人はどうして恋をするのだろう。
耐えがたく。
堪えがたく。
思い通りに心を抑えられなくなる。
人はどうして恋を繰り返すのだろう。
泣いても。
傷ついても。
痛い思いをすると解っていても。
想いは、心を飛び出し。
心が、身体を支配し。
熱を含む視線。
熱を帯びる身体。
触れたくて。
触れられたくて。
餓えて。
乾いて。
どうしようもなくなる。
自分、のコトなのに。
自分が一番、手に負えなくなる。
気付いたら、恋に落ちてしまっているなんて。
…自分が一番、どうにもならない。
☆ ♪☆
いつの間に用意されていたのか。
黒い車に乗せられて。
外でエースがベンさんと何か言葉を交わし。
そしてすぐに反対側から乗ってきた。
広い車のシートの上。
さっきより開いた距離。
こういうものを、どうやって埋めていくのだろう、そんな疑問が頭を過ぎり。
けれど、すぐにエースの大きな手が伸ばされて。
肩にもたれかかるように、引き寄せられた。
運転手とは壁で区切られていて。
微妙に二人きりの空間。
うるさくない程度に、アップテンポのスタンダード・ジャズが掛かる。
いつのまにか、車は滑るように走り出していて。
不思議な昂揚感。
追いついてくる寂寥感。
言葉はそれらからは生じてこなくて。
心地よい沈黙に身を任す。
コツン、とエースの頭が乗せられて。
肩に回された手に力が入った。
手を伸ばし、エースの膝の上に乗せて。
宥めるように、撫でる。
エースが口だけで笑ったのを、空気が教えてくれて。
不意に、空いているもう片方の手が伸ばされて。
その手を掴んだ。
合わされる手。
組まれる指。
親指が、今度はワタシを宥めるように、手を撫でて。
やさしく触れるその先から。
熱が生まれる。
じわり、じわりと、その熱は広がり始め。
目を閉じて、その心地よさに身を任せる。
満たされ始めた心は。
何かにずっと餓えていたことに漸く気付き。
そうして、長い間忘れていた深い渇きを覚える。
少しずつ注ぎ込まれる熱に、まだ足りないと心が訴え。
その訴えは肉体を呼び覚まし。
カラダの奥底を疼かせる。
もっと欲しいと暴れ出す。
握られた手に、力を混めると。
凭れていた身体を起こされ。
身体をずらしたエースが。
目を覗き込んで。
同じように餓えた色を宿した視線に曝される。
ゆっくりと唇が近づいて。
目を閉じて、唇を合わせる。
しっとりとやさしい唇。
甘く噛むように、合わされて。
空いていた手で、頬に触れる。
啄むようなキスを繰り返し。
耐えられなくなって、やさしさは失われ。
吐息すら奪われるくらいの激しさを得る。
誘うように開いた唇の間から。
熱い舌が滑り込んできて。
擦り合わされる滑らかさに、思考が真っ白になる。
口腔を弄られる悦び。
交わす吐息の甘さ。
他には何も考えられずに。
夢中になる。
弾み始めた息に。
甘く蹂躙するものの甘さに。
止まらない疼きが身体中に溢れて。
けれど、まだそれに流されてしまうことはできず。
激しくなるばかりの口付けを遠のかせる。
何度も繰り返す、バードキス。
離れようと試みる度、引き寄せられて合わせる唇。
甘くて。
切なくて。
ムネが痛い。
★♪★
車が緩やかに停止して。
やっとの思いで身体を離す。
エースが先に車を降りて。
反対側を運転手に開けられ、目的地に着いたコトを知った。
開けた先は、思いのほか暗く。
冷たい潮の匂いだけが鮮明に浮き立つ。
身体を取り巻く、冬の空気。
砕ける波の水音。
不意に、もうすでに馴染んだ手を差し伸べられて。
