑り込ませれば、熱を孕んだ下肢を一層押し当てられた。
 濡れた舌を捕まえ、啜り上げ。同じだけ濡れた下肢が揺れるのに合わせて、とろとろと押し合わせる。
 馴染んだルーシャンの匂いが間近にまたあることが、嬉しいと思った。また一層細くなった体が、それでもパトリックを求めて熱く震えながら、腕の中に在ることも。

「ごめ…、」
 鼻にかかった甘い声をルーシャンが間近で漏らし。下肢を押し合わせ、口腔を舌で弄りながら指で小さな尖りを押しつぶす。
「構わないさ」
 喘ぐように呟いたルーシャンに、甘い囁きで返す。
「イきたいだけ、イけばいい。咎めたりはしねえよ」
「だ、って……此処、あんたの匂いが、」
 きゅう、と尖りを強く摘んで捻る。
「そのうち区別がつかないくらい、オレの匂いだけに包まれちまうさ」
 甘い声を揺らし、頬を赤く染めていたルーシャンが、
「ぁ、あ、っ」
 そう鳴いてきくんと身体を跳ねさせたのを組み敷く。
「なにも隠さないで、教えた通りに全部オレに曝しナ」
「パァ、ット…、」
 甘い声を上げたルーシャンの唇を舐め上げてから、さらりと身体の位置をずらした。首筋を甘く吸い上げながら、手はルーシャンの片足を捕らえ、膝を引き上げさせる。
 熱い肌に水気がしっとりと沈み、掌に吸い付くようなのに薄く笑って肩口に軽く歯を立てた。くう、と背中に縋り付いてくる腕が力を増す。
 まっさらでキスマークひとつ残っていない肌に、新しく淡い花を咲かせていく。
「ルーシャン、カワイコチャン。甘い声で歌いナ」
 きゅう、と眉根を寄せたルーシャンの腿裏を掌で辿りながら、てろりと舌先で鎖骨を辿る。
「たっぷり鳴いて、沢山泣いて。オレを喜ばせろ」
「ぃ……の?夢中、になりすぎちま―――――」
 揺れるルーシャンの声に笑って、かり、と浮いた骨を齧った。
「ん、っく、」
「溺れて、オレのかわいい子猫チャンだってこと以外、ぜーんぶ解ンなくなっちまえよ、ルーシャン」
 くん、と高ぶった熱が肌を押し上げてくるのに笑って、ちゅく、と吸い上げて赤い花を落とした。
「オレに溺れてンなら、どんな狂態だって許してやる」
「あんたに、」
 そう呟いたルーシャンが、潤んで蕩けたブルゥアイズで一心に見詰めてくるのを見詰め返しながら、平らな胸に舌を滑らせた。
「恋してるンだ、……ばかだろ、」
 ふわ、と。酷く艶やかに泣き笑いを浮かべたルーシャンに、くう、と笑って返す。
「繋いで、閉じ込めて、食い殺されたいって思ってるんだ、」
 とろ、と淫蕩な甘い声が告げてくるのに、パトリックは片眉を跳ね上げる。
「信じられないくらいに大馬鹿だ、ルーシャン」
 告げて、トン、と心臓の上に口付けを落とす。
 ふわあ、と偉く幸せそうに微笑んだルーシャンに、くう、と牙を剥いて笑ってみせる。
「I know(うん、)」
 そう囁いて返してきたルーシャンに、にかりとパトリックが笑った。
「けど、その覚悟は買うぜ、子猫チャン。一生をかけて食い尽くしてやる」
 オレ以外は誰も許さない。そう告げて、がり、と平らな胸に歯を立てた。
「ん。ン、っ」
「オレが死ぬ時は道連れだ、カワイソウで馬鹿なルーシャン」

