55.
「―――で、」
バスタブに身体を伸ばしながらサンジが言った。ゆったりと身体中の力を抜いて、長く息を吐く。
水蒸気で、窓がうっすらと曇っていた。
「ン?」
軽く、肩口に唇が言葉と一緒に落とされるのにまたサンジがふわりと笑みを乗せた。
背中越しに伝わる鼓動も、回されたままの腕も気分が良い。預け放しの身体をアタリマエのように受け止めて、おまけにこのバカは機嫌もよさそうだ、と妙に心臓の辺りが暖かくなるのを自覚しながら。
そして。
この、とんでもないギャップはなんだろう、と思う。
呼吸することさえ苦しい、と。どんな些細なしぐさのひとつ、瞬きさえ熱いうねりに繋がりそうであった時間は、それほど前のことではないのに。
「ホリディは全部おれのなんだ?」
「―――あァ、」
思い当たってゾロが目の前の、キレイなラインを描く肩に顎を預けてみる。
「そのことか、そうだよ」
クリスマスから丁度一週間、とゾロが言った。
「すぐじゃん」
「―――ンー?」
「イブまでなんてさ」
「……だな、」
答えながら、首筋に唇を軽くプレスする。
「怪我してンじゃねぇぞ、それまで」
水滴に濡れた指先がこめかみから頬下あたりまで、そうっと辿ってくるのに小さく笑みを乗せ、もう一度肌を柔らかく啄ばむようにしながら、言葉を継ぐ。
「あァ」
もちろん、とサンジが呟いた。
「―――ホリディが終わってからも、だからな」
ふ、とゾロが目元で微笑んだ。
想われている深さにどうしようもなくイトオシクなる。少ない言葉の裏にどれだけの想いが込められているのか、もう自分は知ってしまっているから。
振り向くようにし身体を僅かに捻ったサンジの温かくなった手が、また頬に触れてくるのに一瞬、眼を閉じ。吐息めいた息を静かにゾロが洩らした。
「あァ、善処する」
だから、出きる限りのことを約束する―――ウソはつけないから。
「オマエのところに戻るよ、おれは」
「―――アタリマエだ、アホ」
「―――あァ、」
軽く唇で触れる。
「けど、おまえ。アホは余計だ」
心外だ、とでも言う風なトーンでからかうように告げれば、ぱしゃ、と水面がサンジの手の下で小さな音を立てた。
「撤回してほしけりゃ、ホリディで点数稼げ」
そして、くぅ、とサンジが口端を引き上げてひどく嬉しそうにわらった。
そして、またゾロは思い当たった。
もしかしたなら、この存在は自分がいままで生きてきたなかで一番のギフトだな、と。
「I swear」
誓うよ、と。
そうっと言葉に乗せていた。
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