誘われるままに車から降りる。
すぐに、エースの腕が回されて。
一歩も歩くことなく、抱き上げられる。
目を閉じて。
熱を感じて。
思考を停止した脳のまま、首元に顔を埋めた。
連れ込まれたのは、どうやら客船のようで。
打ち寄せる波にあわせて微かに上下する船に。
エースが器用にバランスをとるのを感じていた。
カーペットが敷かれているのか、靴音はせず。
数人の気配はするものの、誰も何も言わず。
ドアが開けられた微かな音で、客室に通されたことを知った。
「リヴェッド?」
促されて、面を上げて。
シックに纏められた、ホテルの一室のような船室を見た。
「少し、待っててな」
エースの声がして。
それから、そっとソファの上に下ろされた。
額にキスをされて。
見上げると、エースがクシャっと笑みを浮かべた。
「船長と話してくる。すぐ、戻るから」
指が唇をなぞって。
すぐに強く口付けられて。
「ホント、すぐ戻るから」
指を伸ばすと。
エースは苦しげに眉をひそめて。
ツイと指を取られ、指先に口付けられた。
黒い瞳とかち合い。
お互い、どうしようもなく苦笑を交わして。
エースがくるりと振り向いて、ドアを出る。
入れ替わり、制服姿のポーターが入ってきて。
頭を下げてから、二人分のジャケットを室内のクローゼットにかけていった。
その様子をぼんやりと見送ってから。
溜め息を吐いて。
ふと見上げた先に、レコードがあって。
立ち上がって、歩み寄った。
一枚、取り出して。
針をかける。
サァァという音の後に、暖かい音が流れ出して。
やさしい声が、歌いだした。
「リヴェッド?」
音もなく、声がして。
戻ってきたエースが、近づいてきた。
「明日の夜頃…あんたの島に到着するって」
「…そうか」
死刑宣告された人間みたいに。
心臓が小さく跳ねた。
「…んな顔するなよ、リヴェッド」
するり、と抱き込まれて。
腕の中に溜め息を閉じ込められた。
規則正しく強く打つエースの心音。
煩すぎない音量で響く音楽。
不意に、身体が離されて。
「最後のダンスをおれに」
からかう口調で、エースが言って。
ふわり、とおどけた仕種でお辞儀した。
胸が痛い。
「…ハイ」
苦笑しようとして、なぜだか涙が出て。
「…泣くなよ、リヴェ」
指が、零れた雫を拭って。
「な…?」
困ったような笑顔が、覗きこんで。
零れそうな嗚咽を呑んで、微笑みを作った。
「ああ…アンタほんとカワイイな」
手を取られて、抱きこまれて。
あやす様に、緩やかに揺らされて。
音にあわせて、ステップを刻む。
スロー。
クイック・クイック。
スロー。
クイック・クイック。
スロー。
甘い歌声が、ラヴソングを歌う。
リズムに乗って、半ば無意識に身体を揺らして。
背中を緩やかに撫でる、エースの手。
指先から伝わる熱に、目を閉じて。
肩口に頭を預けて、リードを任せた。
切なくて。
嬉しくて。
何も考えられない。
♪☆♪
1曲、2曲と踊りとおして。
鳴らされた汽笛の音に。
船が出港したことを知った。
「リヴェ」
こめかみに、キスをされる。
「リヴェッド」
頬に、キスをされる。
目を開けて、見上げると。
闇色の瞳が煌いて。
そっと降らされた口付けを、受け止めた。
ぴったりと身体が合わさって。
足はゆっくりと止まり。
口付けに、全ての感覚が攫われる。
忍び込んできた舌の甘さに。
切なく溜め息が零れ。
背中を撫で擦る大きな手に。
感覚が研ぎ澄まされる。
広い背中に縋って。
僅かに高い位置にある頭を引き寄せる。
舌を絡めて。
