最後の卒業生の名前が呼ばれた。
オレの知らない誰か。
それから学部長が、全員起立を命じて。
ゾロのダディが、オレにむかってにか、って笑ってくれて。
小さく笑って返した。
サンドラが隣で、ひょいって眉を片方引き上げていたけれど。

「―――and the class of year 200X is now pronounced as graduated」
学部長が告げるやいなや、拍手が鳴り始め。
サイドで待機していたブラスバンドが、演奏を始めた。

背後からなぜかざわつきが伝染してくる中。
全員が立ち上がって。
キャップ、被ってたヤツ。
それを、ひゅって宙に放った。
タッセルがきらきらと煌いてた。
落ちてくるポイントを見てたら、伸びてきた腕に、不意に抱き上げられた。

「んにゃ?」
「よう、オメデトウ」
「―――わお!」
にかりと笑ったゾロの首に腕を回す。
す、と片腕が離れていって。
オレが投げたキャップを、ゾロの手が捕まえていった。
隣では呆れたみたいに笑うサンドラ。

「貰ってくぞ、」
「返すつもりなんかないクセに」
サンドラが笑って、ゾロに言ってた。特大の笑み付き。
「2年待たされたからな?」
「アタシは4年楽しんだわよう?」
サンドラがキゲンの良さそうなゾロの頬にキスしてた。
「フン?懐かしンどけよ、もうねぇぞ」
キスを返しながら、ゾロが言い。

サンドラの緑の目と合う。
「会いに行くわよ、サンジ」
トンと頬にキス。
「ウン」
ゾロに抱かれたまま、頬にキスを返した。
「「またね」」

にこ、と笑い合ったら。
ぽす、と金色のキャップが顔に落ちてきた。
「んにゃ!」
すたすたとゾロが歩き始め。
サンドラの笑い声が少しずつ遠のいていく。

中央のアイル。
帽子がまだあちこちで飛んでいる中を、ゾロの腕に抱えられて歩く。
なんだか、―――騒然と、してるみたい…?
ちら、と視線をやったら。
シャーリィが笑って、エディと一緒に手を振ってくれてた。
ハンドサイン、デンワしなさい。
オーライ、マミィ。もちろんだよ。

セトはコーザの隣で、けらけら笑ってた。
コーザも呆れたみたいに、大笑い。
小さく手を振る。
バイバイ、またね。

ゾロの肩越し、降ってくるキャップの雨を見詰める。
光りの満ちたホール。
知ってるコたちも、知らないコたちも。
みんな、遠くなる。
それでも、抱えられた腕の中、力強くて暖かい。

ホールの外で、とん、と髪にキスしてもらった。
キャップを下ろし、ゾロの首筋に顔を埋める。
「ゾォロ、」
ふわふわ、笑み。
嬉しいな。
「大好き」
溜息に似た吐息と一緒に告げる。
やんわりと抱きしめてくれる腕が、嬉しい。

する、と下ろされて、目を開けて見上げる。
少しだけ近づいた煌く翠の双眸。
見詰める。
「抱えられていくのじゃなくて。おれの隣。歩くんだろ?」
にっこりと笑って、すう、と抱きしめられた。
―――Yes。

「ゾロ、手を繋いでイイ?」
「ン?どうぞ」
「にゃあ」
すい、と差し出された手に、手を滑り込ませた。
きゅうっと握る。
「人波に巻かれるマエに、いっちまおう」
す、と僅かに引かれて、ホールのロビーから晴天の下に抜け出す。
背後から僅かにサンドラの声。
"追いかけるんじゃないよ!!"
―――最後の最後まで、ありがとうネ、サンドラ。
あれはきっと、キャンパスTV対策だ。
ゾロも声を聞いて、笑ってた。

「行こう、ゾロ」
きゅう、と手を繋いで、足を踏み出す。
「車?」
「あぁ。ドルトンが待ち構えてる」
「わ、ゾロが運転してきたんじゃないんだ」
すい、と笑みを浮かべたゾロに笑んで返す。
「じゃあ行こ」

キャンパスのグリーンを、さくさくと歩く。
いい天気だ。
ゾロの歩調に合わせる、このスピードは問題ない。軽い早足みたいなモンだし。

あっという間に、在校生とかが何人かちらほらとオレたちを見てる中。
駐車場の手前のロータリに辿り着く。リムジンがあった。
ドルトンさん、何度か会ったヒト。
ドアの横に隙を見せずに立ってたけど。にこ、って笑ってくれた。
にこ、とオレも笑みを返す。

