Day Six: To Panama Beach City, Florida
ぱかり、と。目が覚めたのは午前8時だった。
「起こしてくれ、って言ったのに」
すっかり支度をすませてモーニングニュースを眺めているゾロに、ベッドルームから辛うじて這い出して、言った。
だけど、カオ中エリィにざらざら舐められて、どうしようもなくなって目が覚めたことは隠しておいた。
「起こしたよな、エリィ?」
ベッドルームから先回りして、ゾロの膝に乗りあがってたエリィがヒゲをぴくぴくさせてものすごい勢いでゾロを見上げていた。
―――親子して結託してる。
眉間の上を、すう、とゾロの長い指が撫でていっていた。
「おまえじゃなくて、エリィにキスされて目が覚めた」
「“んん、あと20分…”とか言われた記憶があるけどな、オレは」
―――う……?
ひょい、とエリィの前足の付け根から持ち上げて、真っ黒のハナに自分のハナサキをあてて、ゾロが言ってきて。
―――なんか、記憶があるような、無いような。
「で、20分後に行ってキスしたら。“うーん…モウチョット”だったよなぁ?」
「―――それは、覚えてるような…気が、する」
ふにゃふにゃの意識のままで、ゾロの頬を掌で触れて幸せだったような覚えがある。
おはよう、と。
ソファに座った背中越しに腕を回した。
「オハヨウ。気分は?」
「んん、ちょっとね…」
あ。
トン、と頬にキスをされて、少し慌てた。
「ゾロ、わ、おまえ」
「ん?」
「おれ、ざらざらにエリィに舐められたんだよ?」
「ああそう?」
あっさりと笑い始めたゾロを見詰める。
「かなり濃厚な間接キスだけど」
笑みにつられて、声が笑いかけた。
「まあいいさ。珈琲淹れてやるから、シャワー浴びてこい」
「んん、」
する、ともう一度腕を回してからソファから離れて。
温めのシャワーを浴びて頭をどうにかハッキリさせてからリビングに戻って。
コーヒーの良い香りが漂いはじめているのに、朝なんだなあ、と実感した。窓の外にはまた、抜けるような青が広がっていて。
「ぞーろー、」
「ん?」
ベッドルームに着替えを取りに戻りながら呼んでみた。
「麻のシャツ着てもいいー?」
あれが一番、だって肌に柔らかいし。
「ああ、構わないよ」
「下なんにも着ないよー」
そうしたなら。ローションも塗ってやろうか?と笑い声が追いかけてきて。
「ボタンさえちゃんとしてればいい、」
「イエッサ、」
あーでも。
「一個くらいイイ?カッコつかない」
ボトムスに脚を突っ込んで、シャツを羽織ながらリビングに戻った。
「交渉の範囲内だな。その代わり、出歩くときはちゃんとサングラスをすること」
手にしたカップにコーヒーを注いでくれながらそんなセリフ。
「んんー?」
ミルクを多めに入れて、一口。カップの縁越しにゾロを見た。
「いいこと思いついた」
美味しい、ありがとう、と言ったあとに付け足した。
「ん?」
画面から視線を合わせてきたグリーンに笑みで返す。
綺麗にパックされていたラゲッジから、シルヴァと革のチョーカーを取り出して。
「ほら、これしてたらミエナイ」
問題解決、な?と。
コーヒーを飲んだ。
二つボタンを緩めたままで。
くくっと笑って肩を竦めたゾロを見遣る。側まで歩いていって、カップを持ったまま隣に座った。
ん、これは。まあいっか、ってことだよな?
「フロリダに着くのは、夕方だね?」
「2時間ほどでジャクソンビル、そこでランチ食って1時間として…夕方というよりは夜だな、」
腕に軽く持たれかかって残りのコーヒーを飲んだ。
「ローヴァ、オープンになれば良かったのに」
ゼッタイ、おまえ乗らないのわかってるけどね。
「オープントップは落ち着かない、」
「おれね、最初。オマエのクルマの方が落ち着かなかった」
くすくすとわらった。
キチンと屋根の付いたクルマ。
「今は?」
耳に届く声が優しい。
「オマエの腕のなかの次、くらいかな。ポジション的には」
トン、と肩にキスをした。
「よかった。いまから買い換えろといわれたらどうしようかと思ったよ、」
「ハハ。おれってば暴君?」
軽口の応酬。
「余は屋根の無い車輌を所望する、とかネ」
言わないってば、とわらって。
ゾロの腕の時計を見た。
あぁ、そろそろチェックアウトの時間だ。
おれがするのはアウトなのに、自分は白のシャツの袖を捲くったゾロがすい、とソファから立ち上がっていた。
ダークグリーンのボトムスはシンプルなラインで。
「んー、」
立ち姿を座ったままで見上げた。
「ゾォロ、」
「ん?」
「着せ替え許可、覚えてる?」
2つくらい肌蹴たシャツの胸元がいい具合だ、ウン。
「イエス」
「あのさあ、いまは。ボタンもう1ッコ外して欲しいところ」
すい、と外していく手元。ウン、黒のブライトリングがいいアクセントだ。
「完璧。ロスが楽しみだなぁ、」
に、と笑いかける。
「ヤダ、いいっこ無しだからな」
にぃ、と笑みで返されて。
「うわ、キスしたくなるからそのカオ無し!」
けらけら、と笑いながらおれも立ち上がった。
「ほら、エリィベイビイ、ドライブの時間だよ」
放っておけばまた眠りそうなエリィの頤下を擽っていたなら、ゾロがケージを持って来てフロアに置いて。そのまま蓋を軽く
開いて「イン、」と小さくゾロが命令すれば、エリィは嬉しそうに中に飛び込んでた。
「いい子だね、」
だけど。
ちらっと中に。ピンクのティビーがいるのが見えたぞ。カワイイトリックだね。
「あまやかし、」
ひょい、とゾロを下から見上げれば。
とん、と唇にキスが落ちてきて。笑みの形でおれからも押し当てた。
「ランチの後、すこし交代するよ?ダァリン」
に、と笑み。
「ほら、この通り、元気デス」
「オレも大概甘やかしだよなァ?」
「んー?誰に?誰が?」
同じように、に、と笑みで返されて。掌が髪を滑っていった。
「オーライ、」
笑みで煌めいたグリーンを、サングラスが覆っていって。
あぁ、しばらく見納め。
ふわ、と笑いかける。
ラゲッジを軽く拾い上げる身体の動きが完璧に出来上がっていて。なんだかいつまでたっても細いままな自分と比べかける
けど、まあ無駄だし。
どうした?とグラス越しに視線を合わせられるのがわかって、もう一度笑みで返してから、エリィのケージを持ち上げた。
「なんでも?惚れ直しただけ、いつものコトだよ、ゾォロ」
すいすい、と背中を押して。
はは、と。なんだか明るい笑い声に、聖堂の鐘の音が重なった。
嬉しくなって。
「ドライブにはうってつけの日。行こう、ゾロ」
ドアを閉めて。ロビーに下りていった。
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