柔らかく吸われて。
身体が蕩け始める。
角度を変えて。
何度も貪り。
口腔の隅々まで暴かれて。
何度も吸い取られ。
力強く抱きしめられたり。
髪を撫でられたり。
手を背中中滑らせたり。
頬に触れたりして。
張りつめていたものを、全て抜き取られて。
吐息すらみんな、奪われて。
小さく喘いだ瞬間。
抱き上げられた。
ボルドーのカーペットを横切って。
重厚なつくりのドアの向こうのベッドルーム。
明るすぎないように照らされた部屋は暖かく。
ゆっくりと下ろされたのは、オフホワイトの、シルクのシーツの上。
そのまま圧し掛かる形で、若いオトコは覆い被さってきて。
腕を伸ばして、抱きとめる。
こめかみに。
頬に。
首筋に。
何度も何度も降らされる口付け。
さらりとした掌は、頬から腰までのラインを辿り。
煽られて。
「エース…」
愛しいオトコの名を呼んだ。
★ ♪★
意思をもった手は、身体の表面を辿り続け。
けれど、そばかすの散った少年みたいな顔は、一匹のオスの表情を浮かべて。
闇色の瞳が間近でワタシを見ている。
「…あんたみたいなヒトを」
困ったような声。
「おれみたいな若造が。手にしちまっていいのか、わかんねェけど」
大きな手が伸びてきて、前髪を漉いていった。
「おれ、あんたに溺れてる。バカみたいに、恋してる」
熱くてサラリとした指が、首筋を辿り。
大きくカットされたシャツの間から覗く胸元を。
ゆっくりと滑り落ちた。
「明日には、会えなくなンのに。おれもあんたも、…泣いちまうのは、解ってるのに」
シャツの上から、胸の膨らみに触れて。
「ごめんな、あんたが欲しくて、しょーがねぇよ」
くしゃり、と笑って。
「あんたが、好きだ」
手を伸ばして。
黒い髪に触れる。
耳をなぞって。
頬を辿って。
唇に触れると、ぺろりと舐められて。
ゾクゾクと這い登る、覚えのある感覚に。
身体がふるりと震えた。
沢山のオトコたちと。
イロイロな経験を重ねても。
本気の時には、何一つ役に立たない。
自分がしてきたことに、後悔はしていないけれど。
定まらない思考。
考えたくない。
けれど。
「いいんだ」
溜め息に、拙い言葉を混ぜて。
「泣いても…辛くても。いいんだ」
霞む視界の奥。
エースはどんな顔をしている?
頭を引き寄せて。
「覚悟は、できたから」
瞳を閉じて。
「後で、泣いても…いいんだ」
溜め息。
「…スキで堪らないのは、ワタシも同じだから」
頭を撫でて。
反対の手で、背中を撫で下ろして。
「…欲しくて堪らないのは、ワタシも同じだから」
エースが、身体を起こして。
強い瞳が、ワタシを映す。
「オマエのココロの一部を…貰っていってしまっても、構わないだろうか」
「あんた、ズルい」
エースが顔をくしゃ、と顰めた。
「…ノーって言えるワケ、ないだろ?」
「……」
涙ぐむエースの瞳がキラキラと輝いて。
キレイだな、なんてぼんやり思う。
「ズリぃよ、…リヴェ」
「…ごめんな」
「…諦める覚悟ができてるなんて、ズリぃ」
「…エース」
強く抱きしめられて。
「エース…」
「わかってる…あんたはオトナで。おれはまだ…オトナになりきれてなくて。こんなにあんたに
恋してるのに…一緒にいられないって、解ってるのに」
スリ、と頭を摺り寄せられて。
「解ってても…あんたを手放しちまいたくねェよ」
独り言のように、呟いて。
「…ああ」
強く抱きしめる。
「ホントに…ホントにあんたがスキなんだ」
「ああ」
「ちくしょー…」
くぐもった声。
暖かい重みが、なんだか愛しくて。
