荷物を積み込んで、バスケットの中で落ち着いたエリィを乗せ。
チェックアウトしたホテルから車を走らせた。
時間は9時10分程。
I-16に乗ってサヴァナを後にし、I-516に乗り換えて、ヴェテランズ・パークウェイに乗って、ハンター・アーミィ・エアフィールドの
外れにあるグラブスという町までいく。
ほんの20分ほどのドライヴでも窓を開けたサンジは、随分と嬉しそうだった。
陸軍飛行場を囲んだフェンスの直ぐ外にある町の上では、何機もの飛行機が飛び交っていく。
静かに落ち着いていたサヴァナの、クラシック・コロニアルなスタイルからは随分と懸け離れた雰囲気。
近づいては遠のく機体を見るのに、サンジが身体を低くしてフロント・ウィンドウから見上げていた。
「アナポリスは近かったけどね、―――へえ…!」
「朝ごはん、食いにいくぞ、」
「あ、」
にこお、とサンジが嬉しそうに笑った。
「ダイナー?」
「ああ。基地の直ぐ外にならありそうじゃないか?」
ぱあ、と顔を輝かせたサンジに一瞬視線を投げる。
「うん、無いとウソだよソレ」
そうこう言っている間に、見えてきた。大きなダイナーの建物。
ELLIE'Sという看板が出ていた。
ドライヴ・スルーでもオオケイらしい店。駐車場の裏手が、公園のようになっていた。
「あ、あれあれ!」
サンジが指さした方に方向指示器を出して、車を向かわせる。
あっという間にパーキング。
古いシェヴィと、スズキの4WDが停めてあった。
エンジンを切っている間にも、サンジが目を輝かせ。降りる?降りてもいい??と訊いてきていた。
「サングラス?」
笑いかけてから、どうぞ、と促す。
「―――う、」
サングラスをかけてから、サンジがすたん!と飛び降りていっていた。
エリィに少し行ってくる、と声をかけ、車から降りてドアをロックした。
周囲を見回して、状態を覚えこむ。
―――まあこんなところで、車泥棒に合うとも思えないがな。
サンジがぱたぱたとサンダルを鳴らしながら店内に入っていき。
カウンタの横に掲げられたメニュウボードを見ながら、中年の女性とテイクアウトのコーナでなにやら言葉を交わしていた。
にこやかに会話するのが、ドアを開けた途端賑やかに聞こえてきた。
一度周囲を見渡し。
どうやら非番の軍人やら家族らしい人間が二人ずつ、中で食べているのが見えた。
常連なのか、見慣れないオレたちに、すいと視線を上げてきていた。
構わずにサンジに視線を向ける。
「何でも作ってくれるってさ?」
「へえ?」
「そう、テイクアウトメニュウじゃなくてもね」
にっこりとマダムに笑いかける。
ねえ、と言うサンジとにこにこ笑い合っていたマダムが、任せておきなさい!と言い切っていた。
「じゃあワガママを通させてもらおうかな、」
ちらりと一応メニュウを見上げる。
きらきらと光を含んだブルゥが見上げてくるのが解る。
「オマエ、もう決まってるならオーダしちまえ」
「でもな?アリステア、ここの珈琲おいしいって、ザァンネンだったね?」
「美味いに越したことは無ェよ、」
笑ってサンジの金髪を掻き混ぜた。
く、とサンジも笑い。それから、フライド・ズッキーニとチョコレートシェークのMサイズ、コールスローと7アップのLサイズと、
ターキーバーガをオーダしていた。
「よく食うな、オマエ。食いきれるのか?」
「コールスローはSサイズ」
笑ってオーダを厨房の男性に告げているマダムに視線を向ける。
サンジはマダムに軽くサングラスをずらしてから片目を瞑って見せていた。
「大盛りがウチの信条なのに!!」
笑うマダムが、軽くオーケィを出していた。
「サンキゥ、マァム」
「ドン・マイン、サニー」
にこお、と笑ったサンジに、マダムが請け負っていた。
「で、そこのニィサン。アンタは何にする?」
「珈琲をLサイズと、フライド・ハラペーニョ、ハッシュドポテトにチリ・ドッグ、できればオニオンも乗せて欲しい」
に、と笑えば。
「おや!意外と小食だねえ!」
マダムが笑っていた。
カウンタに寄りかかり見上げて来ていたサンジに片目を瞑る。
「それと、」
「ほいきた!」
「フライドチキンのレッグを1本と、ザワークラウトを山盛り。ベイクドトマトにアップルパイを追加で」
「うわあ!」
けらけらと笑うサンジに、マダムもにかりと笑って。
「オマケでベークドポテトに山盛りサワークリームとベーコンチップ、スプリングオニオンのトッピングをあげよう!」
「マァム、それって!」
ひゃあひゃあ笑うサンジに、気に入ったよ坊主たち!とマダムが盛大なウィンクをくれた。
「外で食べていくのかい?」
「エエ、天気がいいですからね」
「飛行機も見られるし」
にっこと笑ったサンジに、嬉しそうに頷き。
「先に冷たいものが出来上がるから、持って出るといい。温かいものが出来たら呼んでやるから、待っておいで」
マダムが笑って言っていた。
「Thank you, ma'am、」
多めに紙幣を差し出せば、きっちりとつり銭が返ってきた。
「お金は大事にしな、ニィサン」
「肝に銘じます」
ウッドのトレィに、サラダやドリンクなどを乗せられ。
「仲良く食べるんだよ、」
そんな言葉で送り出された。サングラスを押し上げて前髪を留めたサンジが、マダムににこお、と笑っていた。
ドアを開けて、外に出れば。サングラスを戻していた。
10時前の空は、夏本番直前にも関わらず、透き通っていて煌いていた。
「約束、」
にこ、と口許に笑みを浮かべていたサンジを促し、大きなオークの下に置かれていたウッドのテーブルとベンチに向かう。
「眩しいだろ?黄色くないか?」
トレイを置いてから、太陽を指し示して、にぃ、と笑う。
「陽射しが?酔っ払いじゃないぞー」
「ふぅん?」
軽くブーイングしているサンジを促して、ベンチに座らせる。
ドリンクにストローを挿してやり、セットして差し出す。
ひょい、と見上げてきたブルゥを見下ろし、向かい側に腰を下ろした。
「堂々のセブンアップ、オリジナルテイスト」
くーっと飲んでいるサンジに笑って、サラダの蓋を外していく。
「懐かしいー、」
「炭酸で腹が膨れる前に、適当なところで止めておけよ、」
「サウスに来てフライドズッキーニ食べられないなんてコトは避ける」
白いプラスティックのフォークを、コールスローのプレートに乗せる。
「いい心がけだ。さ、食い始めるか」
軽く空を見上げて、祈りの代わりにし。珈琲に口を着けた。
―――引き立てのオリジナルブレンドの豆だな。
じぃ、と見詰めてくるサンジに、ペーパカップを差し出す。
「一口いるか?自慢するだけあるぞ?」
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