Innocente

 シャワーブースの湯気のなかで、なんの傷もタトゥもない濡れた背中が「美味そう」で、ウォレンがわらいながらたらりとボディソープで濡らしたスポンジをトッドの肩甲骨の間から尾てい骨のあたりまでしっかりと滑らせた。ついでに肩にキスもヒトツ。
 ざあ、とシャワーの音のするなか、そのまま項に額を押し当てる。頭から濡れることなんて別に構わなかった。そもそもシャワールームにいるのだから。
 笑い声に乗っ取られかけた声が、ちゃんと「なに」と発音できずに語尾がふにゃふにゃで、「にゃに?」と聞いてくるのにますますウォレンが額を押し当て、それから唇で肌に触れていた。
 くすくす、と静かに笑う微かなソニックがくっつきあった身体を通して伝わってくるのがキモチイイ。
 手を出されて、高めあって、アサイチに気持ちよくなって。そのまま真っ裸でシャワーブースに入ったって、くっついて。ファックしてるわけでもないのになおさらキモチイイってのはどうかしてる、とウォレンが笑いながら思った。
 滑走路を何処までも走っていくようなイメージ。加速だけしていく。
「オハヨウ、」
 やっとアタマがスッキリしはじめたこともあり、ウォレンが笑い混じりに言った。
 スッキリとする前にうっかり蕩けて朝から頭が一回惚けたから。そしてきちんと動き始めた頭で、いまなら朝もそれほど悪くないや、と思いながらウォレンはなんだかシアワセだった。
「オハヨーウ」
 スポンジをまた肩口あたりまで引き上げようとごそごそと動いたウォレンが耳もとにキスをされて、また小さくわらった。
 それから、背中ごしにスポンジを相手の胸元までもっていく。
「なーぁ、トーッド、」
 ごろ、と喉でもならしてでもいそうな声に、ウォレンがそれが自分のものとは思えずにすこし眉を引き上げる。
 なーん?と酷く機嫌よく返され、うん、とウォレンが応えた。
 うん、おまえに名前を呼ばれるのはスキだ、と思いながら手を休めずにゆっくりと動かしていく。
「おれが洗ってやるからー、おまえもしろ」
 さら、と一頻りトッドを泡だらけにしシャワーブースの下でけれどもソレがどんどんと流されていったころにす、と壁に背中を預けてウォレンが言った。
「けど、入れるのは無し」
 そう言って、ふにゃりと笑った。
「ん、いいよ」
返事に眼を閉じる。気分がとても良い。
「んー、」

 すう、と両腕を伸ばしてトッドの肩からかけ。ぎゅ、と抱き締めるようにすれば、首筋を甘く吸い上げられて、ふと息が弾む。
 手首から腕に向けてスポンジが沿わされていく感触に開けてしまいそうな目を瞑りなおせば。
「なんかウォレンとはハジメテだらけだ、」
 そう笑うような声が聞こえ、んん?とウォレンが眼を開けた。
 両腕をスポンジが辿り終え、それが胸元まで戻ってき。泡が流れた肌を甘く、何箇所が吸い上げられて、ぴりぴりと神経がキモチイイと伝えてくるのに薄っすらと笑みをのせながら言葉にする。
「そうなんだ?可愛がらなきゃダメだぜ、トッド」
 胸元に落ちてきていた顔を顎を指先ですくってあげさせて身体を折ったままに額と頬と目元に口付ける。
 ふわ、と端正な顔が綻んでいくのをウォレンが半ば感嘆混じりに見詰めていてれば、
「ガンバル、」
 そう言葉にされて、ウォレンが一瞬、瞬きし。けれどもすぐに同じだけ笑みに表情を崩していった。
「そ?アリガト。おれもね、」
「んー」
 それスキだ、と耳もとに唇を落として囁いて、ぎゅう、と抱き締める。
「んん?」
 柔らかな笑い声が耳にすんなりと溶け入って気分がいい。
 かわいがられンの、好きだ。と心うちで呟く。
ほんとうに、酷く久しぶりに「そう」されても何の用心も要らない手などにめぐり合ったことなどなかったから。頬を撫でた後で、首を握り締め喘ぐ顔を見下ろしてくることも、なんの気構えも要らない。ただ、触れたくて伸ばされる手に、押し付けがましさが無くて。

 壁の間から、背中に手が回されて。スポンジが肌を滑っていく静かでしっかりしたリズムに唇の端で微笑む。
 水の背骨沿いに流れていく奥に、手指に直に触れられて、く、と喉で笑い声がつまり。ますます、トッドの背中に回した腕に力を込め、ウォレンがヘイ、とわらった。
「のぼせる前に、シたくなっちまうって」
 中、平気?と耳元で笑って言ってくるのにそう返す。
 そして、濡れた肩に唇を添わせながら言った。
「さっきのヒトに怒られる前にでよーぜ?叩かれてアタマ、すげえ痛かった」





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