*21*

従兄がロスに住んでいる、ということは知っていたけれどもそれ以上のことはヴァンは何も知らなかった。LA名物ともいえる夕方の渋滞の兆しが見え始めたころにはハイウェイを降りて、ダウンタウンを抜けてハリウッドヒルの方へ僅かに北上し、窓外を流れる景色が瀟洒な建物ばかりなのに、ふわりとわらった。
「絵に描いたようなロス」
シートを僅かにリクライニングさせて長いドライブの間窓外を見ていたままに言えば。直ぐに慣れるよ、と返され。
「ショーンの家プールある?」
ふ、と思いついた質問を口に上らせていた。自分の人生のなかで、泳いでいないことなど少し考えられなかったので。
「ある、とも言えるし、ない、とも言える」
「ふぅん?」
「ペットいる?」
「いない。けどオマエが欲しければ、飼おうか」
「んん、ほしくない」

ゆっくりと窓外を流れる景色から視線をショーンに戻し、また窓へと戻す。
そして、ゆっくりとした流れに乗って車が背の高い建物に近付いていくのに気がつき。ん?と思う間にも、どうみてもホテルのフロントエントランスを通りすぎ、左折し、どうみてもその建物の地下駐車場にクルマが入っていくのに、ぱち、と瞬きした。
そのまま、なだらかなスロープをローヴァは下りていき。トールゲートが開き、静かに空いているスペースを探す風でもなく奥まった一角にとまったのに、ヴァンがまたショーンを見遣った。
「ホテル?」
「ウン?まあ建物はね」
降りて良いよ、と促され、僅かに首を傾げてそれでも降り。くぅ、と伸びをした。
早めの夕食を取ってから20分ほどのドライブで着いたのはどうやらホテルで、あぁショーンはバーで何かのみたいのかな、と思い当たり。背中に添えられた手に促された方向に向かって歩き出していた。エレヴェータ。

「ショーン、」
ティン、とエレヴェータの到着音が響く中、僅かに見上げるようにする。
「んん?」
「カメラついてる?」
「アィ」
「ざんねん」
す、と見下ろしてくるブルーが少し煌くようで、そしてショーンの口許がくぅと笑みを刻むのをじっと見詰めていれば。音に乗せられずに、「あと少し、」と言葉が模られるのに、ひゃは、とヴァンがわらった。
エレヴェータの扉が開き、乗り込めばショーンが取り出したカードキィをスリットに差し込むようにし、ちかり、とカードリーダのグリーンの明かりが点滅し、上層階のボタンが始めて点灯したのに、あ、と思い当たった。
つい、とショーンの腕を突付く。
「住んでるの?」
す、とショーンが視線をおろし、いまのところは、と告げてくるのに、そっか、と微笑む。
「ショーンの部屋、」
そう半ば独り言に近いトーンで呟く。
やっべえ、すっげえドキドキして死にそうだ、と。

ティン、とまた静かな音が響き。エレヴェータが止まる。
柔らかな明かりに照らされたフロアに下りれば、
「近い内にイエを探して移ろう」
そう言いながら廊下の奥の一角で立ち止まっていた。
アンロックされる音が微かに聞こえ、あぁ、緊張する、とヴァンがヒトツ息を短く吸い込んだ。なるべく、緊張がショーンに伝わりませんように、と祈りながら。

「ドウゾ、」
にこりとショーンが微笑み、ドアを開けて中へと促してくるのに、「えっと、」とヴァンが口ごもり。そして、ショーンを見上げるようにして、く、と口許を笑みの形に吊り上げた。
「お邪魔します、と“ただいま”?」
ガマンし続けていた、とぎゅ、とショーンの首に両腕を回しながら言う。
「いらっしゃい、で、オカエリ」
ひょい、と抱え上げられ、また、くくっとヴァンが喉奥で笑った。
そのままエントランスを抜けてリヴィングまで連れて行かれ、うーん、これってスゥイートだよな、と思う。

とん、とリヴィングの中央で下ろされ、くると見回す。
「ひろいね?」
窓下にはパノラマが拡がっている、日の落ちる前のロスの景色。
「んん?そうか?」
「うん、」
くるっとまた室内を見回して見る。
けれども、レジデンスエリアとして整えられたまま、何も自分で手を入れていないことも何となく伝わってき、ヴァンが僅かに首を傾げた。
「でもさ、ひとが住んでるって感じしないね」
「まあ住んでいるって気はしてない」
「ふうん?」
ひょい、と腕が伸ばされて腰で引き寄せられるのに、ふわりと微笑み。そのまま身体を添わせるようにする。

