どうにか息を吐いて、名前を呼んだ。頭の真ん中がまだ少し軋んでいるみたいに感覚が変だけど。
「手、つめたい…?」
指先。いつもどこかヒンヤリしてて気持ちがいいけど、いまはどうだろう。
「さあ?」
指の長い、両手が。目の前をひらりと過ぎった。
少しだけ笑ってるような声、それが優しい。耳に届いて。
「貸してもらってイイですか」
あまい声が語り掛けてくるのを聞いて、目を合わせた。
「もとよりオマエのものだよ、」
そんなことを平気な顔で言ってくる。

「――――やっぱり、いい。」
冷やそうと思った目元がもっと火照ってくる。判る。大失敗だ。
膝から降りて、いますぐに。立った方がいい。
サングラスなり何なり、掛ければいいんだし。
カオを背けかけたなら、急に視界がすうっと暗くなって。
ゾロの片手が、目元を覆ってきてくれてた。ひやりとした指先が瞼の上を滑ってまだどきどきいっていそうなこめかみの
ところにやんわりと留まって。
左手で、肩口に少しだけ縋るようにした。―――感覚が持っていかれかけたから。
葉擦れの音さえ聞こえてきそうに、静かななか。
軽く触れて、冷たさを移してくれるものにだけ意識をあわせた。

「ずきずきする―――バカだよねぇ」
そうっと音に乗せた。
「それでもオマエが変わらず愛しい、」
酷く柔らかな口調が忍び込まされる、静けさの中に。
「――――――――――意地がわるい、」
小声。
ただの甘ったれてる声とあまり変わらないのかもしれないけど。
結構切実だったりするんだからな。
「悪いオトコだからなァ?」
返答に、手を浮かせようとしたなら。
片腕に抱きしめられて、また小さく息を吐いた。
微かに届いていた音がぜんぶ遠ざかって、切り取られる。

「逆効果だ」
「泣くのか?」
「喜ばせるだけみたいだからシナイ」
腕をやんわりと突いて、身体の間に距離を持たせようとしてみる。
「オマエの涙は甘いのに、」
ますます笑みを含んだ声が囁いて。
身体はどうにか引くことができても、目元はしっかりとまだ覆われていた。
「もう、ダイジョウブです、離して」
手元、それを指先でノックした。
「借りが返せなくなりそうだから」

漸く離れていった掌に安堵するのも変な話なんだけど。
ふんわりと穏やかな笑みを浮かべたままのゾロに見詰められて、どんなカオを返せばいいのかわからなくなる。
「返さなくても構わない、借しではないから」
そんなことまで言われたら。
どうすればいいっていうんだろう。
「じゃあ、なに」
目を見詰めたまま、せめてもの空威張りだってのも判るけど。
「タダのアイジョウ」
サングラス、間に合った。
柔らかな笑顔が薄く淡い暗がりの向こうに見えた。

―――――駄目だ。
アタマが痛い、好き過ぎて。
「オマエなんか大嫌いだ」
裏腹な口調だし。
キスして言ってたら説得力ゼロだ。
僅かに浮かせた唇、もう一度啄ばむ前に、それがゆっくりと言葉を模っていて。
「愛してるよ、」
冗談めかした啄ばむような柔らかなキスで返された。

「ゾロ、」
肩に掌を添えて、膝から降りる。
「ん?」
甘い声。
「それ以上何か言ったらここで跪いてプロポーズするからな」
下草を指差して。
またキスをして笑いかけた。
「オレの愛はすでにオマエのものなのに?」
見詰め返されて、笑みと一緒に。
「おれはね、欲張りなンだ」
知らないぞ、ほんとうに、と。同じだけ笑みを声に含ませる。
「ふぅん?」
グリーンアイズが笑みを浮かべてくるのを、見詰めて。
「知らなかった?」
ピアスを指先で弾いた。





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