撫でながら。
頬を摺り寄せる。
ネコみたいに。
コドモみたいに。
唐突に。
幸せだな、という思いが溢れた。
♪☆♪
しばらくの、沈黙の後。
「…あんたの前では、カッコよくあり続けたかったのに」
本当に悔しそうなエースの声に。
いとおしさが胸に募った。
「エース?」
声をかけると。
不意に、口付けられて。
「これじゃ、タダのガキじゃねーか」
拗ねたような、口調。
こっちを向いてほしくて。
「…ワタシには、充分だ」
手で頬を捉え、目を覗き込む。
潤んだ黒い瞳。
「オマエは、ワタシには。充分すぎるくらい…オトコだ」
「リヴェッド…?」
「ワタシには…勿体無いくらいだ」
やわらかく、唇を啄む。
「これから先も。オマエは沢山のヒトに微笑みかけて。沢山のヒトと夜を過ごすだろう」
「リヴェッド、それは」
反論しようとしたエースに微笑みかけて。
「その度に…オマエはワタシを思い出し。その度に、そのヒトたちは、オマエの胸に住み続ける
ワタシを恨むだろう」
顔を顰めるエースの頬に触れて。
目を閉じる。
「そしてワタシも他のヒトと夜を過ごし。その度にオマエを思い出し。その都度、オマエを忘れられない
ワタシは責められるだろう」
溜め息を吐いて。
「それでもいい、と思ってしまうなんて。…ほんとに。いつの間に、こんなに深く、オマエに
恋したんだろうな?」
「リヴェ…」
笑って。
「…オマエに焦がれて。オマエの熱が欲しくて」
目を開けて、そこに真摯な光を宿した双眸を見つける。
「…どうにかなって、しまいそうだ」
噛み付く勢いで、口付けられて。
乱暴に這い回る舌を、やんわり吸い返して。
宥めて。
煽られて。
和らいで。
夢中になる。
しっとりとした感触のエースのシャツを握り締めて。
それだけじゃ、足りないと、指先で訴える。
口付けが解かれて。
首筋にオトコの息を感じて。
項をペロリと舐められて。
小さく声を上げた。
熱い指先が、開いた胸元を滑り、ボタンを器用に外していく。
背中の下で、シーツが小さく鳴き。
少しずつ開かれていく感覚に、身体が震える。
「寒ィ?」
訊かれて、首を振る。
「…恐い?」
一瞬考えた後。
「…少し、な」
掠れる声で答えた。
エースが柔らかく笑ったのを。
皮膚に触れる唇の形で感じる。
空気が少し、甘くなった。
♪★♪
する、とシャツが抜かれて。
前を大きくはだけられる。
唇が、喉から鎖骨の窪みへとゆっくりと這い。
濡れた箇所は外気に冷え。
その場所から熱が生まれて、身体を巡り始める。
下着の肩紐を、指は器用に外し。
シャツの下に潜り込んだ指が、慣れた手付きでストラップを外す。
緩んだ胸周りとは裏腹に、カラダはなぜか緊張し。
するりと脇腹を撫ぜた指に、心臓が跳ねた。
片腕で上半身を起こされて。
そのまま合わさる唇。
上がるばかりの吐息を混じらせて。
小さく漏れる溜め息に、脳が侵される。
乾いた掌は、直接背中を滑り。
その熱に反応して、身体の奥に火が灯る。
手を伸ばして。
少し濡れたような感触のシャツを引っ張る。
エースが喉で小さく笑い。
口付けが解かれて、しかしそれは遠くへ行くことはせず。
繰り返し、唇や頬や目尻に押し当てられる。
霞んでしまいそうな思考をかき集めて。
震える指先で、エースのシャツのボタンを外していく。
指先で触れる、オトコの肌の熱さに。
泣きたいような幸福感を覚える。
一瞬躊躇して。
それから、トラウザーズのボタンを外し。
ジッパを下ろすそのメタリックな音に、これから与え合う快楽の予感を覚える。