トン、とキスが落ちてくるのを眼を閉じて味わい、ぎゅ、と抱きつき返していた。
バスルームは?と声が落ちてくるのに眼を上げ、おれってば頭のどこか緩みっぱなしかな、と思いながらまたふにゃりと笑みを乗せていた。
「いっしょいこうか?」
掌をそのまま肩に滑らせるようにして聞き返して見る。
く、とショーンが目元でわらうその表情に、酷く幸せになる。
「ん?なんか変なこと言った?」
少し眼を細めるようにして見詰め返され、また鼓動が一際競りあがるかと思いながら、するりと額を肩に押し当てるようにすれば。上向くように促され、あむ、と柔らかく食むようなキスを仕掛けてみる。
「ん、っ、」
柔らかく、それでも少しずつ深くなっていく重なりにどきどきと鼓動がウルサイほど聞こえる。

「やっぱり風呂はいいか」
僅かに浮かされた唇が模った言葉が、ゆっくりと意味を持ち始めていく間にも、ボタンフライをはらりと外されてデニムの前が開き。
「―――――ゎ、」
くすぐったいのと、気恥ずかしいのとでヴァンの頬が赤くなる。
「ショ…、」
また唇をキスで塞がれて、くらりと眼を瞑り。デニムがアンダーウェアごともっと下ろされるのに、ひゃあ、と内心で慌てる。
脱がすのは好きだったけど、脱がされるのは、ちょっと、これは……
「んんー?」
喉奥で笑うようなショーンの楽しげな声が聞こえて、一層自分の頬が熱くなったのがわかった。
けれども足下でデニムがもたつくのも絶対かっこ悪い、と辛うじて気を取り直している間にも、掌にTシャツを引き上げられてぴくりと肩が揺れ。身体を重ねあうように抱き合うようなまま、生地が引き上げられていくのに無性に嬉しくなるような気がし、ヴァンが眼を開けた。

首を抜く間だけ、ショーンの身体が僅かに離れたようだったのに、きゅ、と笑みを刻み見上げれば。ブルーアイズが優しい眼差しは変わらずに、けれど光を弾いて煌くようなのに、首に腕を回して抱きつく。
そして、ショーンの頬に唇で触れるようにすれば、ぐ、と抱き上げられデニムも全部引き下ろされ、そのままフロアに抜け殻のように残っていた。
「ショ…ン、」
いっしょに脱げ落ちたサンダルもそのままほとりと落ちるのにヴァンがくすくすと笑った。
左胸の上に、唇で触れられ。ひく、と背中が強張りかける。
そこに飾られたブルーのタトゥの上。
あるオンナノコには蝶だといわれて、また別の子にはコウモリといわれた、でもほんとうはルーン文字で刻んだ自分の名前の上を。
そして、そのとき戯れて、3文字は短いな、と思って。思いつく限り、一番好きな存在のスペルを追加した。
二重の意味で、どことなく自由なイメージのある鳥の名前でもあるし、大好きだった人のラストネームでもあったソレ。

あ、とイマサラながらヴァンが少しだけ焦った。
ショーンが夏をすごさなくなってからしばらくして、14の頃に入れたものはショーンは知らなかったし。
でも、とここまで考えて、けれど、ちゅく、と柔らかくキスを落とされて息が揺れる。
「ふぅん……?」
タトゥを舌でなぞられ、その眩暈がしそうな熱さに喉がひくりと揺れる。
見上げてくるブルゥアイズに、きゅ、とヴァンが眼を細めた。
あぁ、もしかしてこのひとも文字が読めたりするのかな、とどきどきとし始めたとき。どこかわらった風に、ショーンが言った。
「そんなにオレに焦がれてたの……?」
「だっ…て、」
いま絶対に心臓が喉に来てるよ、とヴァンが半ば涙ぐみかけた。
あぁほんとうに、言われるまでもなく自分はショーンのことが大好きだったんだ、と。
さら、と手が脇を撫で下ろしていく感覚にも息が揺れかける。
「ほかに、イレタイものなんて思いつかなかった」
ごめん、怒った…?とヴァンのブルゥアイズがさあ、と潤んだ。
ほんとうに、なにも思いつかなくて、だから14のときからいままで、なにも彫らなかった、と言い募る。
「馬鹿、逆だ」
すい、と抱き上げられ、ショーンを見上げるようにする。
「ショ…」
「大事にしなきゃな、って思っただけだ」





next
back