 必死に頷くルーシャンの両足を、ぐい、と開かせ。柔らかな腹の上に口付けを落とす。くう、と髪や背中に堪えきれずに縋り付いて来るルーシャンの足を折って抱え上げた。
「オマエはオレのものだ、仔猫チャン」
 揺れる息を零したルーシャンの、濡れた屹立をぺろりと舐め上げた。
「もう離してやんねぇから、全部諦めてオレに差し出しちまえ」
 両手で、くう、とルーシャンの奥を開かせる。
 いや、と首を横に振ったルーシャンに笑って、ぢゅく、と強く屹立を吸い上げた。
「嫌もなんもねェよ、ルーシャン」
「すげ、ぇ、嬉し…って、おも―――――って、」
 ゆらゆらと掠れて甘い声に、くくっとパトリックが喉奥で笑った。
「テメェで責任持って、オレの側で幸せになりな、ルーシャン」
 とろ、と唾液を棹を伝って零し落とし、指先でそれを奥に塗り広げる。
「―――――っぅあ、っ」
「死ぬまで可愛がるから。テメェは幸せになンな、仔猫チャン」
 甘く高い声に笑って、くう、と指先を浅く押し入れた。
「ふにゃふにゃ笑ってオレに甘えて、いい夢見てしっかり生きろ」
「パトリ、ック。あんたが、何であっても…すきなんだ、」
 とろりと泣きそうに甘い声が、荒い喘ぎに揺れるのに喉奥で笑う。
「オレはオマエにとってはただのパトリックだ。それでいい。それ以外のことは考えるな」
 だから、と。甘い喘ぎに言葉が混ざりこむ。
「おれのぜんぶで、受け止めるから。あんたを欲しいんだ、」
 きゅう、と肩に手指を埋めてきたのを片方外させ。金と銀の鱗に削られた皮膚に口付け。息を詰めたルーシャンに、くう、と笑いかける。そして、真っ直ぐに見詰めてくるブルゥアイズを見詰め返した。
「オマエと抱き合ってる間だけは、オマエにそれを許してやるよ、ルーシャン」
 だから、構ってやれない時にはむくれたりとかするなよ?とからかい混じりに告げて、くう、と人差し指を押し入れる。
「へ……き、ロイ、堕とすも――――――」
 そう生意気を言って、とろりと笑っていたルーシャンが眉根を寄せたことに笑って、身体を下に落した。とろりと濡れた舌先で、まだ乾いている縁を辿る。
 きゅう、と指を締め付けてくる内がきつく狭いことに喉を鳴らせば、低く甘くルーシャンが声を漏らしていた。

「間違えるなよ、仔猫チャン。オレはオマエのイーヴンでも、イコールでもない。オマエがオレのモノなんだからな?」
 ぐ、と舌先で指を沈めた縁を辿る。
「おれ…“ばか”だも…ッ、ぅア、っ」
 ぐらぐらと声を揺らし、吐息を荒くしたルーシャンの内側を、指できゅ、と押し撫でた。
「きっちりオマエに教え込んでやる。それを飲み込むまでは離してやらねぇから、覚悟しろよ、仔猫チャン?」
「せかいじゅうが、跪くって。あんたが、言った、」
 身体を跳ねさせ、甘えた声で言ったルーシャンに、くくっと笑った。
「それはオレの世界の話のことじゃねえな、ルゥルゥ」
「けど―――――、おれはあんたのがいい、」
 ふわりと甘いトーンで酷く真剣に告げてきたルーシャンに、パトリックが喉奥で笑って奥を指で擦り上げた。
「後悔をしても、オマエが選んだことだ、なかったことにはしてやらない」
「んぅ、…ッン、っ」
 くう、と指が背中にすがり付いてきたのに笑って、小刻みに指を揺らし始める。
「Welcome to my world, sweet kitty Lucien」
 甘く囁く―――――オレの“世界”にヨウコソ、カワイイ仔猫チャン、ルーシャン。
 きゅう、と泣きそうな顔で笑ったルーシャンの奥をきつく吸い上げた。
「May it be sweet to my poor kitty cat」
「ひ、っぁ―――――、」
 強張った下肢に構わず内側を擦り上げて、パトリックが笑った――――――“オマエにとっては甘いモノだといいな、カワイソウな仔猫チャン”。
「No, it's prefect(サイコウなんだよ、)」
 そう荒い息に紛れて囁き、ぎゅう、と背中に爪を立ててきたルーシャンのソレがパトリックの皮膚を裂いていった。鉄臭い甘い匂いが僅かに香ってきたことに、パトリックは喉奥で笑った。
「それなら愛してやるよ、仔猫チャン。オレの愛し方でナ」




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