鈍く光る黒いエースのシャツの裾を抜き出して。
その下に隠されていた、滑らかな肌を曝け出す。
厚い胸板。
キレイに割れた筋肉。
しなやかな、若いオスの肉体。
他の誰でもない、このオトコのカラダ。
エースの、身体。
指を伸ばし、筋肉の溝に沿って、身体に触れていく。
所々行き当たる、大小の疵痕。
このオトコの過去が語りかけてくる。
「…リーヴェ」
苦笑を刻んだエースの、呆れ口調の柔らかな声。
「そんなにしたら…煽られるだろ?」
掌を、滑らせて。
強靭な胸に触れる。
小さな胸の飾りにあたり、指で触れる。
「リヴェ?」
「…煽られたって、いいんじゃないか?」
その返答に、耳元でエースが笑って。
柔らかく耳朶を噛まれた。
「それはそうなんだけどさ…おれも見たい。あんたのカラダ」
低く、囁く声。
餓えた視線が、間近で絡んで。
「オマエは。いつでもそんなにストレートなのか?」
からかい口調で訊ねると。
「さぁ、どうだろうな?」
ケモノくさい顔で、笑われた。
手が伸ばされて。
シャツをスルリと脱がされる。
すぐに首元に顔が埋まり。
やんわりと歯が立てられた。
「ふ…」
小さく吐息と共に声を漏らして。
同じように手を伸ばして、エースのシャツを滑り落とす。
すがりつこうとしたら。
「まだダメ」
笑いを含んだ声が制止して。
そろりと下着を取り去られた。
胸元で揺れるネックレス。
それすらも、外されて。
腰を抱かれて、シーツに横たえられた。
肌に直接触るシルクの冷たさに。
ふる、とカラダが小さく震えた。
♪☆♪
イタズラな黒い瞳が、カラダの形を辿っていく。
左の乳房の上に書かれた呪文。
ヘソの周りに描かれた式。
じい、と見入られる。
「いつ…彫ったんだ、コレ?」
指が緩やかにそれらを辿る。
「大分、前だ…12くらいの時、だったかな」
オトコの腕に手を伸ばし。
肩から腕に掛けて彫られた刺青に触れる。
「…式?」
「そうだ」
「ふーん…おれも彫ろうかなぁ…」
「やめておけ…あまりいいコトはない」
「…そういうものなのか?」
「まぁ…ワタシは魔女だからな、こういうものが、より意味を持つんだが。オマエはそのままで充分強いから、こういうものには頼らないほうがいい。魔に魅入られやすくなる」
「そっか…」
熱い息が近づいて。
乳房の上の呪文に口付けられる。
指はそのまま足を辿り。
履いていたクツを脱がされた。
「んー…あんた、なんかいい匂いすンな」
胸の間に顔を埋めて。
しかし、その間もオトコの指はズボンのボタンにかけられていて。
「オマエは。油断も隙もないな?」
からかって。
少しクセのある髪の毛を漉いて。
抱き寄せる。
「そーか?隙だらけだって、言われるケドなぁ」
くぐもった声が笑って。
「あ、しまった。おれのクツ、編み上げじゃねぇか」
チッとちいさく舌打ちして。
「…顔上げるの、もったいねぇ」
ぎゅう、と抱きしめられて。
「…バカ言ってないで。ほら」
思わず零れた笑いで、促した。
「ん〜…まってて」
おどけた仕種で、乳房にキスをされて。
また声を出して笑った。
するり、と。
触れ合っていた裸の肌が離れて。
すぐそこにいるのに、寂しくなる。
カラダの節々は熱くなっているのに、急に寒くなって。
ベッドに座り込んで靴を脱いでいるオトコの背中。
カラダを起こして、手を伸ばす。
たったこれだけのことでこんなに寂しくなるのに。
明日、離れたら。
どんなに痛いことだろう。
覚悟したはずなのに、そんなことを考えるオノレを笑って。