隣―――あ、コーザのほうのヒトだ。
ルーファスさん、すい、と微笑んでくれて。
オレが笑みを返すと、ゆっくりと離れて行ってた。

「待たせた、」
ゾロが言って、ドアが開けられる。
促されて、乗り込むと。
ゾロは反対側に回って乗り込んできた。
じ、と見詰めちゃうヨ。

「スーリヤも待ってる。NYに連れて帰るぞ」
ドルトンさんが前に座り込み、ドアが閉まる音。
ドライヴァさんが車を発進させる中。
「うん」

ゾロがひょい、と方眉を引き上げた。
「いい仮装だな。ハロウィンより上出来」
すい、とゾロの頬に指先を伸ばして、そうっと触れる。
「なんの仮装、オレ…?」
ガウン、フロントフックを、すいすいすい、と外されていく。
さら、と肩から落とされた。
「大学生」
に、って笑ってゾロが言った。
「……仮装だったんだ」

笑えば、すい、とタイが引かれた。
トップボタンを外され、寛ぐ胸元に、深く息をする。
ゾロの指先が、ダイアモンドのティアドロップを、さらりと指先で辿っていった。
すう、と意識が僅かに変わる。
「Miou」
くう、と口端を引き上げる。

「外すなよ…?似合うから」
トン、と頤にキスをされて、ゾロの首に腕を回した。
見上げて微笑む。
「すきだよ、2年は長いな」
ゾロがそう言って笑って、抱きしめられて。
きゅう、って強く抱き返す。
「今日からまたよろしくお願いします」
ゾロの首に笑って声を落とす。
「もちろん」
ゾロの声も笑ってた。

「あぁ、そうだ。サンジ?」
「なぁん?」
すい、と顔を上げて、見下ろしてくる翠を見詰める。
「朝ごはんは。パンケーキとミルクシェ―クをオネガイシマス」
くう、ってゾロが笑って。
そうっと唇を押し当てて微笑む。
「With me or without me?」
オレも?それともオレナシで?

「How can I live without you, babe」
からかい混じりに落ちてきた声。
キスは目許。
ううん、そういう意味じゃなかったんだけどな。
まあ、いいか。
もういつだってオオケイだしね?

"キミがいなけりゃ生きていけないよ"なんて言ったゾロの唇に、トンとキスした。
「愛してる、ゾロ。ミルクシェイクにパンケーキとオレね?」
にこ、と笑いかけてみる。
「異議無し」
そう言って笑ったゾロが。オレのハナ、むに、ってしてった。
にゃあ。なんだよう。

「アイスクリームも?」
訊いてみる。
「欲張り猫」
「食べるの、アナタだよぉ?」
笑ったソロに笑い返す。
まあ、オレも一緒に食べるけどネ。

「ヴァニラ?」
すいすい、と額を指で撫でられて笑った。
Yes, and No。
「シェークにはヴァニラだけど。他に食べたければどんなフレイヴァでも」
うっとりと目を細める。
ふわふわと甘い気持ち。
NYCだってダイジョウブだと思える。
ゾロのテリトリィの中だから。

「10日、マンハッタンで我慢しとけ」
優しい声に頷く。
一人でもダイジョウブだよ、もう。
ゾロのテリトリィ、腕の中だから。
「直ぐに仕事に戻るの?」
「戻ったらな、」
額にキスが落ちてきた。
―――ふぅん、そっか。

「ねえねえ、飛んでる間中、ゾロの腕の中に居ていい?」
ドメスティックはできるだけ使わないって、ゾロ、言ってたし。
「バァカ。離すとでも思ってたか?」
ゾロの目が、きらきら、って光ってた。
うっとり。
オレの狼の、だ。

「ゾォロ、」
色々話したいこと、あるけど。
ふわふわと笑いながら、ネガイを口にする。
「May I have your kiss?」
―――キスが欲しいヨ?

すう、って笑みが。翠の中を過ぎってった。
す、と近づいてくる。
触れ合う直前に落とされるコトバ。
「With my pleasure」
"喜んで"。

「I will kiss you with all my heart」
す、って合わさった唇に、微笑む。
柔らかく開いて、ゾロの熱を迎え入れる。

"想いのすべてで、おまえに口付けるよ"。
受け入れる、その想いの総てを。
ふわりとココロが浮く中、思う。
"All of me, is for you"。

――――オレの総てを、アナタに。










FIN






Arizona Noon Honey Moon, August 21, 2002 - February 4, 2004





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