「答えは保留。言うとまたオマエ怒りそうだし」
笑ってサンジの耳朶を噛んだ、柔らかく。
「怒らないのに、もう懲りたもん、」
甘い声のサンジを、すい、と一歩下がらせる。
「喰いに連れ戻したくなっちまうからやめとくさ」
立ち上がってから、ゆっくりと身体を伸ばした。
すい、と柔らかく抱きついてきたサンジの髪を撫でる。
胸元に、サングラスの当たる感触がある。

「さーて。すっかり遅くなっちまったけど、朝メシ食いに行こうか」
金色を梳いて、髪を整えてやる。
「んー、」
「カフェかホテルのラウンジ、どっちがイイ?」
「サングラスのままでも妙じゃない方」
サンジの腕が緩まるのを待って、背中を押して歩き出すように促す。
「じゃあカフェだな。天気が良くてよかったなあ」

「―――――ゾロ、」
ぴた、とサンジの足が止まっていた。
「ん?」
「今日っておまえ、もしかして、」
「んん?」
「ずーっと何かスイッチ入ったまんま、とか?意地悪いねぇ」
「スウィッチ?」
軽い口調のサンジの肩に腕を回す。
「そう」
頷かれて、首を傾げる。
「いつもこんなモンだと思うが、どっか変か?」

「アリステア、本気で言ってるんだったら相当なモノだね、アナタ」
はあ、と可愛らしく溜息を吐いたサンジの髪を掻き混ぜる。
「それともおれが、甘やかされ過ぎてただけかなぁ」
「さあ?前から底意地悪いだの、ムッツリスケベだの言われ放題だったぞオレは」
今はもういない野良猫の口調を真似る。
サンジが僅かに微笑んだ。
あの優しいもう一人を思い出したのだろうと理解する。

「なぁ、サンジ」
墓地を見渡せば、明るい日差しの中で沢山の墓石が光を返しているのが見えた。
暗い穴の中にあっても、その上に陽は平等に当たるものらしい。
くい、と返事の代わりに、サンジが頤を上げていた。
笑みが消えているのが微笑ましい。
「幸せでいてくれているか?」
泣かせた後で訊くセリフではないけどな。
サンジがするりとサングラスを取っていた。
指先でそれをぶらぶらと揺らしてから、ジャケットに引っ掛けている。
「Are you happy now, darling?」
幸せなのか、と笑って訊いてみる。

「―――とても。観て解ってくれないなら仲間入りする」
そう言って、サンジが墓石を指差していた。
「訊いてみたかっただけだよ、」
「おまえを愛せてほんとうにシアワセだよ、おれ」
サンジの陽光を含んで熱を持った金に口付ける。
「愛してもらえて、とても嬉しい」
齎される言葉に。
何度でも幸せになる。
「ほんとうに。おまえだけが全て」
にこお、と漸く柔らかく笑ったサンジの額に口付けを落とす。
「ゾォロ、」

「感謝するためだけに神が在ってもいいかもな、」
柔らかいサンジの声に笑って囁きを落とす。
「オマエの在ることに尽きない感謝を、サンジ」
頬を柔らかく指で辿ってからトンと唇に口付けを落とす。
「手、取ってくれて。ありがとう」
真っ直ぐに目を見詰められ。
笑って頬を包み込む。
「差し出してくれてありがとうな」
もう一度軽く唇を啄ばんでから、またサンジの背中を押してセメタリの中を歩くように促す。

「ゾロー、」
墓地で告白大会?ロマンチストの割にはロケーション選ばないねオマエ、と。
野良猫に笑われそうで、少し笑った。
ひょいと見上げてきたヘヴンリィ・ブルゥにそのことを告げる。
「これって喧嘩だったの…かなぁ?」
サンジの問いに肩を竦める。
「争ってないから、違うんじゃないのか?」
「ふぅん」
白い墓石の上で、誰かが置いた新鮮な花束が揺れていた。
蜂が頭上を飛んでいく音まで聴こえる。

「オマエはどう思う?」
喧嘩だったと思うか?
「一人で勝手に拗ねてただけだね、じゃ。おれが」
ごめんね、ほんとに。
そう言葉を続けられて、くしゃりとサンジの髪を撫でて乱した。
「そういう日もあるさ」
「ハナッカラ勝負にならないかー」
あーあ、と溜息を吐いて、ふんわりとした笑顔で見上げてきたサンジに笑いかける。
「するなよ。勝負するよりかはオレは愛し合いたい」
に、と笑って片目を瞑る。
「Maybe later、darlin'?」
甘いからかい口調のサンジにくくっと笑った。
「Of course, we've a lot to do today」
んん?後でね?ダァリン?と言ってきたサンジに、それもそうだな、やることはいっぱいあるしな、と返す。

トンと一瞬肩にぶつかって来て笑ったサンジに、墓地の出口を指で指し示す。
「まずは朝メシからスタートだな?」
「さっきのヒトたち全部もういないよな?」
「多分な」
「ううう」
ま、いてもいなくても。関係無いけどな。




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