肩甲骨に沿って指を辿らせる。
吸い寄せられて、肩口に唇を落とす。
「…待てなかったか?」
両方の靴を脱ぎ終えたエースが振り向いて。
「…ああ」
答えて。
カリ、としなやかな筋肉に噛り付く。
エースが笑って。
熱い指先が頬を撫でる。
「リヴェ」
振り向いた姿勢のまま、また抱き込まれて。
髪がシーツに散る音がした。
意思を宿した指先が。
乳房をやさしく握りこむ。
快楽を作り出そうと、蠢き始める。
エースの背中に指を滑らせ。
合わせられた口付けの、やんわりと煽るさまに。
このオトコが望むまま、眠っていた快楽に。
次々と火が点いていく。
ズボンのジッパーを。
乳房から降りてきた器用な指が、片手で下ろしていく。
腰を浮かせ、脱ぐのに協力し。
するり、と脱がされて、なんだか急に、恥ずかしさが募った。
背中に爪を立てて。
口付けを激しくする。
裸の足をエースの指が意思を持って滑り降り。
間に割り込んできたオトコのズボンのひんやりとした感触に。
…息を呑む。
♪☆♪
不意に身体が浮かされて。
エースが器用に体勢を入れ替えた。
見下ろすオトコの前髪をかきあげて。
自分から深く口付ける。
その間に、エースの指は下着をそろりと下ろし始め。
笑って口付けを解いた。
上体を押し付けるようにしながら、エースが身体を起こして。
膝を跨いで座り込む。
「リヴェ」
額に口付けて。
「リヴェ」
頬に口付け。
「…なんだ?」
声を落として答えて。
鼻先を合わせる。
「すげぇスキ」
目を開けると。
「とまんねぇかも」
やさしい目が、笑っていて。
「…とめなくて、いいさ」
柔らかく、唇を口付けて。
「全部、受け止める」
ぐい、と抱き込まれて。
「…エース?」
背中を撫でて訊くと。
「…きっとずっと、あんたを忘れない」
胸に頬を当てて、エースが言った。
「あんたみたいに、かわいくて、カッコいいオンナ。きっと世界中どこ探しても、いない気がする」
コトバが呪文になって。
心に刻印されていく。
「リヴェッド」
目を閉じて、黒髪に口付けて。
哀しいくらい、透明になった心。
ソラで呪文を思い浮かべた。
愛しい人よ。
この名を呼び、炎を吹き込んで。
この心を掴み取れ。
愛しい人よ。
その手を伸ばし、身体を繋げ。
この心を奪い取れ。
この身を祝福し、この心を呪え。
そして永遠の束縛を。抜けない刺を。
愛という名の楔を打ち込め。
この魂に、永遠の刻印を刻め。
「リヴェ?」
「…フロに行こうか」
本当は魔法なんて。
人が思っているほどに力のあるものではない。
純粋な思いだけが、本当の力を持つのだから。
エースの腕から逃れて。
立ち上がり。
この胸に抱かれるこのオトコは。
無邪気にその強さも知らず。
呪を言の葉に乗せる。
最強の魔法使い。
ワタシに魔法をかけた、天性の魔術師。
エース。
手を伸ばして、エースが立ち上がるのを助ける。
喜んで、呪われてやる。
そして、永遠の祝福を。
…愛という鎖を、この心に。
思い出という楔を、この魂に。
「リヴェッド?」
微笑みかけて。
「先に、行っている」
声を出す。
ズクズクと。
呪を刻み込まれた心臓が。魂が。
血を流す。
痛みに震える。
「先に行って、待っている」
滴り落ちる血は、情熱を燃やす炎となって。
この身をどうしようもなく焦がす。
「オマエを」
オマエがその誓いを。
この身に刻むのを。
待っている。
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