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 ゾロが、すう、と一瞬眼を閉じた。
 そうか、と。とても深い声が、ゾロの口から出てきた。
 「ゾロはちゃんと知ってるっていうの、オレは知ってるから。だから、オレはゾロになら、手を引いてもらいたいって思えるんだ」
 
 ゾロが眼を開けて。
 「それでもオマエはバカだ」
 そう言っていた。
 そして、そのままきゅう、と水の中で抱きしめられた。
 
 「…オレは、あんまりヒトの社会の理はわかんない。けど、その分、世界のありのままの理を学んだ」
 ぎゅう、とゾロの背中に手を回す。
 「で、オレ、思ったから。オレの選んだ道、間違って無いって」
 心の底から思ったから。
 「オレ、流されてゾロの前にいるんじゃないんだよ?オレが選んだんだよ、一個一個」
 ゾロの頬に唇を押し当てた。
 
 「おれは、」
 静かな、ともすれば水音に負けてしまいそうなゾロの声がする。
 耳を澄まして、ゾロの声を拾っていく。
 「ドラッグは嫌いなんだが、おまえは……」
 「うにゃ?」
 ドラッグがどうしたの??
 「おれの、ペイン・キラーだな、」
 そうゾロが続けて。
 とてもとても優しく、笑っていた。
 
 …嬉しいなぁ。
 オレは、ゾロの、"痛みを消す者"、なんだ。
 ―――ジョーンに最初に出会って、ゾロの存在に気付いた時。
 オレは、アナタの"やさしさ"でありたいと、願った。
 それは、ゾロにとって、命取りでも有り得る、両刃の剣。
 でも、ゾロは。
 存在しうる危険を知っても、それでもオレの手を取ってくれるんだ。
 オレが、ゾロの中に在られる場所を、作ってくれてるんだ。
 
 こんな存在、他に在りえないよ。
 ゾロ以外の誰にも、オレは手を引かれたくない。
 ゾロだけが、いい。
 こんなに総てのことを解っているのに。
 "間違ってる"だなんてこと、在りえない。
 オレはゾロのビジネスを理解したけれど、ソレはオレには関係が無い。
 オレがゾロと添うのに、厭う理由にはなり得ない。
 
 とてもとてもやさしく、まるで花が触れるように。耳に近い場所、頬骨のすぐ横のところ、ゾロの唇が触れていった。
 微笑みが、湧き上がる、オレの中から。
 
 オレは、ゾロの腕の中にいたいと願った。
 そう願って、沢山の分岐点で立ち止まって、選んできた。
 オレがいま、ここに在るのは。オレが選んで、進んできた道の結果。
 後悔なんか、するわけないじゃないか―――。
 
 「ゾォロ、」
 少し心配そうに唇を啄んできたゾロの唇を、あむ、と食んだ。
 「愛してるよ、ほんと、それだけ」
 にゃはあ、って笑う。
 集約すると、つまりはそういうこと。
 
 
 
 
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