By Your Side: Relief
オトコは涙をみせるもんじゃないって、そう最初に言ったのは誰なんだろうな
真夜中、誰もが眠っているはずなのに、甲板に立つ姿がある。 ラウンジの灯を落として部屋へ戻ろうとしたとき、丸くくり貫かれた窓からその姿が見えた。
冴えた月の光の中、刃物以上に物騒な気を張りつめて立ち尽くしている姿。
刀身をまっすぐにかざし、それと対峙していた。
漠然とした不安や迷い、焦燥は、弱さとは違うものなのにおまえはそれを同一視していて、自分がそれを感じることさえ許そうとはしない。
あの北の国のことも。
俺はおまえに救われたけれど。でもおまえだって充分ダメージ、受けているだろ?
自分の知らないところで廻っていた時間の輪が閉じられる
そんな場面に無理やり立ち会わされて
認めざるをえなかった。
そして、俺達は共犯者になったのだけれど。
時間の罠に掛かって笑いあってる、バカなんだろうけれど。
それでも
時間の繋がっていく先がおまえで良かったと
ほんとうにそう思ったんだ あのとき。
追いかけているものと、背負っているものが違いすぎるのはわかりすぎるくらいよくわかってる。
おまえの目指すのは、よくもわるくも人の血が流されて初めて斬り開かれる道で背負うのは、その途中で奪うモノ。
すぐにでも側にいきたいけど俺はこの温かなラウンジからただ見ているだけで。
おまえが自分と向き合う時間を、邪魔するつもりはないから。
でもさ
おまえは俺がよく泣く、っていうけど。俺がそれをみせるのはおまえの前だけで。
決して甘えてるわけじゃなくて、おまえが涙を流さない分、俺が余計に泣くんだ。
おまえの代りに、おまえの分も。
しょうがねえな、って言いながら俺の涙を指や唇ですくいとってくれるおまえは少し、緊張が溶けて。
涙を流した後みたいに肩のあたりの強張りがなくなっているのを、俺はしってる。
少しでも弱いところをみせれば、俺が離れていくと勝手におまえは思いこんでる
けれどそんなことはないんだ。 膝をつくようなことがあれば、俺がおまえをその場に残していくと思っているけど
そんなことはしない。できない。
その強さに憧れはするよ。 その、高みを望む瞳に惹かれてるのは確かだけど、それだけじゃない。
おまえにそんなことを思わせるような目で、俺はおまえのこと見ていたのかもしれないけど。
日なたの猫みたいに機嫌が良いときのおまえも勿論好きだけど
そのグリーンが底光りするような、刀を手にしたときのおまえの眼に
タマシイ持ってかれたから
さいしょは。
それでも。迷っているときには、いつでもおまえが正しい、って言ってやるのに。
おまえが寒いんだったら、いつでも側にいるのに
抱きしめて、離さないのに
そうさせてくれさえしたら。
ただ一人で途方に暮れて、迷いに涙がでそうになっても、おまえは前を見据て唇を噛みしめてる。
道を前にして、立ち尽くしている。 どちらへ進んで良いのかわからないときも、俺はいつだって、おまえのために道を作る気でいるのに。
泣きたいんだったら、俺はここにいるのに
涙なんてすぐに乾かして、それは違うって世界中が叫んでも 平気で隣で笑ってやるのに。
おまえが涙したことは、誰にも気付かせずに。
迷いをみせれば共倒れになるとでも思ってるけど、おまえ全然、わかってないよ。 膝を折って涙することがあれば、俺もおまえの側で一緒にそれを感じるのに。
俺が間違ってるって誰が叫んでも、おまえが笑ってくれるんだったら
おれは何でもする
おまえは正しい、って言いきるのに。
凍えるようなときには側にいて、おまえのこと抱きしめてるよ
不安になるようなときも、離れずにいる 大丈夫だって言える。
側にいるのに
強い部分だけを見せて、もっと強くなろうとしてる
だけど、俺はそんなもの望んではいない。
つきまとう不安は、好きになったときにとうに認めてる。
考えたくもない「いつか」は100パーセント無いとは言えないこと 背負うものの大きさ
いつか
払わなければならないかもしれない、代償。
そういうのを全部をひっくるめて
それでもおまえを俺は選んだから 側にいるのに。なにがあっても。
聞こえるはずの無い、澄んだ鋼の音が響いた気がした。
手にしていた刀はすでに鞘に収められていたから、ドアを開けた。 冷たい外気が流れ込んできた。それと一緒に
声の出せない子供が泣き叫びたいとき、きっと心が軋むだろう、そんな痛みを
おまえの方から、感じる。
近づいても振り返ろうとはしない。俺の気配なんて、とうに気付いてるんだろうに。
顔、みせたくないんだろ、どうせ。
でもさ
顔なんて見なくたって、おまえの感じてることくらい
わかるんだよ?
背中の方から身体に軽く腕を回して、肩口のあたりにあたまを預けた。
「ヒトのこと放ったらかしで。なに、してんだよ。てめえ」
答えの代りに こんなに冷たい夜気の中でも温かな手が、さらさらと頬をかすめて。
ああ、ほら。張り詰めていた気が、どんどん薄くなってる。
だけど、それ以上にもっとおまえを見せろというのは、俺のワガママなのかな。
髪に額を押し当てるようにする。
俺の身体を通して、おまえの痛みが消えていけばいいのに
おまえに触れてると、俺の心臓まで痛ぇよ。
おまえの眼は、まださっきの色を留めたままなんだろうか。
戻れ、と告げられた時の
あの燐光のような。
おそろしく純度の高い、いっそ自分から死にたくなるくらいの、殺気
なにが、あった―――?
「ひとりで抱え込むな、」って俺に言ったの、おまえだよ。
俺だって、同じこと思ってる。
おまえは俺を選んでくれたんだから
同じ想いを返したいと思っても、いいだろ。
俺達、まだたったの20年かそこらしか生きてないんだ。
まだ、なにもわかっちゃいないガキなんだから
迷うことがあったって、あたりまえなんだから
背負わされた物の重さに耐え切れないと思った時、俺のこと思い出してくれよ。
「好きだよ」
「しってる」
「ほんとうに、好きなんだからな」
「わかってるさ」
好きだよ(ここにいるから)
好きだよ(ずっとそばにいるから)
キスと一緒に言葉も受け取って、
少しづつでいいから、俺にだけ力抜いてくれよ。
おまえがただ強いだけの男じゃないこと、俺はしってる
ただただ高みを目指してたら、折れる。
その瞬間が、俺にとっても世界の終わりだから
受け取れよ。
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「やぁっちゃったよ」第2段、かしらん。え?3段?流れ的には 「Night Watch」直後の世界です。
はい、この二人、引き続きご登場でございます。お話(そんなたいしたものでもない)は単発だったりどこか繋がるものもあったりで、 自分の中ではぼんやり分かれてます。
いやぁ、それにしても、ゾロ編、ダークでしたねっ。あの背景使った時点で間違えた。クールというより、ダークだよぅ・・・。ごめんちゃい。あそこまで痛くなるとは・・・。サンジ、あの霊能剣士を
君の愛で救ってやってくれ。いたたついでに、お口直しにおまけもつけました。よろしければ
どうぞ?困った時の爽やカップル、ともいいますな!
おまけ ナミの場合 おまけ不要
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